HOME記事特撮サントラCD「ゴジラ大全集」復刻記念! 復刻への道程、楽曲収録当時のエピソードとは【音楽プロデューサー・鈴木則孝×ライター・高鳥真対談 前編】

サントラCD「ゴジラ大全集」復刻記念! 復刻への道程、楽曲収録当時のエピソードとは【音楽プロデューサー・鈴木則孝×ライター・高鳥真対談 前編】

2024.08.10

●「ゴジラ大全集」―1993―

▲ 封入冊子には高鳥氏による曲目や作品の解説を掲載。今回ラインナップ入りした『ゴジラvsスペースゴジラ』と『ゴジラvsデストロイア』の解説は新たに書き下ろされている

――オリジナルの「ゴジラ大全集」は、高鳥さんがほぼおひとりで構成&解説を手掛けられたそうですが、その辺りのお話も是非詳しくうかがえればと思います。

高鳥 井上さんと僕のチームは、元々ユーメックスで『ゴジラVSメカゴジラ』のサントラをやることが決まっていたんですけど、「ゴジラ大全集」の制作に入る頃は、同時期にキングレコードでCD10組の「怪獣王 日本SF・幻想映画音楽体系」という、とてつもなく大きなプロジェクトが動いていて、いわゆる怪獣音楽ライターの偉い方々は、みんなそっちに行っていたんです。そこで井上さんから「どうする?高鳥くん、全部やる?」と言われて、当時の全20枚のほとんど全てをやることに……(笑)。

鈴木 でも、それは高鳥さんにしてみれば、ラッキーだったのではないでしょうか?

高鳥 そういう意味ではね。大御所チームの手が空いていたら、こんなペーペーにまわってこなかったですよ(笑)。

鈴木 千載一遇の大チャンスだったわけですね。

高鳥 さすがにこの頃になると、ゴジラシリーズは全て観ていたし、テキスト量自体もたいしたことがないけど、頭に入っている作品もあれば、そうじゃない作品もあるわけですよ。今はまた違うけど、当時の感覚で言うと、『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』(1972年)とか『ゴジラ対メガロ』(1973年)なんて余程の機会がないと見直さないわけですよ(笑)。

――90年代当時、伊福部昭が担当したゴジラ映画については、ユーメックスの「完全収録 伊福部昭特撮映画音楽」で全曲CD化済みでしたが、それ以外の、たとえば眞鍋理一郎が手掛けた『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)や『ゴジラ対メガロ』、佐藤勝が手掛けた『ゴジラの逆襲』(1955年)などの作品は、これが初の単独盤サントラだったんですよね。

高鳥 眞鍋先生は東宝レコードの「日本の映画音楽」で作品集が出ていたのが唯一だったんじゃないかな。でも、当時は真鍋先生の初の単独CDを担当する、なんていう意識もないので、まぁ、今思うと失礼だよね(笑)。とにかく全20作品、締め切りまでに終わらせることを第一に考えました。

――当時、苦労されたことはありましたか?

高島 構成については、昔の映画音楽は、基本は使用順にMナンバーが振ってあるから、そのまま並べればいいんだけど、とはいえ、たとえば『モスラ対ゴジラ』(1964年)の「聖なる泉」や「マハラ・モスラ」といったプレスコ(※映像に合わせるために先に録音した曲)もありますよね。それらを途中で入れるか終わりに入れるかとか、一応構成も考えないといけないでしょう。それでマスタリングの際にスタジオで、簡単な指定を出したりもしました。それから、大半の曲はレコード時代に、あちこちで音盤化されていたので、「東宝レコードの『ゴジラ3』にあれが入っている」とか「キングの『SF特撮 映画音楽全集 第6集』にあれが入っている」とか指定して、マスターから取り出してもらいました。そういう指示書を書いた記憶もありますね。ただ、『ゴジラVSキングギドラ』(1991年)、『ゴジラVSモスラ』(1992年)、それから当時の最新作『ゴジラVSメカゴジラ』(1993年)の単独盤は、構成もゼロから組まなくちゃいけないから、その作業のウエイトはちょっと重かったですね。

――『ゴジラVSキングギドラ』は、公開当時にバンダイビジュアルからサントラが出ていましたが、「ゴジラ大全集」で初の完全版がリリースされました。

高鳥 公開当時のサントラはドラマ編との2枚組で、あの頃は、新作の特撮映画の単独サントラのノウハウもまだ成熟していなかったと思うし、このときは伊福部先生が17年ぶりに映画音楽に復帰したことで十分な話題性があったんですよ。でも、個人的にはゴジラザウルスのテーマがフェイドアウトで終わるのをもどかしいと思っていたし、バンダイビジュアル盤はMナンバー(※映画の中で音楽の使用箇所を表す番号。MUSIC NUMBERの略)も記載されてなかったでしょう。この機会に未収録曲がないかチェックして、これが全曲だと証明することに意味があったと思います。

――それこそ、札幌の時計台の鐘の音も音楽扱いで用意されていて驚きました。

高鳥 それはもうマストですよ(笑)。チューブラベルで演奏しているわけですから。

鈴木 SEじゃないんですね。

高鳥 ちゃんとMナンバーが付いている楽曲を全て入れるのが大事なんです。それから『ゴジラvsモスラ』の公開当時の単独サントラは、フェイドアウトだけでなく、曲の途中でボリュームが変わったりして、要は完全に劇中で使われたサウンドトラックを、そのままを収録していたんですよ。当時は音楽資料として需要があると思っていたけど、いざ、発売してみると、ユーザーが求めていたのは普通の音楽集だと分かりました(笑)。

鈴木 冷静に考えると、資料として出るのと音楽集は別ものですよね。

高鳥 そういうことです(笑)。でも、それを翌年の「ゴジラ大全集」で、わざわざ作り直させてくれたんですよ。

鈴木 そういう場合、基本的には廃盤、再発売になります。

高鳥 今思うと、大英断ですよね。

――全20枚のラインナップには、全編、過去の東宝特撮映画の流用曲で賄われた『ゴジラ対ガイガン』も含まれていたのも拘りを感じました。

高鳥 これはまさに伊福部名曲集ですよ。

鈴木 コンピアルバムとしても、楽しんで聴いてもらえる一枚だと思います。

高鳥 一部の曲は『暗黒街の顔役』(1959年)や『商魂一代 天下の暴れん坊』(1970年)といった一般映画からも流用されているのですが、全ての流用曲を調べていたファンの方がいたので協力してもらいました。それまで同人誌クラスでは知られていた情報だけど、そういう次元のものを公式に引き上げたかったんです。『ゴジラ対ガイガン』は、それを狙ったところがありましたね。ただ、当時盤では調べてくれた方のお名前が誤植になっていて(苦笑)。そこは今回、直してもらいました。

――『ゴジラ対メガロ』の当時盤では収録ミスもあったとか。

高鳥 今回、ユニバーサルさんに連絡したのは、何としてもこれを修正してもらいたいと思ったからなんです。当時盤では、M12(「シートピア海底王国」)のラストのショック音がカットされてしまっていたのと、M32(「反撃」)を入れるはずがM30(「怪獣タッグマッチ II」)が2回入ってしまっていて(苦笑)。

鈴木 ギリギリ間に合いました。

高鳥 おかげ様で今回のリマスター版では正しい曲が入っています。

鈴木 メガロはゴジフェス2023で配信された『ゴジラVSメガロ』を機会に、今また注目を集めていますから、修正できて良かったと思います。

高鳥 実は当時、ほとんどの方は気付いてなかったんですけど、唯一「おかしいですよ」と連絡してくださった方がいて、井上チーム(当時のサントラ盤構成チーム)では、半ば伝説と化していましたね。

――他にも当時のエピソードがあればお聞かせいただければと思います。

高鳥 よく覚えているのが、『ゴジラVSメカゴジラ』で、メカゴジラがショックアンカーを打ち込む場面に付けられたM14(「メカゴジラ放電攻撃」)という曲があるんですけど、「何回再生しても音が飛ぶんですけど、どうしたらいいんですか?」と問い合わせがあったそうなんです。CDに収録したのは、映画で使われたシンバルロールを詰めた編集済みのテイクで、当時、1日だけダビング作業にお邪魔したのですが、まだPro Tools(※PC上で行える音楽制作ソフトウェア)がない時代だったし、6ミリテープを切って編集テイクを作っていたんです。ただ、映画では効果音に隠れてほとんど分からないし、CDの解説にも「細工済み」と書いたんですけどね。

鈴木 今回の再発の話になりますが、『ゴジラVSビオランテ』(1989年)では、カットアウトの状態で収録された曲についてもお問い合わせがありました。

高鳥 すぎやまこういちさんではなく、伊福部先生の楽曲ですよね。流用元の「OSTINATO」はキングレコードだったし、当時は現役盤だったから、ああいう形で短編収録していたんです。まぁ、過渡期でしたよね。この場を借りて補足しておくと、「OSTINATO」は、現在も東宝ミュージックの「ゴジラ・サウンドトラックパーフェクトコレクショBOX5」の特典ディスクとして聴くことができます。

――今回の復刻では、デジタルリマスターされているそうですが、その辺りにいてもお聞かせください。

鈴木 リマスターに関しては、あまり余計なことはしないスタンスです。これは悩みどころで、最近の再発はリマスタリングでものすごく派手な音を作ったりするけど、そういう性質のものではないし、シンプルな作業でかなりいい音質になるんですよ。

高鳥 逆にリマスターに対して過度の期待をしている人には、「いや、そこまでは無理だよ」と伝えておきたいですね。

鈴木 リマスタリングの醍醐味は、最終的にはアナログマスターを目指すことなんですけど、今回のような企画だと、アナログマスターへのアプローチはなかなか難しいし、仮に辿り着けても、経年劣化や膠着もありますしね。復刻にあたっては、あくまで視聴環境を意識したマスタリングです。何より当時と視聴環境が変わっているじゃないですか。

高鳥 30年前はCD付きのラジカセの時代でしたからね(笑)。

鈴木 昔のように巨大なオーディオスピーカーで聴く時代でもないし、PCやスマホで聴く人も多いでしょう。音圧だけは気を遣って、ほどほどの範囲で上げたけど、それくらいに留めました。幸い当時買われた方からも、違和感なく良く聴こえるのと反響をいただけたので、上手くいったんじゃないかなと思っています。

復刻版で加わった新要素、パッケージのこだわり……インタビュー後編へ続く!

鈴木則孝
すずき
のりたか
1966年11月12日生まれ。(株)ソニー・ミュージックエンタテインメント入社を皮切りにメジャーレーベル大手3社にて、洋・邦楽・カタログセクションでの制作、A&Rとして、多くのアーティスト、作品をプロデュース。また(株)イープラスではアーティストマネジメント及びコンサート制作プロデュースを行う。クラシック音楽を身近にというテーマを底辺に持ち「のだめカンタービレ」「坂道のアポロン」「ましろのおと」などアニメ・映像作品への音楽プロデュースも多く手掛けた。現在は音楽プロデューサーとして、知見を生かした映像、アニメ・特撮作品の音楽企画も精力的に行っている。

高鳥 真
たかとり・まこと
1965年9月23日生まれ。フリーライター。30年前のオリジナル盤「ゴジラ大全集」や、『ゴジラVSモスラ』『VSメカゴジラ』『VSデストロイア』公開時のサントラ盤を井上誠氏などとともに手掛ける。ほかにもユーメックス「東宝怪獣行進曲」やビクター「ゴジラ・ボーカルコレクション」、コロムビア「ワンダバ!」などの構成や解説を担当。 静岡市に本部を置く煎茶道の流派、黄檗弘風流(おうばく こうふうりゅう)三世家元として活躍中。


「ゴジラ大全集」復刻発売中!
配信画面風のジャケットが目を惹く『ゴジラVSメガロ』&『ゴジラVSガイガンレクス』サントラも発売予定!

ゴジラ大全集

●発売元/ユニバーサル ミュージック●各2149円(税込)、発売中●全22タイトル

公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/classics/release2024/cat/godzilla70/

『ゴジラVSメガロ』&『ゴジラVSガイガンレクス』 [オリジナル・サウンドトラック]

●発売元/ユニバーサル ミュージック●2750円、8月28日予定

公式サイト:https://www.universal-music.co.jp/ifukube-akira/products/uccs-1386/

※8 月 11 日(日)東京芸術劇場にて開催される「『ゴジラ』シネマコンサート&伊福部昭の世界~」にて、「ゴジラ大全集」全22タイトルの会場販売が決定!

TM © TOHO CO., LTD.

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