「ガンダムビルドシリーズ」の始まり、ガンプラの進化の振り返りと開発担当インタビュー!
2023.10.25「ガンダムビルドシリーズ」におけるガンプラの進化の歩み●石井誠 月刊ホビージャパン2023年12月号(10月25日発売)
新たな試み= “ガンプラのカスタマイズ”から始まった
「ガンダムビルドシリーズ」におけるガンプラの進化の歩み
自分で組み立て、改造したガンプラを愛機として戦う“ガンプラアニメ”としてスタートした「ガンダムビルドシリーズ」。第1作目の『ガンダムビルドファイターズ』(以下、『GBF』)の放送がスタートしたのが2013年、今年でシリーズ開始から10周年を迎える。シリーズのベースとなった初の“ガンプラアニメ”は、ガンプラ30周年記念作として制作された『模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG』だった。細部の設定はガンダムビルドシリーズとは異なるものの、自分の組み立てたガンプラを操縦して戦う「ガンプラバトル」が描かれるショートフィルム3部作は、作品オリジナルガンプラのビギニングガンダムが発売され、さらにコミックスの外伝作品も多数生まれるなどヒットを記録。これを受けて、設定やキャラクターを練り直したテレビシリーズとして『ガンダムビルドファイターズ』が制作されることとなる。ガンプラを使うからこその設定や作品世界の枠を超えた夢の対決、自分の愛機としてガンプラを好みに合わせてカスタマイズする拡張性や自由度の高さ、スポーツアニメのような競技性など、作り込まれた世界観のもとに戦争を描くこれまでのガンダム作品とは異なる作品性は若年層を含む新規層を取り込み、ガンプラの趣味としての新たな楽しみ方を提示した。その後シリーズとして続編の『ガンダムビルドファイターズトライ』(以下、『GBFT』)、アバターを使い、ネットワークゲームとして仮想空間で交流するという世界観に変化した『ガンダムビルドダイバーズ』(以下、『GBD』)、その続編となる『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』(以下、『GBDR』)の4作品が制作された。そして、10周年記念作として、『ガンダムビルドメタバース』のネット配信がスタート。ここでは、開発担当者のインタビューと合わせて、ガンダムビルドシリーズのガンプラとしての歴史を振り返っていきたい。
2013
カスタマイズアイテムの充実を図った
『ガンダムビルドファイターズ』
2013年、HG準拠ですべての主役ガンダムのガンプラ化を目指す「HGオールガンダムプロジェクト」が始動。『GBF』はこの企画と連動して展開することになる。劇中で活躍するガンプラは、登場人物たちが独自に改造したものであり、その商品化は「HGオールガンダムプロジェクト」で立体化する機体や既存のガンプラに新規パーツを追加することで改造して製作された機体を再現していた。
それらの新規パーツは、「HGビルドカスタム」と名付けられたカスタムパーツとしても販売。接続部の軸と受けの直径を統一することで、ラインナップされたカスタムパーツと自在に組み合わせ、既存のさまざまなガンプラに取り付けることもでき、難しい工作などができずともオリジナルの機体を作り上げることができるようになった。
その他にも「HGビルドカスタム」には、ハンドパーツや特殊な形状の武装などもラインナップされ、『GBF』からガンプラに触れたライトなユーザーはもちろん、以前からガンプラの塗装や改造を行ってきた往年のガンプラファンにも喜ばれることになる。また、女性ファンにガンプラを手に取りやすくしたベアッガイⅢのラインナップなど、『GBF』は、ガンプラとして多数の新たな試みがなされるシリーズとなった。
2014
より個性的なガンプラが登場!
『ガンダムビルドファイターズトライ』
前作『GBF』の7年後の世界を舞台に、2014年から放送がスタートした『GBFT』。劇中でのガンプラバトルには1チーム3人によるチーム戦のルールが採用。劇中に登場するガンプラも「チーム戦仕様」を意識したものが多く、キャラクターもチームとして活躍している。こうした新たな要素に応じて、ガンプラもより個性的なラインナップとなった。ホシノ・フミナが愛用するSDタイプのウイニングガンダムは、パーツが分離してチームのガンプラの強化パーツとなる機構を採用。さらに他のチームが使用した、3機のガンプラが合体する機構や組み立て選択式でチーム内の別の機体を作れるなど、ガンプラのラインナップも増加。また、現在のBANDAI SPIRITSが展開するガールズプラモデルの先駆けとなった、「HGBFすーぱーふみな」はこの作品から生まれた。
2018
世界観を一新し、新たな可能性を模索
『ガンダムビルドダイバーズ』
前2作が「現実世界で自分の作ったガンプラを対決させる競技」としてガンプラバトルが描かれたが、『GBD』では、設定を一新。「ガンダムバトル・ネクサスオンライン(GBN)」という、オンライン上での仮想空間でガンプラに乗り込むというスタイルが描かれた。チーム同士でのガンプラバトルに加え、メンバーで協力してさまざまなミッションをクリアしていくなど、ガンプラバトルの方向性が大きく変化。ガンプラのコンセプトとしては『GBFT』から大きな変更点はないが、『機動戦士ガンダム00』、『機動戦士ガンダムAGE』、『Gのレコンギスタ』などの作品からのガンプラも加わり、登場機体の幅が拡大。また、劇中に登場した女性型のガンプラであるモビルドールサラもラインナップされ、HGBFすーぱーふみなに続き、ガールズプラモデルの基礎がここでしっかりと築かれることになった。
2019
カスタマイズの可能を
『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』
2019年にネット配信された『GBD』の続編。前作から2年後の世界を舞台にしており、「GBN」はバージョンアップされつつも前作と同じ仕様で登場している。ガンプラは、コアガンダムに使用目的に合わせた性能を持つサポートメカのアーマーフレームが運ぶ外装をドッキングさせることで、アースリィガンダムをはじめ、さまざまなガンダムに換装する「プラネッツシステム」を採用。他のサポートメカのパーツと組み替えるカスタマイズができるという新たなシステムが取り入れられた。さらにこれまでは、ガンダムビルドシリーズ共通の「HGビルドカスタム」としてリリースされてきたカスタムパーツは、「HGBD:R」として新たに展開がスタート。従来のビルドカスタムパーツのような追加武装に加え、コアガンダムに装着するためのユニットも多数ラインナップ。外装の組み替えをギミックとして楽しむ要素が追加された。
INTERVIEW
BANDAI SPIRITS
ホビーディビジョン開発担当
清宮僚太
───ガンプラ30周年となった2010年に、前身と呼べるOVA『模型戦士ガンプラビルダーズ ビギニングG』が放送され、その3年後の2013年から『ガンダムビルドファイターズ』がスタートとなります。この「ガンプラアニメ」が始まった背景にはどのようなものがあったのでしょうか? またその狙いを教えてください。
清宮 ガンプラも30年の歴史を重ね、宇宙世紀以外にもさまざまな世界観の作品から商品が展開していました。若い世代だと、生まれる前に放送したガンダム作品もありますので、ガンプラをきっかけにガンダム作品に触れるというケースも増えてきていたと思います。また、ユーザーが独自改造してオリジナルのガンプラを作る遊びも根強く存在し、そこには普遍的な楽しさがあると考えられました。そういった背景を受けて、ガンプラバトル自体をテーマにしたアニメが立ち上がりました。自分が好きなガンダムのカスタムガンプラを購入する層だけでなく、劇中に登場するカスタムガンプラから、基となった機体や作品に興味を持つ流れも期待でき、ガンプラビジネス全体の盛り上がりにつなげられるのではないか、という狙いがありました。
───HGBFやHGBDは、「HGビルドカスタム」というガンプラカスタマイズを目的としたシリーズの展開が特徴でした。このシリーズはどのような経緯で立ち上がったのでしょうか?
清宮 「ガンダムビルドシリーズ」の思想として、劇中のガンプラをそのまま楽しむだけにとどまらず、自分の手でどんどんオリジナルカスタムをしよう、という遊びの提案があります。それを実現するために、カスタムに使いやすいパーツを、手に入れやすいボリューム感で提供できるよう、ビルドカスタムシリーズの展開を始めました。HGBFには「ビルドブースター」のように劇中に登場する機体の強化パーツを独立販売したもの、ウェポンセットのようなもの、使いやすいジョイントパーツが含まれたもの、サイズの異なる拳パーツをセット販売したものなどさまざまなものがあります。ユーザーの試行錯誤でさまざまな使い方ができ、これまで以上にユーザーの皆様に楽しんでオリジナルガンプラをっていただく文化を促進できたと考えています。
───現在ではFigure-rise Standardや30 MINUTES SISTERSシリーズでガールズプラモデルを数多く展開していますが、その源流を辿っていくと『ビルドファイターズトライ』の「HGBFすーぱーふみな」に辿り着きます。ここから現在に至るまでで、段階的な進化を重ねていますが、ターニングポイントになったアイテムまたは事象はありますか?
清宮 「HGBFすーぱーふみな」の時点でも、カワイイとカッコイイを共存させたエポックメイキングなアイテムではありましたが、構造や形状再現の面でも試行錯誤を重ねていた段階でした。その後も「ガンダムビルドシリーズ」内で「ふみな」の系譜を継ぐアイテムはさまざま展開しており、その都度新しい表現を取り入れていきました。転機となった事象を上げるとすると、「HGBD モビルドールサラ」でのMS形態とリアル形態を選べる構造は、関節構造の共通化や組み替え遊びにつながっていますし、「Figure-rise Standardダイバーアヤメ」からは水転写式デカールを導入したことでフェイス表現が格段に豊かになったなどの点が挙げられると思います。
───『ビルドファイターズ』以降、『ビルドファイターズトライ』、『ビルドダイバーズ』、『ビルドダイバーズRe:RISE』とシリーズが続いていくなかで、ガンプラとしてはどのように差別化を図っていきましたか?
清宮 『ビルドファイターズ』と『ビルドファイターズトライ』では、宇宙世紀作品から『ガンダムSEED』『ガンダム00』までをベースとした機体の比率が高かったですが、『ビルドダイバーズ』と『ビルドダイバーズRe:RISE』では、新規の若いユーザー層を意識し、『ガンダム00』を中心に『ガンダムAGE』『Gのレコンギスタ』など、比較的新しい作品やキットをベースとした機体が多いという点が挙げられると思います。また、組み替え構造のノウハウも蓄積したことで、『ビルドダイバーズRe:RISE』では「コアガンダム」を核としたプラネッツシステムによる「カラー×武装」のカスタマイズや、「HGBD:Rリライジングガンダム」などの複雑な変形機構を盛り込んだ商品にも挑戦しています。
───最新作『ビルドメタバース』は、「ガンダムメタバース」や「ガンプラバトルVR」など、現実世界とのリンクが強く感じられ、ひとつの到達点のように感じられます。今後のガンプラアニメの展望があればお聞かせください。
清宮 ガンプラの構造進化により、ユーザーの楽しみ方の選択肢が広がってきており、より手軽に自分オリジナルのガンプラを作りやすい環境が構築できてきたのかなと思います。また、技術の進化によってデジタルとの掛け合わせで、夢見ていたような「自分のガンプラに乗って戦う」遊びが実現する未来が見えてきました。まだまだ技術的には入口だと思っていますので、デジタル技術を活かした楽しみ方を深めていきます。今後のアニメ展開は未定ではありますが、今後もガンプラアニメのようなものを作っていくのであれば、ユーザー自身が思い思いのガンプラを作って、劇中世界観にもっと浸れる「なりきり」のような概念を強めていけるのではないかと考えています。
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