──日本：種子島：竹崎海岸より南2km地点──

「ヴァニタスが飛ばしてくるやつ、壊しても壊しても出てきて戦いづらい！」

『百も承知！ だが、全て倒すほかあるまい！』


　スペルビアは次々と襲い来るヴァニタスの遠隔ユニットを破壊し続けているも、決定的な一撃を与えられずにいた。


『ウゥゥゥゥ――』


　恐らくヴァニタスとともに飛来した遠隔ユニットはいくら破壊してもヴァニタスの声に反応し、すぐに海中から新たなユニットが浮上してくるのだ。


『マスラオ1。こちらギガース4。朗報よ。海中から出てくる遠隔ユニットの浮上パターンから、だいたいの現出位置が特定できた』


　スペルビアが手を焼いていたその時、シェリーから通信が入った。


「ん？ どういうこと？」

『ヴァニタス型が浮遊しているポイントの真下、その海中に破壊された塔の一部が沈んだままなの。あの〈デスドライヴズ〉の遠隔ユニットはその塔の残骸から出てきていると推測できるわ。今のままだと、遠隔ユニットを破壊するまでにどれだけかかるかわからない。でも塔を完全に破壊できれば、かなりの数が減らせるんじゃないかしら』


　シェリーの予測を聞きながら、スペルビアは周囲を囲むように攻撃を仕掛けてきた遠隔ユニットを切り払う。


『そうか。ならば、妙案があると？』


　スペルビアは遠隔ユニットに守られたヴァニタスとの距離を見定めながら、再び肉薄する機会を伺っている。


『海中で待機している遠隔ユニットと塔をまとめて破壊するしかない。それをお願いできるかしら？ 残ったユニットはこちらで対処するわ』

『承知！』

「ガガピー！ ルルもスペルビアと一緒にやる！」


　ルルの声に、スペルビアは戦闘の最中でありながら、どこか安らぎのようなものを感じていた。
　ルルと――同じ志を持つ相棒と喋ることが、こうまで心地よく感じるとは。


『全力で参ろう。今の我らには、背中を預けられる者がいる』

「ルルたち、戦うの一人じゃない！ だから強い！」


　スペルビアは飛燕雷牙を振り上げると、進路を妨害する遠隔ユニットをすれ違いざまに破壊して一目散にヴァニタスへと接近していく。


「「うおおおおおおお!!」」


　遠隔ユニットがヴァニタスを守るために展開されたのを確認すると、スペルビアは小さく笑い、飛燕雷牙をあらぬ方向に投擲した。


『『青藍螺旋迅せいらんらせんじん!!』』


　直後、それは円を描くように回転し、スペルビアの周囲に集中していた遠隔ユニットを一掃していく。
　スペルビアは手元に戻ってきた飛燕雷牙を掴むと、そのまま海中へと向かう。


『ウゥゥゥゥ――』


　ヴァニタスが声を上げた瞬間、スペルビアは視界の隅に海中を移動する遠隔ユニットを確認した。


「見つけた！」

『往くぞ！』


　スペルビアは後方から迫る遠隔ユニットの攻撃を回避しながら、塔の残骸へと加速していく。
　そしてそのまま、すれ違いざまに塔の一部を一閃した。
海中から閃光が走る中、シェリーの〈M2 ブラスト・ライノス〉から放たれた120mm電磁加速砲の光と誘導弾が浮上した遠隔ユニットへ命中し爆散する。そこに残った遠隔ユニットはわずか2機のみ。


『もはや我らを遮る物はなし！』

「ルルたち、ブレイバーン超える！」


　勢いに乗るがままルルがそう言うと、スペルビアは強く頷いてみせる。
　直後、スペルビアの身体を紫電が纏い――


『『無双千迅むそうせんじん!!』』


　一直線に、ヴァニタスへと突っ込んだ。
　それは盾のように展開された遠隔ユニットを破壊しながら一直線に胸部を貫いていく。


『オォォォォ――』


　そしてヴァニタスの断末魔のような声は光の中に消えていった。

──日本：種子島：大崎海岸沖：コンステレーション：技術研究室──

　戦闘情報センターCICから共有される情報を確認しながら、ミユはサタケの乗る〈ブレイブカノン〉を装備した〈烈華〉のシステム監視を続けていた。
「お願いだから、このまま何事もありませんように……」


　そう声に出しながら、目を閉じて手を合わせる。竹崎海岸から海上に出たクーヌスはまるで何かを探るように転移を繰り返しながら、コンステレーションへ接近してきている。確実に攻撃を命中させられるかどうかはわからなかったが、ミユにできることはもはや祈ることだけだ。


「……あれ？」


　目を閉じているのに、眩しさを感じる。
　ミユはすぐに周囲を見回すが、何も変わっていない。


「気の……せい？」


　一瞬、開発室に視線を向ける。そこには相変わらずブレイバーンのコアが佇んでいるだけだ。　向き直ったミユは、自分の前方に影が伸びていることに気づき、違和感を覚えた。
　この場所に強い光源はないため、こんな形で影ができるわけがない。そう考えたミユは、すぐブレイバーンのコアに思い当たり、開発室を見やる。
　ミユが視線を向けた先、ブレイバーンのコアから光が柱のように伸び、天井を突き抜けていた。


「えぇぇええーーーー!? ふふふ、ふねっ！ 船がっ!!」


　素っ頓狂な声を上げながらも、ミユはその光から眼を離せないでいた。


「あ、あれ……なんともなさそう？」


　しかし、光は物理的なものではなく、どうやら天井に穴が空いているわけでもないらしい。
　予想を超えた事態にミユの頭は混乱するばかりだった。

──日本：種子島：大崎海岸沖：コンステレーション：飛行甲板──

　コンステレーションにあるブレイバーンのコアから放たれた光は一瞬で空に立ち上り、上空の雲間を裂いたかろ思うと、そのまま消えていった。
　クーヌスはその光に何かを感じたのか、唐突に静止する。


『ルィスゥ、スミィス !!』


　最も求める者の名を周囲に響かせながら、クーヌスはコンステレーションへの距離を詰める。ギガース小隊による攻撃でわずかながらもダメージを受けてはいるようだが、それを一切気に留めず一心不乱に動き続けていた。


「そのままだ、そのままこい……」


　光に誘われるようにクーヌスが接近してきたことは〈ブレイブカノン〉の命中精度と威力の面を考えれば、ある意味好機ともいえた。
　まるで先程の発光現象が、サタケのためにクーヌスを誘導してくれているかのようだった。


「まだ、俺たちを助けてくれるんだな」


　頭に思い浮かんでくるのは、戦いの中で常に最前線で戦っていた二人の顔だ。
　イサミとスミス、二人に恥じぬようにサタケは照準をクーヌスへと合わせる。


「来い！」


　発射準備が完了し、システムによってロックされたトリガーが解除される。


『アアアアアアア!!』


　もう少しで届く――そんな想いすら感じ取れるようなクーヌスの叫びを耳にしながら、サタケはギリギリのタイミングでトリガーを引いた。
　直後――サタケの視界は一面の白に埋め尽くされた。

　　　episode 5 へつづく

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【勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル】

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episode 5←明日 8月23日発売 「月刊ホビージャパン10月号」にて掲載!!

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