外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』5話 【期間限定公開】
2024.09.24勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年10月号(8月23日発売)
外宇宙より突如地球に襲来した機械生命体〈デスドライヴズ〉。
人類の技術力を大きく超えた力を前に、人々を助けるべく現れたのは〈デスドライヴズ〉に近い姿を持つ謎のロボット『ブレイバーン』だった。
ブレイバーンは地球人『イサミ・アオ』を搭乗させると凄まじい力を発揮。人類と手を取り合い、激しい戦いを乗り越えていく。
そしてブレイバーンは最後に現れた〈デスドライヴズ〉憤怒のイーラを自分の命と引き換えに倒すのだった。
こうして地球の平和は守られた――
ブレイバーンとイサミ・アオの犠牲によって。
好敵手を失い、残された〈デスドライヴズ〉『高慢のスペルビア』と大切な人たちから未来を託された少女『ルル』。
二つの勇気が辿り着く先は、果たして――
原作/Cygames
ストーリー/横山いつき
ストーリー監修/小柳啓伍
協力/CygamesPictures、グッドスマイルカンパニー
スペルビア、M2 ブラスト・ライノス製作/コジマ大隊長
episode 5
──日本:種子島:大崎海岸沖──
コンステレーションの飛行甲板から放たれた240mm電磁加速砲〈ブレイブカノン〉の光の奔流は、南1kmの地点まで迫っていたクーヌスに直撃した。
『オオォォォォォ――』
ブレイバーンのコアを狙い向かってきたクーヌスは一瞬にして白い閃光に包まれ、雄叫びだけが空を震わせる。それが収まった時、そこにはまだクーヌスの姿があった。
しかしその姿は左肩から左脚部にかけて、半身が抉り取られたように消失している。クーヌスはそのまま少しずつ高度を落としていき、力を失ったかのように大崎海岸付近へ無造作に落下していった。
「倒……した?」
ヒビキ・リオウは〈烈華〉の操縦席からクーヌスを見つめながら、そう呟いた。
ヒビキたち〈ギガース〉の面々はクーヌスを追って海岸線を北上し、大崎射点から北東2kmの海岸まで移動している。そのためクーヌスが撃ち抜かれる様子を一番近くで目視することとなったのだ。
まるで朽ち果てた騎士鎧のようなその姿に、オアフ島の戦いで見たブレイバーンの最期が思い起こされる。
しかし、今まで撃破された〈デスドライヴズ〉はほとんどが紫色の結晶となりその身体を残してはいなかった。今のクーヌスが本当に活動停止したのか、人類側に判断できる者はいないのだ。
「コンステレーション、こちらギガース1。クーヌスは大崎海岸に落下、結晶化は起こらず。ですが活動は停止している模様です」
『ギガース1、こちらコンステレーション、ギガース各機は待機。念の為マスラオ1を確認に向かわせる』
「ギガース1、了解」
交信を終えたあと、ヒビキは一度深呼吸した。そのままモニターに向き直り、クーヌスを視界に収める。
スペルビアは既に1つ目の塔から現出したヴァニタスを撃破している。2つ目の塔を爆破して現れたクーヌスがこうして沈黙した以上、一旦の危機は去ったということだ。
しかしヒビキはクーヌスから〈烈華〉の照準を外さないでいた。スペルビアとルルがこちらにやってくる前に再び動き出さないとも限らないからだ。気を抜くのは、まだ早計に思えた。
―― 日本:種子島:竹崎海岸北端部より北1kmの地点――
ルルとスペルビアはサタケの指示でクーヌスが墜落した地点へ向かっていた。
『まさか人間の手であれを倒すとはな。なかなか侮れんものよ』
「サタケ、すごい」
『うむ……見えてきたな』
少し先の海辺に半身を失ったクーヌスの姿が視認できた。海岸線にはヒビキとヒロの機体が待機しているのも確認できる。
『しかしクーヌスもどきめ……よもや倒されたままその身体を残すとは』
「ほんとだ、クーヌス消えてない……」
スペルビアが疑念を覚えたのは、クーヌスの身体がまだその形を残していることだ。最後の一撃を放った後、ヴァニタスは爆発の中でその身体を結晶化し、そのまま消滅した。
これまで倒してきた〈デスドライヴズ〉や〈ゾルダートテラー〉も同様に、結晶化してから消滅するというプロセスがあったのだ。ならば倒されたクーヌスも同様に消滅しなければおかしいということになる。
しかし、命が尽きたにも関わらず、消滅していないものが一つだけあった。
ブレイバーンだ。
イーラに致命傷を負わされ、最後まで戦ったブレイバーンはその身体を残したままその命を終えた。純粋な〈デスドライヴズ〉ではなかったブレイバーンと同様の現象が、クーヌスもどきに起こった可能性がある。
スペルビアがそんなことを考えている一方で、ルルは寂しそうな瞳でクーヌスの亡骸を見つめていた。
ブレイバーンが物言わぬ屍となった時、一番近くにいたのはルルだ。今のクーヌスの姿は別れの時を想起させるのだろう。
「ガピ?」
そんな時だ。ルルの視界に太陽光でない光が入り込んだのは。
「スペルビア! なんかおかしい!」
『うむ、上か!』
スペルビアはその場で静止して上を見上げる。
そこにあったのは、ゆうに塔の10倍はあると思われる巨大な黒鉄の艦――すなわち、〈デスドライヴズ〉の超大型母艦だった。
『艦が、現れただと!?』
想定外の事態に、さすがのスペルビアも声を荒げる。
これは〈デスドライヴズ〉の1体として、宿願のため数々の銀河系にある知的生命体を滅ぼしてきたスペルビアにとっても初めて体験することだった。
『何が起きたというのだ!?』
本来であれば、大気圏にあれだけの物量を持つ物体が突入すれば、それだけで地球の環境に大きな影響を及ぼす。周辺に被害がでてもおかしくはなかった。しかし、そういった物理法則を無視して超大型母艦は突如として大気圏内に出現したのだ。
「スペルビア! 母艦壊すの、ルルたちの役目!」
ルルの言葉にスペルビアは冷静さを取り戻す。
『そうであった。事情はわからぬが、我ら〈デスドライヴズ〉の紛い物が現れたことといい、艦に何らかの不具合が生じたのかもしれん』
原因は定かではないが、スペルビアの役目は宇宙に上がり超大型母艦を破壊すること。ならば、スペルビアたちがやることは一つだ。
「ガピ! ルルたちで母艦、やっつける!」
『うむ。あれはここで必ず破壊せねばなるまい』
しかし、スペルビアは疑問を覚えていた。クーヌス型の〈デスドライヴズ〉を倒した今、超大型母艦はどやってここまで瞬時に移動してきたのか、と。
「スペルビア! 母艦の先っぽ! 何かいる!」
『ぬっ!』
スペルビアはゆっくりと高度を下げて降下してくる超大型母艦を注視した。
そこには、人型のなにかが腕を組み、こちらを見下ろすように立っている。それは恐らく、スペルビアと同程度の大きさを持つ――恐らく塔から現れたヴァニタスやクーヌスと同じ紛い物の〈デスドライヴズ〉。
接近してくるその仔細を、ルルは眼を細めて確かめようとする。色味は違うものの、どこか見覚えのあるシルエットをしていた。
「……ん?」
少し考えて、ルルはようやくその正体に思い当たる。
「あれって……スペルビア?」
超大型母艦で仁王立ちしている〈デスドライヴズ〉はスペルビアに酷似していたのだ。
しかし、その装甲色はスペルビアのような青ではなく白でどこか〈ゾルダートテラー〉を彷彿とさせる色をしていた。そして大きく異なるのは顔部に仮面のようなバイザーを装備していることだ。
『我だと?』
スペルビアは疑念を抱いたまま、じっとその〈デスドライヴズ〉を見つめる。
『フッ……ハハ……ハーッハッハッハッハ!!』
そこに突然、大きな笑い声がまるでサイレンのように周囲に響き渡った。
その主は超大型母艦の上にいる〈デスドライヴズ〉だ。
『ようやく相見えることができるな、スペルビアよ!』
超大型母艦の上から〈デスドライヴズ〉の声が発せられると、突如母艦は高度1300フィート(約400メートル)で静止した。まるで白い〈デスドライヴズ〉の意思に沿うように。
『貴様、何者であるか!』
スペルビアは飛燕雷牙を構えると己が名を叫ぶ〈デスドライヴズ〉へと叫び返した。
『そう急ぐ必要はない』
スペルビア型の〈デスドライヴズ〉はそう言って母艦の甲板から跳躍する。次の瞬間、その姿はスペルビアの視界から消えていた。
「どこ!?」
『まずは互いに名乗るのが、礼儀であったな』
その声が聞こえてきたのは、スペルビアの背後からだ。
『貴様……その力……』
スペルビアが振り返ろうとした瞬間、その視界は霧に包まれる。
「これ、ペシミズムのやつ!?」
『私は完全にして、完成された唯一の〈デスドライヴズ〉』
閉ざされた視界の中、スペルビアの周囲で声が反響する。
『……ッ!』
スペルビアは紫電を纏った飛燕雷牙を一振りし、霧を振り払う。
『小癪な! 爪波導!』
スペルビアは声が聞こえて来た上空へ無造作に攻撃を放つ。しかし〈デスドライヴズ〉は自身を頭、胴体、四肢と分割することで射線を外してみせた。
形は少し違うが、それは怠惰のセグニティスが持っていた能力に似ている。
「気をつけて! あの白いスペルビア、何してくるかわからない!」
『うむ。こやつはまさか……』
スペルビアの言葉に応えるかのように〈デスドライヴズ〉は飛燕雷牙に瓜二つの形状をした白い槍を中空から突如出現させ、その切っ先を向ける。
『我が名はベラトール。宿願の為に生まれた、まことの戦士』
白いスペルビア――ベラトールは静かにそう告げた。
『唯一残された〈デスドライヴズ〉、高慢のスペルビア。貴様との戦いをもって、私は完成に至る』
『ふざけたことを!』
飛燕雷牙を構える2体の姿は、まるで鏡写しのように一致している。
『その全力をもって、私の望みを果たせ!』
最後の〈デスドライヴズ〉ベラトールは、そう高らかに言い放った。
©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会