【ROAD to RALLY JAPAN】introduction 6
ツールド・コルスの世界
2021.09.16
今回はラリーの特性、特徴に焦点を当ててみました。その国々コース設定によりさまざまな特色が有りますが、まずは、オールターマックなツール・ド・コルスを選んでみました。このラリーは純粋なラリーカーだけでなく、普段はサーキットを主戦場にしているレーシングカーたちも参加してくるのです。今回はそのなかから代表的なBMWを選んでいます。M1からM3に跨がる数奇な運命に惹かれたからです。(小池徹弥)
BMW M1 1983年 ツール・ド・コルスラリー
最初にご覧いただくのは畠中浩製作によるBMW M1。スラントノーズのスーパーカー然としたスタイリングにライトポッドを装着した姿はなかなか個性的だ。作例ではイタレリ製キットをベースにライトポッドとホイールをスクラッチで製作し、1983年のツール・ド・コルス仕様を再現した。
ツール・ド・コルス参戦車両ということでBMW M1を製作しました。キットはイタレリ製のM1。ラリー仕様のキットではないので変更点を確認しようにもしっかりした資料が集まらない状況で、作例はツール・ド・コルス仕様ではあるものの細かい所は当てにならないので、こんな車があったんだよ程度に見ていただけると助かります(笑)。
キット自体はとても古いのでパーツを組めるようにするところから始めまして、エンジンも一応再現されてはいるのですが、しっかりした資料もないので今回は潔くリアカウルを閉じ、その代わりにナイトステージで使用されたライトポッドを追加しておきました。ライトのケースはプラ棒にエポパテを詰めて整形したものを複製はせずに4個を用意。レンズは2021年8月号のGT40で作ったレンズと同じようにUVレジンを使い、プラ板から作った原型に適当なカットを入れたクリアパーツを作って装着しています。ただし、UVレジンはとても手軽で便利なのですが、耐久性がまだ未知数の材料なので経時変化があることを前提で使いましょう。フレーム部は強度を考えて各種真鍮棒を使い、はんだ付けして組み立てています。ホイールはキット付属の物ではなく実車で使われているエリア434を自作。これも写真が見つからなかったのですが、たまたま海外のオークションサイトで同じセンターロックの434が出品されていたので、それを参考に製作しました。塗装ですが、白は黄色と黒を少々混ぜた色。デカールはサードパーティ製のデカールを使用してウレタンクリアーで仕上げています。
イタレリ 1/24スケール プラスチックキット BMW M1改造
BMW M1 1983年 ツール・ド・コルスラリー
製作・文/畠中浩(ももふく模形舎)
BMW M1 プロカー
●発売元/イタレリ、販売元/プラッツ●5280円、発売中●1/24、約18.1cm●プラキット
ベルナール・ベガンストーリー
キットはインスト通りの素組みです。今回は大人しめにしようと思ったけど、他に汚し入れる人もいないしw
ベースはいつも通り同コンセプトで、市販の額を利用した走行シーンです。ツール・ド・コルスはほとんど直線が無いと言われる、コーナーと連続するつづら折り、インカットが注目ポイントだと思うので思い切った動きを出してみました。(小池徹弥)
■ツール・ド・コルスとBMW
ラリーから長らく離れていたBMWでしたが、同社初のスーパーカー、M1がBMWフランスによって再びラリーフィールドに持ち込まれました。それがこの物語の始まりです。
それから数年の空白後の87年、突然M3によってラリー活動が再開されます。M3をラリーフィールドに持ち込んだのは、ポルシェ、MGメトロによってラリー活動を続けていた、プロドライブ。その舞台となったのがツール・ド・コルスでした。時代はグループA、4WDマシンへと移行したなか、サーキットでは活躍中の後輪駆動を使い優勝してしまうのです。この時のドライバーがベルナール・ベガン。そう、M1でコルスを走っていたドライバーなんです。
■M3は予定外
今回はM1のみの予定でしたが、なんとM3のキットが再販されてるじゃないですか! ベガンのストーリーを完結させるには…作るしかありません。幸いタバコ関係のデカールもスタジオ27のものが手元にありました。そして、優勝から2年後のM3のベガンのナンバーはコチラしかありませんでした。優勝後、ベガンがBMWをフランスに紹介したことで、バストス、モチュールカラーに。カーナンバーも3、M1からの10数年弱、ベガンドライブの同系マシンが机上で再会できました。
次回、私は作り物はお休み、あの車オーナーのあの人が、あの人の車を作ります。
青島文化教材社 1/24スケール プラスチックキット BMW M3 E30 使用
「ベルナール・ベガンストーリー」
ディオラマ製作・文/小池徹弥
BMW M3 E30 ’89 ツール・ド・コルスラリー仕様
●発売元/青島文化教材社●4620円、発売中●1/24、約17.5cm●プラキット
Commentary on the RALLY Vol. 006
文/加藤雅彦
ツール・ド・コルスとターマックの魅力
今回もトヨタ・ガズー・レーシングのうれしい話題から。WRC第7戦ラリー・エストニアでカッレ・ロバンペラ選手が初優勝。これまで現トヨタチーム代表のヤリ-マティ・ラトバラが持っていたWRC史上最年少優勝記録22歳313日を大きく更新する20歳290日での快挙でした。カッレ・ロバンペラ選手のお父さんはプジョーや三菱などでも活躍したハリ・ロバンペラで、2004年と2005年のラリー・ジャパンでその走りを見たという方もいらっしゃると思います。ハリが走った北海道から愛知、岐阜に場所は移りますが、今度はカッレの走りが日本で見られるのは非常に楽しみです。
このコラムでも以前に少し触れましたが、2021年のラリー・ジャパンはターマックイベントとして開催されることになっています。舗装路でのWRカーのパフォーマンスを見られるという点でも楽しみにしているのですが、2021年8月時点での状況を考えると有観客は難しいですかね。あの素晴らしいロケーションでのラリーを体感してみたいんですけどね。
状況がどうなっていくのかもう少し様子を見ることにして、今回はWRCの中でもターマックと言えばこのラリーを挙げる方が多いであろうツール・ド・コルスのことを書かせていただきます。
フランスのコルシカ島を舞台に行われるこのラリーは1956年に始まった歴史のあるイベントです。1973年から2008年まで、1996年を除きWRCの1戦として開催されました(1996年はFIA2リッターワールドカップとして開催)。ローテーション制によりWRCカレンダーから外された後、フランスでのWRC開催地がアルザス地方に移ったため間が開きましたが2015年にWRCに復帰。しかし2020年からはまたカレンダーから外れてしまっているのが残念です。1985年にはアッティリオ・ベッテガ、1986年にはヘンリ・トイボネンの悲しい事故も起こってしまっています。魅力的なラリーであると同時にモータースポーツは常に危険と隣り合わせであることを思い出させてくれるラリーでもあります。
コースの特徴としてはコーナーが連続する山岳地帯にスペシャルステージが設定され、舗装は荒れていますがオールターマックで競われるラリーは特殊でもあり、それゆえこのラリーに的を絞って参戦してくるチームも少なくありませんでした。そのときどきの車両レギュレーションの影響もありますが、ポルシェ911やフェラーリ308GTBが好走を見せた年もありました。
今回の作例に登場したBMW M1もまさにそんな1台であり、歴史的にBMW本社はラリー参戦を好まないようですので特異な例とも言えるでしょう。BMWフランスの主導で進められたM1のラリー参戦プロジェクトでしたが、良い結果を残せないまま終了してしまいました。注目される戦闘力の高さを見せていただけに、もしBMWが本気で参戦していたらと思ってしまいます。
1987年にWRCがグループA車両で争われるようになるとツール・ド・コルスでは再びBMWのマシンが注目を集めます。プロドライブが走らせたBMW M3です。もともとグループAツーリングカーレースで勝つために開発されたM3ですから後輪駆動車ながらポテンシャルは高く、ツール・ド・コルスにおいては4WDのランチア・デルタともいい勝負をすることができました。その結果ベルナール・ベガンが優勝しM1での雪辱を果たしたのです。
翌1988年もツール・ド・コルスでは後輪駆動車が優勝しています。ディディエ・オリオールが駆ったフォード・シエラRSコスワースです。このマシンもまたサーキットでも活躍したことは有名ですが、フォードはラリーにも力を入れていましたね。WRCでの1勝はマーケティングの面でもかなり価値があると思うのですが、そこはメーカーによって考え方が違うのもまた面白いところではあります。ちなみにこのシエラRSコスワースの勝利が現時点でWRCにおける最後の後輪駆動車での優勝となっています。
またディディエ・オリオールはこのツール・ド・コルスで6勝しており、ベルナール・ダルニッシュと並んで最多優勝記録を保持しています。これまでのツール・ド・コルスの結果を見返してみるとやはりフランス人ドライバーやターマックスペシャリストと呼ばれるドライバーが好成績を残しており、そこからもこのラリーの特徴を窺い知ることができると思います。
これから先、またツール・ド・コルスがWRCカレンダーに復帰するかどうかはわかりませんが、またコルシカ島をトップカテゴリーのラリーカーが疾走するシーンを見てみたいものです。と同時にツール・ド・コルスで活躍した往年の名車たちの模型も作りたくなってしまいました。さて、ストックからどのキットを引っ張り出してこようかな。
畠中浩(ハタナカヒロシ)/小池徹弥(コイケテツヤ)
精密な工作と美しい表面仕上げで月刊ホビージャパンを彩るスゴ腕カーモデラー。実は飛行機も好き。(畠中浩) 本連載のオーガナイザー兼メインモデラーのひとり。マーベル映画にも目が無い。(小池徹弥)