『ゴジラ-1.0』で大活躍! 幻の戦闘機「震電」は一体どんな飛行機?【実機解説】
2024.01.06「九州 J7W1 震電」実機解説
過酷なアイデアがふんだんに盛り込まれた別格の存在
日本の戦闘機の中でも唯一無二のデザインで見るものに大きなインパクトを与えてくれる「震電」。現在はアメリカのスミソニアン国立航空宇宙博物館別館に、1号機の操縦席から前の部分のみが展示されている。ここでは震電とは一体どんな飛行機だったのかを、宮永忠将氏による解説でお届けする。
解説/宮永忠将
写真/Natiopnal Ari and Space Museum
敷島浩一と震電
『ゴジラ-1.0』における架空の帰還兵で震電パイロット。「生きて帰る」という母との約束を守って特攻を逃れ、大戸島では結果として整備隊壊滅の原因を作ってしまう。震電は大馬力エンジンと6枚羽根プロペラによる強烈なトルクがあって、操縦時のクセが危険なほど強い。また迎撃機として上昇、下降性能に特化した機体でもある。それを初飛行で乗りこなし、低空でゴジラを的確に捉え続けた敷島の操縦技術は、文句なしに超一流であった。もし戦局が許し、彼に適切な戦闘機が与えられていれば、日本海軍を代表するエースになることが約束された逸材であっただろう。
■新技術を積極採用した過激な設計
上空1万メートルから飛来して日本本土を襲うB-29爆撃機を迎撃するために開発された局地戦闘機「震電」。求められたのは高度8700mで400ノット(時速740km)、実用上昇高度は1万2000mというとんでもない性能だ。実際、零戦の後継機として開発中の「烈風」でさえ時速620km前後なのだから。この過酷な要求は、前例を踏襲した機体設計では実現できない。そこで「震電」設計には過激なアイデアが、これでもかと盛り込まれた。
エンジンは三菱製「ハ43」の改修型を採用。離陸時に2130馬力、高度8700mでも1660馬力を維持できる高性能なんだけど、後述する前翼設計の機体であるため、エンジン冷却空気の取り込みが難しい。そこで胴体の左右にエアインテークを置いて、空気をエンジン格納部に送る、単発ジェット機のような構造を取り入れた。
プロペラも日本初となる6枚羽根を採用したが、直径が340cmと、零戦三二/二二型より30cm以上大きい。これだと離着陸時にプロペラが地面を叩く可能性がある。そんな事故を防ぐには、接地時の地面とのクリアランスをかせぐ必要があり、前脚と主脚の背が高くなった。ちなみに映画では低率初期生産の機体が数機残っていた設定だけど、もし量産されればプロペラは4枚羽根となる計画であった。
■悪化する戦況が生んだ新兵器
「震電」最大の特徴は、前翼機というデザインにあるわけだけど、この小さな前翼にこの戦闘機の魂が宿っている。というのも、通常の飛行機だと水平尾翼は機体の安定性を維持するものに過ぎない。ところが「震電」のような前翼機の場合、工夫次第でこの小さな前翼が主翼に匹敵する揚力を生み出す。この検証のため、海軍では模型を使った徹底的な研究、試験を重ねてから「震電」の実機試作機設計まで一気に突き進んでいる。
そして前翼機のもうひとつの利点が、機首をクリアにできること。本来はエンジンと冷却装置に取られる空間をすべて兵装スペースに使える。おかげで30mm固定機銃4挺という破格のパンチ力を「震電」は手に入れたのだ。
日本海軍にとって異例の技術をふんだんに取り入れて作られた「震電」は、試作機が1機完成したところで終戦を迎えてしまう。けれど、浮上しては消えていく戦争末期の日本軍新型機開発のなかで、試験飛行まで成功させている「震電」は、やはり別格の存在だ。タラレバにはなってしまうが、もしジェットエンジンの開発に成功していたら、「震電」との相性は抜群だった可能性も高い。
ただし、あくまで「震電」は局地戦闘機、つまり敵の侵攻から拠点を守る防空戦闘機である。防空戦闘でいくら健闘しても、戦争には勝利できない。言い替えれば、戦争に勝っている間は、局地戦闘機なんて作らず、普通の戦闘機をバンバンと量産すれば良いことになる。宇宙世紀の一年戦争、新型機開発に躍起になったジオン公国軍は、結局は地球連邦軍のジムおよびその派生型と、新兵でもそこそこ戦えるボールの物量に押し潰されてしまった。「震電」もまた同じような苦境のなかでしか生み出されない兵器なのであった。
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