【コードギアス 新潔のアルマリア】ep09「今度こそにがしはしない」
2025.09.06『コードギアス 奪還のロゼ』へと続く物語
『コードギアス 復活のルルーシュ』と『奪還のロゼ』をつなぐ『コードギアス』の新たなるストーリー『新潔のアルマリア』。4年前の皇暦2018年。ユーロ・ブリタニアとの国境線に近いラッペーンランタ市内を蹂躙していく、神聖ブリタニア帝国のサザーランド部隊。幼きサトリもその渦中にいた……。サトリの悲しき過去が描かれる第9話、開幕。
STAFF
シナリオ 長月文弥
キャラクターデザイン 岩村あおい(サンライズ作画塾)
ナイトメアフレームデザイン アストレイズ
ナイトメアフレーム新月モデル製作 おれんぢえびす
撮影協力 BANDAI SPIRITS コレクター事業部
ep.09|『今度こそにがしはしない』
皇暦2018年。
ユーロピア共和国連合フィンランド州。
ユーロ・ブリタニアとの国境線に近いラッペーンランタ市内に何機ものサザーランドが入り込んでいる。そのサザーランドは、ユーロピア攻略に当たっているユーロ・ブリタニアのものではない。神聖ブリタニア帝国“本国”の部隊のものだ。圧倒的な力を持つサザーランドが街を蹂躙していく。砲撃によって崩れる建物。銃撃によって吹き飛ばされる住民。その指揮を執っているのは、ジョゼフ・グラナード“大佐”。
「相手はユーロピア人だ。抵抗する者はすべて殺して構わん」
グラナードの命令を受けた歩兵たちが、手当たり次第に街の人間を追い立てる。
街の中央から少し離れた一軒家に隠れていた幼いサトリも例外ではない。
「声を出しちゃいけないよ」という父の言葉に従って、自宅のベッドの下で身を隠していたが、乱暴に入り込んできたブリタニア歩兵に見つかってしまう。
「騒げば殺す」
ブリタニアの兵士に見つかったサトリが連れてこられたのは、ショッピングモールの駐車場。周りを見渡すと、自分と同じように連れてこられた女性や子どもたちが身を寄せ合っている。皆一様に怯えているのは、その周囲をぐるりとブリタニアの兵士とサザーランドが取り囲んでいるからだ。
「ユーロ・ブリタニアは退避勧告をするっていう話だったのに……」
「よく見て。彼らはユーロ・ブリタニアじゃない。ブリタニア本国の兵隊よ」
近くの老人たちの話が耳に入る。目の前の部隊が掲げている軍旗を見ると、確かにユーロ・ブリタニアのものではなく、ブリタニア本国のものだった。サトリには今起こっている事態が飲み込めないでいた。
「僕たち、どうなっちゃうの?」
別の方向から、不安そうな子どもの声が聞こえる。
「大丈夫よ。リシリュー市長がきっと何とかしてくれるから」
そばにいた母親が不安がる子どもにそう言い聞かせる。サトリも同じ気持ちだった。リシリュー市長なら、市長である自分の父親なら何とかしてくれるはず。
「横暴な行いはよせ!」
サトリの願い通り、市庁舎からやって来た父、セヴェリ・リシリューがブリタニアの兵を押しのけ、集められた市民を庇うよう立つ。
「なんの真似だ?」
眼帯の男、ジョゼフ・グラナードがセヴェリに問う。
「街の人間には手を出させない。即刻この街から立ち去れ」
「ふん。武器も力もない者に何が出来る? 何も出来はしない。弱き者はただ強き者に奪われるだけだ」
「何が強き者だ。他人に与えられた武器をちらつかせて吠える人間が強いとは笑わせてくれる」
「なんだと?」
セヴェリの言葉に怒りを顕わにするグラナード。
「強いのはお前たちが与えられた武器だと言ったんだ。お前自身が誇れる力などない」
そう言われた瞬間に、グラナードがセヴェリの顔面を殴る。
「っ!」
父親が受けた蛮行に声を上げそうになるサトリ。しかし、サトリは父親の命に従って口をつぐむ。なぜなら殴られた父はその場に踏みとどまっているから。
「う……、ほら、こんなものだ」
「なに?」
「名も無き侵略者の力はこんなものだと言ったんだ」
「調子に……、乗るな!」
グラナードが再びセヴェリを殴打する。しかし、セヴェリは一歩も引かない。
「俺はグラナード! ジョゼフ・グラナードだ。由緒正しいグラナード家である私を愚弄するとは! 平民のお前などに!」
いくら殴られても倒れないセヴェリ。市民たちからセヴェリを心配する声が上がるが、サトリは口をつぐんだまま。ただ父を殴るグラナードを睨みつけている。
「はあ……、はあ……」
殴り疲れて、肩で息をするグラナード。だがセヴェリは顔を腫らし、血を流しながらも立ったまま。
「ちっ。もういい、死ね」
グラナードは銃を取り出し、セヴェリの額に向ける。
「パ……」
サトリは叫びそうになるが、セヴェリの顔には笑みが浮かんでいる。
「街の人間には手を出させない。絶対にだ」
「ふん。死人に何ができる」
無情にもセヴェリの頭を撃ち抜くグラナード。至る所から悲鳴が上がる。
「パパ!」
我慢できずにサトリが、力なく倒れたセヴェリに駆け寄る。
「パパ! パパ!」
何度も呼びかけるが、すでにセヴェリは息を引き取っている。最愛の父を撃ったグラナードを睨みつけるサトリ。
「こいつの娘か。すぐにお前も……」
グラナードはサトリにまで銃を向け、引き金に指をかける。その瞬間、街の人々を取り囲んでいたサザーランドの一機が爆散する。
「なんだ!?」
爆炎を上げるサザーランドのほうを見ると、ユーロ・ブリタニアのサザーランドがグラナードの部隊を取り囲んでいる。
「聖ミカエル騎士団だと? どうして……?」
サザーランドの奥から、ユーロ・ブリタニア用の装飾を施されたグロースター・ソードマンがグラナードの前にくる。
「蛮行はそこまでだ」
コックピットから姿を見せたのはカステラニ・ブロンデッロ。かつて聖ミカエル騎士団の三剣豪と恐れられた男だ。
「貴様たちは、ユーロ・ブリタニアの……」
「私は、カステラニ・ブロンデッロ。リシリュー市長からの救援要請を受けてきた」
「なんだと?」
ここでグラナードはようやくセヴェリの意図に気づく。セヴェリは、ブロンデッロたちが到着するまでの間、市民に手出しさせないための時間稼ぎをしていたのだと。
「このラッペーンランタは、我がユーロ・ブリタニアの管轄下にある。いくら本国の人間でも蛮行は許さん」
ブロンデッロの部下たちが一斉にグラナードに銃口を向ける。
「くっ……」
観念して銃を下ろすグラナード。その姿を横目に、コックピットから降りたブロンデッロは跪いてサトリに頭を下げる。
「すまなかった。私たちの到着がもう少し早ければ、お父上を失くさずにすんだものを……」
街が救われたことに対する安堵の気持ちが湧いてくる。しかし、反するように愛する父の身体が冷たくなっていくのが悲しくて、サトリは大声を上げてその場に泣き崩れた。
ⒸSUNRISE/PROJECT L-GEASS Character Design Ⓒ2006-2017 CLAMP・ST