深見真「好きだから手掛けてみたかった」
TVアニメ『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』対談インタビュー
2022.04.27
対談インタビュー
篠原 宏康
(しのはら・ひろやす)
トムス・エンタテインメント執行役員。代表作は『ルパン三世 PART6』(企画)、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(製作プロデューサー)、『Shenmue the Animation』(企画)など。
深見 真
(ふかみ・まこと)
小説家、脚本家、漫画原作者。代表作は『PSYCHO-PASS サイコパス』シリーズ(脚本)、『バイオハザード:ヴェンデッタ』(脚本)、『サキュバス&ヒットマン』(原作)など。
生まれ変わった世界観のなかで、新たな物語が紡がれるTVアニメ『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL』。緻密なSF設定をバックグラウンドに展開されるストーリー、ふんだんに盛り込まれたアクションは、シリーズの新たな魅力を切り開いた。はたしてシリーズのリブートにあたり、どのような方向性が模索されたのだろうか? プロデューサーの篠原宏康氏と、シリーズ構成・脚本の深見真氏に、その舞台裏をお聞きした。
新たなコンセプトで「ブラック★ロックシューター」をリブートする
前作をリスペクトしつつ
世界観は一新する
──『ブラック★★ロックシューター DAWN FALL(以下、『DAWN FALL』)』の脚本を深見さんが手掛けることで、ファンの間では話題となりましたが、どのような経緯があったのでしょうか?
篠原 以前、『バイオハザード: ヴェンデッタ』(2017年)という作品で深見さんに脚本をお願いしていましたが、その際に「なにか脚本を手掛けてみたい作品はありますか?」とお聞きしたところ、『ブラック★ロックシューター』を挙げていただいたのがきっかけです。「ブラック★ロックシューター」は、個人的にフィギュアももっていましたし、作品的にも非常にインパクトがありました。それを深見さんと新しいコンセプトでチャレンジするのは、純粋に面白いと感じたんです。
深見 好きだから手掛けてみたかった、というシンプルな理由です。個人的にノイタミナ版の『ブラック★ロックシューター』がとても好きだったんです。画集やフィギュアももっていますからね。ただ、あの作品は続編を作りにくいタイプで、一作でキレイに完結しているじゃないですか? その点にはリスペクトを捧げつつ、「こういう解釈もあるんじゃないか?」という気持ちでした。
──以前の展開である『ブラック★ロックシューター』からは、すべてが一新された方向性であると感じられますね。
深見 もともと原作はhukeさんのイラストがベースで、きっちりとした基本設定があるわけではありません。ですからイラストから受け取ったものを、「どう解釈するか?」という作業だったと思うんです。それはhukeさんから言葉で説明していただいた、ということではなく、「イラストにこもっているものをどうやって形にするか」ということに近いですね。
篠原 hukeさんのキャラクターや世界観を、「妥協のないアクションで動かしたい」という気持ちが強くありました。前作のアニメとはまったく違うアプローチで、『ブラック★ロックシューター』のキャラクターたちを魅力的に動かして。アクション大作にもっていけないかと。そこは深見さんと最初に何度も話し合ったことです。今はやりのマルチバースではありませんが、あのキャラクターたちがまったく異なる世界、まったく異なるコンセプトで、活躍したらどうなるだろう? というところを描いていますからね。hukeさんの描いたキャラクターたちのもつイメージが根本にはあり、彼女たちがいろいろな世界観の中で活躍をする、というのもこのシリーズの可能性だと思うんです。
──深見さんはどのようなイメージから、現在の世界観を構築されたのでしょうか?
深見 最初に思ったのは、「バイクがたくさん走っている世界」ですね。過去の『ブラック★ロックシューター』では、商品として世に出ていませんが、フィギュア用のバイクがあったじゃないですか? あの組み合わせが、迫力があって魅力的だったので、そのイメージを膨らませてみようと。バイクが走っていて似合う場所はどこだといえば、どこまでも広がる荒野ですよね。世界が荒野になるにはどうすればいいのか、そこからの逆算で世界観を固めていきました。
篠原 近いイメージとしては、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』ですね。明確なストーリーを追いかけていくという展開よりも、なぜかわからないけど彼女たちが走りまくって戦っているような作品といいますか。ロードムービー的に移動しながら目的地にたどり着く物語の流れは、深見さんのなかでもイメージが出来上がっていました。それを具現化する作業を、天衝監督やhukeさんも含めて、全員で固めていったという形です。
──本誌では、本作の前日譚である『ブラック★★ロックシューターBEFORE DAWN』を深見さんが連載されていらっしゃいますが、このエピソードがある前提で世界観を構築されたのでしょうか?
深見 そうですね。ある程度、背景にある設定は最初に決めていますが、裏設定はアニメ本編では出しにくいものです。特に前日譚は場所がポンポンと飛んでいきますし、単なる設定の羅列になりかねませんから、非常に映像化には向かない内容なんです。世界観を構築する土台として考えつつも、そういったアニメ向きではない要素は、すべて小説のほうに取り込んでいますね。
SFアクションとして
純粋に楽しめる作品を目指す
──『ブラック★ロックシューター』は、非常にイメージ色が強い世界観でしたが、今回『DAWN FALL』は膨大な設定に裏打ちされた世界観という印象がありますね。
篠原 「SFアクションとして作りたい」という前提がありましたから。異能力バトルではなく、普通の人間たちも絡んでくるという点は、大きなポイントだと思います。特にSFという意味では、深見さんやシリーズ構成協力の吉上亮さんも含めて、かなり考えていただきました。実際に劇中では、普通ではあり得ない話や事件が起こりますが、理論に裏打ちされたものであった方が、視聴者も感情移入できると思いますので。そのバランスについては、オリジナルSF作品ならではの難しさはありましたね。
深見 すべては「どうやったらブラック★ロックシューターが活躍できるか?」という意識で作られている世界ですからね。ブラック★ロックシューターたちは強くあってほしい、でも何も理由がないとボンヤリとした印象になってしまいます。かわいい女の子たちはなぜ強いのか? どうして撃たれても平気なのか? その理由づけとして、SF的な設定がハマったということですね。
──決めごとが少ないがゆえに、シリーズとしてどこまで踏み込んでいいかという判断が難しい印象がありますね。
深見 ただ、hukeさんが脚本会議にも参加されていたので、とてもやりやすかったんですよ。何かまずいことがあったら、すぐに原作者に指摘してもらえるという安心感がありました。
篠原 今回は「深見さんの世界観で動かす」ということが前提だったので、逆に「もう振り切ったほうがいい」という意識はありました。あれは駄目、これは駄目と言うよりも、「ここまでやらないと面白くないんじゃないか?」と、逆にhukeさん的に背中を押してくれる方向性のディレクションが多かったと思います。
──hukeさんのチェックのなかで、印象に残っているものはありますか?
篠原 たとえばデッドマスターとかストレングスのキャラクター設定に関しては、何回か調整を加えて進めていきました。エンプレスよりも、そのキャラクター性がちょっと見えにくい立ち位置ではありますので、キャラクター性を加味していくなかで、hukeさん的には「もっと振り切ってほしい」という思いが強くあったようです。たとえばデッドマスターはもう少し予測不能な側面を加える、ストレングスはアーマーをつけているときと、取った時のギャップについて徹底的に差をつけてほしい、といった提案がありました。つまり、キャラクター性のメリハリをつけてほしいという要望なのですが、そこはhukeさんと深見さん、天衝監督の間で何度も議論を重ねて出来上がったものですね。
──ここまで一新されると、まったく異なる作品という印象が強いですね。
篠原 そういう意味では以前からシリーズを知っている方には、新しい解釈の作品として見ていたただけるとうれしいですね。一方で、前作の展開から、かなり時間も経っていますからね。新たに作品に興味をもってくれるアニメファンの方もいらっしゃるでしょうし、以前とは海外のアニメファンの数もまったく変わっています。シリーズを知っているかどうかではなく、純粋に「面白いSFアクション」という形で受け止めてもらえるのが理想です。
──本当にファンのみなさんにとってベストな時期にリブートが行われたという気がしますね。
篠原 ええ、いいタイミングだったと思います。リブートが早すぎても前作と比べられてしまいますし、遅すぎると興味をもってもらえなくなる。ちょうど緩やかに記憶が薄れ始めた時期で、でもビジュアルや名前、キャラクターは覚えている。「あ、また放送するんだ」という印象が残っているタイミングだったと思います。シリーズを知っている人、知らない人、どちらも取り込めるのではないかと。
新しい世界観に合った
キャラクター像の構築
──キャラクターデザインは、イメージを踏襲しつつも一新されましたが、シナリオ面や設定面から「デザインのここを変えてほしい」というリクエストはありましたか?
深見 シナリオ段階で決めたのは、どんな武器を持っているかという程度ですね。デザインに関しては、hukeさんと監督が綿密に打ち合わせをして決めていたので、ビジュアルに関してはスタッフにお任せしていました。
篠原 深見さんからデザインに言及するケースとしては、たとえば本作の新キャラクターのモニカやスマイリーなど、具体的な指示がある場合ですね。それでも僕らの想像を超えるようなデザインが挙がってくるので、その点は面白かったです。
──『DAWN FALL』ならではの新キャラクターも登場しますが、こちらについてはどのようなバランスで構築されたのでしょうか?
深見 『DAWN FALL』の新キャラクターたちは、主役であるエンプレスたちよりも目立ってしまうのは避けつつ、でもキャラクターが広がらないと物語も広がりません。個性が強すぎでも、弱すぎてもNGですから、バランスは難しかったですね。
──たとえば大佐もそうですよね。今までのシリーズの中には出てこなかったキャラクターのタイプだと感じます。
深見 これは「おじさんとブラックロックシューターのコンビにしてほしい」というhukeさんから初期にいただいたリクエストの影響が大きいです。最初は「ほぼ老人でもいい」というぐらいでしたから。hukeさんもミリタリー趣味の方なので、軍人を出したいというお気持ちがずっとあったみたいですね。
これまでのシリーズにはない、新しい息吹
──前作のキャラクターのイメージとして、たとえば「ブラック★ロックシューター」はキャストの花澤香菜さんのイメージも強かったと思うんです。キャラクターと声の関係という意味で、意識する部分はありましたか?
深見 前作の花澤さんの演技は素晴らしかったですね。ただ、基本的に『ブラック★ロックシューター』のときにはあまりしゃべらないキャラクターだったじゃないですか? そういう意味でも、前作に引っ張られているということはないと思います。
──全体的なキャスティングについてはいかがですか?
篠原 基本的にはオーディションですが、本当に人気実力ともにトップのキャスト陣がそろったので、役柄の上でも、演技の上でも素晴らしいキャスティングができたと思います。キャストを選出するうえで、一番議論があったのはスマイリーですね(笑)。
深見 キャストのみなさん全員が、それぞれのキャラクターにぴったりハマっていると感じますが、そのなかでもスマイリー役の杉田(智和)さんはさすがだなと思いました(笑)。キャラクターとしても非常に難しいポジションですが、本当にぴったりでしたね。個人的にはモニカ役の朝井(彩加)さんも素晴らしいと感じました。このふたりはシリーズのどの作品にもいないキャラクターだったので、イメージをつかむのが大変だったと思います。
──ブラックトライクで久野美咲さんが声を担当されることになったのも驚きましたね。あのかっこいいマシンから久野さんのかわいらしい声というのが、インパクトのある組み合わせでした。
篠原 これは監督のなかで「久野さんで行きたい」という、明確なイメージがかなり固まっていました。「もう少し機械的な声はどうだろうか?」という案もありましたが、そもそもキャラクターたちの会話が少ない(笑)。そこでマシンといえど、カジュアルに話せるほうが面白い、メリハリが出るだろうということで、久野さんの声で行くことになりました。
「モンスターマシン×女の子」の魅力を象徴するメカニック、ブラックトライク
▲ブラックトライクは、エンプレスの愛機である三輪バイク(トライク)。モンスターマシン×女の子という、シリーズのアイデンティティを考慮した結果、「バイクに似合う舞台としての荒野」という本作の世界観が導き出された。劇中では言葉によるコミュニケーションが可能で、過去のエンプレスのことを知っているなど、ただのマシンにはとどまらない存在感を示している
──シナリオを構築するうえで、天衝監督とはどのようなやり取りがありましたか?
深見 自分の中で天衝監督といえば、『きんいろモザイク』のイメージが強かったので、あまり激しい表現や残酷描写はNGかな? と漠然と考えていました。ところがそんなことはまったくなかったですね(笑)。
篠原 実はもうアクションが大好き、ゲームも『バイオハザード』が大好きという方でしたね(笑)。特に今回は、今まで監督されてきた作品とまた違う方向性ですから、「ぜひ手掛けてみたい!」と非常に意欲的でした。
深見 しかもアクションだけじゃないんですよ。天衝監督のなかには、「さらに過激な面があるんだな…」とよくわかりました(笑)。
篠原 そうですね。監督から「今回はわりと過激な表現をしていきたい」という提案がありまして、hukeさんも「やるなら踏み切るしかない」と決断されて。深見さんの脚本も、それを受け止めた形になっています。あとは我々プロデューサー陣が、「きちんと放送できる形で送り出す」という意識で取り組みました。
クライマックスに向けて
物語は加速し続ける
──あらためて外伝小説である『ブラック★★ロックシューターBEFORE DAWN』についてお聞きしますが、どんなところがおすすめポイントでしょうか?
深見 基本的にはアニメだけでも楽しめますが、細かく知りたい方は小説を読んでほしいですね。小説のいいところは情報量です。たとえば「アルテミスの人工知能とは何なのか?」など、知っておくとアニメもさらに楽しめるという要素で構成されています。見どころといえば、友野(るい)さんのビジュアルも、非常にイメージを膨らませてくれます。いつも絵にしづらいシーンを描いてもらっているのですが、ぴったりのビジュアルを仕上げてくださるので驚きますね。
──特にチェックしておいてほしい要素を教えてください。
深見 やっぱり人工知能や遺伝子などの設定関連です。こちらに関してはかなり資料を読み込んで構成していますので、アニメ本編と組み合わせて読むとわかることが多いと思いますね。あとはアニメ本編ではちょっとやりにくい犯罪描写。そのあたりをぜひ注目していただければと思います。
──放送に先駆けて、1話上映会やAnime Japan 2020などで、篠原さんは、深見さんはファンの皆さんの様子を見ていらっしゃると思いますが、感触などはいかがでしたか?
深見 自分はもうただ緊張していただけです(笑)。一度作品が世に出た以上は、もうファンのみなさんが抱いたお気持ちがすべてですから。あらためて感想や反応をチェックするということは、あまりないですね。
篠原 凄く食い入って見ていただいていたので、感触は良かったのではないかと思っています。どうしても前作と比較されてしまうと、気になる部分もあるかと思いますが、みなさん喜んでいただけているようでひとまず一安心しています。
──シリーズとして立体化と切り離せないコンテンツですが、どのような話し合いが行われましたか?
篠原 『ブラック★ロックシューター』といえば、武器、フィギュア、マシンが一体感を持っていることが大事だと思います。それが商品の魅力にもつながっていると思うので、監修においてもそれは意識したところです。hukeさん的にも、「今回は登場するマシンも含めてぜひ立体化してほしい」という要望がありました。その点はグッドスマイルカンパニーさんに、我々のリクエストとしてお伝えしています。
──今後の『DAWN FALL』の展開のなかで、見どころとなるポイントをお聞かせください。
深見 現在はちょうど第5話ぐらいのタイミングなると思いますが、いよいよスマイリーとの距離が近づいてきます。天衝監督の演出もあり、スマイリーがひどいことをしまくって、とんでもないことになっておりますので(笑)。特にエンプレスとスマイリーの対立が前半の見どころになるので、ぜひ注目してほしいですね。
ティターンズ・ドローンも世界観を構築する重要な存在
──第1話から激しいシーンの連続でしたね。ここからさらにどうなっていくのか、と。
深見 いや、でもむしろ第1話が一番おとなしいじゃないですか? お話的には第2話より、第3話よりと、さらに激しくなっていくように作ってありますから。ぜひ期待してほしいですね(笑)。
篠原 そうですね。これから終盤に向けて、どんどん激しくなって物語もどんどん面白くなっていきますから。最初にイメージしたとおりの作品に仕上がってきたと感じます。
──それでは最後にファンのみなさんへメッセージをお願いします。
深見 ルナティックをはじめ、まだそれぞれの目的が見えない段階ではあると思います。ですがそれに関しては、きっちりとした結末を用意しておりますので。ぜひ最後まで楽しみにご覧になってください。
篠原 ホビージャパンの読者のみなさんは、以前のシリーズからのファンも多くいらっしゃると思うんです。ぜひ生まれ変わったブラック★ロックシューターと、その仲間たちの活躍を楽しみにしてほしいですね。はたして彼女たちが何のために戦って、どんなゴールが待っているのか? 非常に大きなクライマックスの盛り上がりが後半には待ち受けています。スマイリーとの決着、ルナティックとの関係も含めて、物語の謎がどんどん明らかになっていきますので、ぜひ楽しんでいただければと思います。
聞き手・構成/河合宏之
Ⓒ B★RS/ブラック★★ロックシューター DAWN FALL製作委員会 Ⓒ huke Ⓒ ブラック★ロックシューター