『機神幻想ルーンマスカー』誕生秘話!【第4回】「 ARTPLA スレイプニール」開発秘話その2 &『機神幻想ルーンマスカー』ネクストアイテム
2023.11.27ARTPLAをより魅力的な製品にするボックスアートと組み立て説明書
インジェクションプラスチックキットは、パーツが生産されるだけでは製品としては完全ではない。成形され、ランナー状態になったパーツを入れる外箱とキットを組み立てる指針となる組み立て説明書が揃うことで、ようやく店頭に並べることができる商品となる。
このパッケージ化に向けた作業の中心を担っているのが、ボックスアートを担当するイラストレーターの中村豪志とパッケージデザインを担当する古賀学のふたりだ。
まず、製品の顔となるボックスアートに目を向けていこう。ユーザーが店頭で商品を手に取るきかっけになり、さらにキットを作りたくなるように誘導するのがボックスアートの役目とも言える。そうした誘導役に関して、中村はイラストを描くにあたって次のようなことを意識しているという。
「構図的には、原作の劇中シーンをもとに「動く神殿」のような雰囲気を目指しました。ボックスアートでは、「活動想像図」という文言が似合うようなイラストを心がけています」
ちなみに、作業はペンタブレットを使い、写真加工をメインとするアプリ「Photoshop」を使用。「ブラシツールでペタペタ描いています。けっこうアナログ感覚です」とその作業の様子を語っている。
こうして描かれたボックスアートを中心に、製品の情報を伝えるパッケージ全体のデザインと組み立て説明書は、デザイナーの古賀が担当。特にインジェクションキットを組み立てるための指針となる組み立て説明書は、古賀自身の強いこだわりが反映されている。それは、説明書用の解説図をCGを使わず線画にトレースすること。
「写真やCGよりも線画の方が整理した情報が伝えられるんです。パーツの形状や方向、合わせる位置など、より把握しやすくなると思います。それから、僕自身がプラモデルの説明書のファンであることも大きいです。1990年代後半に「月刊モデルグラフィックス」で「架空プラモデル」の組み立て説明書を連載していたことを覚えている人もいるかもしれません。ユーザーがキットを組み立てるという三次元の作業(儀式)を行うためには、よりそれを理解しやすくするために二次元の線画が必要であり、その組み立て用の図を、僕はCGを下絵にしつつ、さらにテストショットのパーツを見ながら線画のオブジェクトを組み上げるように描いています。この写経のような作業によって三次元把握能力が高まったのか、実は僕自身の造形能力が上がった実感がありますね。インジェクションキットは金型で成形されるため、工業製品として複雑な彫刻ができないという制約があります。ARTPLAは、その制約を諦めずに突破しているんですが、そのこだわりの結果、パーツの線画を描いてもエッジやスジボリが行方不明にならず、ちゃんと繋がっていく。そうした部分を組み立て説明書のデザインとして見せたいという思いがあります」
組み立て説明書のレイアウトにもデザイナーとしての大きなこだわりがある。それは、他の製品の組み立て説明書のように四角コマ割り的な形にしないことだ。
「実は90年代の「架空プラモデル」の連載でも同じことをしていました。当時はグラフィックデザインとして余白を減らすためにコマ割りを廃したのですが、結果として図柄を大きくできるというメリットもありました。インジェクションキットのパーツや組み上げた部位の形は各部がまちまちで、極端に細かったり、複雑なシルエットのものが多く、これをコマで分けていくと図が小さくなったり、無駄な余白だらけになってしまいます。コマ割りを廃したことで、組み立ての動線が複雑になってしまうのですが、余白があるなら少しでも図を大きくいれたいという思いがあるんです」
ボックスアートと組み立て説明書。どちらもインジェクションキットの脇役かもしれないが、それぞれがアート作品と呼べるレベルでこだわった作りになっており、これらも含めてARTPLAという製品となっている。そして、そこまでこだわったものが相乗効果を生んだのがARTPLAスレイプニールだったのだ。
Ⓒ出渕裕/徳間書店