HOME記事キャラクターモデル『宇宙戦艦ヤマト』福井晴敏氏直撃インタビュー『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』「「大人になどなりたくなかった。」という言葉の意味を、劇場で確かめてください。」

『宇宙戦艦ヤマト』福井晴敏氏直撃インタビュー『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』「「大人になどなりたくなかった。」という言葉の意味を、劇場で確かめてください。」

2022.02.16

『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』福井晴敏インタビュー 月刊ホビージャパン2022年3月号(1月25日発売)

直撃インタビュー

福井晴敏

(シリーズ構成・脚本)

ヤマト2205福井晴敏インタビュー

 新たなるヤマトと新たなるクルー、そしてガミラスの命運が描かれた、これぞヤマトらしいヤマトと話題の『宇宙戦艦ヤマト 2205 新たなる旅立ち』 前章-TAKE OFF-』に続いて、いよいよ2月4日からは〈後章-STASHA-〉が上映されている。さらにはその先の新作も制作が発表され、まさにリメイクシリーズの新たなる旅立ちとなった本作について、改めてここで作家・福井晴敏氏に語っていただこう。
(聞き手・構成/島田康治(タルカス))

――『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』制作にあたり、オリジナルの『宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち』をどのような形で換骨奪胎していこうと考えたのでしょう?

 『新たなる旅立ち』というよりは、まずは『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の続編であるということから考えました。『2202』のラストで、古代進は地球の命運を丸ごと背負うような形で、もう一度生を与えられたようなところがある。その彼がこの先、生きていく過酷さはとんでもないスケールの話だけれども、我々がこの時代を生きるにあたって日々感じているような息苦しさとイコールな悩みだったり苦悩であったりするんじゃないのか。そこにフォーカスできれば、ちゃんと共感できるドラマとして、彼のその後の物語が描けるだろうというのがありました。あのあと地球に戻ってきて、古代はどんなことになったろう。地球は鎖国を解いた直後の日本みたいな状態ですよね。しかも(宇宙から見れば)極めて小国である。そういうことを考えながら、大きな流れとしては『新たなる旅立ち』という原作を利用させてもらう、そんなとっかかりでした。

――『新たなる旅立ち』とは異なるストーリーになる可能性もあったのでしょうか?

 まず一番の大イベントは、ガミラス星の消滅です。これはリメイクシリーズの世界観に合わせると、とてつもなく大変なことになるんで、止めようっていう案もあったんですが、あえてこれをやっちゃおうと決めました。あれだけデスラー一族が苦労して守ろう救おうとしてきたあの星が、あっさり壊されちゃう。ドラマツルギーとしてはもう破綻してるって言ってもいいぐらい非道い展開なんだけれども、いまは逆にこれがリアルだよな。コロナ禍のような100年に一度、1000年に一度の災難が毎日のように訪れる時代を生きている我々には、リアルに感じられちゃうな、と考えたんです。実際それを描くのは大変になるっていうのはちょっと脇に置いておいて、やってしまおうと腹をくくった。そこでもう大枠はできた感じ。『新たなる旅立ち』のイベントは基本的にやっていこうとなりました。

――しかしながら原作とリメイクシリーズでは、ガミラスを巡る状況が天地ほどに違っていますね。

 原作ではガミラスは絶滅していますが、こちらは何億ものガミラス人がまだ残っていますからね。もうひとつ描こうと思ったのは、そんな彼らが崇拝するイスカンダルについてです。『2199』のときから、ガミラスは実在する文化圏としてきちんと描かれてきましたが、なぜ無条件に神聖な星と思っているのか。その理由はなんだろうか。原作ではファンタジーとして上手く描いていたところを、今回、後章では追求しています。皆川ゆかさんやスタッフの知恵を絞り取って、もうかなりショッキングな内容を考えました。

――復権を果たしたデスラーは『2202』でその背景が肉付けされましたが、当時『2205』があることを意識していたのでしょうか?

 どんな端役であっても俺がやる以上は、人間として捉えないと描けないんです。雰囲気だけ絵面だけというのはできない。しかも原作の道筋はある程度決まっている。そのなかで四苦八苦して描いたのが、デスラーの過去でした。その時点で先(『2205』)のことはまったく考えていませんでしたが、全面的にハッピーになることはないだろうな、こういう宿命を背負った人なんだろうなという漠然とした思いはありましたね。リメイクのストーリーラインに載せると、本当に彼には非道いことばかり起こる(笑)。

福井晴敏インタビュー

――ヤマト側では新たなるクルーの土門も物語には欠かせぬ存在になりましたね。

 現実の世界でも、若者は大人たちに対して「世の中をこんなにしやがって!」っていう気分だと思うんですよ。前章は、そんな若者の土門が大人のなかに分け入って「なんなんですか、なんでなにもしないんですか!!」ていう話ですよね。後章はいよいよ第一艦橋という大人しかいない場所に組み込まれた土門が、見たことに対しておかしいと言えるのか、しょうがないと言って順応してしまうのか。そこが後章の大きな見所になるんじゃないかと思います。

――前章の古代進は、まだまだ艦長の立場に慣れていないように感じました。

古代進として「こっちは経験者だぞ」って言ったくらいで、まだ艦長としての選択に晒されてないですからね。

――沖田艦長や土方艦長のような存在ではない?

 沖田や土方、ヤマトの歴代艦長というのは「絶対に頼れる大人」だったんです。間違えない彼らを、どう理解し、どう継承していくかってことが、オリジナルの『宇宙戦艦ヤマト』というコンテンツの根底にあった。けれど、現代はそれがまったく通用しない世の中になっちゃったということですよ。先人の言うことを聞いていたら、俺たちは滅んじゃうぞって。いよいよ我々が若者から古代のように睨まれる世代になってしまったとき、その気持ちもわかるよなって。我々が大人として本当にしなきゃいけないことを、全部やれてきたかというと、いややれてなかったよねって認めざるを得ない。そういうことを感じつつも、日々決断しなきゃいけない。進む道を決めていかなければいけない。そういった人物像が、いまの時代にしっくりくるのかなと思います。

――時代性という意味では、雪の活躍もめざましいものがありますね。

 今回で言えば、雪のモチーフは共働き家庭です。出航してからは古代のことを「古代くん」とは一度も呼ばない。ふたりでいるのも他に示しが付かないところがあるから控えているんです。本当は雪だって古代と一緒に救い出されて、いろいろなことを感じないわけじゃないんだけど、古代のガスの抜きどころとして、自分は腹をくくって気にしないことにしているんですよね。そのあたりの気持ちの整理は、女性のほうがうまいのでしょう。

――雪を艦長にする発想と、ヤマト艦隊の発想はどちらが先にあったのでしょう?

 艦隊でいこうというマーチャンダイズ的な発想が、先といえば先です。とはいえ、ほとんど同時でしたね。ヤマトクルーのなかから誰を艦長にするか考えると基本、雪と真田しかいないだろうし、古代の最大の保護者であるこのふたりが身近にいると、土門との対立が難しくなるところもあり、物理的に遠ざけてしまおうと決めました。

宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち 後章-STASHA-キービジュアル

――補給母艦アスカの役割が雪のキャラクターに重なるあたりが、絶妙に感じました。

 ただ最初はね、そもそも艦種を2種類に分ける発想は俺にはなかったんですよ。同じ形で色だけ変えればプラモをひょいと出せるじゃないって、つもりだったんです。そうしたら玉盛(順一朗)さんから艦種を分けるべきだという意見が出まして、アスカとヒュウガで形が変わっちゃったんですよ(笑)。

――後章のコピー「大人になどなりたくなかった。」という言葉に込めた想いもお聞かせください。

 前章のコピー「もう大人たちには期待しない。」に対する答えとして、後ろ向きと感じる言葉かもしれませんが、彼ら――これは古代とデスラーの思いなのですが、なぜ彼らが揃ってそんな風なことを思うに至ったのか。大人にならなければ……と思うことが、実は最大の思いやりかもしれないっていうね。ぜひその意味を劇場で確かめてください。

――いま『2205』を終えて、前作『2202』との意識の違いはありましたか?

 『2202』のときには、少なくともその先のことは、まったく見据えてなかったんです。続編があるという話が出たとき初めて古代はどうなったろうと考えて、瞬間に、なんて非道い状況に置き去りにしたんだって気づいたくらいでした。『2202』の最終回ラスト、あの一瞬はものすごい多幸感で終わっていますけど、よく考えてみたら古代進、この先なにもいいことないじゃんって(笑)。今回はそういう意味で言うと、「先のこと」を考えて『2205』を創りました。もうこの雑誌が世に出るときには次回作も発表されていますのでそのものズバリ言いますと、次は『永遠に』です。ただしタイトルは『ヤマトよ永遠に REBEL3199』。急に1000年後になるこの数字の意味については、まだちょっとしばらくお待ちくださいという感じですね。「REBEL」は「抵抗する」って意味合いと段階を意味する「レベル」両方の意味を掛けた言葉です。このタイトルがどういう意味を持つかは憶測できるとは思いますが、そのどれも裏切る内容になるかと(笑)。そこに続く物語としても、この『2205』をご覧ください。

――最後にファンにメッセージをお願いします。

 昭和の価値観で構築された『宇宙戦艦ヤマト』だからこそ、逆にいまの時代を描きやすいところがあるんです。先人から継承する確かなものもない。どこに進むかわからない。でも、あの無骨な戦艦のあの形はそのまま残っている。ディテールに関しては現代風にアップデートしてるんだけど、本当のその根底の部分において、昔からのスピリットだけはちゃんと維持していく。そのアンビバレントのようなものを描くだけで、いまはドラマも物語もいくらでも創れる気がしています。時代性というか人間をきちっと描くことをやっていると、どうしても悲しさが際立ってしまうんです。このリメイクシリーズは昔の『ヤマト』みたいに末広がりに明るいわけではなく、懐中電灯を持っている人がひとりいて、その人が灯りを持っているかぎり先がまだ見えるよっていう、おそらくはその程度の希望。本当のところはなにも解決してないんだけれど、でも最後には人間って悪くないよねって思える。人生って実際そうじゃん、みたいな。それが『宇宙戦艦ヤマト』ですよ。そこがね、機動戦士との違いです(笑)。事実、前章も悲しい出来事ばかりが続いたわけですけど、そのあたりがどうなるのか、ぜひ後章をご覧になって直接確かめていただきたいですね。
(2021年12月、赤坂にて収録)

PROFILE

福井晴敏

1968年11月15日生まれ、東京都出身。小説家・脚本家。主な小説に『Twelve Y. O.』『亡国のイージス』など。小説版『∀ガンダム』執筆を契機に『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』『機動戦士ムーンガンダム』(原作)などを手掛ける。現在は実写・アニメ問わず映像作品に活動の場を広げ、リメイクシリーズには『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』より参加し、脚本の枠を越え全体を主導している。

福井晴敏

© 西﨑義展/宇宙戦艦ヤマト2205製作委員会

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