HOME記事ガンダムヒロイックな主役メカのイメージを損なわないウェザリングとは? EGνガンダムの汚しテクニックをモデラーインタビューで解説![前編]

ヒロイックな主役メカのイメージを損なわないウェザリングとは? EGνガンダムの汚しテクニックをモデラーインタビューで解説![前編]

2024.02.22

特別授業:主役メカの汚しの塩梅をプロモデラーに見せてもらおう!/RX-93 νガンダム【BANDAI SPIRITS 1/144】 月刊ホビージャパン2024年3月号(1月25日発売)

ヒロイックな主役メカのイメージを損なわないウェザリングとは? EGνガンダムの汚しテクニックをモデラーインタビューで解説![前編]
上半身アップ 正面

主役メカの汚しの塩梅をプロモデラーに見せてもらおう!

「汚らしく見えないウェザリング」とは?

 多くの雑誌で数々の作例をこなす人気プロモデラー・NAOKIに「νガンダムを汚しませんか?」という意地悪な依頼をかけました。派手に汚せば汚すだけヒロイックなイメージからどんどん乖離してしまう難しい題材なのですが、果たせるかな、ご覧のとおり絶妙なチッピング加減のリアルなνガンダムを製作してくれました。彼の汚しのメソッドも必見ですが、全身に追加された見事なスジ彫り・ディテール表現にも注目です!

製作・解説/NAOKI

NAOKI(ナオキ)

NAOKI(ナオキ)

モデラー、メカデザイナー、造形プロデュースなど各方面で活躍するマルチクリエイター。

「HJメカニクス13」掲載のMG ガンダムEz8
▲単行本「HJメカニクス13」掲載のMG ガンダムEz8。汚れすぎず白すぎず、絶妙な塩梅のウェザリング加減。実存感がありつつも主人公機らしい仕上げがお見事!

❶リアルな汚しを補強するためのディテール工作という考え方
❷エナメル塗料ダークグレイの拭き取り方でダメージの種類を増やしていく
❸関節部などはガンメタルのピグメントで

 今回はNAOKIの改修や塗装工程の写真を見ながら、編集部員がインタビュー。出来上がるまでのポイントや、製作中に考えていたことを中心にうかがった。


「リアルに見せる」下準備としてのディテール工作

基本塗装とデカール貼り付けが終わった状態のEG νガンダム
▲基本塗装とデカール貼り付けが終わった状態のEG νガンダム。この後のウェザリングに備え、全身にパネルラインを追加している
頭部パーツ 加工前と後の比較画像 斜め前
頭部パーツ 加工前と後の比較画像 正面
▲頭部。ヘルメットツインアイ横部分をアルテコで整形、切れ長の目から小顔へと改修。アンテナは先端に真鍮線を埋め込み、ヤスリで整形することで刺さりそうなほどにシャープ化
胸部パーツ 加工前と後の比較画像
▲胸部襟部分や左右ダクト、腹部断面のフチを薄く削り込んでスケール感を表現
腰パーツ 加工前と後の比較画像
▲腰部。単に直線を彫るだけでなく、段落ちディテールと細切りプラ板を混ぜ込むことで高低差のあるディテールにしている
肩アーマー 加工前と後の比較画像
▲肩アーマー面取りを修正してシャープにしてディテールを追加。側面スラスターのフチも薄く修正している
脚部パーツ 加工前と後の比較画像
▲ヒザ頭やつま先断面をシャープ化、後部スラスターカバーなどの断面も薄く修正。全体的に伸ばしたり縮めたりといったプロポーション工作は極力行わず、ディテールの追加を重点的に行っている

──NAOKIさんのEG νガンダム、とてもかっこいいんですけれども、ディテールからかなり手を入れてますよね? 今回はウェザリングテクニック紹介がメインということで、「本体工作はあえて控えめに」というオーダーだったんですけれども(笑)。
NAOKI いやー、ウェザリングって基本的に「リアルに見せる」ことが目的じゃないですか。するとスケール感の演出という見地から必然的にエッジや断面の厚みに手を加えていかないと最大効果が得られないんですよね。追加ディテールやパネルラインはその延長線上ですね。楽しくなってきちゃってつい…というのもあります(笑)。

──なるほど(笑)。全身にスジ彫りを足していただいているんですが、ディテールの密度に緩急があるのでゴチャゴチャした印象にはなっていないというか。
NAOKI そう言っていただけるとうれしいですね。架空のキャラクターモデルにディテールやスジ彫りを入れる時、実機だったらどのように装甲が分割されているか、スケール換算でパネルラインはどのぐらいの細さになるか、などの考証をしながらも、約15cmなりの模型としての見えざまも想定する。リアルとデフォルメのせめぎ合いですね。個人的にはガンプラなどの架空のキャラクターモデルに「リアル」を付与する醍醐味はその匙加減だと思っています。特に小さいスケールだと突き詰めすぎてしまうと何もできなくなってしまうので、オーバースケールだと理解しながらもあえてそういうディテールやパネルラインを追加したりもしますが、その辺りを考えているか否かで最終的な見映えの印象は変わってくると思いますし、ウェザリングについても同じことが言えるかと思います。

──単純にアンテナや装甲の端部をシャープにするだけでなく、スジ彫りのアプローチが工学寄りというか、説得力があるように見えます。
NAOKI もちろん世界観、スケール感をわきまえた上での、自分なりの線の足し引きの塩梅なんですけどね。僕の場合はある程度かっこよさや密度感は考えつつも、「スジ彫りがシルエットに対してどういう影響を及ぼすのか」みたいなことを念頭に彫っています。例えば、太モモ正面などは面も広く絶好のキャンバスなので両端に近い部分に縦2本スジ彫りを入れたとしますよね。でも、そのスジ彫り同士の幅で太モモの太さの見え方が変わってきたりします。線1本がそのブロックのアウトライン、ひいては全体のバランスに影響を及ぼすんです。だからアウトラインのバランスや印象を崩したくない場合、シルエットへの影響が少ないところ…正面ではなく側面とか、エッジ部分にスジ彫りやディテールを乗せて情報量を増やすという考え方です。逆にそれを利用してスジ彫りやデカールを足すことによってアウトラインの印象を変える、というやり方もできます。そこはケースバイケースですね。

──情報量を補う術としてのスジ彫りとコーションデカールとを、巧みに使い分けているなぁと。
NAOKI ほんと、塩梅なんです。パーツとしてのデザインの隙間とか、メカとしてのアイデンティティの隙間というか、そういう「デザインの空白」を見つけて、全体のバランスを崩さない程度にちょっとだけ手を入れているんです。

宇宙で戦う機体のチッピングは“ジャーマングレイ”

ウェザリングに使用した用具 一覧
▲ウェザリングに使用した用具。右上からジッポーオイル、アモバイミグヒメネス ガンメタル、タミヤエナメル塗料 ジャーマングレイ、各種太さの綿棒、NAZCAスタンピングスポンジ、Mr.ウェザリングスポンジ、NAZCAドライブラシ用筆、タミヤ ウェザリングマスターBセット
エナメル塗料 ジャーマングレイをスタンピングスポンジに付ける
エッジ付近を中心にスタンプ
ジッポーオイルを付けた綿棒で少しずつ拭き取る
エナメル塗料 ジャーマングレイ

▲エナメル塗料 ジャーマングレイをスタンピングスポンジに付けて、エッジ付近を中心にスタンプ。ジッポーオイルを付けた綿棒で少しずつ拭き取る

■基本はスポンジスタンピング
──NAOKIさんがよく使うウェザリンググッズですけど、意外とシンプルですね
NAOKI 特に今回のνガンダムのように宇宙での活躍を想定しているような場合は、地上想定と違って泥、土、ホコリ汚れなどがないので、基本的にはエナメル塗料のジャーマングレイを使ってチッピングを描き込んでいく作業がメインになります。というか、ほぼそれの繰り返しですね。

──NAZCA スタンピングスポンジはご自身のプロデュースでしたよね。
NAOKI スポンジをちぎってスタンピングする時に、手に塗料がついて汚れるじゃないですか。場合によってはその手の汚れが模型についてしまったりもする。そこで持ち手があるといいよねっていう考えからガイアノーツさんと共同で作った製品です。自分で言うのもなんですが、結構使いやすいですよ(笑)。スポンジスタンピングの流れとしては、ジャーマングレイをスポンジに付けたら、基本はエッジ部分を中心にちょっとずつスタンプしていくんです。ある程度スタンプしたら、ジッポーオイルを付けた綿棒で任意の部分を残していくような感じで拭き取ります。汚れの残り具合が気に入らなければ、一度全部拭き取ってまたスタンプする。それをひたすら繰り返していく感じですね。ジッポーオイルはエナメル塗料のうすめ液よりも乾燥が早いので愛用しています❷❸❹

ジャーマングレイでそっとスポンジ
余分な塗料を綿棒で拭き取る

▲ジャーマングレイでそっとスポンジして、ニーアーマーのラウンドしている部分に砂粒状の細かなチッピングを描く。余分な塗料を綿棒で拭き取る際は、軽い力でなるべく一方向に動かしていくと調子をつけやすい

NAZCAドライブラシ用筆で大きめのチッピングを描く
綿棒で拭き取り具合を調整
塗装後のパーツ

▲大きめのチッピングを描く際は、NAZCAドライブラシ用筆で。綿棒で拭き取り具合を調整する

筆で奥まった部分やスポンジが届きにくいところに塗装
▲奥まった部分やスポンジが届きにくいところは筆を使う
ジッポーオイルを含ませた筆で塗料を拭き取り
綿棒で拭き取り

▲奥まった部分は綿棒で拭き取るだけでなく、ジッポーオイルを含ませた筆で塗料を拭き取りつつ延ばしていくようにフィルタリング

■エナメルの拭き取り方でテクスチャーを付けていく
──全部のパーツのエッジにジャーマングレイを乗せたほうがいいんですか?
NAOKI うーん、僕の場合はフロントアーマーと太モモの部分とかの装甲同士が擦れたりしそうなところとか、あるいはニーアーマー、つま先、肩アーマーといった障害物にぶつけそうなところ、被弾したり宇宙空間であればデブリが当たりそうな箇所がメインですね。擦れ具合にしても、小さな障害物で微細な傷がつくのか被弾痕なのか、はたまた駆動や装甲同士の摩擦によって面で擦れるのかっていうテクスチャーの違いもジャーマングレイ1色でも拭き取り方で表現できます。あとは、あんまりキレイに拭き取らないことで、単純にフィルタリングというか面に一層うっすらとした汚れを乗せることができます。

──綿棒での拭き取り方にコツはありますか?
NAOKI できれば一方向に、汚れが流れていく方向を意識しながら拭き取ったほうが自然に仕上がると思います❺❻

──今回のνガンダムは白が多いカラーリングですが、例えば緑色や赤いガンプラにも、ジャーマングレイでチッピングしていいんですか?
NAOKI そうですね。連邦/ジオン系とかの所属陣営やカラーリングでチッピング色を使い分けているわけではなく、大体においてジャーマングレイで塗装剥げやストレーキングを表現しています。でも、例えばバトルダメージの深刻さを表現する場合、つまり深刻な傷がついて地金の色がむき出しになっている状態…そういう時に後述のピグメントやシルバーをジャーマングレイの剥がれの中心部に多めに描き足すとかで、汚しの強弱や種類をつけている感じです。

──なるほど。筆はどういった時に使うんですか?
NAOKI ケースバイケースなんですけど、例えば内モモの装甲部…ここは激しく動くのでフンドシブロックと頻繁に擦れるとするじゃないですか。そしたらスポンジじゃなくて、筆にジャーマングレイを取って、その部分に多めに乗せます。で、綿棒で下方向に拭き取っていけば、ストレーキングのような表現がやりやすいわけです❼❽❾。あとはこのふくらはぎのスラスターフィンの奥まった部分のような、スポンジが届きにくいところ。こういうところは筆の出番ですよね。あとはフィルタリング気味にうっすらと汚れを面に置きたい場合。筆目を活かしてサッと汚れを描きつつ、ジッポーオイルを含ませた筆でなぞることでうっすらと跡を残すことができます⓫⓬

ピグメントで金属のメリハリを描く

アモバイミグヒメネスのガンメタルを綿棒で擦り付け
擦り付けた後

▲塗装が剥がれて地金が擦れて鈍く光っているような表現として、アモバイミグヒメネスのガンメタルを擦り付ける。ジャーマングレイを描いた部分の中央あたりに施すのがコツ

ガンメタルピグメントをエッジ部などに塗布
▲グレー色で塗り分けた関節部や手は、ガンメタルピグメントをエッジ部などに塗布

ウェザリングマスターのススも併用

タミヤ ウェザリングマスターBのススをMr.ウェザリングスポンジで取り、推進器等に擦り付けていく1
タミヤ ウェザリングマスターBのススをMr.ウェザリングスポンジで取り、推進器等に擦り付けていく2
タミヤ ウェザリングマスターBのススをMr.ウェザリングスポンジで取り、推進器等に擦り付けていく3

▲タミヤ ウェザリングマスターBのススをMr.ウェザリングスポンジで取り、推進器等に擦り付けていく。ダークグレイのチッピングを調整する際にも有用

──先程ジャーマングレイを置いた内モモ部分に、今度はアモバイミグヒメネスのピグメント ガンメタルを擦り付けるんですね。
NAOKI ジャーマングレイを置いた部分の中央あたりを狙って綿棒などで少し擦ります。そうすると擦れによって鈍く光ったような金属感を付与することができます⓭⓮

──グッと印象が変わって見えますね!
NAOKI ガンメタルピグメントの使い方でもうひとつ。グレー系のフレーム色のエッジなどに同様の工程を施すとちょうどいい金属感が出せるんです。単調になりがちなフレームなどのグレーに、メタリック単色とも異なるメリハリの効いた色味を出すことができます。タミヤウェザリングマスターのススは、スラスター周りにアクセントとして少し擦りつけたり、描き込んだチッピングの補足というか、粒状になっているジャーマングレイの汚れの粒同士をつなげていくイメージで、ちょんちょんと描き足していって汚れを伸ばす感じで使いますかね⓰⓱⓲

──ありがとうございます。NAOKIさんのウェザリングって、なんというか清潔感のある汚し方ですよね。矛盾した言葉ですけれども。
NAOKI スケール感を突き詰めていくとこれでもやりすぎだとは思うんですけどね(笑)。汚しを描き込んでいく際はある程度ラフでいいんですけど、どちらかというと拭き取る工程がポイントで、「汚れをどこまで残すか」をコントロールするように拭き取っていくと、パッと見で汚い印象になりにくいと思います。極端な話、エアブラシでジャーマングレイを全身にまんべんなく吹いたっていいんですよ。拭き取る量が膨大になってしまうので、ひたすら大変ですけれど(笑)。

BANDAI SPIRITS 1/144スケール プラスチックキット“エントリーグレード”

RX-93 νガンダム

製作・解説/NAOKI


 今回はここまで!
 次回は、完成した極上の1/144 νガンダムをお届けします。お楽しみに!

\続きはコチラ/

 公開は2024年2月23日の17時から!

©創通・サンライズ

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