【極鋼ノ装鬼 外伝】 第6話「知念とベンヤミン」【境界戦機】
2023.11.02境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES 月刊ホビージャパン2023年12月号(10月25日発売)
紡がれる物語
その先にあるものは…
SUNRISE BEYOND×BANDAI SPIRITSのタッグで配信中の映像最新作『境界戦機 極鋼ノ装鬼』。本編と連動して展開する公式外伝『境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES 』はついに最終回を迎える。
南海に浮かぶ孤島を舞台とした本編とそこにリンクしたいくつかの視点で描かれたストーリーは、三澤から大切なものを受け取ったふたりの男が出会うことでひとつの終着点にたどりつく。三澤が紡いだ命と絆の物語のラストをじっくりとご覧いただきたい。
STAFF
企画
SUNRISE BEYOND
シナリオ
篠塚智子
キャラクターデザイン
大貫健一
メカニックデザイン
海老川兼武
協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン
境界戦機 極鋼ノ装鬼
公式サイト https://www.kyoukai-senki.net/kyokko-no-souki
公式 Twitter @kyoukai_senki
BANDAI SPIRITS 「境界戦機」プラモデル公式サイト https://bandai-hobby.net/site/kyoukai-senki/
第6話「知念とベンヤミン」
北米軍と激戦の結果、ヒヌカンの生存者達は船で島を離れ、輸送潜水艦で本島へと逃れた。その直後にはオセアニア軍が襲来し、逃げ遅れた北米軍と撃ち合いになったらしい。
「あと数時間遅れていたら、みんな危なかったわ」
ヒヌカンの一員である成海マイはそう言って唇を噛んだ。彼女は南海の孤島で生まれ育った日本人で、他国による侵略から島を守りたい気持ちがとりわけ強かった。それでも後悔はない。
「生きていてよかった……。私も知念も」
強い意志の宿る成海の瞳に眼差されて、知念は戦で散った三澤ジンのことを想った。彼は宿敵である北米軍指揮官のグレイディ・エリソンと戦う為にひとりで島に残った。その間際、ヤマピ伝いに知念に残したのが、「生き延びて欲しい」という祈りの言葉だった。
逃げたのではなく、生き延びたのだ……。三澤のおかげで過去の呪縛から抜け出ることが出来た知念だったが、戦いの傷が癒えた頃、島に偵察に行ったヒヌカン部隊から三澤の死を告げられると動揺を隠せなかった。
エリソンを討ち取ったことは本望だったかもしれない。しかしやはり生きていてほしかった。知念もまた、彼の安否が判明するまでずっと祈っていたのだ。
引き上げられた三澤のプロトゴウヨウ、知念が操縦したゴウヨウカスタムの二機は奇跡的に無事だったが壊滅状態だった。ヤマピもラムダもAIユニットの破損の為か、知念が呼びかけても反応がない。
しかし二機が発見された場所が同じ場所だったと知って、知念は少しホッとした。
「ヤマピが言ってたんだ。三澤のそばに残るって……」
三澤の遺灰を撒いた海を前に知念は涙を滲ませる。
まるで血のように赤い夕陽を見つめながら、隣の成海が問いかけた。
「――それで、知念はこれからどうするの?」
少しの間があって知念は呟いた。
「わからない」
ヒヌカンの本部がある九州に身を寄せてから一ヶ月が経った。
知念は確たる目的がないまま、隊員達と共に防衛に備えたトレーニングを積み、本部の所有するAMAIMの整備や操縦訓練をこなしていた。
そんなある日、いつものように知念が格納庫で点検作業をしていると何やら外が騒がしい。
「そちらに負担は掛けない。とにかく、すぐに機体を引き上げたい」
「し、しかし担当者が不在でして確認が……」
知念が入り口付近の人だかりに近づくと、長身で緩いパーマの男が隊員とやりとりをしていた。どうやらスクラップ予定となっているプロトゴウヨウの譲渡を要求しているようだった。
「すみませんが代理の者に繋ぎますのでもう一度お名前を」
「フィリッポ・トルジャーニ。ブレンゾン社の第四支部から来ました」
おそらく何度か繰り返しただろう問答にヤレヤレと頭を掻くフィリッポの前に、知念は一歩進み出た。
「ブレンゾン社って――ゴウヨウ達を開発した工場ってことですか?」
「君は……」
「三澤さんから聞きました。僕はパイロットです」
「三澤と共に戦ったのか?」
フィリッポは目を見開いて知念を見つめた。
プロトゴウヨウにゴウヨウカスタム、それからドレッドノータスを、敵軍に襲われないよう配慮しつつヨーロッパまで輸送するのは随分手間暇がかかった。山から海、そしてまた山へ……。その間の衣食住を知念と共にしたことで、フィリッポは現在の主要経済圏の勢力図や、戦場の過酷さを知った。
「すげぇな。そんな中で戦ってたのか。君も三澤も……」
「でも俺は三澤さんほどの経験値はないです」
輸送車に揺られて山道を登りながら、知念は小さく呟いた。
子供の頃の知念は、ニュースやネットで目にしたAMAIMに憧れ、漠然とそのパイロットを目指した。適性検査や訓練は厳しいものでそれなりに葛藤や挫折もあったが、操縦資質があることを認められると、すっと心が定まった。とにかく仲間達に必要とされる有能なパイロットになることを目標にし、がむしゃらに特訓した知念。上司である隊長からの信頼は厚く、このまま月日を重ねれば、順調に昇級して一流パイロットになれるはずだった。しかし――。
「因みに工場の辺りは空気が薄いし乾いてる。君が過ごしてきた日本とは大分違うぞ……。しつこいようだが、無理しないで戻っていいからな」
「はい……」
フィリッポは何度も、ヒヌカンを離れることにした知念を気遣った。
「それにAMAIM開発の現場は案外退屈かもしれない。人間こそロボットのように規則正しく動いて、設計図通りに機械を組んで、自律思考型AIの担当者はパソコンに向き合ってばっかりで……―」
言いながら不意に何かを思い出したように、フィリッポは頭を掻いた。
「まぁでも、奴はひょっとしたら面白いかもしれない。そう歳も変わらないしね」
「なんでもいいんです。自分が知らないことをもっと知りたくて」
知らない景色に飛び込む必要があるような気がしていた。果たして自分は、例えば三澤の歳になった時、彼のように勇敢に戦い、且つ仲間を守り切ることが出来るだろうか。
成海に「一緒にこれからのヒヌカンを支えていこう」と言われた知念は、思わぬ言葉にグッと惹かれたが、数秒後には首を振っていた。今はその時じゃない。
しかしフィリッポに出会い、彼がヨーロッパに行くと言った時、ついて行きたい気持ちには迷いがなかった。不思議と、こういう偶発的な瞬間こそを欲していた気がする。
車中に流れるカンツォーネを遮るような野鳥の声が聞こえて窓外を見遣ると、頭上の空は知念の知らない青色だった。
「そう。三澤が……」
「はい。僕らヒヌカンを逃しながら相手の指揮官と戦い、そのまま事切れたようです」
工場に初めて足を踏み入れた知念が三澤の死を直接彼の仲間に告げるのは気が重かったが、生前の彼と言葉を交わした者としての務めだと気を張った。幸い、というのか予想外にスタッフの誰もが冷静だった。
工場長で、プロトゴウヨウの前身・ビャクチEXの開発を指揮したルビーは既におおよその事態は把握しているようだった。
「あまりにも連絡がなかったから、こちらでもラムダの状態を調べようとしたの。だけど、保護電源の一時復旧もままならない状態で……。おそらくユニット内部まで破損が及んでいたのね。ヤマピは?」
「俺が乗ったカスタムは生命維持装置に異常が生じてしまって……。降りた後のことはわかりません」
口ごもる知念をフォローするようにフィリッポがルビーに声を掛けた。
「知念は俺達のAMAIMを届けるよう、本部の連中に助言してくれたんだ」
「ありがとう。私達も状況が分からず、行くのに時間がかかってしまった……」
ルビーはそう言って、少し申し訳なさそうに微笑んだ。
「折角遠くまで来てくれたんだし、よかったらしばらくゆっくりしていってね」
「そうだな。早速工場の皆とボスに――」
「その前にプロトゴウヨウの機体確認だ」
知念が声の方を振り返ると、小柄な青年が立っていた。
「破損状況を分析したい。その為に運んでもらったんだ」
軍需工場には似つかわしくない、年季の入ったパーカーとスニーカーのラフな立ち姿――この工場のAI開発責任者であるベンヤミン・オルソンは、間もなく十代を終えようとしていた。
ほぼ無傷のドレッドノータスに比べ、銃痕が無数につき姿形の崩れたAMAIM二機を見て、ベンヤミンはぐっと息を呑んだ。
「こんなに……」
激戦の跡を間近に見て、ルビー達も流石に神妙な表情だ。
「北米軍のAMAIM部隊もかなりの精鋭部隊でした。でも、ここまでの破損状態になったのは何でなのか……ヒヌカンの調査員達も首を捻ってました」
「そうか。知念が降りた時より酷くなってる、ってことだね?」
「はい。かなり」
「ベンヤミン……。何度も言うが、知念さん、な」
フィリッポが苦笑交じりにつっこむが、ベンヤミン本人はツンとしたままだ。
「どう思う。メェ」
ベンヤミンが呟くと、いきなり彼の眼鏡の縁が光りだして、知念はぎょっとなった。
「ひとつ考えられるのはオセアニア軍ね!」
「ヤ……――」
「ヤマピに似てるあの子は、メェって言うAIなの。記憶領域が広くて、どんな物質にも対応出来る順応性を持ってるのよ!」
早口で説明するルビーの声を聞くうち、知念は少し頭が混乱してきた。ルビーの捲し立て方が、これまたヤマピを彷彿とさせたからだ。
「オセアニア軍の詳しい軌道は不明だけど、取得した衛星データによれば少なくとも一週間は島にいたことがわかるわ。北米軍の残党との戦いに巻き込まれたか或いは――」
「一旦精密分解しないとわからないね」
ヤマピでもルビーでもないメェの言葉を、ベンヤミンが引き継いだ。
「ルビー。組立班に頼めるかな」
「ええ。すぐに取り掛かるわ。ユニットはどうしたらいい?」
「それは僕がやる」
そうして初めて、ベンヤミンは知念の方をしっかりと向いて喋った。
「少し聞き取りしたいから知念、協力してくれる?」
「もちろん」
知念が頷くと、背後でフィリッポが溜め息を吐くのがわかった。
工場は大きく開発班、組立班、テスト班に分かれて業務に取り組んでおり、現在はゴウヨウカスタムの同等機種を開発中だった。そこに新たなミッションが差し込まれた形だが、ルビー以下スタッフ達は即座に専用ラインを組み立てた。
そうしてベンヤミンは、モニターだらけの研究室の中にふたつのユニットを置くと何やら複雑な配線を編み、メェとやりとりしながら画面に次々とコードを入力していった。
「それじゃあゴウヨウカスタムのシステム異常はヤマピが感知したんだね?」
「はい」
記憶を辿りながら質問に答えてゆく知念。ベンヤミンは更に細かく当時の状況を掘り下げていき、メェが時折、客観情報の補足をしてくれた。
何時間経ってもAIユニットに反応は見られず、次第にベンヤミンは険しい表情になってゆく。その横顔をぼんやりと見つめながら、知念は置物の様にそこに居るだけの自分を不甲斐なく思っていた。とにかく少しでも彼らの役に立ちたい。でも、その後は……? 自分が借りたAMAIMとAIを作り手の元に返すことで義理を果たした気になって、それから俺は何をしたいんだ……?
目の前のモニター上で目まぐるしく変化する計算式は入り組んだパズルのようで。それらの数列がダブって見え、ベンヤミンの声が聴きづらいと思った次の瞬間に――知念の意識は遠のいた。
「だから言ったろ。休息も取らずに付き合わせるなんて無茶だって」
「そんなに疲れてたなんて知らなかったんだよ」
「日本は超遠いぜ? それに距離だけじゃない。下との気圧差は尋常じゃない」
「標高高いから? 僕は全然平気だったよ?」
「お前は飛行機だったろ。しかもほんの子供だったし」
「いいや子供じゃなかった。少なくともフィリッポよりはね!」
ボヤキ節のフィリッポと、生意気にそれに返すベンヤミンの会話がうっすらと聞こえてきた。
自分が気絶してしまったことを理解した知念は情けなさでいっぱいになったが、休憩所の簡易ベッドで密かに身悶える彼に気が付かないまま、ベンヤミンとフィリッポはすぐそばの応接ソファで話し続けた。
「まさかってことが色々起きるよね」
「ん。それは――」
「三澤が居ないだなんて未だに信じられない」
「ああ……。そうだな。なんつーか、殺しても死ななそうな奴だったもんな」
「そう思ってた。僕も」
ベンヤミンは三澤と初めて出会った時の戸惑いや、AMAIMのコクピットに乗り込んだ時の高揚、ついにビャクチEXが完成し、シャーリーに認められた時の達成感を思い起こしていた。
「その景色に続きがあるとしたら、再会したときに見えるはず――そう思ってここで頑張って来た。三澤に僕の作った新しい機体を見せて驚かせて、実戦で成長したAIの力をそこに組み込んでって……。そうイメージしてたけど……」
そこまで言ってベンヤミンは口ごもってしまった。先刻までのピリピリとしたムードではない、繊細な若者の姿がそこにあった。
フィリッポは黙って、そんな彼の背を数回叩いた。
「三澤だって、またお前に会いたかっただろう」
「ははっ、それはないね」
ベンヤミンはくしゃっと顔を歪めて笑った。
「戦場に向かったら、きっと三澤は他のことなんて考えない。過去も未来も、想像すらしないよ」
「……多分、そんなことないですよ」
思わず喋りだした知念を、ベンヤミンとフィリッポは驚いた顔で振り向いた。
「三澤さん、多くは喋らなかったけど過去を忘れたりしてないんじゃないですか。少なくとも……ずっと強い想いを抱えてる人でした。未来のこともです。だからこそ僕らを逃がしてくれたんです」
しまった。言い過ぎたか……そう思った知念が気まずく俯くが、ベンヤミンは真っ直ぐに知念を見つめた。
「知念、君は――」
「あらなんだ! 起きてたの!?」
と、唐突に部屋に入って来たルビーが三人に呼び掛ける。
「よかったら食事にしましょ。みんなで」
食堂に行くと、既に大勢のスタッフが集っており、賑々と大皿料理にありついていた。
「おお、よく来た客人」
シャーリーは焼いた鹿肉を切り分けていたが、ひょいっと皿に肉をよそうと、車椅子に乗ったまま知念とベンヤミンの元までやって来た。
「肉を食べて英気を養え」
「は、はい……」
独特な迫力のあるシャーリーを前に知念が戸惑っていると、ベンヤミンがフォローする。
「ここの支部長のシャーリー・ミッチェルだ」
「ああ、あなたが……」
「私が新型AMAIMの生みの親と言っても差し支えないな! 最新のAI感度を持ったビャクチEXにその後継のゴウヨウ。乗り心地も最高だったろ?」
「まったく。シャーリーってば、何杯飲んだんだよ……」
「そんなの覚えてられるか」
「グラス四杯」
突然、知念の知らない声がシャーリーのブレスレットから聞こえてきた。
「これ以上は水にして。既にアルコール血中濃度は0.25%。血圧も上がってきてるよ」
ブレスレットに搭載されているAIはミャア。去年の試作実験中の事故で大怪我を負ったシャーリーの、文字通り右腕になっているとのことだった。
「健康管理だけじゃなく、リハビリメニューなんかもミャアがすべてシミュレーションするんだ」
「ふんっ、戦闘嫌いの介護AIを作ってくれだなんて、誰も頼んでないよ」
忌々し気にぼやくシャーリーを横目に、ベンヤミンはふっと真剣な顔になった。
「作った、と言っても作成フォーマットなんてないんだ。ある種の転換点を経たAI達は勝手に成長していく。その速度は人間の軽く数倍だけど、決まった到達点に向かっているわけじゃない。元々は三匹同じようなAIだったのが、個性も志向性もまるでバラバラに成長したんだ」
「ミャアと……残る二匹がヤマピとラムダ?」
「そう」
知念の脳裏に、ヤマピと交わした会話の数々が浮かんだ。
「僕はなんとかして、ラムダとヤマピの記憶データを復旧させたいんだ」
「復旧してどうするんですか」
「三澤の最後を知りたい。それから――得られたデータを可能な限り引き継ぐ。次の機体に」
耳まで赤くなっていたシャーリーとミャアが、それを聞いて同時に反応した。
「世界一のAMAIMは、ボスの最大の欲望です」
「当然やるつもりだよ。フィリッポの奴に本部の予算をふんだくってもらってさ!」
「それでまぁまだその先の青写真だけど――」
と、ベンヤミンは知念を軽く睨むように見つめた。
「知念。君、テストパイロットをやる気はないか?」
「え……」
「君に三澤の跡を引き継いでほしいんだ」
その瞬間、知念の中で止まっていた時間が動き出した。
それから二年が経って――。
日本のとある戦場で、知念を乗せたデュアルゴウヨウが敵機に囲まれていた。
相手は北米軍――ギガンティック・サンダーの新指揮官であるシェリル・ナイト率いるAMAIM部隊だ。
「追い込まれたわよ知念!」
「いや、まだだ!」
デュアルゴウヨウはガトリングガンを構えると、向かってくるブレイディフォックス相手に発射してゆく。
ごつごつとした岩肌が剝き出しで、辺りに逃げ場のない荒野をブレイディフォックス達は必死に走り、もつれながらもライフルで対抗してくる。
「危ないっ」
ヤマピの反応で右側の敵機に気が付いた知念は冷静に撃ち勝ったが、その隙を待っていたかのような別機体に左側に入られてしまう。
「くっ……!」
ほんのタッチの差で、屈んでライフル弾を避けたデュアルゴウヨウ。
すぐさま屈伸するように大地を蹴ると、左腕の近くまで接近してきたブレイディフォックスの胸部にダガーナイフを突き立てた。
「ふん。なかなかやるじゃない……」
シェリルは歯噛みし、彼女の操縦するアーロンライノはアサルトライフルを構えたまま後退しだす。
アーロンライノに向き直って刃を向けながら、デュアルゴウヨウはゆっくり近づいてゆく。
「『ぼぅっと立つな』『気を緩ませるな』……」
「ん? それって……」
「あの人が言ってくれた言葉だ」
「ああ! 模擬戦! 思い出したわ」
ベンヤミンは何度失敗してもチャレンジし、ついには破損したAIユニット内部から、一部記憶データを摘出することに成功した。
そこには三澤とエリソンの最後の戦いの様子や、プロトゴウヨウを看取ったゴウヨウカスタムについての記憶も詰まっていた。
ベンヤミンはそれらすべてを新たなヤマピに引き継がせた。今、知念と戦いを共にしている新生ヤマピは、ゴウヨウカスタムのヤマピをベースに、三匹のAIすべての記憶と特色をミックスさせた状態にある。
試験期間を経て、それでもこの試みが功を奏するかどうか迷いのあったベンヤミンを説得したのは他ならぬ知念だった。
「統制するんじゃなく、信頼するんだ!」
知念は自分でも繰り返してデータを履修した。
いつか、三澤を超えるパイロットになるために……。
「これで終わりにしましょう」
突然、シェリルが上空に向け発砲した。
すると向こうの丘から、待機していたブレイディフォックスが一斉にこちらに向かってきた。無人機がおよそ十機。
「知念!」
「わかってる」
知念は小さく深呼吸するとおもむろにミサイルランチャーを構える。
「左30、距離500……」
「風向きは?」
「南西。軽風3」
「了解!」
そうして発射されたミサイルが無人機群に命中するのを待つまでもなく、デュアルゴウヨウはアーロンライノ目掛けて駆けだすのだった。
(おわり)
【境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES】
第6話「知念とベンヤミン」 (終) ←いまココ
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