『SYNDUALITY』メカニックデザイナー・形部一平スペシャルインタビュー
2023.07.10SYNDUALITY Noir 月刊ホビージャパン2023年8月号(6月23日発売)
SPECIAL INTERVIEW
『SYNDUALITY』メカニックデザイナー
形部一平氏
インタビュー
『SYNDUALITY』におけるメカ「クレイドルコフィン」(略称:コフィン)は、一度崩壊を経験した世界で生き抜くための道具であり、冒険者「ドリフター」の繋がりを示すアイデンティティであり、パートナーの「メイガス」と心を重ねる装置である。本作において単なる戦闘マシン以上に重要な役割を持つコフィンのデザインを担当したのは、メカニックデザイナーとして『Gのレコンギスタ』以降の「ガンダム」シリーズや『境界戦機』などでその腕を振るう形部一平氏。『SYNDUALITY』の世界観を象徴する、コフィンのデザインに込めた意図を語っていただいた。
形部一平(ぎょうぶ・いっぺい)
大阪府出身。NIKE、SONYといった広告イラストレーターとして活躍する一方、『セイクリッドセブン』(2011年)でアニメのデザインに初参加。『ガンダム Gのレコンギスタ』(2015年)でメカニックデザイナーとして初参加して以来、「ガンダム」シリーズを始めとした数々の作品のメカニックデザインを務める。現在放送中の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』では、ディランザやダリルバルデといったMSの他、衣装や小道具デザインも担当している。
聞き手/桑木貴章
――まずは本作のデザインを担当することになった経緯についてお聞かせください。
バンダイナムコフィルムワークスの松田プロデューサーに誘っていただいたことがきっかけです。2017年の1月頃だったかと思います。
――約6年前からのスタートだったのですね。
その頃、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のメカニックデザインをやっていたので、そのご縁もあって声をかけていただいたんだと思います。その時点でゲームとアニメの連動メカ企画であるということは伺っていて、本始動はそれから1年後くらい…2018年初頭からでした。
――本作のメカ「クレイドルコフィン」について、最初に打ち立てられたコンセプトはどのようなものだったのでしょうか?
最初に発注をいただいた時からイメージがはっきりしていて、形状的にはシュッとした人型ロボではなく戦車的というか、重機のようなイメージでデザインをしてほしいということ。それと、「今回は頭部無しのメカでいきたい」というオーダーをいただいていました。その際に僕が考えたのは、『戦闘メカ ザブングル』のウォーカーマシンの現代版みたいなものを求められているのかな、と。特にトラッド11が頭に浮かんできました。他にイメージとして伝えられていたのは『マシーネンクリーガー』でした。ただマシーネンはもう強すぎるというか…マシーネンに寄せたらマシーネンにしかならない(笑)。あえてあまり意識を持っていかれないようにしましたが、少し影響はあるかもしれません。でも同時に5〜6m級というサイズ指定もあったので、やはり僕としてはひと周り小さい、現代版ウォーカーマシンという気分でデザインをスタートさせました。
――各所にグラフィティのようなマーキングが配されている点も新鮮に映りました。
そうですね。重機的な方向を目指すとどうしても重々しい雰囲気のデザインになってしまうんですけど、ちょっとそこからずらしたいなと。特にアニメのほうはけっこう明るい作風になっていて、若者が仲間同士でつるんでわちゃわちゃしている空気を出したいということで、スケボーみたいなストリートっぽさというか、各々がカスタムして楽しんでいるという設定を考えました。コーションマークみたいな機能的なマーキングではなく、そこでキャラクター性を出せれば良いなと。
――また、パイロットとパートナーのメイガスがふたりで乗るメカであるということもポイントかと思います。
例えが古くて申し訳ないんですけども、『宇宙の騎士テッカマン』のペガスとテッカマンがすごく印象に残っていて。開いて・入って・閉じるっていうアレが好きなんですよ(笑)。で、パートナーであるメイガスがどこかに乗らないといけないということは決まっていたので、そのイメージを拝借しました。背中の扉が開いて中に乗る。で、それで合体が完了する、と。デザインを描いていて、これはどう見ても棺だなと思ったので「名前はコフィン(棺)がいいんじゃないか」と仮で付けたんですけど、最終的にもっと素敵なクレイドル(ゆりかご)コフィンっていう洒落た名前にしていただいて嬉しかったです。かっこいいですよね。
――メイガスがパイロットと違う箇所から乗り込むのは、どのような意図があるのでしょうか?
普通に複座式のコックピットにはしたくないな、とは思っていたんです。パイロットがふたりいるような形ではなくて、メイガスはコフィンのパーツの一部として機能するような形にしたくてあのような設定にしました。あそこにメイガスがハマることで、コフィンが完全になるというイメージです。あんな所に人間が乗ったら振動とかでめちゃくちゃになっちゃいますから(笑)、これはメイガスが人型のロボットだからこそできることだなと思って気に入っています。アニメだと、人間と背中合わせの状態でメイガスが乗り込んで、棺が閉じるとメイガスがVRコックピットの中にフワッと出てくる。このあたりもデザインしましたが、実際アニメで見るとドキドキ感があって、あの演出は構造と見せ方が一致した、キャラクターアニメとしてかなり優秀な見せ方なんじゃないかなと思いました。
――形部さんから、他に注目してもらいたいポイントはありますか?
頭部が無いデザインというオーダーをいただいてはいたんですけれども、個人的にはロボットの命は「顔」だとずっと思っていたので、やっぱり顔はほしいなと。なので逆転の発想でボディを丸ごと顔にしてみたんです。ただ露骨に顔が付いているというよりは顔に見えるようなパーツ配置をしているという感じで…各コフィンには「目」に見えるようなポイントを3つ配置しました。デイジーオーガで言うと一直線のスリットがポイントのひとつ。あそこを中心に見るとヒロイックな甲冑みたいな頭に見えますよね。でも、スリットの下にある中央のライト、黒く囲まれている四角い箇所ですね。そこがふたつ目のポイントで、あそこを中心として見るとかなりかわいい感じのメカに見えると思います。基本的にフロントライトとして使っていますが、メイガスが乗るとコフィンと一心同体となり、あのライトがメイガスの表情を持つんですよ。3つ目のポイントとして、アニメ1話から描かれているのですが、頭頂部にあるフタがバコッと跳ね上がるとサブヘッド的なメカが露出するんです。ここにもセンサーがあって、そこを目だと思って見るとまたコフィンの印象がガラッと変わります。すべてのコフィンがこの3つの「目」による多層的な印象の変化を狙っていて、どの「目」を中心に見るかでメカのイメージが変わるという構造にしています。結果的には、一番ロボットの魅力として強い「顔」がドンと並んでるような、インパクトあるデザインフォーマットにできたかなと思います。
――では、ギミック的なポイントはどのような点にありますでしょうか?
コフィンは重機的なデザインながらも、現代的なスピード感のあるロボットの動きをトレースできるような構造にしたかったんです。そのために、二足歩行で走るモード、かかとのスタンドを立てて安定した姿勢制御ができるモード、足裏のローラーを使ってインラインスケートみたいに高速移動をするモード、3段階の移動モードの切り替えがシームレスにできるようなデザインにしています。アニメやゲームの演出として、ここで手間取らないようにトントンと切り替えられると気持ちがいいなと思ったんです。脚を稲妻型の逆関節脚にしたのは、屈伸してジャンプができるようにというのと、閉じれば安定してコンパクトな駐機状態にできるからで、とにかくアクションや魅せ方の幅を広げたいというのが念頭にありました。
――たしかに、先行上映会で拝見したコフィンのアクションは非常にスピーディーで見応えがありました。形部さんは、最初にアニメで動いているところを観た際の感想はいかがでしたか?
「こういう風になったらいいな」と思ってデザインしたものが、ほんとにイメージ通りに動かしていただいていて…ありがたいなと。リアルなメカの動きとアニメ的な外連味のバランスが良くて、ちょうど「今」のロボットになってるんじゃないかと思います。今って、アメリカのロボット開発企業「ボストン・ダイナミクス」の映像が話題になったりして、リアルなロボットがどういうものでどんな風に動くのかがある程度皆さんに周知されていると思うんですね。皆さんがリアルをよく分かっている時代だからこそ、リアルとぶっ飛んだ描写の塩梅が一番大事になってくるんじゃないかと思っています。どちらかに偏っていると、メカ好きの方を納得させるのは難しいなと感じています。『SYNDUALITY』のメカは、あんまり王道的なスタイルではないじゃないですか? デザインが変化球なのもあって、まだアニメをご覧になっていない方たちはまだ「値踏み」の段階にあるのではないかと思うのですが…やっぱり動いてなんぼですね。1話を観ていただければ「ああ、これは結構いいな」と感じていただけるんじゃないかなと思いました。乗り物としての戦闘マシーンの延長にありながら、メカにキャラクターがしっかりあって、しかも1話でかなりの種類のコフィンが出てくるんです。その出し惜しみしない感じもいいです(笑)。
――となると、皆さんにアニメ本編を早く観てもらいたいのでは?
そうなんですよ。もうとにかく1話、2話を観ていただきたいなと。コフィン以外の部分でも、メイガスの設定とか、登場人物それぞれのキャラクター性みたいなものも含めて、ちょっと中毒性のある内容になっています。それぞれの趣向にぴったりくるようなキャラクターが必ずいますし。『水星の魔女』の盛り上がりを見て思ったことでもあるのですが、アニメっていうのはメインはやっぱり人間で、キャラクターたちが生き生き動いていたり、ドラマを生んでいるところに面白みがあるんだなと。メカはその世界観の中にある装置として、刺激をドンと与える役割だと思っています。そういう意味で言っても、『SYNDUALITY』はかなり良いと思います!
――新規アニメにおけるメカデザインの面白さや大変さはどのような点にありますでしょうか?
ロボットアニメであれば、ある意味、作品の世界観を一手に引き受けるのがメインメカの役割なんですよね。新規タイトルだと世界観の説明ってどうしても冗長になってしまいますが、メカはその説明をすっ飛ばして「見せていく」ことで視聴者を一気に作品の世界に引き込むことができる。そこを担う使命があると思うと、やはり難しさがありますね。でも、僕の中には小さい頃に富野由悠季監督を始めとした偉大な先人達が生み出してくれた、新しい世界観が生まれるワクワクみたいなのがずっとあって、あの気分を忘れないようにしています。メカは作品の顔でもあるし、そういうインパクトと内容を背負っているという、そこの両立が大変だと思うこともありますが…とても面白いです。
――アニメ『SYNDUALITY Noir』のコフィンはすでにプラモデルと超合金の発売も決定しておりますが、デザインの上で立体化は意識されていましたか?
実は企画の最初の段階では、立体化については意識していなかったんです。なのでデザインもCGアニメだからこそできるくらい要素を詰め込んでしまっていて。プラモ化の話を聞いた時は「できるのかな?」と思ったくらいです。ただ、結果的には立体化を考えないでデザインしたことで、予定調和になっていない、今遊ぶべきプラモデルになってるんじゃないかなと思います。もしプラモありきのデザインだったらあんなにマーキングをたくさん増やせていなかったですね(笑)。開発の方々にはご苦労をかけたと思いますが…。ただ、もちろん全く意識していなかったわけではありません。唯一、立体化を意識してデザインを付け足したところがあって、それが脚のスタンドなんです。まあ立体化はないだろう…と思いつつ、もしされたらスタンドなしでは絶対に自立できないと思って。でも本当に立体化されるとは…。やっぱり嬉しかったです。しかも超合金化は僕の夢のひとつだったので、それが叶ってすごく感慨深いです。
――立体物の監修はされたのでしょうか?
立体化のうえで必要な追加設定を行うことはありましたけど、今回はそこまでガッツリとは監修をしていないですね。というのも、『SYNDUALITY』はあらゆる企画が連動する完全新規作品なので、アニメ、プラモデル、超合金、ゲームモデリングと、それぞれ担当のプロフェッショナルがいらっしゃって、今は各々が面白がって正解みたいなものを積み上げている段階だと考えているからです。僕はそれぞれの商品にガンダム初期のような…そういった面白さを少し感じました。
――例えば、形部さんから見てプラモデルと超合金の違いはどのように感じられましたでしょうか?
多少造形のニュアンスが違うところがありますね。どちらかと言うとプラモデルはアニメのモデリングに近くて、超合金は僕のデザイン画に近いんじゃないかな。もちろんそれぞれの良さがあるので、ユーザーの方にはどちらも楽しんでほしいですね。超合金はやはり造形品としての完成後が非常に高いので飾って楽しんでいただければと思いますし、プラモであれば組み立てやカスタムを楽しんでほしいなと。僕のイメージだと、ノートパソコンのうしろにシールを貼るみたいな、ああいう感覚でアニメの登場人物たちのように「俺のコフィン」を作るみたいな遊び方をしていただけたらいいなあと思っています。
――ではユーザーの方には、アニメも商品も両方楽しみしていただければという感じでしょうか?
はい、あとゲームの方もぜひ! そちらもスタッフの皆さんが時間をかけて、面白いものを作っています。機体も山ほど描きましたので、ぜひシリーズを通して今後出てくるメカも楽しみにしてもらいたいです。
――ありがとうございました。
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