HOME記事キャラクターモデル海洋堂のスタンスを体現した伝説のガレージキット「邪神兵」と小比類巻英二という造形作家に迫る

海洋堂のスタンスを体現した伝説のガレージキット「邪神兵」と小比類巻英二という造形作家に迫る

2024.07.05

「ロボットはフィギュアだ!」
海洋堂のスタンスを体現した伝説のガレージキットと小比類巻英二という造形作家

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 1986年、海洋堂からガレージキット史に残る完成度と圧倒的なボリューム感を持つレジンキャストキットが発売された。OVA『機甲界ガリアン 鉄の紋章』に登場する、巨大な鎌を構える人型の上半身とそれを支える蛇状の下半身で構成された機甲兵=邪神兵を全高50cmを超えるサイズで立体化。各部にメリハリを効かせた、設定画に囚われない造型。躍動感に溢れ、今にも動き出しそうなポージング。当時、その存在感に圧倒されたファンも多く、現在も傑作アイテムとして多くの人々の印象に残るアイテムとなっている。

 そして、伝説のガレージキットが、ARTPLAとしてリサイズしインジェクションキット化が決定した。今回は、当時その伝説のガレージキットがどのように生まれたのかを関係者の発言を交えて追っていきたい。


 邪神兵の原型を担当したのは、このキットでデビューを飾った新進気鋭の造形師・小比類巻英二(こひいるいまきえいじ)。月刊ホビージャパンの1986年12月号にて、この邪神兵を引っさげる形で誌面に登場した小比類巻は、「ロボットはフィギュアだ」というパンチの効いた言葉をタイトルに冠したコラムの連載をスタートし、改めて当時の海洋堂がこだわっていた造形作家の作家性を尊重するスタイルを強調していった。

 当時、ガレージキット業界の主流となっていたロボット系のアイテムに対して、小比類巻は設定画に忠実で関節の位置や可動範囲の縛りを受ける模型表現から離れて、アニメーションの劇中で描かれるような、装甲の固さを超越したひねりや映像演出によって強調されるパース感やデフォルメされた表現を造型にも取り入れて行くべきだと主張していく。そして、小比類巻の送り出した邪神兵は、まさに「ロボットはフィギュアだ」という言葉を体現するにはピッタリのインパクトを持ったアイテムだったのだ。

小比類巻英二のロボットはフィギュアだ!の誌面画像
▲ ホビージャパン1986年12月号から連載がスタートした「小比類巻英二のロボットはフィギュアだ!」の誌面

 邪神兵が発売された1986年当時は、海洋堂にとっても新たな挑戦の時期だった。大阪の模型店からスタートした海洋堂は、80年代前半にガレージキットの製造と販売を開始。当初、模型店とガレージキットメーカーの2足の草鞋状態だったが、84年にはガレージキットメーカーのみで活動する形態をとり、さらに日本橋の茅場町に直営店である「海洋堂ギャラリー」をオープンさせて東京に進出。

一方、85年にはゼネラルプロダクツがガレージキット即売会「ワンダーフェスティバル」の第1回を開催(1992年からはワンダーフェスティバルの運営は海洋堂が引き継ぐ)。活況のガレージキット業界の中で、海洋堂はトップランナーとして大きく注目される存在でもあった。そして、先鋭的な造型集団・海洋堂に彗星の如く現れて「ロボットはフィギュアだ」と、その理念を体現するように声を挙げる凄腕造形作家の小比類巻が耳目を集めるのは当然のことであった。

 しかし、小比類巻は『鉄の紋章』関連アイテムの原型を担当して以後は、業界からその姿を消してしまい、ある種の伝説のようにその名前だけが残ることとなった。

©サンライズ

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TEXT/構成:石井 誠

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