外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』5話 【期間限定公開】
2024.09.24勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年10月号(8月23日発売)
──日本:種子島:大崎海岸沖:コンステレーション:戦闘情報センター──
ELCO司令官、ハル・キングはモニターに大きく映された超大型母艦の姿を険しい表情で眺めている。
コンステレーションは先程接近してきたクーヌス型の〈デスドライヴズ〉を撃退したばかりだ。そこに超大型母艦が立て続けに飛来してきた。ヴァニタス型が搭載されていた1つ目の塔、クーヌス型が搭載されていた2つ目の塔、そして超大型母艦。ELCOの想定は大きく外れることになった。
ELCOの作戦〈オペレーション・ブレイブローンチ〉は、超大型母艦を破壊するためにスペルビアをロケットで宇宙へ上げるというもの。しかし、その目標が現れたとなれば話は大きく変わってくる。目前に現れた超大型母艦を今ここで撃破しなければならないのだ。
現在は施設防衛に回っていた〈オニオウ〉や〈カタンナーバ〉といったTS部隊と航空戦力を大崎海岸の海岸線へと移動させ、迎撃態勢を整えている。超大型母艦に対し、人類の武器がどこまで通用するのかは不明だ。しかし、ここで全力を尽くさなければ何のために再び戦うことを選んだのかわからなくなってしまう。
「これを好機とみるか、だな。アイザックス艦長」
「はっ。各艦の攻撃準備も完了しております」
「わかった。現状は待機を続けてくれ。敵はまだ戦力を隠している可能性もある」
アイザックス艦長にそう返答すると、キングはモニターの一つで再生されているスペルビア型の〈デスドライヴズ〉の映像に視線を移す。
超大型母艦と共に現れたスペルビア型は今まで交戦してきた〈デスドライヴズ〉と近しい能力を持つ上、スペルビアと対話できるだけの意思を持っているようだ。
スペルビア型が自ら語っていたように戦士として戦うことを重視するならば、こちらからの攻撃は藪蛇になる可能性も高い。ブレイバーンから伝え聞いた〈デスドライヴズ〉たちの持つ価値観は様々。何が逆鱗に触れるかはわからないのだ。
モニター越しに相対する、青と白。キングはその背中を見つめながら、小さく拳を握り締めた。
──日本:種子島:大崎海岸沖──
中空で互いに一定の距離を保ったまま、スペルビアはベラトールと向かい合っていた。
『何がまことの戦士か。その姿……貴様は所詮、我の紛い物に過ぎんだろう』
『紛い物ではなく、より先へと至った存在だ。この星の言葉で言えば、貴様は旧式になる』
『なんだと!』
「おんなじ声……ルル、なんだか疲れる……」
スペルビアの操縦席でルルは自分の思考を表すかのように頭をくるくると回している。
『ルル、彼奴から目を逸らすな!』
「ガピ!」
スペルビアの声にびくっと向き直ったルルはベラトールの姿をじっと見つめる。
見れば見るほど、その姿はスペルビアそのものだ。しかし、ルルは直感的に違うという感覚を覚えていた。
「あのスペルビア、よく見たら全然違う」
『そうだ。あれが我のはずがなかろう』
ルルはスペルビアの言葉にうんうんと頷いてみせる。
その決め手になったのはその声色だ。
ベラトールは感情が豊かであるかのように見えて無機質さを残す。一方で今のスペルビアの声には誰かを思いやるという気持ちが表れているのだ。それをルルは感じ取っていた。
『ふん……あくまで私を認めようとしないか。ならば私は、貴様の望む敵となろう!』
ベラトールがそう言った直後、今まで静止していた母艦から稼働音が響き始めた。
『なんだ……』
「あそこ、開いてく!」
超大型母艦の製造プラントの扉が展開され、内部から〈ゾルダートテラー〉が次々と姿を現しはじめる。
『〈デスドライヴズ〉に、それぞれの望む死を与えたブレイバーン。彼奴はこの星の知的生命体を守るため想像を絶する力を発揮したという記録があった。そのために、こうして艦を運んできたのだ』
製造プラントから矢継ぎ早に現れた〈ゾルダートテラー〉は100機を超えている。〈ゾルダートテラー〉はそのまま超大型母艦付近で静止し、何かの合図を待っているようだった。
『これで、ブレイバーンが死を迎えた先の戦いとそう変わらぬであろう? 貴様がブレイバーンに代わる新たな守護者だというならば、その力を存分に示すがいい』
ベラトールはそう言って、静かに腕を振り下ろす。
それが合図となり、ELCOの艦隊とTS部隊に狙いを定めた〈ゾルダートテラー〉は一斉に動き出した。
『全てを吐き出した貴様は、私に相応しき宿敵となろう……。真なる守護者となった貴様を倒したその時、私の宿願は果たされる!』
──日本:種子島:大崎海岸沖──
今回作戦に参加している〈ギガース〉をはじめとしたTS部隊は超大型母艦の製造プラントから現出した〈ゾルダートテラー〉との交戦を開始した。
〈ゾルダートテラー〉は海岸線に展開し、明確にELCO側の戦力へ攻撃を仕掛けてきている。
「ギガース4、こちらギガース1。大崎海岸南端のポイントで合流できる?」
『こちらギガース4、すぐにポイントへ向かう』
ヒビキは通信で指示を出し終えると、ミサイルランチャーから誘導弾を発射して烈華を走らせる。〈ゾルダートテラー〉がバリアで誘導弾を防いだタイミングに合わせ、機関砲弾を撃ち込んだ。
「よし!」
2機の〈ゾルダートテラー〉の爆散を確認したヒビキはそのまま機体を走らせて一度距離を取った。
バリア外から攻撃すれば〈ゾルダートテラー〉をTSで倒すことができる。これは前回の〈デスドライヴズ〉襲来時の経験と適した装備があるからこその成果だった。
『ギガース1、こちらギガース2、換装完了だ!』
「了解。ギガース3の援護に入って!」
『了解!』
〈イクシード・ライノス〉から〈ゾルダートテラー〉に効果的な120mm電磁加速砲を装備した〈ブラスト・ライノス〉に換装を行ったヒロ機はすぐさまアキラ機の援護へ向かう。
ヒロはかつてスミスがブレイバーンと共闘した時のように、移動しながらの正確な射撃で〈ゾルダートテラー〉の数を減らしていった。
海岸付近の敵数はようやく10機を切ったところだ。しかし超大型母艦から新たに現出した〈ゾルダートテラー〉がこちらへ向かっていると〈トールハンマー〉から報告を受けている。〈オニオウ〉や〈カタンナーバ〉もそれぞれの持場で戦っている今、援軍は望めない状況だった。
「……っ……」
〈ギガース〉各機の誘導弾、機関砲の残弾は僅かだった。
先日の東京湾の襲撃に比べて、今のところ〈ギガース〉を含む作戦に参加中のTS部隊は大きな被害なく立ち回れている。しかし、無尽蔵に現れる〈ゾルダートテラー〉と違い、こちらは人間も武器も消耗していくのだ。持久戦になれば勝機はなくなる。
それまでに超大型母艦にある製造プラントの破壊――そしてベラトールの撃破が必要なのだ。
──日本:種子島:大崎海岸沖:コンステレーション:飛行甲板──
スペルビアがベラトールと、他の部隊が〈ゾルダートテラー〉と交戦する中、コンステレーションの飛行甲板では〈ブレイブカノン〉の発射準備が進められていた。
サタケは再び240mm電磁加速砲〈ブレイブカノン〉を装備した烈華の操縦席で待機している。一か八かの賭けに勝ったサタケがクーヌス型〈デスドライヴズ〉の撃破に安堵したのもつかの間のこと。エネルギーが充填され次第、〈ブレイブカノン〉を超大型母艦の製造プラントに連続で発射することになっている。無尽蔵に現出する〈ゾルダートテラー〉を止めるため、できる限り最大限の火力をぶつけようという作戦だ。
サタケは一度深く呼吸をすると、手を握る動作を繰り返してその感覚を確かめる。
クーヌス撃破のために使用した時は一発だったが、〈ブレイブカノン〉の銃座やそれを装備していた烈華にはわずかにダメージが表れている。連射するとなると相応のリスクもあるが、それを恐れている状況ではなくなっていた。
ここで撃たなければ、人類側はただただ蹂躙されるのを待つことになってしまうからだ。
発射までの間、〈コンステレーション〉の防衛はELCO艦隊の各艦と〈コンステレーション〉〈いずも〉に搭載された航空戦力が主体となる。サタケは仲間を信じ、自分の仕事を全うするだけだ。
「任せたぞ、ルル。スペルビア」
烈華のメインモニターに充填完了が表示される。サタケは〈ブレイブカノン〉の照準を超大型母艦の製造プラントに合わせた。
©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会