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外伝小説『勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル』2話 【期間限定公開】

2024.06.24

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル 月刊ホビージャパン2024年7月号(5月24日発売)

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルルエピソード2

 外宇宙より突如地球に襲来した機械生命体〈デスドライヴズ〉。
 人類の技術力を大きく超えた力を前に、人々を助けるべく現れたのは〈デスドライヴズ〉に近い姿を持つ謎のロボット『ブレイバーン』だった。

 ブレイバーンは地球人『イサミ・アオ』を搭乗させると凄まじい力を発揮。人類と手を取り合い、激しい戦いを乗り越えていく。
 そしてブレイバーンは最後に現れた〈デスドライヴズ〉憤怒のイーラを自分の命と引き換えに倒すのだった。
 こうして地球の平和は守られた――
 ブレイバーンとイサミ・アオの犠牲によって。

 好敵手を失い、残された〈デスドライヴズ〉『高慢のスペルビア』と大切な人たちから未来を託された少女『ルル』。
 二つの勇気が辿り着く先は、果たして――

原作/Cygames
ストーリー/横山いつき
ストーリー監修/小柳啓伍
協力/CygamesPicturesグッドスマイルカンパニー
スペルビア製作/コジマ大隊長


episode 2

――南極大陸:近海――

 東京湾への〈ゾルダートテラー〉襲来より二週間前──休眠状態であったスペルビアが目覚めてから、既に一ヶ月が過ぎた頃。彼らの前にそれは現れた。


『起きろ……起きるのだ』

「ガガピ……?」

『上空より何かが落下してきておる』

「敵?」

『衛星軌道上に存在する我らの母艦より来たならば、同族ではあろう』

「仲間?」

『さて……我にはわからんことだ。〈デスドライヴズ〉はもはや残っておらん。〈ゾルダートテラー〉であれば、話せる相手でもあるまい』

「つまり?」

『機会が来た、ということだ』

「ガピ! ルル、推して参る!?」

「うむ。今あれに気付いているのは我らだけだ。」


 地球上の観測システムはまだ完全に復旧していない上に、ルルとスペルビアがいる地点は陸地から遠い、広大な海の上だ。近隣に国はなく、捕捉してから対処するとなるとかなりの時間がかかるだろう。そうなれば、まともに対応できるのはルルとスペルビアだけだ。
 ルルとスペルビアが一緒に推して参る──二人はそのために眠りについていたのだ。スペルビアとルルは以前よりも順応しており、搭乗を拒絶されることはなくなっていた。そして目覚めてから、戦闘訓練をひたすらに続けていたのだ。そのために多少暴れても問題ないだろう場所に留まっていたのが幸いした。


「絶対、勝つ!」

『そうだ。我らは負けん……決してな』


 当然とばかりに言い放った言葉。それはまるで誓いのように響く。


「よぉーし! ガガピーー!!」


 ルルが勢いよく叫ぶと、スペルビアは落下予想地点へと疾走していった。 それから数分もしないうちにスペルビアは南極の陸地付近に現れた7機の〈ゾルダートテラー〉と接敵。スピードを一切緩めずに流れるような動きで一番近い個体へと回転蹴りを放った。
 スペルビアの一撃は〈ゾルダートテラー〉の背部に直撃し、勢いのまま後方にいたもう一機に激突すると、揃って機能を停止した。だが、スペルビアも蹴りの勢いを殺しきれずくるくると回り始めてしまう。


「やったー! ガーガピー!!」

『気を抜くな!』


 これはルルの操縦の癖のようなものだった。静の動きが少なく、動の動きが多い。ようするにルルが搭乗するスペルビアは戦う間、ずっと動き続けているのだ、


「だいじょーぶ!」


 ルルはフィギュアスケートのスピンのように体勢を整えると、そのまま3機目へ向かって飛翔した。


「ルル、つよーい!」

『あと4機だ。まだ半分にも達しておらん!』

「ガピッ、そうだった!」

『お主は……』


 呆れ混じりのスペルビアの声はものともせず、ルルは初めての実戦とは思えない動きで〈ゾルダートテラー〉を次々に撃破していく。


『休眠の成果はあったか』


 彼女は元々スペルビアの〈ルル〉だったモノ。しかし一人の少女、「ルル」となったことでスペルビアの思うがままにはならず、順応が難しい状態になってしまっていたのだ。だがそれは、スペルビアがルルを完全には受け入れていないというのも原因であった。
 スペルビアとルルが互いに歩み寄り「ひとつ」に近づくことで、スペルビアとルルはより強くなっていく─それには、しばしの時間が必要だったのである。


「ん?」

『いい。今は好きにやるがよい!』

「わかった!」


 スペルビアは今の自分が以前の自分と違うことを認識している。それが〈ゾルダートテラー〉との戦いにおいて有利になることも、また。


「あと2つ!」


 まるで戦場で踊っているかのように忙しなく動くスペルビアに〈ゾルダートテラー〉は為す術もなく撃破されていく。
 〈デスドライヴズ〉の母艦が持っているのは、元々のスペルビアのデータのみ。ルルと共に戦うスペルピアに現時点で対応することは難しい。


『これはまだ幕開けにすぎぬ……真の益荒男となるためには、まだ──』


 スペルビアはルルに聞こえないよう、そう小さく呟いた。

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルルエピソード2-1

―― 東京:横田基地:航空総隊作戦指揮所――

 南極での戦いから二週間後。現在、東京湾で自衛隊のTSと〈ゾルダートテラー〉が交戦を開始してから、三十分が経過していた。


「待機って言われても……」


 作戦指揮所の制御卓の一つに座るホノカ・スズナギはふぅ、とため息をついた。
 新たな敵性反応は確認されず、防衛にあたったTS部隊にはそのまま待機命令が出ている。その原因は紛れもなく、突如戦場に現れた機械生命体だ。
 『高慢のスペルビア』──ブレイバーンを失った日から、行方をくらましていた〈デスドライヴズ〉。 外宇宙生命体が再び襲来することを予測していた軍部であっても、今の事態はイレギュラーがすぎる状況といえた。ある程度ATFが得た情報は共有されているとはいえ、まさかあの〈デスドライヴズ〉が本来味方である〈ゾルダートテラー〉の襲撃から人類を救うなど、考えもしなかっただろう。
 仕方ないと割り切りながらも、ホノカの心はどこか落ち着かなかった。
 きっとあの人なら前に進もうとする──以前の戦いの中で、ホノカの中に生まれた想いだ。どれだけ傷つきながらも、最後まで戦い続けたブレイバーンとイサミ・アオ。彼らが命を賭して戦っていなければ、自分が無事に救助されることもなかっただろう。それに今、ここにいれたかどうかもわからない。だからこそ、憧れた彼がそうであったように、自分もできることに全力で向き合いたい──そんな気持ちはいつまでも燻るばかりだった。


「え? リオウ2尉……?」


 止まっていたレーダーが突如動き始め、ホノカは思わず声を出してしまっていた。
 ヒビキの烈華が、スペルビアへと向かって動いているのだ。


『まぁ、こういうときは進まないとだよね』

「……っ!」


 そんな呟きが聞こえてきて、ホノカは驚きを隠せなかった。彼女はこちらに伝えるために、無線のスイッチを押したのだ。
 まるで自分の頭を見透かされたようで、ホノカは思わず苦笑をもらす。


「少し見ないあいだに……なんだかちょっと、似てきたみたい」


 彼女の思い切りの良い行動に、もういない『彼』の姿が重なった気がした。


──東京湾:埠頭付近──

 ヒビキ・リオウは烈華の中から、静かに佇むスペルビアを見つめていた。
 絶望的だった戦闘は思いもよらぬ結果となった。
 突如乱入したスペルベアによる、一方的な戦い。最終的にはただ見ているだけであったが、スペルビアの行動から少なくとも敵でないことは読み取れる。
 あの『スペルビア』が助けてくれたなら、その理由はきっと──そんな希望が生まれ、ヒビキの中に思いが募っていくが、迷いを断ち切るまでには至ってはいない。スペルビアまでの距離は500mといったところだ。ここからならばいっそのことスピーカーで直接交信を試みてはどうかと考えるも、待機を命じられている中で勝手なことをすれば命令違反になる。だが同時にこんな状況は想定外だろうとも考えていた。


「うーん、どうしたものか」


 機体の状態を確認しつつ、いったりきたりの思考を繰り返すうちに、ヒビキは自分を落ち着かせるように一度深呼吸した。
 すると、先程までが嘘のように思考がクリアになっていく。
勇気を出して進んでみる。
 何度も思い出していたのに、肝心な時には頭の中からさっぱり消えてしまっていた。大事な時に勇気を振り絞らなきゃ、どうするのだと。
 少しの勇気で何かを変えることができるなら、進むことを恐れずにいたい。
 あの戦いで私達が生き残ったのは、そういう奴がいたからなのだから。
 それに、相手は一応知り合いだ。いきなり攻撃してきたら、それは運が悪かったということだとヒビキは割り切った。


「まぁ、こういうときは進まないとだよね」


 迷いは吹っ切れたとばかりに、ヒビキはあっけらかんとそう呟いて──


「おーい! ルルちゃーん!」


 スピーカーを全開にして、思いっきり叫んだのだ。
 静寂。


『ガピー…? ヒビキ?』


 しばらくしてスペルビアから聞こえてきたのは、拡声器のように拡張されてはいるが聞き馴染んだ声だ。間違いなく、あのルルだった。


「そうだよ! ルルちゃん、もしかして寝てた?」

『ん……戦うの、結構疲れる……ふぁ……』

「だから動かなかったわけね……」

『まだ戦闘での消耗に慣れておらんのだ、仕方あるまい』

「スペルビア!? 喋れたの!?」


 今までスペルビアに反応がまったくなかったため、ヒビキは必要以上に驚いていた。


『お主らブレイブナイツは我が会話できることを知っておるだろう』

「いや、それはそうなんだけどさ……っていうか覚えてたんだ、ブレイブナイツのこと」

『ヒビキ、何か飛んできてる!』

「へ?」


 話すことに意識を向けていたヒビキはルルの声ですぐにセンサーを確認しようとする。だが、そこに映る機影を目にする前に、空気を裂くような音が響き渡っていた。
 そのままゆっくりと視界に現れたのは、ヒビキが見たことのない大型のTS輸送機。


「なんだありゃ……ん?」


 知らない場所から通信が入っている。これは司令部や管制ではなく、十中八九、あの輸送機からだろう。


『心配ありませんよ。応答してあげてください』


 状況を察したかのように耳元から聞こえたホノカの声に、ヒビキは気持ちを落ち着ける。


『ダイダラ2、こちら地球外生命体対策機構司令官Extraterrestrial Life Countermeasures Organization、ハル・キングだ』

「へ? キングって……あ、こちらダイダラ2! ヒビキ・リオウ2等陸尉です!」

『リオウ2尉。これより先はこちらの指示に従ってもらいたい』

「はい?」


 かつて毎日のように聞いていた声に、ヒビキの声は思わず裏返ってしまった。


──東京:横田基地:格納庫──

 〈ゾルダートテラー〉を退けたのが〈デスドライヴズ〉だという噂は、基地内でまたたく間に広まった。
 それが真実であることは、東京湾にも出現した〈デスドライヴズ〉と思しき未確認兵器をここへ移送するという伝達により、一部の人間には既に知れ渡っていたのだが。


「スペルビア……」


 伝達を受けたミユ・カトウはその名前を思い出すように呟いた。
 ブレイバーンの死後、回収されたブレイバーンのコアを見てスペルビアは真実を教えてくれた。


『恐らくクーヌスの時空転移の力と融合し、一個体となったのだな』


 〈デスドライヴズ〉の一体『淫蕩のクーヌス』を、ATFのルイス・スミス中尉はその命をなげうって相打ちに持ち込んだ。その結果──


「つまり、スミス中尉はクーヌスと共に爆縮した際、魂と体が結合し、時空を超えて……最初にオアフが襲撃された時間軸に、ブレイバーンとなって現れた……と?」

『然り。また同じ力を起こすことが出来るならあるいは……』

「ブレイバーンさんを復活させることもできる?」

『可能かもしれぬ。今のままでは何もわからぬがな』


 ブレイバーンのコアを研究すれば、何かが変わるかもしれない。こんな結末もなかったことにできるかもしれない――だが、そんな希望はすぐに打ち砕かれた。
 それからすぐ、スペルビアはルルちゃんと一緒にハワイに向かい、そのまま消息を絶った。残されたコアはアメリカに押収され、研究機関へ預けられることになったのだ。ミユもそこに加わりたいと懇願したもののATFの解散も重なって自衛隊に戻ることになり、コアの研究も、ルルとスペルビアの消息を追う道も、閉ざされてしまっていた。


「来てくれたんですね。私たちを助けに……」


 言葉とは裏腹に、浮かんでくるのは安心感とほんの少しの懐疑心。
 ブレイバーンがいない今、デスドライヴズと同等の戦力はスペルビアのみだ。スペルビアが再び敵に戻れば、地球側に対抗する戦力は存在しない。でも、もしかして――


「ブレイバーンさんのコアを狙ってる……とか? いや、そんなことない……そもそも、それならあの時に持ち出せたはず。やっぱり助けに来てくれた……うんうん! 絶対に、そうです!」


 ブレイバーンのコアは〈デスドライヴズ〉にとっても有益なものだろう。でも、スペルビア自身はそこまで興味も無さそうであったし、それがどういったものなのかもわかっていなかった。クーヌスに由来する時空転移の力があるということ以外は。
 地球上の技術では、時空間への干渉など夢のまた夢の話。だが、元よりその力を持つブレイバーンが残したものとなれば話は違う。もし、過去を変えることができるならば――


「そうしたら、みんなとまた……」


 ミユの頭に浮かんだのは、若干の懐かしさすら覚え始めた空母の格納庫。そこには笑顔のパイロットやATFのメンバーたち――いや、一人だけ仏頂面がいるのだが。


「でも、今の私は……」


 ただの整備要員であるミユにできることは何もない。そんな力があったなら、どんなに良かったか――不安な考えを振り払おうと携帯端末を見る。そこには、この基地に来てから初めての緊急命令が届いていた。


「これって……」


──東京:横田基地周辺:上空:大型輸送機<ペイブエクスプレス>内──

「ふぁ……」

『集中するのだ。今は眠っている場合ではない』

「ん。でも動いたあと、やっぱり眠い…」


 東京湾に飛来した〈ゾルダートテラー〉を一掃したルルとスペルビアは、ヒビキの機体と共に大型輸送機MCV-7A――通称〈ペイブエクスプレス〉へと収容されている。
 そうなったのは東京湾での〈ゾルダートテラー〉との戦闘後、大型輸送機と共にハル・キングが現れたことが契機となった。


「姿を隠していた理由が我々にあったなら非礼を詫びよう。しかし、いまは私を信じて、ついてきて欲しい。スペルビア、そしてルル」


 現在キングが所属する地球外生命体対策機構はスペルビアの対応について横田基地と協議を続けていた。しかしスペルビアが敵対しないと証明するには至っておらず、一度協力して欲しいと伝えたのだ。そのために司令官であるキング自らが輸送機に同乗してきたとも。
 スペルビアはキングの提案を承諾し、ルルを乗せたまま〈ペイブエクスプレス〉で横田基地へと移送されることとなった。


『ハル・キングといったか。なかなか見どころのある――ぬ?』


 スペルビアは喋っているうちに相手の反応がないことに気づいた。いや、正確には既に聞こえてきていた――ルルの寝息が。


『まったく、不思議なものだ』


 不思議という感情を、スペルビアが本当に理解したのはつい最近のことだ。
 ブレイバーンという好敵手を失ったスペルビアが新たな目的を与えられた。本来ありえない感情を持った〈ルル〉から、だ。
 自らのパーツの一部に過ぎないと思っていた〈ルル〉が地球の人間という生命体に酷似した存在へ変化した。それは〈デスドライヴズ〉に記憶された数ある歴史上で一度も観測されなかった事象だ。


『これもまた、ブレイバーンによるものかもしれんな』


 変化が起きたのは〈ルル〉だけではない。スペルビア自身もまた、ブレイバーンやルルとのコミュニケーションにより以前とは変化している。


『変わったのは……我が、かもしれんとは』


 そう、スペルビアは自嘲した。その声色は少しだけ優しさを含んだものだったことに、気づかないまま。


『〈ルル〉ではなく、ルル……か』


 揺り籠のような振動の中、スペルビアを乗せた〈ペイブエクスプレス〉は、横田基地の滑走路へ降下を開始した。


──東京:横田基地:格納庫──

 東京湾から輸送機がやってきたのは、つい先程のこと。
 基地の格納庫で一番最初に輸送機を迎え入れたのは、搭載されたTSの確認を命じられたミユであった。
 横田基地の格納庫に入った大型輸送機〈ペイブエクスプレス〉は現行のドロップシップよりも一回り大きい機体だ。これはブレイバーンの登場以降に予想されるTSの大型化を想定し、新造予定だったモデルを一新。ブレイバーンと同サイズの機体を搭載可能であり、それに合わせ現行のドロップシップ〈ファッティーエクスプレス〉より出力も大きく上昇している。
 TSの開発においては今後地球外生命体が再び襲来する可能性を踏まえた他、復興と勝利の象徴としてブレイバーンを模した大型機の開発が米国で発表された。これから爆発的に増えていくだろうブレイバーン型TSの導入に合わせ、先駆けとして試験的に誕生したのがこの大型輸送機MCV-7A〈ペイブエクスプレス〉なのだ。
 しかしミユが知っている限り、ブレイバーン型TSと共にこの輸送機もまだ開発中のはずだった。


「もうロールアウトされてたんだ……どこの所属なんだろう。やっぱり米軍の機体ですよね?」

「たぶんねぇ……明らかにタイミングが良すぎるし、ハル・キング海軍大将も出てきたしで、今のところはそうっぽいけど」


 ミユの独り言に応えたのは、彼女にとって聞き馴染みのある声で――


「ヒビキさん!?」

「や」


 驚きのあまり声を上げたミユに対し、ヒビキは久し振りと気軽そうに手を上げてみせた。
 それを見たミユの頭に浮かんだのは、やっぱりという言葉だった。今回のような作戦でヒビキのような実戦経験のあるパイロットが選ばれるのは当然のことだ。


「なんだか、会えそうな気がしてました」

「えへへ、実は私もそんな気がしてた。まぁ好き勝手やっといてなんだけど」

「もしかして、報告にあったスペルビアと接敵した機体って……」

「そう、私の烈華」


 あっけらかんとした答えに、ミユは思わず口元を緩めた。


「無事で良かったです……相変わらず、無茶してるんですね」

「〈デスドライヴズ〉に単騎特攻するよりは無茶じゃないでしょ?」

「似たようなものじゃ……」


 一度交流を持ったスペルビアとはいえ、相手は〈デスドライヴズ〉。危険なことには変わりない。だが、それよりも肝心なことがある。


「話はできたんですか?」


 ヒビキの烈華はスペルビアとの会話に成功し、移送を受け入れた。ミユが知っているのはそこまでだ。そこで何があったかまではわからない。


「できたというか、なんというか……わかんないんだよね」

「わからない……ですか?」

「そうそう、ルルちゃんとは少しだけ話せたんだけど、肝心なところはなんにも。そうだ、スペルビアが『まだ消耗に慣れておらぬのだ、仕方あるまい』なんて保護者感出してたよ」

「そんなことが……それで、その後はどうなったんですか!?」

「あー、キングさんが出てきたと思ったら、私までこれに回収されることになっちゃったわけ。だからわかるのはそこまで」


 そう言ってヒビキは輸送機を指してみせる。


「あ」


 そこでミユはようやく今の状況を理解した。
 あまりにも自然に話していたので失念していたが、ヒビキは輸送機から降りてきたばかり。所属外の機内で自由にできるわけではないだろう。


「じゃあ、スペルビアさんはまだあの中に?」

「そう。私の烈華の方が先に降ろされたからね。中ではじっとしてたし」

「そうなんですね……」

「ミユも偶然ここにいるってわけじゃないんでしょ?」

「はい。詳細はわからないんですけど、命令があって……あ」


 質問の意味にミユはようやく思い当たる。そう、自分たちは意図的に集められて――


「そこのお二人、そんなところで立ち話していて大丈夫なんですか?」


 自分の思考に集中していたミユの後ろから、声が響いた。それはミユにとっては聞き覚えのある通った声。


「お久し振りです。リオウ2尉はさっき振りですけど」


 ヒビキにとってはつい数時間前までよく聞いていた声の主――元ATFの機上TS要撃管制官であるホノカ・スズナギはそう言いながらミユの隣まで歩いてくる。


「ホノカさん!」

「はい。気になって来ちゃいました。リオウ2尉の無事も確認したかったですし。その様子では大丈夫そうですね」

「あはは。ルルちゃんとスペルビアのおかげでこの通り」


 ヒビキがそう言って笑うと、ホノカも穏やかな笑みで返す。


「あの輸送機で一緒に運ばれて来たんですね」

「そうそう。なんかすごいよね、あれ」


 懐かしい光景に、ミユは思わず笑みをこぼす。
 同時にATFの仲間たち、スペルビアと、ミユの中で先程まで点だったものが一本の線で繋がっていく。


「これってもしかして、またATFが……」


 ミユの中にそんな希望が生まれ、僅かに口元を緩めた。
 今の生活が嫌なわけではないが、ミユの中にはまだ後悔が残っている。やり残してしまったこともたくさんあるのだ。


「……ッ……」


 だが、ミユは一旦そんな考えを打ち切った。
 良い方向に考えるのは簡単だ。しかし、再び〈デスドライヴズ〉との戦いに臨むというなら、相応の覚悟が必要になるだろう。


「やっぱりみなさんも――」


 きっと気持ちは同じはずだ。そう言おうとしたが――


「あ――」


 ――輸送機の中から小さな人影が飛び出してきたのが見えて、動きを止める。


「ミユーーーー!!」


 まるで弾丸のような勢いで走ってくる人影の正体をミユはようやく察した。


「ミユ、ミユだー!」


 そのままの勢いで飛んできた少女をなんとか抱きかかえると、ミユはその顔をまじまじと見つめる。


「ルルちゃん……ルルちゃん!」

「ガピ! ルルだよ!!」


 明るい声と元気いっぱいの笑顔。別れた日と変わらないままの彼女が、そこにいた。


「おー。さっきちょっと喋ったけど……久し振りだね、ルルちゃん」

「本当に……ルルちゃんなんですね」


 ミユに与えられた指令は輸送機内の機体確認ということだったが、恐らくこの再会も織り込み済みだったのだろう。


「ガピ? ヒビキ! ホノカも! ひさしぶり!」


 ルルはミユの後ろにいたヒビキとホノカの姿に気付くと、二人の元へ飛び込んでいく。


「……っ!」


 その光景に、思わずミユは涙が溢れそうになった。だが、後ろから歩いてくる壮年の男性の姿が目に入り、俯いて堪えると姿勢を正す。ヒビキとホノカもミユに続いて背筋をピンと伸ばした。


「声だけじゃ実感できてなかったんだけど、あれってやっぱりそうだよね」

「ええ、間違いないです。見間違える方が難しいですよ」


 こちらに歩いてくる壮年の男性――アメリカ海軍大将ハル・キングは、アド・リムパックの演習司令官を努め、〈デスドライヴズ〉襲撃以降はブレイバーンを基幹とした多国籍任務部隊、通称ATFを率いていた男だ。階級はあまりにも違うが、彼女たちにとっては戦友と言って差し支えない存在だった。


「しばらく彼女を頼む、レディたち。私はこれから大事な話をしてこなければならないのでね。ルルくん、よいかね?」

「ガピ! しょーちした!」


 そう言ってルルが敬礼のようなポーズを取ると、キングはそれに応えるように敬礼し、そのまま格納庫を後にした。


「ミユ! ヒビキ! ホノカ!」


 しばらくキングの歩いていった方を見つめていたルルは、振り返ると順々にミユたちの名前を呼んでいく。


「お話しよう! じょしかい!」

「じょ、女子会ですか……」

「おぉ、いいねぇ」

「私たちも聞きたいことがたくさんありますしね」

「そうですね。そうしましょう!」


 強く頷きながら、ミユは会話の中にどこか懐かしい空気を感じていた。


「ガガピー! ルル、はじめてのじょしかい!」

「あはは。そんなの、どこで覚えてきたんだか」


 ルルが変な言葉を覚えて、誰かが突っ込んで、みんなが笑顔になる――いつかのような光景にミユの瞳が僅かに潤んだ。


──東京:横田基地:日米共同統合運用調整──

 横田基地の米軍、自衛隊共同の運用調整所では、先のゾルダートテラー襲来とそこに現れたスペルビアの扱いについての会議が行われている。
 部屋の大型モニターは参加している世界各地の中継先に繋がっており、その他の分割された画面には各国の政府や軍の関係者が並んでいた。
 この会議の中心となるのは、同席している横田基地の面々ではなくモニターの前で姿勢を崩さずに直立した男――アメリカ海軍大将ハル・キング。彼は現在所属するアメリカ主導で各国からその道の専門家たちが集められた機関〈Extraterrestrial Life Countermeasures Organization〉――通称ELCOイーエルシーオーの司令官としてこの会議に参加している。


「今から再生するのはスペルビアから提供された映像データです。彼が敵かどうかはこれを見て、判断していただきたい」


 一切の疑念なく放たれたキングの言葉に、横田基地の面々だけでなくモニター越しに僅かな動揺が伝わってくる。それを振り切るように言葉を発したのは、在日米軍司令官であった。


「少なくとも、ELCOはあの〈デスドライヴズ〉を危険視していないということですか?」

「ああ。今の時点、ではあるがね」


 そう返すと、キングは小さく口元を緩めてみせる。
 ATFの功績で栄転を約束されていた彼がそれを頑なに固辞し、ELCOの司令官就任を受け入れたのは、最後まで〈デスドライヴズ〉との戦いに身を投じるためだ。それが、あの戦いを間近で経験したものの責任であると、キングは意を強くした。


『拝見させていただきましょう』


 その言葉にモニターの向こうの者は皆、賛同するように沈黙した。


「よろしい。再生を」


 キングの指示でオペレーターが操作すると、モニターに映像が再生される。
 そこに映し出されたのは南極での戦闘記録。7機の〈ゾルダートテラー〉に立ち向かうスペルビアの姿だった。
 スペルビアは瞬く間に全ての〈ゾルダートテラー〉を撃破すると、感嘆の声が聞こえてくる。だが、戦闘が終わると、次に映し出されたのはルルの眩しい笑顔だった。


『ガガピーッ! ルル、ミッションコンプリーーート!』


 突然現れたルルの姿に、映像に集中していた者は驚きを隠せないでいた。
 これは新たに説明が必要になるとキングは小さく息を吐く。


「……これで、この機械生命体――スペルビアが人類にとっての害でない実証ができたと思う。現状――ではあるが」


 スペルビアと共に無邪気に戦うルル。彼女を見て、敵であると判断するものは、この場にいないだろう。


「さて、頃合いだろう」


 キングの言葉とともに、モニターに輸送機内の映像が映し出される。


「待たせてすまなかった。紹介しよう、彼の名はスペルビア。我々にとって、未来の盟友となる者だ」


 正面に映し出されたスペルビアの姿に動揺が広がる中、キングだけが真っ直ぐに彼を見つめていた。


『我はスペルビア。〈デスドライヴズ〉高慢のスペルビアである』

勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルルエピソード2-2

   episode 3 へつづく


組織名/「Extraterrestrial Life Countermeasures Organization」/地球外生命体対策機構/通称ELCO(イ―エルシーオー)
母艦/「航空母艦:コンステレーション」/本編と同様のアメリカ空母を引き続き母艦として使用
輸送機/「MCV-7A ペイブエクスプレス」/「MCV-5 ファッティーエクスプレス」の後継機/ブレイバーンサイズを搭載可能



【勇気爆発バーンブレイバーン 未来戦士ルル】

episode 1
episode 2 new
episode 3 ←明日 6月25日発売 「月刊ホビージャパン8月号」にて掲載!!


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