キング伊福部まつり/伊福部昭総進撃 富山省吾(映画プロデューサー)・大河原孝夫(映画監督)・岩瀬政雄(音楽プロデューサー) 特別対談【前編】
2025.05.21●東宝撮影所で大々的に行われた音楽録音
――伊福部先生が手がけた平成ゴジラシリーズの音楽を語る上で欠かせないのが、『vsキングギドラ』から音楽録音を撮影所で行ったことです。
岩瀬 これは「昔ながらにスクリーンに画を映して音楽を録りたい」と、先生が引き受けに際し提示された絶対条件だったんです。当時は効率重視で、音楽は外部のスタジオで録音するようになっていて、ダビングセンターとピアノは残っていたけど、録音機材はおろか、照明付きの譜面台も何もなくて、それらをゼロから段取るところから着手しました。録音機材はコンサートライブで使う録音車のバスをステージの隣に横付けして、マイクを60本くらい立てて、ケーブルを録音車まで繋ぐわけですが、コード用の出口なんかないから、ドアが閉まらなくてね(苦笑)。それで本番の際には大声で「静かにっ!」なんて(笑)。とにかく大規模な録音作業で、レコード会社さんの協力を仰ぎつつも通常の2倍くらいの予算をかけました。
富山 ゴジラ映画は製作費だけで、通常の映画の2倍以上かかるのですが、いつも製作費が足りないといった状況でやっていました。そんな中、サポートしてくださったレコード会社の愛情もとても有難かったですし、結果的に先生の存在と、ダビングルームでの音楽録りを実現できたことが作品を大きくした、というのは有り余る程に感じました。
岩瀬 実際の録音の指揮はお弟子さんの今井聡さんで、先生はテストでゆっくり振られて、譜面の間違いやニュアンス等を指示されるのですが、最初の『vsキングギドラ』で先生がテストで振られて、ゴジラの主題が鳴った瞬間は圧巻でしたね。
富山 演奏家も自分のタイミングでスクリーンを見るでしょう。伊福部先生としても、上手く綺麗に、というよりは、画に合わせて強く激しい音楽を欲しているわけですが、それがひとりひとりに確実に伝わっているんだなと思いました。
岩瀬 先生も「綺麗な音楽は必要ありません。この画面に付けるんです」と、演奏家に向かって仰っていましたが、それが一発で伝わるわけですよね。
大河原 一度、テストを終えた段階で伊福部先生が、プレイヤーに向かって「演奏せずに画を見てください」と。それで再度、テストしたらやっぱり音が違うんです。僕自身も森谷(司郎)組とか、助監督の初期はダビングルームで録る生オケの現場を経験していましたが、久々に壮観でしたね。それから録音の最中に、録音技師がブースの中にいますよね。先生がブースの中の技師さんに手で「ボリュームを上に、上に、」と合図を送るわけですが、下げることは一切なかったですね(笑)。
●平成ゴジラシリーズにおける様々なエピソード
――他にシリーズを通じて、音楽にまつわるエピソードがあればご披露いただければと思います。
大河原 伊福部先生は、黒澤さんとも仕事をしていた映画業界の大先輩であり、ある意味では雲の上の方ですが、だからと言って特に緊張することはありませんでした。
富山 『vsキングギドラ』のオープニングも実に素晴らしかったですね。海底下のキングギドラの場面での重低音から、次の瞬間、華々しいファンファーレと共にタイトル画面が出て、さらにUFO騒動でのスピーディな曲調に変わると。あの映画の導入に至るワクワクする音楽の付け方は、やっぱり伊福部先生はすごいなと思わせるものがありましたね。
大河原 民族楽器にもとても詳しい方で、『vsモスラ』では、フィリピンで別所(哲也)くんと小林(聡美)さんが話す場面で、とても不思議な音が聴こえてくるんですよね。たぶん、岩瀬さんが苦労されたと思うんですけど。
富山 楽器も大変だけど、演奏者も大変だったんじゃないですか?
岩瀬 そういう珍しい楽器は先生が持参されていて、録音の際に打楽器奏者に指示をして演奏してもらっていましたね。
大河原 全部で3作ご一緒して思ったのは、何より先生ご自身が持つ深い洞察力ですよね。当時を思い返して、今さらながらに感じます。
岩瀬 これは今だから話せるんですけど、最初に『vsキングギドラ』を担当した際に、主に前半のドラマ部分は、画合わせでちゃんと音楽を付けているんですけど、後半、ゴジラやキングギドラの活躍がメインになると、実はあまり画にちゃんと合わせてないんです。ただ、そこは百戦錬磨の伊福部先生で、ゴジラやキングギドラのテーマのテンポ違いを複数用意することで対応していたんですけど、そうした特撮絡みの場面に関しては、割と我々にお任せなところがありました。
富山 あの頃はビデオでラッシュをお渡ししていたんですけど、結局、その後の編集で変わってしまうんですよ。
大河原 特に特撮場面は、そうしたことが多かったですね。
――1作目の『ゴジラ』も、東京上陸のくだりはMa~cのナンバリングで、半ば選曲に近い形で適宜当てていったようなところがありました。
岩瀬 後半の線引き(※音楽の必要な箇所をチェックする)もしたけど、遙かに曲数が少ないわけです。「お前どないするねん!」と大森さんが怒鳴り込んできて(笑)。ただ、僕は大森さんの『恋する女たち』で、選曲方式も経験していたから、ある程度、目算が立っていました。
――当時は6ミリテープで音楽を付けていた時代ですよね。
岩瀬 今みたいにPro Toolsがあれば簡単だけど、『vsキングギドラ』では音楽編集が間に合わなくて、オリジナルのマスターテープにまでハサミを入れてしまって(苦笑)。
富山 いや、それは大変でしたね。緊張もしたでしょう。
岩瀬 一応、1本は編集用にコピーを用意していたんだけど、足りなくなってしまって「オリジナルにもハサミを入れちゃえ!」みたいなことでね。当時はだいたい朝の10時くらいからダビング開始で、伊福部先生は午後いらっしゃるんですよ。それで午前中に仕上げた巻を見てもらって「結構です」というのが、だいたいのパターンでした。ただ、『vsキングギドラ』で、「ゴジラのテーマがちょっと続きますね」とご意見をいただき、確か、札幌の大通公園の場面だったと思うけど、そこだけ「ゴジラザウルスのテーマ」に変えたことがありました。
大河原 使い勝手がいいと言っては失礼ですけども、臨機応変に使えるようになっているんですよね。
岩瀬 かなり大変だったけど、終わった後で大森さんと「なんとかなるもんやな」と、二人で安堵したのを覚えています。次の『vsモスラ』からは、予め3本くらいコピーを用意しておいて、僕とミキサーの大野映彦さんで「大野さん、2巻目やっておいて。俺は3巻目やるから」と分担して音楽を編集していきました。ただ、今思うと、綿密に音楽が入るタイミングを打ち合わせしていても、結局、効果が入ると音をズラしたくなるとか、必ずあるんですよ。その辺りをあまりガチガチにしてしまうと、監督に対しても気の毒です。ダビングの時点で「鳴き声の余韻の終わりくらいで音楽を入れたほうが良い」なんてことは、打ち合わせでは分からないし、2~4秒狂うなんていうことはザラにあるわけです。
大河原 やっぱりダビングで1番時間かかるのは、音楽を入れるか入れないか、入れるとして、どこから入れるかということなんですよね。それは長い助監督歴で分かっていたことで、僕はダビング前に必ず「仮当て」をやっていたんですよ。岩瀬さんに来てもらって、作曲家には黙っていて、二人で言いたい放題で「この案はどうだ?」とやっておくと。
富山 それは大分違いますよね。
大河原 僕は『超少女REIKO』からやっていた。
富山 編集しながら音楽の当たりどころを探るのですが、これがまた当たる時は当たるんですよ。「あ、ここに来るんだ!」とピッタリとハマる。
岩瀬 そういう意味でも、ある程度は選曲方式で良かった面もあると思いますね。
大河原 『vsメカゴジラ』では、確かラストの曲自体を僕の意向で変えたんですよ。三枝美希(小高恵美)がベビーゴジラにテレパシーを送ってゴジラの元へ向かわせる場面だったけど、ここはテレパシーの曲だったのを、歌詞を付けたコーラスの曲に一部編集した上で差し替えました。いきなり音出ししたんですが、伊福部先生が立ち上がり、これは反対されるのかなと思ったんですが、見学されていたファンの方々に「この差し替えはどうなんですか?」と訊ねて、その方々が「よろしいと思います」と答えると、伊福部先生が「それでは監督の指示で行きましょう」と。確かそういったやりとりがあったかと覚えております。
富山 親子の愛情がより引き立ちましたね。
伊福部昭が最後に手掛けた『ゴジラvsデストロイア』音楽秘話、そして「伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ」について…………インタビュー後編へ続く!
とみやま・しょうご(左):1952年、東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業後、東宝宣伝部へ。83年に東宝映画企画部へ。 『恋する女たち』(86年)等を製作、『ゴジラvsビオランテ』(89年)~『ゴジラ FINAL WARS』 (04年)までゴジラシリーズに作品を15年に亘って製作。東宝映画取締役社長の後、 日本アカデミー協会事務局長に就く。現・ 日本映画大学理事長。
いわせ・まさお(右):1949年、東京都出身。74年東宝に入社。東宝レコードにて「日本の映画音楽シリーズ」等のLPを制作。 その後、黒澤明監督の『影武者』(80年)、『乱』 (85年)など、多数の作品で音楽プロデュー サーを務める。14年には第一作『ゴジラ」 (54年)で邦画初となるシネマコンサートをプロデュースして成功に導いた。元東宝 ミュージック社長。
おおかわら・たかお(中央):1949年、千葉県出身。大学卒業後の73年に東宝に入社し、その後、助監督として黒澤明や森谷司郎、降旗康男などに師事する。 99年の『超少女REIKO』で監督デビューを果たし、『ゴジラvsモスラ』(92年) から『ゴジラ2000ミレニアム』 (99年) まで、ゴジラ映画を4本手掛けた。97年 のサスペンス大作『誘拐』では、日本アカデミー賞の各賞を受賞した。

伊福部昭の芸術13 易
●定価:3300円 (3000円+税)
●発売日:2025年5月21日(水)
●演奏:広上淳一指揮 札幌交響楽団、外山啓介(ピアノ)、松田華音(ピアノ)
●形態:CD/品番:KICC-1629
(収録内容)伊福部昭:①ピアノとオーケストラのための「リトミカ・オスティナータ」/②子供のためのリズム遊び/③ピアノ組曲
※演奏:広上淳一指揮 札幌交響楽団 外山啓介(ピアノ)➀/松田華音(ピアノ)➁➂

音の怪獣~こどものためのいふくべあきら-
●定価:3300円 (3000円+税)
●発売日:2025年5月21日(水)
●演奏:竹本泰蔵指揮/本名徹次指揮 日本フィルハーモニー交響楽団
●形態:CD/品番:KICC-1630/
「ゴジラ」メインタイトル
「キングコング対ゴジラ」メインタイトル
「怪獣総進撃」メインタイトル/マーチ/東京大襲撃
「空の大怪獣ラドン」ラドン追撃せよ
「怪獣大戦争」マーチ
交響組曲「わんぱく王子の大蛇退治」
コンサート情報
伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ~
指揮 和田薫、本名徹次
ピアノ 松田華音
オルガン 石丸由佳
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
<第1部>
松田華音 子供のためのリズム遊び(抜粋)
ピアノ組曲
石丸由佳 SF交響ファンタジー第1番(和田薫編曲パイプオルガン版)
<第2部>
和田薫 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
SF交響ファンタジー第1番、第2番、第3番(全曲)
<第3部>
本名徹次 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
交響譚詩
シンフォニア・タプカーラ
日程:2025年5月26日(月)17:00開場/18:00開演(21:00終演予定)
場所:東京オペラシティ コンサートホール
料金
SS席:18,000円(SS席限定オリジナルTシャツ付き)
S席:9,900円 A席:8,800円 B席:7,700円 U-25(引換券):3,300円
※全席指定・税込
※未就学児入場不可
※SS席は1階前方〜中央、2階最前列の良席、「チケットぴあ」のみのお取り扱いとなります。
※SS席特典のオリジナルTシャツは、1983年『伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ』のスタッフTシャツを基にしたデザイン(非売品/メンズXLサイズ)です。当日窓口にてお引換えいたします。
※U-25(引換券)は「チケットぴあ」にて、一般発売より販売いたします。公演日に25歳以下の方のみ対象です。
公演窓口にて鑑賞者ご本人の身分証明書(学生証 ・運転免許証、マイナンバーカードなど)にて年齢を確認させていただきますので、引換券と合わせてご持参ください。
公演に関するお問合せ
サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日12:00~15:00)
プレイガイド
チケットぴあ https://w.pia.jp/t/ifukube110/
ローソンチケットhttps://l-tike.com/ifukube110/
イープラスhttps://eplus.jp/ifukube110th/
オペラシティチケットセンター 03-5353-9999(10:00~18:00/月曜休)・店頭での購入(11:00~19:00/月曜休)
公式サイト
https://www.promax.co.jp/ifukube110th/
GRACERY LOUNGE ホテルグレイスリー新宿8階
ホテルグレイスリー新宿 8階ロビーに隣接するラウンジは、天井が高くカフェタイムには明るい陽射しが差し込む開放的な空間。窓からは大きな「ゴジラヘッド」を眺めることも!オリジナルのゴジラメニューも盛りだくさん!
●席数:50席
●営業時間:10:00~22:00(ラストオーダー 21:30)
●ADDRESS:〒160-8466 東京都新宿区歌舞伎町1-19-1
●TEL:03-6833-1111
●URL:https://gracery.com/shinjuku/
TM & © TOHO CO., LTD.