HOME記事特撮サントラCD「ゴジラ大全集」復刻記念! 復刻版の新要素と今後の展望を語る【音楽プロデューサー・鈴木則孝×ライター・高鳥真対談 後編】

サントラCD「ゴジラ大全集」復刻記念! 復刻版の新要素と今後の展望を語る【音楽プロデューサー・鈴木則孝×ライター・高鳥真対談 後編】

2024.08.10

●平成・VSゴジラシリーズの音楽録音の現場

▲ 付属の折り畳み封入冊子は、片面がミニポスター仕様となっている

――平成ゴジラシリーズの音楽録音は昔ながらの手法で、撮影所内にスクリーンを上映して生オケで録音されていたそうですが、高鳥さんはその様子もご覧になっていたそうですね。

高鳥 『ゴジラVSモスラ』の録音2日目は見学していて、当時はマスコミ向けにお披露目があって、その際の伊福部先生が自ら指揮したメーサーマーチのレコーディングは現場で見ました。翌年の『ゴジラVSメカゴジラ』は、音楽録音の模様を収録した「サウンドコレクション ゴジラ VS メカゴジラ レコーディングライブ」というLDを発売する企画があって、5台くらいカメラが入っていたんですよ。そうしたら井上さんから「ラドンのトランペットとか叙情曲のフルートとか、だいたい先生が書かれる曲の聴きどころになる楽器は分かるでしょ?」と(笑)。それでこの時はカメラマンの横について「Mいくつはどのシーン」と書かれた指示書を見ながら、「あの画を狙ってください」とか「たぶんあの楽器狙っておけば間違いですよ」って。

鈴木 それ、映像ディレクターの仕事ですよ(笑)。

高鳥 そんな感じで2日間張り付いて。後はやっぱりM2を予備知識なしで聴いた驚きが忘れられないですね。

――メインタイトルで流れるメカゴジラのテーマですね。

高鳥 カメラは録音ブースの上に配置していて、ちょこちょこ下に降りることができたけど、M2の録音後に下に降りたら、見学していた特撮界隈のお歴々の皆さん「かっけー!」と口々に話をされていました。中には「『柳生武芸帳』(1957年)だ」と言っていた人もいて(笑)。

――リズムと曲の構成が似てますよね。

高鳥 自分も『柳生武芸帳』の音楽はレコードで聴いていたけど、そんなことに気が付かないくらいの興奮でしたよ。Gフォースマーチも同じように予備知識が全くないところで聴きましたね。

――『ゴジラvsデストロイア』は?

高鳥 ちょうどこの頃、撮影所にPro Toolsが導入されたこともあり、音楽の付け方が自由に行えるようになったけど、反面、伊福部先生が本来意図した音楽の付け方とは異なる箇所が散見されるのが、非常に残念に思いました。たとえば、M15はCDタイトルが「特殊部隊出動」となっているように、録音時には前半のデストロイアの幼体戦で特殊部隊が突入する場面に合わせて録音されていたんです。それが実際には映画の後半でスーパーXⅢのテーマとして使われています。録音時にはスーパーXⅢのテーマとは呼んでなかったんですけどね。M23B(「ゴジラ対スーパーXⅢ」)も録音では、カタパルトからスーパーXⅢが出撃するカットから演奏していたのに、実際には伊方原発の上空を飛行する、なんてことない引き画から音楽が入っているんですよ。これについては、映画はロール毎の作業になるんですけど、音楽録音の後でロールを切っていて、巻替わりで音楽を跨げなくて音楽が入る位置をやむなくズラしているんです。そこはもう恨み節しかない(笑)。

――実際に録音を見学されて、伊福部先生の仕事ぶりはいかがでしたか?

高鳥 本番前のテストは、オーケストラを前にして伊福部先生が指揮をするんですけど、本番では指揮はお弟子さんの今井聡さんに任せて、ご本人は何をするかと言えば、ミキシング室にこもって、全体の音のバランスを細かく指示されていました。それを通じてミックスした音がサウンドトラックになるわけです。それこそ、日本映画黄金時代からそうやって、卓の上で「この音はもっとあげたい」とか指示されていたんでしょうね。そういう意味でも、「SF交響ファンタジー」で、生の音を聴くのとは絶対に違うんですよ。

鈴木 音楽作品と映画音楽の違いですよね。

高鳥 ええ。そこはダビングを見学させてもらって1番に感じたことですね。楽器編成が小さい曲の場合はミックスを任せて指揮者の今井さんの隣にいることもありましたが、大編成の曲の場合は、ほぼミキサールームに入って音の調整をしていましたね。

鈴木 特にこのゴジラ映画の場合は「ここで管をもっとあげたい」とか余計にあると思いますよ。

高鳥 映画音楽に関しては、まさにそこが重要なんだなと学びました。

●「ゴジラ大全集」のこれから

――第一期、第二期と無事にリリースされましたが、改めて今回の企画を振り返ってみて、いかが思われますか?

鈴木 高鳥さんとは30年間、出会う機会がなかったとはいえ、奇しくも近しい考えをお持ちだったんですよね。

高鳥 「ゴジラ大全集」は安く出すことが最大のコンセプトで、復刻の売り方に関しては完全に同意でした。コストをかければパーフェクトに突き詰めることはできるかもしれないけど、できるだけ安価にして、その分、多くの人たちに聴いてもらうことが、当時のユーメックスの考えであり、その精神が今も生きていたことに僕は大感動したんですよ。だからこそ、今回、最後の2作品も解説を書かせていただきたいと思いました。

鈴木 こうして30年越しで共鳴していただき、とても心強かったです。それこそ、安易な商品を作っていたら協力してもらえなかったでしょうね。

高鳥 鈴木さんとコンタクトが取れたのは、こんな偶然あり得るんだろうかと思いますよ。

鈴木 いやいや、偶然じゃないですよ。これはもうX星人のお導きですよ。

高鳥 計算通りだ(笑)。

鈴木 今回、おかげさまで平成ゴジラシリーズがかなり好調で、僕らは昭和世代だけど、平成世代が購買層として育っていることを実感しました。

高鳥 30年前は、昭和ゴジラをファースト体験した世代が買っていたように、平成ゴジラシリーズを観ていた世代が大人になって買ってくださっているんでしょうね。ある意味では、当然の動向だと思います。

鈴木 今のご時世なら、最初から全部買ってもらうべく、コアなターゲットに向けて高額商品を狙うところもあります。

高鳥 それは東宝ミュージックの「ゴジラ・サウンドトラックパーフェクトコレクションBOX」が、既にあるわけですからね。

鈴木 もちろん、そのやり方も正しいし、全て買ってくださる方も大歓迎なんですけど、仕事として利益を確保しつつ、コストを抑えながらもいい商品が作れることは示したかったですね。アイデア次第で満足度を高められる。そこはもう全力を尽くしました。

高鳥 宝田明じゃないけど、「武器はなくてもアイデアで勝負しろだ」ですよ(笑)。

鈴木 それから、僕のプロデュースで、現在、YouTubeで配信されたショートムービー『ゴジラVSメガロ』&『ゴジラVSガイガンレクス』の2作品を合わせたサントラCDが進行中です。これは、伊福部昭をはじめとした過去タイトルの流用や、2作品のための新規編曲楽曲も収めたコンピレーションアルバムとなります。

高鳥 CDのブックレット用に監督ご本人に話を聞かれたそうですね。

鈴木 ええ。上西琢也監督は30代ですからね。これもコンセプトとしては「ゴジラ大全集」の流れを汲んでいて、ジャケットも昭和は紙ポスター、平成はスチール版をイメージしていましたが、上西監督の2作品のサントラについては配信画面をコンセプトに考えています。こちらも楽しみにしてもらえればと思います。

――最後の質問ですが、この機会にファンに向けてはどのように聴いてもらいたいと思いますか?

鈴木 これまでゴジラ映画を観返して来なかったり、昔の記憶で覚えているだけの人もいるわけですよね。音楽はやっぱりタイムマシン効果がありますし、昭和、平成問わず「自分が観ていたゴジラ映画はどれだったかな?」と1枚でも手に取ってくれたらと思っています。

高鳥 僕としてはどの作品でも構わないから、音楽を聴いたら、もう一回その作品を見返して欲しいですね。

鈴木 一度、音楽を聴いてから映画を観ると、今度は耳が行きますからね。

高鳥  そうなんです。それでまた印象が変わるのが面白いんです。

鈴木 めちゃくちゃ味わい深い。

高鳥 解説書なんか信用しないで(笑)、自分の目で しっかりと観てください。30年前に書いた解説なので、これはもう完全に羞恥プレイですよ(笑)。

鈴木 いやいや、簡潔に書かれていて、これがとても読みやすいんですよ。

高鳥 解説文だとうまく自分の感情を込めた文章を書けない(苦笑)。余計な表現を入れられないんですよ。

鈴木 気を付けないと、ついつい「俺だけが知ってるぜ」みたいになりがちで、制作する側からしても、邪心を抜くことはとても大事だと思いますよ。

高鳥 それから昭和、平成と来たので、ミレニアム以降のシリーズが続くのかどうかも気になるところです。

鈴木 そこまでは何とかできたらいいなと。ミレニアムは作品毎にリリース元が違うけど、全て東宝ミュージックさんの原盤ですし、何より中古市場が高騰しているでしょう。もちろん、そういう市場があることは理解しているけど、正直あまり健全だとは思ってなくて、できれば正規盤できちんと手に取りやすい形でファーストコンタクトできる環境を整えたいと思っています。せっかくここまで来たわけですから、是非今後の展開についてもご期待ください。

鈴木則孝
すずき
のりたか
1966年11月12日生まれ。(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント入社を皮切りにメジャーレーベル大手3社にて、洋・邦楽・カタログセクションでの制作、A&Rとして、多くのアーティスト、作品をプロデュース。また(株)イープラスではアーティストマネジメント及びコンサート制作プロデュースを行う。クラシック音楽を身近にというテーマを底辺に持ち「のだめカンタービレ」「坂道のアポロン」「ましろのおと」などアニメ・映像作品への音楽プロデュースも多く手掛けた。現在は音楽プロデューサーとして、知見を生かした映像、アニメ・特撮作品の音楽企画も精力的に行っている。

高鳥 真
たかとり・まこと
1965年9月23日生まれ。フリーライター。30年前のオリジナル盤「ゴジラ大全集」や、『ゴジラVSモスラ』『VSメカゴジラ』『VSデストロイア』公開時のサントラ盤を井上誠氏などとともに手掛ける。ほかにもユーメックス「東宝怪獣行進曲」やビクター「ゴジラ・ボーカルコレクション」、コロムビア「ワンダバ!」などの構成や解説を担当。 静岡市に本部を置く煎茶道の流派、黄檗弘風流(おうばく こうふうりゅう)三世家元として活躍中。


「ゴジラ大全集」復刻発売中!
配信画面風のジャケットが目を惹く『ゴジラVSメガロ』&『ゴジラVSガイガンレクス』サントラも発売予定!

ゴジラ大全集

●発売元/ユニバーサル ミュージック●各2149円(税込)、発売中●全22タイトル

公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/classics/release2024/cat/godzilla70/

『ゴジラVSメガロ』&『ゴジラVSガイガンレクス』 [オリジナル・サウンドトラック]

●発売元/ユニバーサル ミュージック●2750円、8月28日予定

公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/ifukube-akira/products/uccs-1386/

※8 月 11 日(日)東京芸術劇場にて開催される「『ゴジラ』シネマコンサート&伊福部昭の世界~」にて、「ゴジラ大全集」全22タイトルの会場販売が決定!

TM © TOHO CO., LTD.

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