HOME記事キャラクターモデル鋼鉄ジーグ INFINITISM 第4回 魂の檻

鋼鉄ジーグ INFINITISM 
第4回 魂の檻

2021.05.02

スーパーロボットINFINITISM 月刊ホビージャパン2021年6月号(4月24日発売)

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 ダイナミック企画×BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン×月刊ホビージャパンで贈るフォトストーリー『INFINITISM』最新章『鋼鉄ジーグ』編最終回。邪魔大王国の妃魅禍(ひみか)が九州に眠るすべてのハニワ幻神の器を目覚めさせ、総攻撃を仕掛けてきた。自衛隊戦車隊とともに立ち向かう宙(ひろし)と美和。ジーグバズーカの砲撃が無数のハニワ幻神を捉える!

原作・企画:ダイナミック企画
ストーリー:早川 正
メカニックデザイン:柳瀬敬之
協力:BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン ホビージャパン


 その日――阿蘇を囲む熊本全体が魔界の妖気に包まれた。
 空には顔のある特殊な陶器で出来たような巨大な十字架《大火炎偶》が三つ浮かび、その上にはそれぞれ壱鬼馬(いきま)、壬魔使(みまし)、阿磨疎(あまそ)の姿があった。
 邪魔大王国の妃魅禍(ひみか)は九州に眠るすべてのハニワ幻神の器を目覚めさせ、外輪山から九州の三方に向け同時に進軍を開始した。
「黄泉軍兵、人間共を見つけたら一人残さず殺せ! 殺すのだ!」
 邪魔大三柱の激に応え、空飛ぶ鉾(ほこ)《小火炎偶》に摑まった無数の黄泉軍兵がスズメバチの大群のように広がった。
「これは……⁈ 何て数だ……!」
 宙(ひろし)と美和はすぐさま出撃した。
 美剣美里の交渉により配備された自衛隊の防衛ラインも効果的に機能した。
 外輪の峰の外に並んだ戦車隊の砲塔が一斉に火を噴いた。
 熊本防衛支局の地上部隊が砲撃で応戦する間に佐世保部隊と福岡の九州防衛局が第二防衛ラインに移動し、長崎部隊は北から回って橋を護り、関門海峡を渡る難民をカバーした。
 宙と美和は全体の戦況を把握しながら遊撃隊として戦った。
「ミッチー、ジーグバズーカだ!」
〝――了解、ジーグバズーカ、セットアップ、シュート!〟

ジーグバズーガ

「ジーグバズーカ、発射!」
 ズドドーン!
 ジーグバズーガの砲撃は一発でハニワ幻神一体と黄泉軍兵の一塊を斃した。敵の数は無限とも思われるほど膨大だった。バズーカは強力だが2門しかない。無駄にせず使い切ったが、敵が減ったという実感は掴めなかった。
 ――次に、親父に作ってもらうときには連射が出来るようにしてもらった方が良さそうだ……!
〝――ジークパーツ、シュート!〟
 ビッグシューターの美和が阿吽(あうん)の呼吸でスペアの腕をシュートした。
「サンキュー、ミッチー!」
 新しい腕を装着した。
 だが敵はまだ、山ほど居る。
 ――チッ、数が多い上にバラバラで、敵を思うように追い込めない……!
「ミッチー、パーンサロイドを出してくれ!」
〝――了解、パーンサロイド、セットアップ、シュート!〟
 幾つかの部位ごとにビッグシューターから射出されたパーンサロイドのパーツが空中で合体して変形した。  

 鋼鉄の白馬は大岩の上に着地し、二本の前足を大きく挙げて嘶(いなな)いた。
「頼むぜッ、パーンサロイド! 敵を追い込むッ! 手伝ってくれッ!」
 パーンサロイドには宙の思考が直接届いた。
 鋼鉄の白馬は宙に応えもう一度嘶くと、牧童犬が羊の群れを追い込むかのように駆け出し、敵の進路を誘導した。
――よし、いいぞ……!

 バラバラだった敵の配置が重なった。
「スピン、ストーム!!!」
 ジーグの腹部から指向性を持った磁流波エネルギーがうねりながら発射し、重なった射線に居た三体のハニワ幻神の体を砕き、消滅させた。
 ズシュ、ズシュシュ、ドガガーン!
 その間にも、周囲の敵に向かいビッグシューターが機関砲を放ち、パーンサロイドの鋼鉄の蹄(ひづめ)が攻撃を仕掛ける。
 宙、美和、パーンサロイドは絶妙なコンビネーションで敵の数に対抗した。
「ジーグブリーカー! ジーグチョーク! ナックルボンバー!」
 宙は持てる力のすべてを使って戦った。

▼     ▼     ▼

 航空自衛隊――岐阜基地。
 格納庫にはパイロットがひしめいていた。
 飛行開発実験団の隊員待機室の隅に二人のパイロットと一人の整備士が居た。
 厳(いか)つい風貌をした巨漢の整備士が、ある意味、それ以上に怪しい気配を醸(かも)し出(だ)している二人の女性パイロットに尋ねた。
「来やすかね?」
 飛行実験群のパイロット・早乙女(さおとめ)門子(もんこ)と身堂(みどう)竜子(たつこ)はゆるいしたり顔を浮かばせ、スクランブルが掛かるのを待っていた。つい先ほど、これまでにない大規模な戦闘が始まったことがスピーカーから流れ、九州の現状は承知している。
「ああ、そろそろな――」と、筋肉質の早乙女がそう応えたとき、通信班がスイッチを入れたノイズ音がスピーカーからズビビと聴こえた。
「ほら――来たぜ」
 瘦せ型で長髪の身堂がそういって口元で笑んだ。
〝――スクランブル要請。飛行実験群各機は九州展開中の新田原(にゅうたばる)基地(きち)、第5航空団と合流し、邪魔大王国を迎撃せよ――!〟
「直次郎、いって来るぜ!」
「腕がなる!」
 三人は滑走路のファントム改に向けて駆け出した。
初期にアメリカから買った低スペックのファントムは前部席が操縦用で後部席はガンナーシートのみだった。だが、ライセンスを得て日本で量産したF4改は前後どちらでも操縦が可能なタンデム式だった。それに合わせ、早乙女と身堂は自分たちのファントム改も自前で改造していた。
 身堂は前、早乙女が後ろに乗り込んだ。
「姐(あね)さん方、やり過ぎないで下さいよぅ!」
「馬鹿いってんじゃねえ、こんな愉しいときに、セーブなんてしてられっかよ!」
「安心しろ――。あたしたちが出たからには、今日で邪魔大王国は全滅だ――!」
 直次郎がタラップを外して離れると、ファントム改の編隊9機は一斉に滑走路から飛び立った。

▼     ▼     ▼

 呉で関係首脳陣との会議を行っていた遷次郎たちの元にも邪魔大王国の全面進攻の報は届いた。
「すぐに戻るぞ!」
 報告を聞くなり議場から立ち上がった遷次郎の前に美剣美里が出た。
「お待ち下さい。今、博士が戻っても状況は変わりません」
「そんなこと、戻ってみなきゃ、分からんだろ……!」
「――いえ、分かるのです」
「何をいってる……? それに、いくらジーグがあるとはいえ、宙や卯月くんたちだけでは荷が重い!」
「博士にもしものことがあれば、こちらは次の手を打てなくなります」
 美剣美里は静かだが、きっぱりといった。
「お通し、出来ません」
 すると、その遣り取りを無言で見ていた美角鏡が美里に尋ねた。
「こうなることを知っていて、私たちを九州の外に招いたのですか?」
 美里は応えた。
「このタイミングで確実にこうなると知っていた訳ではありません。誤差はあります。しかし――この可能性を睨んでいたことは認めます」
 鏡は静かに思考し、理解して頷いた。
「分かりました。でしたら、貴女に従おう」
 鏡が確認するように姉を見ると、姉の美夜は頷き、鏡に代わり、遷次郎に告げた。
「この戦いは長引きます。そして勝つためには、宙さんたちを信じ、司馬博士が生き延びることが何より必要なのです。この世界は、司馬博士を必要としています」
 ――だがな……!
 そういわれても、遷次郎にも言いたいことは山ほどあった。だが、この五年の生活で遷次郎は美夜や鏡の真摯な行動に揺ぎ無い信頼を得ていた。見た目の若さで忘れがちになるが、この二人は間違いなく未知の叡智(えいち)と人徳を備えた古代人だった。
「……わかった」
「大丈夫です」と、鏡は遷次郎を見た。
「宙さんなら切り抜けます。それに宙さんは、私の〝銅鐸(どうたく)〟を身に着けています」
 遷次郎は、信じるしかないと覚悟した。

▼     ▼     ▼

 美和のビッグシューターは小型ミサイルを使い切った。もう、使うタイミングがないと判断したジーグの残りパーツもシュートアタックでミサイル代わりに敵に向けてお見舞いした。既にジーグバズーカもマッハドリルも射出している。機関砲もとっくに撃ち尽くし、最早、卯月美和に戦闘を継続し宙をサポートする術(すべ)はなかった。
 妃魅禍を乗せた八岐大蛇(やまたのおろち)が火口から上昇した。妃魅禍は高笑いしながらジーグを見た。
「あーっはっはっはっ……! ジーグめ、今日こそ引導を渡してやる!」
〝――宙さん!〟
「ああ、遂にお出ましだ。ミッチー! 離れていろ!」
 背に付けたマッハドリルの噴射でジーグは上昇した。
「心配するな――俺は、必ず、戻る!」
 宙を――ジーグをここに残すことなど美和には出来なかった。邪魔大王国はまだ数知れぬ兵力を備えている。
 妃魅禍の視線がビッグシューターを捉えた。
「邪魔じゃ!」
 手にした杖を一振りすると、その先から迸(ほとばし)った雷(いかずち)がビッグシューターを直撃し、機体を激しく弾いた。
〝――きゃッ……!?〟
「ミッチー!!!」
 ビッグシューターは制御を失い、強風に煽られた木の葉のように大きく舞い上がると、今度は自由落下で高度を落とし始める。
 ――ダメだわ……! 出力が…、出ない!
 美和は無噴射のリフティング飛行で何とか機体を立て直し、大分の都市部の上を抜け、ビッグシューターは別府湾の海に水柱を上げて不時着した。

▼     ▼     ▼

 九州のあちこちで邪魔大王国と自衛隊の戦闘が繰り広げられていた。
 第5航空団と合流した飛行実験群所属のパイロット・早乙女と身堂は、佐世保方面に展開する壬魔使(みまし)の大火炎偶部隊と遭遇した。
 ハニワ幻神が三体、それに空飛ぶ鉾(ほこ)に摑まって移動する無数のゾンビ兵が見えた。
「アレが邪魔大王国か……。でかいのがハニワ幻神ね――!」
 少ししゃがれた声で早乙女がいった。
「ゾンビ兵がざっと三百ってとこか――。直次郎に機関砲を付けさせておいて正解だったな」
 整備士の直次郎に無理をいって付けさせたのは身堂だった。
 飛行実験群のファントム改の基本武装は空対空スパロー4基だけで、本来、機関砲は積んでいない。だが、そこは実験群の特権で、タンデムシートと同様、早乙女と身堂は機体テストの名目で様々な改造を施していた。
〝――攻撃行動開始!〟
 第5航空団の隊長機からの号令で戦闘が始まった。
 早乙女と身堂の眼が、らんらんとして輝きを増した。
「いっくぜッ、おらおらおらおら!!!」
 機関砲が火を噴き、スパローが放たれた矢の如く飛んで行った。

▼     ▼     ▼

 ジーグと八岐大蛇の戦いは、戦いながら南下し、阿蘇から高千穂に移動していた。
「人間如きが、その力、どうやって手に入れた?」
 妃魅禍の攻撃はジーグに集中した。
 天空には怪しい魔法陣が広がり、呪いの女王の杖に操られ、一帯に雷撃が嵐のように吹き荒れる。
「んくくッ……!」
 宙はその雷撃により、自身の体を形成する磁流波エネルギーが不調を来し始めているのを感じた。
 ――なんだ……⁈
 妃魅禍の陣により、〝科学〟と〝呪い〟、その力を導き出した方法は異なるも、互いの力の根幹である雷(いかずち)の電荷バランスが影響を受け合っていた。
 八つの大蛇(おろち)の口から呪いの炎を回転させた火炎弾が容赦なくジーグを襲った。
 力の緩んだ磁気球体関節が妃魅禍の激しい攻撃の中で打ち据えられ、形を維持する力を失っていく。
 ――チッ、くそッ、このままじゃバラバラにッ……! やぁられて、たぁまるかよッ!
 宙は鋼の心で耐え、歯を食いしばった。無理は気合で通す。やばい空気になった喧嘩での大逆転はいつもこうだった。
「うおおおおおおおおーッ!!!」
 すると、ジーグの額から未知のエネルギーが広がった。
 ――これはッ……!?
 敵の攻撃と、磁流波エネルギーと共鳴する未知のエネルギーの奔流の中、宙は〝声〟を聴いた気がした。

〝――逆鉾(さかほこ)は、銅鐸を宿らせし者の力!〟

 その声は、美角鏡の声だった。
 ジーグの電荷バランスが安定した。
 ――高千穂か……!
 宙はやるべきことをすべて理解していた。
「パーンサロイド!」
 宙が呼ぶと、離れた場所で戦っていた鋼鉄の白馬がまっしぐらに駆け付ける。
「ビルドッ、オフ! スルーイーンッ!」
 パーンサロイドと合体したジーグはケンタウロスのような姿の戦闘形体に再構築された。
「ジーグ、ランサー!」
 上半身は人型で長槍を持ち、下半身は四つ足の馬で崖上に着地した。パーンサロイドはジェットノズルも備えていて、飛行も可能だった。
「妃魅禍ッ、引導を渡すのは――こっちの方だぜ!」
「小癪(こしゃく)な…、司馬宙ッ!」
 最早、妃魅禍の雷撃をものともせず、パーンサロイド・ジーグは駆け巡り、長槍を振るい、呪術を跳ね返した。
「うおりゃああああああーッ!!!」
 妃魅禍を睨むジーグの額から、むくむくと銅鐸が浮き上がった。
「あれは……⁈ 銅鐸⁈ そうか、お主の体の中にッ……!」
 銅鐸は磁流波エネルギーと共振共鳴し、闇を祓(はら)うような明るい緑に輝いた。
 輝きはさらに広がり、ジーグの額に浮き出た銅鐸から高千穂の峰に一直線の光線が伸び、その先の山頂が砕け、輝く剣が浮上を始める。
 その気配を感じた妃魅禍の顔が凍り付く。
「逆鉾……⁈」

ジーグ

「うおおおおおおおおーッ!!!」
 増幅した磁流波エネルギーの中、宙はパーンサロイド・ジーグを自ら分離し、大地に落としていた両足のパーツを磁力で引き戻し、人型の姿に戻った。
 明るい緑に輝く光はジーグを囲むようにさらに広がり、天空へと続く、太い光の柱となった。
「んんんんんッ……!」
 光の中のジーグが両腕を天に掲げると、その手に、さらに光輝く逆鉾が現れた。

「面妖(めんよう)な光……⁈」

 壱鬼馬も壬魔使も阿磨疎も、それぞれが戦う場所でその気配を感じ、天空を見上げて構え直した。
 が、次の瞬間、輝きは波動となり一瞬で九州全土に行き渡り〝呪い〟を宿す者たちの魂だけを貫いた。
「なにッ…⁈」
 邪魔大王国の三柱は一瞬で石化し、崩れ去って存在を消し去った。すべての黄泉軍兵もハニワ幻神も一瞬で砂塵となって消えた。
 妃魅禍は狼狽(うろた)えた。
「これが、銅鐸の力か……! ジーグ! おのれーッ!」
 その姿も光に消えた。
 明るい緑に発光する光柱は天空で変化し、中心から曇天のベールが広がる。
 見た目は只の灰色の雲だった。
 だが、その本質は〝科学〟と〝呪術〟が入り混じって生まれた極めて特異な反応だった。
 二度目の封印はこうして成された。
 灰色の雲は九州を覆い尽くし、内と外で、すべてを分断した。
「宙さん……!」
 別府湾の海上に浮かぶビッグシューターの中から卯月美和はそれを見た。
 司馬遷次郎や大利博士も、呉と種子島から見上げていた。
 天を貫き、緑に輝く一筋の光柱と、すべてを飲み込み広がったゾーンの発生を――。

▼     ▼     ▼

 翌日――美剣美里は東京にある公安警察の本部に居た。
 情報第二課の特別理事室に呼び出された美里は〝ゼロ〟と対面していた。
「ご苦労でした。予測出来た範囲では最善の成果です」
 〝ゼロ〟は心からの労(ねぎら)いで美剣を表した。
「ですが、瓜生(うりゅう)統括官――。もう一つ、危惧が――」
 美剣美里は〝ゼロ〟の名を呼んた。
 年齢が高い為に少し老けてはいるが、瓜生と呼ばれた男の顔はビルドベースに居た美角鏡と、正しく瓜二つだった。
 瓜生麗(うりゅうれい)――麗(れい)をもじって零(ゼロ)というコードネームが付けられていた。
 〝ゼロ〟は美剣の懸念に心当たりがあった。
「ヘルシンク博士の件ですね?」
「はい。行方(ゆくえ)を暗ませたとの報告があったそうですが――?」
「こちらは国内が主なフィールドなので、地中海やヨーロッパの監視は儘(まま)ならなくてね」
「バードス島の第二次調査隊から戻って以来、彼が不穏な動きをしていることは確かです。実動に出ない限り我々は静観するにしても、彼は〝非公式科学者協会〟の最重要人物です。あちらが、黙っていないかも――」
「それとも、共謀しているとの可能性もありますね」
 瓜生麗は落ち着いた表情で続けた。
「まだ、駒が出揃っていない。今の我々が出来るのは、せいぜい、富士の麓の関係者を密かに警護することくらいだ」
 一難が去っても、問題は複数の場所に山積していた。

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 草薙教授が教え子の早乙女ミチルに研究所の玄関まで送られて来ると、丁度、車寄せに迎えの車が到着したところだった。
「今日はどうも、ありがとうございました」
「ああ、役に立ったかどうかはわからないが、中々、エキサイトな展開だったね」
「ホント、びっくりしましたよね」
 迎えの車は軽乗用車の黄色いファミリーカーだった。ミチルが見ると、自分より少し年上くらいの女性が運転席に乗っている。
「ご家族の方ですか?」
 ミチルが草薙教授に尋ねると、
「婿嫁だよ。普段は山口に居るのだが、丁度こっちに来ていてね。頼んでおいたんだ」
「そうでしたか」
 ミチルが会釈すると女性は笑顔で会釈を返した。
 草薙は助手席に乗り、ミチルに手を振りながら帰って行った。

「お義父さん」
「ん?」
 運転をしながら美夜が話し掛けた。
「美里さんから連絡がありました」
「ほう、久しぶりだね」
「TSアブソリュートゾーンを公表することが決まったそうです」
 ジーグが〝天の逆鉾〟によって起こした封印の内側のゾーンを、時空《Time & Space》を意図的に制御した空間と認識し、日本語では〝時空吸引帯〟と司馬博士が名付けていた。
「そうか……」
「邪魔大王国の件も、すべてです――。来年から、歴史の教科書も正式に変わるって……」
「――そうか」
「九州が閉ざされたのも、もう、原因不明の自然現象じゃなくなります。お義父さんの研究が正しかったこと、もう、堂々と発表していいのよ」
 研究者としては嬉しいことだが草薙教授は「そうか」としか応えられなかった。日本国政府が公表を決意したということは、あの時の仮封印が弱まり、邪魔大王国の復活が迫っていることを示している。
「遷次郎さんたちは?」
「宙さんを信じて、準備を整えています」
 やはり、草薙武彦には、「そうか…」としか、応えることは出来なかった。

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 地球から、遥か離れた宇宙――。
 〝ベガ星連合〟に従わず反旗を翻(ひるがえ)し、ベガール・ベガⅢ世に敗れ属国となった惑星デネブ。
 その母星であった星自体も〝ベガ星連合〟に改造され、半機械惑星の軍事用補給基地に姿を変えていた。
 穴だらけの惑星の表面から宇宙に突き出た沢山の棚がすべて宇宙港であり、絶え間なく宇宙艦隊が数万隻の単位で出入りした。
 ベガール・ベガⅢ世の侵略はあらゆる時空に広がっている。
 恐ろしいのは、この惑星が時空ターミナルとしても機能していることだ。
 目に映る景色の艦隊の出入りだけでなく、すべての時間、並行宇宙に繋がるゲートとしての役割も担(にな)っていた。
 テラ星でその星の守護神と名乗る戦闘ロボットと遭遇し、敗退を喫した黒騎士バレンドスはデネブで補給し、自身のマザーバーンが率いる艦隊を立て直すという目的もあったが、それだけでなく、ある奸計(かんけい)を胸に密めていた。
 時空計算を綿密に行い、今日ここに居るであろうはずの件(くだん)の艦隊に照準を合わせ転位した。
「発見しました。ジャマル星系から徴用し、テラ星に向けた〝アガルタ〟の別動隊として組織された艦隊です」
「よし――」

 一人、宇宙港に降り立ったバレンドスは黒マントを靡(なび)かせ、出航の準備を進める者たちが集(つど)うバザーを歩いた。
 すぐにジャマルの下女は見つかった。
 人造人間の下女は主(あるじ)が敵として教え込んだ相手以外には大人しく従順だった。自我が遺伝子の単位で制御されていた。
 バレンドスはジャマル星系の旗艦・ラングーンが〝ベガ星連合〟の方針に密かに異議を持ち、命令通りテラ星に到着したのち、侵略ではなく、移住を望んでいることを掴んでいた。
「そこの女」
 バレンドスが呼ぶと下女は静かに振り向いた。
「はい。何でございましょう」
「主の使いで買い物か。感心だな。そうだ、これをやろう」
 バレンドスはそういうと黒マントの下から果実を一つ取り出した。
 それは地球の林檎に似た、惑星イドゥンの果実だった。
「美味いぞ。さあ、食べるが良い――」
 バレンドスが優しく笑んで差し出すと、下女は一瞬迷った表情をしたが、断ると、相手の善意を傷付けるとも思い、それを美味しそうに頬張った。
「美味しい……ありがとうございます」
 この果実にはジャマルの者たちもまだ知らない隠れた効能があった。
 イドゥンの果実にはジャマル星系の生体型人造人間の自我にのみ影響を及ぼす成分が備わっていた。
 ――お前が叛乱を起こし、支配するもよし。テラ星に混乱の種を蒔けば、いずれ我々の役にも立つ……!
 バレンドスは小さく笑むと下女に背を向け何事もなかったかのようにバザーを後にした。 

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Ⓒダイナミック企画・東映アニメーション

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