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RX-78-2 ガンダムをモチーフとした晴れ着風塗装表現。下地色を塗装し、その上からさらにメイン塗料を吹き重ね、乾燥後に専用溶剤をエッジに吹き付けることでメイン塗料の下層に溶剤分を作用させ、蛍光ピンクの染料分を意図的に“滲み出させる”という特殊な手法を用い、さらにその上からネイルデコレート用のシールをあしらうことで、晴れ着のような和の美を究めた粋なガンダムを表現している。
①蛍光ピンクをベースに滲み出し塗装を施す
専用溶剤をエアブラシで塗装面に吹き付け、表面塗膜の下層に染み込ませ、下地塗料の染料分を浮き上がらせる“滲み出し”手法を行う。
▲30秒~60秒くらいで、ゆっくりだがジワジワと下層の蛍光クリアーピンクがホワイトの塗膜上に滲み出してくるのが確認できるだろう。目標とする“滲み具合”になるように2回程度に分けて薄め液を吹き付けるのがコツだ。直接うすめ液を吹くのが怖い場合は、薄めに溶いたクリアーを吹き付けても良い。ただしツヤ消しクリアーは“滲み具合”が荒れてきたなくなるので、必ずツヤありクリアーを使用することが大切だ
②ネイルシールの下地となるライン塗装
次にネイルシールで桜の花をあしらう前の下準備としてグラデーションでのライン塗装を施してみる。
▲その後“ボケアシ”を作りたい部分にホワイトを吹き、再度うすめ液を軽く吹き、“滲み出しによるボケアシ“を作る。いったんバラして滲ませ→調整
COLUMN
滲み出し表現で注意すること
“塗装面に専用溶剤を吹き付けて塗膜を溶解させる”手法で気になるのは、“溶剤でパーツを割ってしまわないか?”というところ。吹き付けるのは細吹きでパーツ全体にべっとりと吹き付けるわけではないので、そこまでパーツを割るリスクは高くない。ただ、スナップフィットの軸受けなどの負荷がかかる部分はあらかじめパーツを分解して、負荷がかからない状態にして塗装することをおススメしたい。
③ネイル用シールで桜の花をあしらう
ここからはネイル用シールで桜の花をあしらってみよう。
▲最後にツヤ消しをコートし全体の光沢感を整えて完成だ。当初は全体的にグロス仕上げにしようと構想していたのだが、この後に作業を行う黒部分と質感に変化を持たせるために、あえてフラット仕上げにしてみた。結果的に布地のような効果に収まったので、この選択で正解であろう
COLUMN
ネイル用シールはどこで買えるの?
昨今では100円ショップやネットショップを含め、さまざまなネイルシールが販売されている。また1枚100~500円程度と比較的安価なものが多く、入れ替わりも激しいので、模型に使えそうなものをあらかじめストックしておくのもいいだろう。
④黒のベース塗装を行う
晴れ着のアクセントとして帯や靴(草履)をイメージした黒を腹部や靴に配置してみる。
⑤3Dタイプのネイル用シールで立体的な花を
黒い下地にはさらにアクセントとして、表面が立体的に盛り上がった「3Dタイプ」を使ってみよう。
⑥ゴールドでさらに煌びやかに
首元や腰(ヘリウム・コア)にゴールド(金)をあしらい、さらに煌びやかな印象にしていこう。金は瓶生からの吹きっぱなしではなく、吹き重ねにより、さらに深みと発色を与える。
完成!
通常の塗り重ねによるグラデーション塗装ではなく、下地の色を滲み出させる塗装法で完成させたRX-78-2 ガンダム。ピンクの滲み出しがコントロールしづらいため、逆に意図的なグラデーションにならず、晴れ着や振袖に見られるような自然でランダムな滲みが表現できている。
▲脚のラインは両脚でラインが繋がって見えるように塗装。桜の花は、花弁を切り分けたものも活用して細かく配置することで、花弁が風で舞っているような軽やかな印象も与えられた
皆さんもお気づきと思いますが、本作例は僕の守備範囲外の作風で製作しています。というのも今回編集部より送られてきたオーダーは「和であること」「華やかさと雅」。そして「未発表、もしくは久しく紹介していない塗装技法」の3点。加えて着物の写真が5点添付されていました。本来の僕の守備範囲は「劇中に登場した○○」や「○○風ウェザリングを施したガンダム」などAFVやエアキット、カーモデルなどスケールモデルの技法をキャラクターモデルに投入したり、SF映画……特にミニチュア特撮のプロップ風仕上げなどをメインストリームに作品を仕上げてきました。コンテストなどではオリジナルカラーリングを施したガンダムなどを目にすることも多く、その度に「華やかだなあ…素敵だなあ…」と眼福な経験をすることはあっても、自分がそれにチャレンジすることはないだろうと漠然と考えていました。理由は実に単純、自分の芸風とはかけ離れていたからです。しかしコンテストの審査なども担当させていただく立場上、全く未経験では作品にジャッジを下す権利もないと常々考えていたのも事実です。そのタイミングでこの発注です。断る理由などありません。久々に未知の領域への冒険を存分に楽しむことにいたしました。
全体的なデザインは送られてきた着物の中の1枚を参考に配色を決定しました。問題は塗装方法です。白・桃色・紫・黒がその着物に使われていた色なのですが、とても華やかで、基本の白ですら桃色がかって見えていたことです。加えて着物は“染物”です。一般的なグラデーションでピンク→ホワイトで立ち上げても、写真の雰囲気と編集部からのオーダー、そして自分が目指したい終着点には辿り着きそうにありません。そこで今回15年ぶりに“滲み出し”という方法を使って、この“桃色がかった白”を表現することにしました。“滲み出し”とはカーモデルを製作した人であれば一度は経験…、いえ、痛い目にあったことがあるかと思います。カーモデルのボディ、特に赤いスチロール樹脂で成型された車体を白などで塗装しようとした際、成型色に含まれる“赤の染料”が吹き付けた塗料の溶剤分のために滲み、塗装した塗膜の上まで浮き出てしまう現象です。通常はサーフェイサーなどの下地剤や下地塗装でがっちりと固め、この染料の“滲み出し”を防ぐ作業を行い本塗装を行います。しかし今回はこの現象を逆手に取り、人工的にこの“滲み出し”を作り出し、失敗ではなく表現として用いることにしました。この技法、直近では15年ほど前に某模型誌でガンダムエクシアのトランザムモードを表現する際に使用しています。その際はホワイト→蛍光クリアーピンク→シルバーの順で重ね塗りした後、エッジ周辺に薄め液を吹き付けることで、蛍光クリアーピンクに含有する“染料分”を塗膜表面に浮き上がらせました。今回は重ねる順が異なり、シルバー→蛍光クリアーピンク→ホワイトとしただけで作業方法は同じです。ただ、この技法、注意点がひとつだけあります。染料系の塗料でないとホワイトより下層にある蛍光クリアーピンクが溶解しないことです。顔料系塗料ではこの現象は発生しません。そのため、Mr.カラーのクリアーおよび蛍光カラーが、染料系から顔料系に切り替えられた時、この技法を多用していた僕は途方に暮れていました(笑)。現在ではGSIクレオスのGXシリーズで、この染料系クリアーと蛍光カラーが現場復帰したため、材料の入手に苦労することはなくなりました。さらに現在ではクリアーと蛍光カラーも染料系なので、こちらを使用するという選択肢も存在します。また、今回は蛍光ピンクを使用して“滲み出し”を行いましたが、染料系の蛍光色、クリアーカラーであれば、どの色でも同じ現象を再現することが可能です。ただ色の特性で見え方、派手さには差があるうえ、滲み方にも若干の差異があるので、一度ジャンクパーツなどでテストを行い、「滲ませる色と表面に使う色のコンビネーション」と「うすめ液の吹き付け具合による変化」を確認して本番に臨んでください。
というわけで僕の性格や普段の言動とは程遠い(笑)華やかで雅なガンダムを作ってみましたが、新年には似合いのアイテムではなかったでしょうか?
BANDAI SPIRITS 1/100スケール プラスチックキット“マスターグレード” RX-78-2 ガンダム Ver.2.0使用
RX-78-2 ガンダム
製作・文/桜井信之
MG RX-78-2 ガンダム Ver.2.0
●発売元/BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン クリエイション部●4620円、2008年7月発売●1/100、約18cm●プラキット
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