注目キット「デイジーオーガ」は筆塗りにピッタリ!! 重厚な塗装を楽しもう!
プラモを筆塗りでガンガン楽しんでいるナイスなパイセンたちの作品とテクニックを、月末にみんなで読んで、テンションアゲアゲでどんどん筆塗りを楽しんでいこうという連載「筆塗りTRIBE」。
今回は最新アニメ『SYNDUALITY Noir』の主人公メカ「デイジーオーガ」を筆塗りしていきます。細かく分割されたパネルラインやメカニカルなディテールが多いデザインで、ウェザリングが似合う機体です。こちらを、本連載2回目の登場となる大森記詩がラッカー塗料の筆塗りで仕上げました。塗装後に汚し塗装を施してウェザリングするのではなく、筆塗りの段階で筆跡や塗料の泣きを活かして傷や汚れに見せる、彼ならではの塗り方は必見です。ぜひあなたのお手元にあるデイジーオーガも筆塗りで楽しんでみてください。
(構成・文/フミテシ)
大森記詩/彫刻家。プラモはメカからスケールまでなんでも大好き。月刊ホビージャパン連載の「いまさら聞けないすごいヤツ」のイラストも彼が手がけている。
ラッカー塗料筆塗りで重厚感アップ!
BEFORE
▲フックを金属線で置き換え、目立つパーティングラインなどを削った状態。キットは成型色でほぼ設定通りのカラーリングとなっています。このカラーをベースに、実際に使い込まれた雰囲気がでるような色味にしていこうと思います
AFTER
筆のタッチでここまで質感が変わる! 筆塗りは楽しいぞ
▲アニメでは、若干青みがある白に見えたので、作例ではグレー→ブルーグレー→白という順番で塗っていき、そのイメージを表現してみました。その過程をお楽しみください!
主に使用したもの
ラッカー塗料
▲GSIクレオス、タミヤ、ガイアノーツと各社のラッカー塗料から色をセレクトして使用
ラッカー溶剤
▲タミヤのリターダー入りのラッカー溶剤をメインに使用。また昔のMr.カラーうすめ液の瓶にはガイアノーツのラッカー溶剤を入れている
Mr.リターダーマイルド
▲光沢感アップや筆さばきが滑らかになるので、メインカラーを塗装する時に塗料に加えて使用します。筆ムラの防止にもなりますが、今回の塗りではムラを活かしているので、そこはあまり重要視しません
陶器のお皿
▲大森氏は塗料を陶器のお皿に出して使用するのが好み。縁の部分で調色したり、筆の塗料の含みを調整したりできるのが良いとのこと
今回の秘密兵器!!
タミヤ モデリングブラシHGII 平筆
▲最近導入した筆で大のお気に入りという「タミヤ モデリングブラシHGII」。とにかく塗料の切れが良いので、平筆塗装でよくある、筆の両サイドに塗料が溜まってしまうような現象がほぼありません。筆跡を活かしたタッチがとてもやりやすい平筆とのことです。ラッカー塗料への耐性もあるので、痛みにくいのも良いです
筆塗りで下地のグレー、ブルーグレーを塗ろう!!
▲いきなり基本色を塗るのではなく、下地にグレーを塗ります。Mr.カラーの40番と339番のグレー2色を使用
▲陶器のお皿に塗料を出します。この時2色を一気に混ぜるのでなくそれぞれ出した塗料を、使うぶんだけお皿の縁で混ぜながら使用します
▲下地なので、塗料は薄めでOK。少し成型色の色が透けるくらいで良いです。スジ彫り部分やパーツの角、奥まった場所などを先に塗装してしまいましょう
▲コフィンの背中の内部にもグレーを塗っていきます。ディテールが密集している部分なので、厚塗りにならないように注意しましよう
▲グレーの塗装が終わった状態。このくらいムラとばらつきがあって問題なし。ランダムな下地をあえて作ることで、上塗りしたときに狙っていない面白い表情が出たりします
▲グレーの下地の上にさらにもう一層、ブルーグレーの下地を塗ります。これはアニメを見て、デイジーオーガが青白い雰囲気で描かれていたから。そのイメージを下地から演出してみます
▲先ほどの画像の3色をお皿に出します。これらをまたお皿の縁で適宜混ぜながら塗っていきます。色味が一緒ではない、ばらつきのあるブルーグレーを塗っていきます
▲この段階だと廃棄されたロボットみたいになっていますが大丈夫! 面の中央やディテールが出っぱっている箇所を中心に塗っています
▲足周りも同じようにグレー→ブルーグレーの下地を塗っていきます。筆塗りはこのように塊状態のパーツでバンバン塗装できるのが楽しいですね
▲ブルーグレーの締めは、Mr.カラーの315番を多めに混ぜた明るいグレーで、面の中央を塗ります。これで上から基本色を塗ったときに、面の中央やディテールが出っぱっている箇所が明るく見えます
▲グレーの下地と一言で言っても、さまざまな階調のグレーが塗られているのがわかります。この下地が雰囲気の良い上塗りを演出します。まさに縁の下の力持ちです
▲いったんここで黄色を塗ります。黄色も暗い黄色から明るい黄色へ立ち上げるので、下地の暗い色同士のバランスもここで揃えておきます
▲ガイアカラーの橙黄色とMr.カラーの赤を少量混ぜたもので塗りました。下地のグレーが透けていてOKです。厚塗りせずに、さっとひと塗りするくらいにしましょう
▲腕の青も、ヘキサブルーとスージーブルーを混ぜた暗い青を下地色として塗ってから、基本色を塗っています
メインカラーの塗装
▲下地も塗り終わったので、メインの白を塗っていきます。使用するのはMr.カラーの316番です
▲ここが超ポイント! あえて先ほどのブルーグレーのお皿に白を出します。これによって、下地と基本色の急激な階調の差を軽減でき、より自然なグラデーションで塗装することができます。筆捌きが良くなるよう、リターダーも入れて調節します
▲タミヤ モデリングブラシHGII 平筆が大活躍。塗料溜まりができずに、筆に含んだ塗料もキレ良く排出されるので筆跡のコントロールがしやすいです
▲1ヵ所を集中的に塗るのではなく、ある程度塗って次の面へ…という風に移動し、各部を乾かしながら順繰り塗っていくと厚塗りにもなりにくいです
▲ちょっとお皿を見てみましょう。皿の中でも下地色と白のグラデーションがいい感じに馴染んでいますね
▲ある程度白を塗ったら、より明るい白にするために、さらに白を追加します
▲ここでワンポイント。あえて白を塗るときに筆でちょんちょんと叩いてランダムに色を乗せてみましょう
▲先ほど塗った箇所が乾いたら、白を上塗りします。すると、先ほど叩いたランダムな白が透けて、塗面に表情が出ます。こうすることでただのベタ塗りとは違った質感を表現できます
▲ハッチ付近のディテールにもこのテクニックは効果的。表情のついた塗装で情報量を増やしましょう
▲まだまだグレーが透けていますが、だんだん良い雰囲気になってきました。このように、自分の手で調整しながら下地を透けさせる塗装は、筆塗りならではの楽しい表現です
▲下地色の透け、色味が微妙に異なる上塗りによって、各面の色の情報量が多くなっています
▲最後は混じりっ気なしの白を薄く塗っていきます
▲ここで全体を塗りつぶしてしまうと、これまでの工程が水の泡になってしまいます。面の中央、パーツの角などを狙って塗っていきます
▲下地の透け感だけだと青みが足りなかったので、少量のブルーを混ぜた白を各所に塗り足しました
▲ほぼほぼ白が塗り終わった状態です。モデラーにはよく毛嫌いされている筆ムラが、むしろ模型に情報量を与えて重厚感ある仕上がりになっています。また大森氏は、流れるような筆跡が戦闘でできた傷に見えるように筆を動かしていました。筆を使った塗装法でしかできない表現が詰め込まれています
▲白が塗り終わったので、白の色味に合わせて黄色を調色します。下地で使った黄色にキアライエローを足します
▲厚塗りにならないように慎重に。黄色は発色に癖のある塗料が多いので、少ない面積でも焦らずに、「完全乾燥したら塗り重ねる」を守りましょう
▲ラッカー塗料同士が模型の上で溶け合う通称「泣き」と呼ばれる現象が起きています。それによって下地のグレーが透けたりして、使い込まれたメカの雰囲気になります。腕の青なども同じように、明るめのブルーを混ぜたものを最後上塗りして仕上げました
▲キットにはコックピットに座るカナタ、立った状態のノワールのフィギュアがセットされます。作例のバトルダメージ的な仕上がりに合うように、衣装の彩度を落とした色味で仕上げています。こちらもすべて筆塗りです
▲マーキングはキットに付属するテトロンシールで表現。段差を少しでも目立たないようにするために、クリアーコート後にシール部分を磨いて段差をならし、その上からさらにクリアーコートしています
▲ノワールも筆塗りでの仕上げ。ぜひともチョチョイと筆塗りして、あなたのデイジーオーガに搭乗させてあげてください
「下地を隠せない色こそ泣いてほしい」これぞ筆塗りの醍醐味です!
新しいメディアミックスとして発表された『SYNDUALITY』の特報映像を見た時、この世界観とフォルムの機体がキット化されたら、ぜったい筆塗りが合うはず! などと期待して待っていたところ、ふと気づいたら作例を担当させていただくことになっていました。二度目となる筆塗りトライブへの召集、とても嬉しいです。今回のお題である「デイジーオーガ」ですが、ちょうど作例作業をしている最中にTVアニメ『SYNDUALITY Noir』の放送・配信が始まったこともあり、最新話を見ながら模型が作れてしまうメディアミックスの同時展開性をいきなり満喫してしまいました。
さてさて、劇中で縦横無尽に動く機体を見てイメージが出来上がったところで、本題の塗装です。アニメに留まらず今後発売されるゲームもあるので、アニメ劇中のポップな魅力とゲームのPVに見られるような使い込まれた機体の雰囲気、そこから伝わってくる過酷な環境。今回はこの両方のイメージを筆塗りの技法を用いて模型上でミックスしています。「使い込まれているけれど、メンテナンスはされている」そんな機体コンディションを目指してみました。
デイジーオーガの配色は隠蔽力が低い白・黄色の割合が多いですが、「隠蔽力が低い」ということは逆に下地が活かせるということなので、塗り重ねていくラッカーでの筆塗りにとって、これはメリットになります。そして、筆塗りだからこそ生じてしまう塗膜の「泣き」も重要です。良い感じに泣いてくれたらラッキーだ! と思いながらどんどん薄塗りで筆を重ねていきましょう。泣いたらその部位はしっかり乾かし、さらに重ねて行くと筆塗りならではの「泣き跡」が要素として加わってきます。こうすることで、色の階層と筆のタッチが同居する、筆塗りならではの複雑なレイヤーが出来上がっていきます。
デイジーオーガをはじめ、さまざまなフォルムとカラーリングのクレイドルコフィンが登場する『SYNDUALITY』。今後どのような機体が登場し、キット化されていくのでしょうか。期待大ですよね。改造機体を作って独自の配色を考えるのも面白そうです。
BANDAI SPIRITS ノンスケール プラスチックキット“ハイグレード”
デイジーオーガ
製作・文/大森記詩
HG デイジーオーガ
●発売元/BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン クリエイション部●4070円、発売中●約12cm●プラキット