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ドイツ戦車の原点!? ドイツ軍初の量産実用戦車「I号戦車」のヒストリー【いまさら聞けないすごいヤツ】

2025.02.15

いまさら聞けないすごいヤツ!!/ドイツI号戦車●宮永忠将、大森記詩 

いまさら聞けないすごいヤツ!!

 ドイツI号戦車 

イラスト/大森記詩

 「名前は知っているけど、どんなものなんだろう?」「いまさら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
 今回は、第一次世界大戦の敗戦後にドイツ軍が初めて量産した実用戦車「I号戦車」をピックアップ。タミヤのミリタリーミニチュアの最新作としても登場し、今また注目を浴びている車両です。この小さな戦車にはどのようなヒストリーがあるのでしょうか? 早速見ていきましょう。


I号戦車

車体長/4.02m 
全幅/2.06m 
全高/1.72m 
重量/5.4t 
速度/37km/h 

行動距離/145km 
主砲/7.92 mm MG13k 機関銃×2(通常弾1525発+SmK弾625発+即応弾100発) 
車体装甲/13mm 
乗員/2名


第4戦車師団所属車 1939年 ポーランド

ドイツI号戦車左側面イラスト
▲ジャーマングレーの車体にとても目立つ黄色のマーキングが特徴
ドイツI号戦車後面イラスト
ドイツI号戦車前面イラスト

I号戦車B型

解説/宮永忠将

所属部隊不明 1941年 ロシア

ドイツI号戦車右側面イラスト
▲対仏戦から東部戦線、北アフリカ戦線と、大戦前半にドイツ軍が侵攻した場所ではだいたい姿を見せている

 兵器開発禁止をすり抜けて 

 今から百年以上前、第一次世界大戦に負けたドイツは、非常に厳しい軍備制限が課せられた。おまけに戦車や戦闘機、潜水艦などの開発も禁じられてしまう。しかしそこは魑魅魍魎のヨーロッパ世界。軍部は連合国の目を欺いて、トラクター開発との名目で戦車の基礎研究に着手。1930年からは「小型トラクター」なる名称で、クルップ社に戦車開発を依頼していたのだ。
 しかしゼロからの戦車開発は難航し、1931年夏に、イギリス、ヴィッカース社のカーデン・ロイド豆戦車を参考に、再び国産に挑むこととなった。以後、クルップ社と陸軍の間で幾たびも討議と試作が繰り返されて、1933年春に量産型の仕様がまとまった。これがI号戦車A型の原形なのだけど、当初は秘匿のために「農業トラクター」という名前で量産準備が進められた。さらに軍備制限下で、戦車の形で完成させるわけにはいかない。そこで、最初の量産型は砲塔を載せない車台だけの操縦訓練用車両として運用された。まだ自治共和国時代のジオンが独立戦争開戦に備えて、モビルワーカーの名称でザクの開発をしていたのと似ている。
 ところが1933年1月に政権の座に着いたナチ党とアドルフ・ヒトラーは、1935年3月にヴェルサイユ条約の軍事制限条項を破棄してドイツ再軍備を宣言した。その時の目玉がI号戦車A型の大量生産であった。結果、この時期のパレード写真などが多くて、ナチの侵略主義の象徴みたいに扱われてしまうのだけど、I号戦車は、実際はナチ政権誕生より前から準備されていたのだ。

 ドイツ戦車の原点となる 

 そんなI号戦車の本命がI号B型。約1500両の総生産数のうち半分以上はA型なのだけど、こちらは訓練用という扱い。それに対してエンジンを強化して全長を少し伸ばしたのがB型だ。とはいえサイズは全長約4.4m、幅が2mなので、トヨタのアクアやホンダのフィットみたいなコンパクトカーをひと回り大きくした程度。重量は6tあるけど、装甲は最大でも13mmほどで、武装も7.92mmの機銃が2挺、乗員も車長と操縦手の2名だけという基本性能。軽戦車にはなるけど、武装はまさに豆戦車。戦車戦を考えると、I号戦車で勝てそうな相手はなかなか思いつかないのが正直なところ。
 ただ、そんなスペックだけで計れないのがI号戦車だ。長らく兵器開発を禁じられていたドイツでは、まずは戦車開発能力と大量生産方法を確立し、戦争になった場合に備えて、戦車兵を育成しなければならない。そのために必要だったのがI号戦車というわけ。また開発当時、不況のどん底にあるドイツとしては、戦車の国産にこだわることで、国内産業の育成や活性化、雇用の確保にもつなげられる。
 練習用戦車とはいっても、スペイン内戦では実戦を経験しているし、第二次大戦が始まった時点では、ドイツ軍が保有する戦車の半分近くがI号戦車であった。また一部の車両は砲塔を撤去して対戦車砲や、重歩兵砲、対空機関砲などを搭載した派生型のベースとなっている。このI号戦車が踏み台となって、ヨーロッパを席巻したドイツ戦車軍団が完成したという点では、まさにドイツ戦車の原点なのである。


ヴィルヘルム・フォン・トーマ


 第一次大戦で頭角を現した士官で、戦後、大幅に縮小された陸軍でも士官として残された。I号戦車が完成した時期には、戦車部隊である第4装甲連隊の中隊長となっている。1936年にはコンドル軍団の一員としてスペイン内戦に派遣され、同年8月には中佐に昇進した。この内戦は新生ドイツ軍の兵器試験場となったが、トーマが指揮する部隊はI号戦車を使い、ドイツ流の戦車戦術を磨いたのだ。このような屈指の戦車部隊指揮経験が買われて、各地で戦車部隊を指揮し、装甲兵大将にまで出世するも、1942年末に北アフリカの戦場で捕虜となった。


ドイツ戦車の系譜、ついに完了

 タミヤミリタリーミニチュア(以下MM)の最新作として発売された「I号戦車」。この車両の登場でドイツ軍の主な戦車であるI~VI号までがMMシリーズで揃うこととなりました。最後発となったI号戦車だけに、車両&フィギュアともに完成度はピカイチ! 小さい車両の中にタミヤのこだわりがみっちり詰まっていますよ。

タミヤ「ドイツⅠ号戦車B-型」車長の半身像
▲車長の半身像はベレー帽とサイドキャップ姿を選択可能。肩章・襟章をはじめ、ベルトバックルや帽子の徽章はデカールで表現される
タミヤ「ドイツⅠ号戦車B-型」ワイヤーロープ
▲巻いた状態のワイヤーロープは部品分割を工夫して成型品で再現。車体にもピッタリと合います
タミヤ「ドイツⅠ号戦車B-型」の排気管カバー
▲パンチングメタル状の排気管カバーはエッチングパーツ。筒状に加工するための専用の治具もセットされていて、組み立ても簡単な仕様となっています
タミヤ「ドイツⅠ号戦車B-型」

1/35 ドイツI号戦車B型

●発売元/タミヤ●3520円、発売中●1/35、約12.3cm●プラキット


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