HOME記事特撮キング伊福部まつり/伊福部昭総進撃 富山省吾(映画プロデューサー)・大河原孝夫(映画監督)・岩瀬政雄(音楽プロデューサー) 特別対談【後編】

キング伊福部まつり/伊福部昭総進撃 富山省吾(映画プロデューサー)・大河原孝夫(映画監督)・岩瀬政雄(音楽プロデューサー) 特別対談【後編】

2025.05.23

●「伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ」開催に寄せて

――いよいよ、5月26日(月)には「伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ」が開催されます。「SF交響ファンタジー第1番」は、今やコンサートのレパートリーとして定着しつつありますが、「第2番」「第3番」も含めた全曲演奏は、オフィシャルのコンサート企画としては、滅多にない機会です。それぞれ本公演に期待されることがあればうかがえればと思います。

富山 今回、演奏される「SF交響ファンタジー第1~3番」が初演された「SF特撮映画音楽の夕べ」(1983年)は、当時聴いてないんですよ。ちょうど宣伝部で一生懸命仕事をしていた時期で、職場のすぐ近くの日比谷公堂で開催されるのは把握していたんですけどね。後で平田昭彦さんや本多猪四郎監督が出演されたとの話を聞き、先日も映像を観直したら、田中友幸プロデューサーも登壇されていて、いや、これは当時かなり盛り上がったでしょうね。

大河原 僕も残念ながら聴いてないんですよ。今回、その「SF交響ファンタジー第1番」「第2番」「第3番」が全曲演奏されるとのことで、とても楽しみですね。

岩瀬 これは誤解されているところもあるけど、企画自体は僕の先輩の大石稀哉さんで、そこに竹内博くんや西脇博光くんたちがブレーンとして関わっていました。自分は当日、スタッフとして人員整理をしていたけど、とにかくファンの皆さんの熱気がものすごくて。そういった印象が強く記憶に残っていますね。

富山 あそこに集まった熱心なファンの皆さんの「次の時代のゴジラを作って欲しい」という願いが、翌年の『ゴジラ (’84)』での復活に繋がるわけですよね。

岩瀬 僕としては、伊福部先生の「私の作品は映画だけじゃないんですけどね」というお気持ちにも接していたので、当時の感覚としては、映画音楽をステージで演奏する企画には、やや批判的だったんです。それが時代を経て、「交響譚詩」(1943年)や「シンフォニア・タプカーラ」(1954/78年)といった純音楽作品と映画音楽の両方を並べたプログラムが成立するようになった。映画と純音楽、双方で通じる部分もあると思うし、こうした形の企画が実現したことは、自分にとってもこの上なく喜ばしいことですね。

大河原 岩瀬さんを介して、伊福部先生の純音楽作品もいくつか聴いた覚えがありますが、やっぱり映画にも通じる伊福部調を強く感じますよ。

岩瀬 そういえば『vsキングギドラ』の年には、伊福部先生の個展がありましたよね?

――サントリー芸術財団主催の「作曲家の個展」でしょうか。ここで「管絃楽のための日本組曲」(1991年)が委嘱初演されました。

岩瀬 そうです。当時その話を伊福部先生からお聞きしていました。これの原曲は、先生の第一作「ピアノ組曲」(1933年)で、今回のプログラムにも含まれているんですよね。

富山 これはゴジラファンはもちろん、クラシックファンにとっても、間違いなく至福の時間でしょう。心行くまで堪能してもらいたいですね。

大河原 ネットのレビューを眺めていても、伊福部先生の音楽が好きな方は本当にたくさんいますよね。僕は映画の人間なので、どうしても映像と結び付けてしまうところがあるけど、様々な愉しみ方や浸り方があるんじゃないかと思いますね。

富山 コンサートは目を開けて聴く人と、目を瞑って聴く人がいると言いますよね。目を瞑って聴けば、知っている人でしたら、一連の東宝特撮映画の名場面が次々と浮かぶはずですよ。

――最後に今一度、平成ゴジラシリーズでの伊福部先生との仕事を振り返ってのお気持ちをお聞かせください。

岩瀬 『vsキングギドラ』の際に、撮影所の年配の人が「伊福部さんが音楽をやるとゴジラがデカくなるんだよ」なんて言っていたけど、本当にその通りでしたね。

富山 僕としては、そもそものゴジラの生みの親である田中友幸プロデューサー、そして伊福部先生と一緒にVSシリーズを作ることができた。それが何よりの幸せだったし、あの時代があったからこそ、ゴジラは現在にも繋がっている気がします。

岩瀬 ゴジラに関わったどの作曲家もそれぞれに良い仕事をしてくださったとは思うんですけど、結局、みんな伊福部先生が持つ個性には敵わなかった。それはやっぱり、西洋音楽の持つ美的感覚ではないところに根本があるからだと思うんですよ。バーバリックな泥臭さ、いわゆるドレミファソラシドの綺麗な音楽ではないところにベースがあり、そもそもの音楽の作り方が違う。特にゴジラの音楽は、伊福部先生のそうした資質とフィットしていて、ある種、時代を越えているところがある。そこが大きかったんじゃないかな。

富山 伊福部先生は、大和朝廷以前からの歴史を持つ由緒ある家柄でしょう。先生が作り出す音楽は、日本の原初の血ですよ。そういう意味では他のどこからも生まれることのない、先生の中からだからこそ生まれた音楽のように思いますね。

大河原 当時、伊福部先生は70代後半とご高齢で、特に『vsメカゴジラ』では、体調を崩されていたにも関わらず、引き受けてくださって、本当に感謝の言葉しかありません。僕にとってのゴジラは、生い立ちも含めたキャラと造形、それに加えて伊福部先生の音楽。これが三位一体なんです。その後に撮った『ゴジラ2000 ミレニアム』では、服部隆之先生に音楽をお願いしましたが、ゴジラが上陸するシーンで、どうしても先生の音楽を使いたくて、わざわざ了承を得て使わせてもらったほどです。

富山 僕も大河原さんと同意見で、先生の音楽がなければゴジラはここまでの存在にはならなかったと思います。戦時中に関わった強化木材の研究でご自身も被爆され、先生だけにあるシンパシーをゴジラに感じていて、それがゴジラの音楽を誕生させたと言っても過言ではありません。

――岩瀬さんは、東宝レコード時代も含めて、お三方の中では、伊福部先生と一番お付き合いが長かったのではないかと思いますが。

岩瀬 僕は東宝レコード時代に、伊福部先生の映画音楽のレコードを作る機会があり、周囲の方々からは「あのレコードが再評価のきっかけを作った」と言われるけど、僕自身は全くそういう意識はなくて、ただただ企画を出さねばということでやっただけなんですよ。評価という意味では、やっぱり時代の変化が大きかったですよね。先生も仰っていたように前衛が疲弊して、上野耕路くん辺りも「行き詰って振り返ったら伊福部昭がいた」なんて言っていたけど、そういう道筋の中、たまたまレコードを作ったということに過ぎないんです。

富山 近年、伊福部先生の純音楽作品が、海外で演奏される機会が増えているそうですが、これからどんどん外に向かって出て行くと思いますよ。今、僕は新百合ヶ丘で開催されている「アルテリッカしんゆり」という芸術祭に関わっているのですが、梵天という海外でも活躍している和太鼓のみなさんの演奏を先日聴いていて、和太鼓に木管を入れていてまさに伊福部サウンドに通じるものを感じました。そんな再発見を前にして、今一度、襟を正して伊福部先生の音楽に耳を傾けなくてはと思っているところです。

岩瀬 伊福部先生の持論は「作品は民族の特殊性を通過して初めてインターナショナルになり得る」ということで、それぞれの地域や風土の中で、民族にはそれぞれの音の作り方があり、それを越えたところに何か共通性が生まれるわけですが、今はその少し手前なんじゃないかな。その先を早く見てみたいですね。

富山 僕は岩瀬さんに連れられ、伊福部先生に会うことができたわけですが、当時の尾山台のご自宅の仕事部屋の雰囲気、そして伊福部先生ご自身が醸し出す存在感に圧倒されたものですが、時間が経つにつれて、より一層、先生の懐の広さや物事に対しての深いお考えなど、そういうものを強く感じるようになりました。やっぱり本物のアーティストだったなと思いますね。今はもうお宅もないし、先生もいらっしゃらないけど、でも、僕らの中には今も生き続けているという思いがあるし、伊福部先生が遺された作品が世界に広がりつつある状況は、まさに岩瀬さんが仰っていたように「一歩手前」であり、きっとこれから大きな広がりが始まるのでしょう。そこに対しての喜び、そして期待する気持ちがすごくありますね。


とみやま・しょうご(左):1952年、東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、東宝宣伝部へ。83年に東宝映画企画部へ。 『恋する女たち』(86年)等を製作、『ゴジラvsビオランテ』(89年)~『ゴジラ FINAL WARS』 (04年)までゴジラシリーズに作品を15年に亘って製作。東宝映画取締役社長の後、 日本アカデミー協会事務局長に就く。現・ 日本映画大学理事長。

いわせ・まさお(右):1949年、東京都出身。74年東宝に入社。東宝レコードにて「日本の映画音楽シリーズ」等のLPを制作。 その後、黒澤明監督の『影武者』(80年)、『乱』 (85年)など、多数の作品で音楽プロデュー サーを務める。14年には第一作『ゴジラ」 (54年)で邦画初となるシネマコンサートをプロデュースして成功に導いた。元東宝 ミュージック社長。

おおかわら・たかお(中央):1949年、千葉県出身。大学卒業後の73年に東宝に入社し、その後、助監督として黒澤明や森谷司郎、降旗康男などに師事する。 99年の『超少女REIKO』で監督デビューを果たし、『ゴジラvsモスラ』(92年) から『ゴジラ2000ミレニアム』 (99年) まで、ゴジラ映画を4本手掛けた。97年 のサスペンス大作『誘拐』では、日本アカデミー賞の各賞を受賞した。

伊福部昭の芸術13 易

●定価:3300円 (3000円+税)
●発売日:2025年5月21日(水)
●演奏:広上淳一指揮 札幌交響楽団、外山啓介(ピアノ)、松田華音(ピアノ)
●形態:CD/品番:KICC-1629
(収録内容)伊福部昭:①ピアノとオーケストラのための「リトミカ・オスティナータ」/②子供のためのリズム遊び/③ピアノ組曲
※演奏:広上淳一指揮 札幌交響楽団 外山啓介(ピアノ)➀/松田華音(ピアノ)➁➂

音の怪獣~こどものためのいふくべあきら-

●定価:3300円 (3000円+税)
●発売日:2025年5月21日(水)
●演奏:竹本泰蔵指揮/本名徹次指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
●形態:CD/品番:KICC-1630/
「ゴジラ」メインタイトル
「キングコング対ゴジラ」メインタイトル
「怪獣総進撃」メインタイトル/マーチ/東京大襲撃
「空の大怪獣ラドン」ラドン追撃せよ
「怪獣大戦争」マーチ
交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」


コンサート情報

伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ~

指揮 和田薫、本名徹次
ピアノ 松田華音
オルガン 石丸由佳
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

<第1部>
松田華音 子供のためのリズム遊び(抜粋)
ピアノ組曲
石丸由佳 SF交響ファンタジー第1番(和田薫編曲パイプオルガン版)

<第2部>
和田薫 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
SF交響ファンタジー第1番、第2番、第3番(全曲)

<第3部>
本名徹次 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
交響譚詩
シンフォニア・タプカーラ

日程:2025年5月26日(月)17:00開場/18:00開演(21:00終演予定)
場所:東京オペラシティ コンサートホール
料金
SS席:18,000円(SS席限定オリジナルTシャツ付き)
S席:9,900円 A席:8,800円 B席:7,700円 U-25(引換券):3,300円

※全席指定・税込
※未就学児入場不可
※SS席は1階前方〜中央、2階最前列の良席、「チケットぴあ」のみのお取り扱いとなります。
※SS席特典のオリジナルTシャツは、1983年『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』のスタッフTシャツを基にしたデザイン(非売品/メンズXLサイズ)です。当日窓口にてお引換えいたします。
※U-25(引換券)は「チケットぴあ」にて、一般発売より販売いたします。公演日に25歳以下の方のみ対象です。
公演窓口にて鑑賞者ご本人の身分証明書(学生証 ・運転免許証、マイナンバーカードなど)にて年齢を確認させていただきますので、引換券と合わせてご持参ください。

公演に関するお問合せ
サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)

プレイガイド
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/ifukube110/
ローソンチケットhttps://l-tike.com/ifukube110/
イープラスhttps://eplus.jp/ifukube110th/
オペラシティチケットセンター 03-5353-9999(10:00~18:00/月曜休)・店頭での購入(11:00~19:00/月曜休)

公式サイト
https://www.promax.co.jp/ifukube110th/


GRACERY LOUNGE ホテルグレイスリー新宿8階

ホテルグレイスリー新宿 8階ロビーに隣接するラウンジは、天井が高くカフェタイムには明るい陽射しが差し込む開放的な空間。窓からは大きな「ゴジラヘッド」を眺めることも!オリジナルのゴジラメニューも盛りだくさん!

▲ ゴジラVSモスラ パンケーキ島の決戦
▲ ゴジラプリントアートラテ(ゴジラVer.、モスラVer.)
▲ 『ゴジラ』(1954)ソーダ、『ゴジラ -1.0』ソーダ

●席数:50席
●営業時間:10:00~22:00(ラストオーダー 21:30)
●ADDRESS:〒160-8466 東京都新宿区歌舞伎町1-19-1
●TEL:03-6833-1111
●URL:https://gracery.com/shinjuku/

TM & © TOHO CO., LTD.

1 2 3
この記事が気に入ったらシェアしてください!

オススメの書籍

怪獣大戦争コンプリーション

ご購入はこちら

宇宙船 vol.188

ご購入はこちら

月刊ホビージャパン2025年6月号

ご購入はこちら
PAGE TOP
メニュー