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大張正己監督インタビュー!『ガンダムビルドメタバース』に込められた想いとシリーズ10年を振り返る

2023.11.06

ガンダムビルドメタバース監督 大張正己インタビュー 月刊ホビージャパン2023年12月号(10月25日発売)

大張正己監督インタビュー!『ガンダムビルドメタバース』に込められた想いとシリーズ10年を振り返る

ガンダムビルドメタバース監督
大張正己インタビュー

ガンダムビルドメタバースキービジュアル

 『ガンダムビルドファイターズ』のスタートから10年。「ガンプラアニメ」はひとつのジャンルとして定着し、数々の作品がシリーズとして送り出されてきた。そしてシリーズ10周年を記念した『ガンダムビルドメタバース』では、シリーズのオールスターが集結。歴代作品を見届けてきたファンに対する最高のプレゼントだが、それにとどまらない願いが、本作には込められている。シリーズすべてを見届けてきた大張正己監督は、どのような思いで『ビルドメタバース』を送り出したのだろうか?

聞き手/河合宏之

ガンダムビルドメタバース 大張正己監督インタビュー2

大張正己(オオバリマサミ)

 スタジオG-1NEO代表。アニメーター、メカニックデザイナー、監督。勇者シリーズ、ガンダムシリーズ、スパロボと多くのロボットコンテンツに携わっている。


ガンプラアニメとしての地位を確立すること

──大張さんといえばシリーズ第1弾の『ガンダムビルドファイターズ』から参加されていますが、どのようなことが印象に残っていますか?

大張 まず、オープニングディレクターを任せていただいたことが、僕にとっては大きかったですね。『機動戦士ガンダムAGE』の第3期オープニングを担当してからの流れですが、今回はガンプラアニメという新しいジャンルを確立するうえで、最初のオープニングですべてが決まると思っていましたから、プレッシャーは尋常ではありませんでした。

──どのようなテーマで臨まれたのでしょうか?

大張 ガンプラという商品を印象づける部分ですし、売り上げにも関わってくるので、かっこよく見せつつ、ストーリー性も反映させることを意識しました。一番悩むのはカット1なんです。そこが思い浮かべば、あとはスムーズですね。最初の『ガンダムビルドファイターズ』のオープニングでいえば、地球をバックに決めポーズのビルドストライクをセイが握る……というシーンで「ガンプラアニメなんだ」ということを印象づけられたのではないかと思います。「ニブンノイチ」という楽曲もよかったですね。ガンプラアニメである一方、セイとレイジの物語でもありますし、作品の内容を象徴していますね。

──オープニングについては、どのようなオーダーがありましたか?

大張 登場するガンプラ以外には、特にオーダーはありませんでした。ただベアッガイⅢがオーダーには含まれていなかったのですが、「これは絶対ウケる!」と思い、ねじ込んだんです(笑)。結果的によかったですね。

──本編では、大張さんが描いたRX-78-2 ガンダムやパーフェクトガンダムなどが印象に残っています。

大張 第1話でセイのお父さんであるタケシのRX-78-2 ガンダムが動くシーンは、僕の原画なんです。みんなが憧れるお父さん、しかもガンダムのマニューバですから、とても気を付けて描いた記憶がありますね。美味しいシーンを任せてもらったという印象があります。

──大張さんはその後もガンダムビルドシリーズでオープニングを手掛け続けていますね。

大張 『ガンダムビルドファイターズトライ』『ガンダムビルドダイバーズ』『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』は第1クール、第2クールのオープニングを任せていただきましたが、違いを見せることが大変でした。まずキャラクターとガンプラを印象づける必要がありますし、ある程度のお約束も忘れてはいけません。そこに自分の個性も出しつつ、新しいタイトルを印象づけなければならないので。1分半のショートアニメーションで作品の方向性を表現するのは、楽しくもあり、プレッシャーでもありという感じでしたね。

──『ビルドダイバーズトライ』では、トライオン3の衝撃が忘れられません。

大張 「こういうコンセプトのガンプラはどうでしょう?」と提案させていただいて、大河原邦男先生にご依頼した形です。これは最後まで自分で責任を持って、登場話数のメカ作監や絵コンテ、合体シーンを担当した感じです。ガンプラのパッケージを描いたのも、トライオン3が初でしたね。

──実際にパッケージを手掛けたときは、どんなお気持ちでしたか?

大張 めちゃめちゃ緊張しました(笑)。「ついにガンプラのパッケージを描くときが来たか!」と。僕はもともと『機動戦士ガンダム』には、ガンプラから入ったんですよ。学生時代、模型店の作例を作るバイトをやっていたこともあって、とても思い入れがありますね。

──リライジングガンダムも大張さんがパッケージを描かれましたね。

大張 そうですね。リライジングガンダムは自分で合体シーンのコンテも描きましたし、メカ作監も担当しましたが、ガンプラのパッケージを描かせていただいたのは印象に残っていますね。商品としてヒットしたのもよかったです。

ついに実現した夢の競演とシリーズへの入り口として

──さて、『ビルドメタバース』の監督に就任されましたが、率直なお気持ちをお聞かせください。

大張 『ビルドメタバース』は、シリーズ10年間を総括しつつ、次の10年につなげるような作品だと思って作っています。「なぜ自分が監督なんだろう」と思ったのですが、確かに『ビルドファイターズ』から、『ビルドダイバーズRe:RISE』、番外編の『バトローグ』まで含めると、すべての作品にアニメスタッフとして関わっているから、ということなんでしょうね。

──オープニングも華やかなものとなりました。

大張 オープニングから歴代の主人公が登場しつつ、メイジン・カワグチといった印象的なキャラクターもフォローして、なおかつ新たな主人公を印象づけるという意味では今回も大きな挑戦でした。今回は他の方にお願いしようと思ったのですが、結局コンテは全部自分で描いていますね。ただ、演出は大師匠である羽原(信義)さんにお任せしました。僕が監督で大変だからということで、引き受けてくださったんです。本当に大感謝ですね。

──作品のコンセプトは、当初からオールスターという方向性だったのでしょうか?

大張 唯一あったオーダーが「夢の共演」でした。どんな新主人公で、どんなヒロインを登場させるかは、打ち合わせのなかで決めていった形です。

──主人公のホウジョウ・リオをビギナーとして描いているのは、新しいユーザーを意識したためでしょうか?

大張 そうですね。「ガンダムビルドシリーズ」を知らない人が見ても、リオの目を通じて、過去の主人公たちと出会い、歴代のシリーズが分かるような作品にするべきだと思ったんです。ですから何色にも染まっていない主人公という点は重要でした。歴代のキャラクターを登場させるという意味では、「ガンダムメタバース」という世界観もよかった点です。アバターであれば、時系列は関係なく当時のキャラクターを登場させることができますから。振り返ってみるといろいろなキャラクターに思い出があって、登場させたいキャラクターも多かったんですよ。全員登場させることができなかったのは心残りがありますが、サザキ家を全員出せたのはよかったですね(笑)。

──全員そろったのは初ですね(笑)。

大張 あとはマギーさんを出せたのは嬉しかったです。進化しつつ深化したマギーさんを見ることができました。

──メインキャストも大張さんのリクエストということですが。

大張 キャスト陣は、新しいメンバーであえてお願いしました。新しい作品である以上、シリーズが継続していく願いを込めてキャスティングしています。そのなかで個人的なこだわりでお願いしたのは、リオのおじいちゃんには千葉繁さんをキャスティングしたことです。これは「どうしても千葉さんにお願いしたいです!」とワガママを通させていただきました。「ひと言でリオが覚醒する」声を持つ人をと考えたとき、それほどの説得力を持つのは千葉さんしか思い浮かびませんでした。僕は新人時代、実質的に『北斗の拳』でデビューしたのですが、そのときに描いたモブキャラの声を千葉さんが担当されていたんです。直接的なお仕事では、『破邪大星ダンガイオー』(ギル・バーグ)以来ですね。

──スタッフも新しい方が多いという印象です。

大張 キャラクターデザインの岡田洋奈さん、後藤依子さんは初めてですね。今回は新しい要素が欲しいと思い、今まで関わったことのない方に参加してもらったんです。チーフメカアニメーターの芳山優さんも女性なので、女性比率が高いですね。一方で、今回は形部(一平)さんにキャラクターデザイン(一部アバター)をお願いしています。もともとイラストレーターさんですし、なんでも描けますからね。

原点であるガンダムをベースとして選ぶこと

ガンダムビルドメタバース 大張正己監督インタビュー

──メカニックデザインについては、どのような経緯で決まったのでしょうか?

大張 まずラーガンダムのベースをガンダム(RX-78-2)にするという点は、BANDAI SPIRITSさんからのリクエストです。デザインについては大河原先生と何度かミーティングをさせていただきまして、太陽や日本がモチーフというコンセプトになりました。ガンプラのベースがエントリーグレードなので、シンプルでありながらインパクトのあるものを目指しました。特にパーツ分割に至るまで、相当試行錯誤を重ねて、何度もミーティングを繰り返したんです。ガンプラのパッケージについても、僕が担当させていただきました。大河原先生のデザインである以上、最後まで担当したいと思いまして。

──初めて主人公機としてRX-78-2 ガンダムがベースとして選ばれたという意味でも、大きな意味があると感じられます。

大張 ハワイ生まれの日系人であるリオなら、自分のルーツに興味を持つと思いますし、それも踏まえての原点であるガンダムなんです。リオがガンプラルームに飾っているガンプラも、僕の指定です。基本的にガンプラルームに飾ってあるガンダムや、やられ役として登場するガンプラまで、僕のほうで指示していますね。

──ビギナーにしては、渋いチョイスでしたね。

大張 初心者の割には、吟味しているなって感じですよね(笑)。

──(笑)。

大張 登場ガンプラに関しては、僕のアイデアで商品化されてしまうこともあるので、驚くことがありますね。ラーガンダム試作壱型もそうですし、ガンダムパーフェクトストライクフリーダムルージュもそうです。

──歴代主人公の機体も、セイならストライクガンダム、リクならダブルオーガンダムというイメージどおりのチョイスとなっていますね。

大張 やっぱりそこに戻るんだ、という感じがしますよね。

──プルタインガンダムでは、プルートアーマーが登場しました。これで「やっとプラネッツシステムをコンプリートできる!」と思う方も多いのではないでしょうか。

大張 これは自分も見たかったんです。ドッキングシーンもしっかり見せていますし、やっと満足できました(笑)。ガンプラ的には、エコプラというコンセプトを活かす意味でも、ダークヒーロー的なイメージにしました。若干ツヤ消しっぽい雰囲気を想定して、本編でもマットな風合いを再現しています。ぜひ全アーマーをそろえてディスプレイしてほしいですね。

──神バーニングガンダムは、師匠からの系譜を受け継ぐマスターガンダム的なマントを装備しています。

大張 マントのクリアーパーツは新素材なんですよ。「これをどう組み込みましょうか?」という話になって、マントとして採用することになりました。

シリーズを未来へ託す節目となる作品に

──メイジン・カワグチは久々の登場となりました。

大張 メイジン、やっぱりかっこいいんですよ。最後に登場したのは『ガンダムビルドファイターズ バトローグ』以来ですから、6年ぶりになるのかな。佐藤(拓也)さんの芝居がさらにかっこよくなっていますね。10年を総括する作品ではありますが、キャスト陣の進化という点もポイントだと思います。当時のままではなく、みんな進化している。ぜひそこも見ていただきたいです。

──メイジン・カワグチの機体も、ガンダム・アメイジングバルバトスルプスですが、劇中では『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』の機体が多く登場している印象がありますね。

大張 個人的に『鉄血のオルフェンズ』の機体が好きなんですよ。メイジンの機体に関しては、バルバトスルプスとハシュマルとのドッキングって面白いじゃないですか? 本来は敵対している関係の機体が、合体することでオリジナルでは装備していなかったビーム兵器が使える点も、すごくいいなと思ったんです。

──ファン的には、F9ノ1改(エフくのいちかい)の登場が衝撃だったと思います。元々綿田慎也監督公認非公式ネタとして、寺島慎也画伯が描かれていたものですよね。

大張 紆余曲折あって登場が実現しました。分身もできますし、機能的にも面白いですからね。

──古参のガンプラファン的には、ついにサイコ・ガンダムMk-Ⅱがベース機体として登場するということで話題になっていると思いますが。

大張 ティフォエウスガンダム・キメラについては、「どうやって合体させようか」「どうやって変形させようか」と、かなり検討しました。ここまでうまくまとまったのは、デザイナーの柳瀬(敬之)さんのお力ですね。まとめる力とアイデアが素晴らしい。僕のイメージをはるかに超えてきました。マスカリージャ役の加隈(亜衣)さんは「ティフォエウスガンダム・キメラ」ってまったく嚙まずに言っていましたね(笑)。加隈さんは僕のリクエストなのですが、キャラクターにうまくハマったと感じました。いい意味でライバル、愛すべき敵になったなと。

──決して悪人ではない、というのがいいですね。

大張 3本で完結させる必要がありますから、複雑な過程は描けませんからね。ストレートに「愛ゆえにこうなってしまった」という形に落ち着きました。最後はレディ・カワグチを継承していますし、うまく収まったのではないでしょうか。

──あらためて作品を振り返ると、もっと新しいエピソードが見たくなりますね。

大張 メイジン・カワグチとセイ、レイジの戦いだけでも1本作れそうですからね。

──レイジの登場で多くのファンが喜んだと思うんです。これもガンダムメタバースという仮想世界だから実現した感じがします。

大張 OPには登場していますが、「本編に登場してくれるのか?」と思われたかもしれません。そこは実際に動いて喋っていますからね。

──メイジンとキョウヤの戦いも見たかったですし、まだまだ描ける要素は多いのではないでしょうか。

大張 実は『ビルドメタバース』は、TVシリーズのフォーマットで作っているんです。今回の3エピソードに9エピソードを加えて、1クール作品にならないかな…と思っているんですよ。もうネタはたくさんありますから。

──ぜひ応援してほしいところですね。

大張 主題歌はBACK-ONさんですし、林ゆうきさんの音楽が流れると、まるでシリーズの原点に戻ったかのような気持ちがよみがえります。ただ、ここがシリーズの終着点ではないといいなとも思っています。新主人公、新ヒロインも加わって、次の「ガンダムビルドシリーズ」へバトンをつなぐ節目だと思っています。ぜひ『ガンダムビルドメタバース』をよろしくお願いします。

──本日はありがとうございました。

(2023年9月下旬、SUNRISE BEYONDにて収録)


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