外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』2話 【期間限定公開】
2024.06.24勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年7月号(5月24日発売)
外宇宙より突如地球に襲来した機械生命体〈デスドライヴズ〉。
人類の技術力を大きく超えた力を前に、人々を助けるべく現れたのは〈デスドライヴズ〉に近い姿を持つ謎のロボット『ブレイバーン』だった。
ブレイバーンは地球人『イサミ・アオ』を搭乗させると凄まじい力を発揮。人類と手を取り合い、激しい戦いを乗り越えていく。
そしてブレイバーンは最後に現れた〈デスドライヴズ〉憤怒のイーラを自分の命と引き換えに倒すのだった。
こうして地球の平和は守られた――
ブレイバーンとイサミ・アオの犠牲によって。
好敵手を失い、残された〈デスドライヴズ〉『高慢のスペルビア』と大切な人たちから未来を託された少女『ルル』。
二つの勇気が辿り着く先は、果たして――
原作/Cygames
ストーリー/横山いつき
ストーリー監修/小柳啓伍
協力/CygamesPictures、グッドスマイルカンパニー
スペルビア製作/コジマ大隊長
episode 2
――南極大陸:近海――
東京湾への〈ゾルダートテラー〉襲来より二週間前──休眠状態であったスペルビアが目覚めてから、既に一ヶ月が過ぎた頃。彼らの前にそれは現れた。
『起きろ……起きるのだ』
「ガガピ……?」
『上空より何かが落下してきておる』
「敵?」
『衛星軌道上に存在する我らの母艦より来たならば、同族ではあろう』
「仲間?」
『さて……我にはわからんことだ。〈デスドライヴズ〉はもはや残っておらん。〈ゾルダートテラー〉であれば、話せる相手でもあるまい』
「つまり?」
『機会が来た、ということだ』
「ガピ! ルル、推して参る!?」
「うむ。今あれに気付いているのは我らだけだ。」
地球上の観測システムはまだ完全に復旧していない上に、ルルとスペルビアがいる地点は陸地から遠い、広大な海の上だ。近隣に国はなく、捕捉してから対処するとなるとかなりの時間がかかるだろう。そうなれば、まともに対応できるのはルルとスペルビアだけだ。
ルルとスペルビアが一緒に推して参る──二人はそのために眠りについていたのだ。スペルビアとルルは以前よりも順応しており、搭乗を拒絶されることはなくなっていた。そして目覚めてから、戦闘訓練をひたすらに続けていたのだ。そのために多少暴れても問題ないだろう場所に留まっていたのが幸いした。
「絶対、勝つ!」
『そうだ。我らは負けん……決してな』
当然とばかりに言い放った言葉。それはまるで誓いのように響く。
「よぉーし! ガガピーー!!」
ルルが勢いよく叫ぶと、スペルビアは落下予想地点へと疾走していった。 それから数分もしないうちにスペルビアは南極の陸地付近に現れた7機の〈ゾルダートテラー〉と接敵。スピードを一切緩めずに流れるような動きで一番近い個体へと回転蹴りを放った。
スペルビアの一撃は〈ゾルダートテラー〉の背部に直撃し、勢いのまま後方にいたもう一機に激突すると、揃って機能を停止した。だが、スペルビアも蹴りの勢いを殺しきれずくるくると回り始めてしまう。
「やったー! ガーガピー!!」
『気を抜くな!』
これはルルの操縦の癖のようなものだった。静の動きが少なく、動の動きが多い。ようするにルルが搭乗するスペルビアは戦う間、ずっと動き続けているのだ、
「だいじょーぶ!」
ルルはフィギュアスケートのスピンのように体勢を整えると、そのまま3機目へ向かって飛翔した。
「ルル、つよーい!」
『あと4機だ。まだ半分にも達しておらん!』
「ガピッ、そうだった!」
『お主は……』
呆れ混じりのスペルビアの声はものともせず、ルルは初めての実戦とは思えない動きで〈ゾルダートテラー〉を次々に撃破していく。
『休眠の成果はあったか』
彼女は元々スペルビアの〈ルル〉だったモノ。しかし一人の少女、「ルル」となったことでスペルビアの思うがままにはならず、順応が難しい状態になってしまっていたのだ。だがそれは、スペルビアがルルを完全には受け入れていないというのも原因であった。
スペルビアとルルが互いに歩み寄り「ひとつ」に近づくことで、スペルビアとルルはより強くなっていく─それには、しばしの時間が必要だったのである。
「ん?」
『いい。今は好きにやるがよい!』
「わかった!」
スペルビアは今の自分が以前の自分と違うことを認識している。それが〈ゾルダートテラー〉との戦いにおいて有利になることも、また。
「あと2つ!」
まるで戦場で踊っているかのように忙しなく動くスペルビアに〈ゾルダートテラー〉は為す術もなく撃破されていく。
〈デスドライヴズ〉の母艦が持っているのは、元々のスペルビアのデータのみ。ルルと共に戦うスペルピアに現時点で対応することは難しい。
『これはまだ幕開けにすぎぬ……真の益荒男となるためには、まだ──』
スペルビアはルルに聞こえないよう、そう小さく呟いた。
―― 東京:横田基地:航空総隊作戦指揮所――
南極での戦いから二週間後。現在、東京湾で自衛隊のTSと〈ゾルダートテラー〉が交戦を開始してから、三十分が経過していた。
「待機って言われても……」
作戦指揮所の制御卓の一つに座るホノカ・スズナギはふぅ、とため息をついた。
新たな敵性反応は確認されず、防衛にあたったTS部隊にはそのまま待機命令が出ている。その原因は紛れもなく、突如戦場に現れた機械生命体だ。
『高慢のスペルビア』──ブレイバーンを失った日から、行方をくらましていた〈デスドライヴズ〉。 外宇宙生命体が再び襲来することを予測していた軍部であっても、今の事態はイレギュラーがすぎる状況といえた。ある程度ATFが得た情報は共有されているとはいえ、まさかあの〈デスドライヴズ〉が本来味方である〈ゾルダートテラー〉の襲撃から人類を救うなど、考えもしなかっただろう。
仕方ないと割り切りながらも、ホノカの心はどこか落ち着かなかった。
きっとあの人なら前に進もうとする──以前の戦いの中で、ホノカの中に生まれた想いだ。どれだけ傷つきながらも、最後まで戦い続けたブレイバーンとイサミ・アオ。彼らが命を賭して戦っていなければ、自分が無事に救助されることもなかっただろう。それに今、ここにいれたかどうかもわからない。だからこそ、憧れた彼がそうであったように、自分もできることに全力で向き合いたい──そんな気持ちはいつまでも燻るばかりだった。
「え? リオウ2尉……?」
止まっていたレーダーが突如動き始め、ホノカは思わず声を出してしまっていた。
ヒビキの烈華が、スペルビアへと向かって動いているのだ。
『まぁ、こういうときは進まないとだよね』
「……っ!」
そんな呟きが聞こえてきて、ホノカは驚きを隠せなかった。彼女はこちらに伝えるために、無線のスイッチを押したのだ。
まるで自分の頭を見透かされたようで、ホノカは思わず苦笑をもらす。
「少し見ないあいだに……なんだかちょっと、似てきたみたい」
彼女の思い切りの良い行動に、もういない『彼』の姿が重なった気がした。
©「勇気爆発バーンブレイバーン」製作委員会