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【極鋼ノ装鬼 外伝】 第4話「地中海戦線」【境界戦機】

2023.09.07

境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES 月刊ホビージャパン2023年10月号(8月24日発売)

【極鋼ノ装鬼 外伝】 第4話「地中海戦線」【境界戦機】

紡がれる物語ストーリーズ
その先にあるものは…

 SUNRISE BEYOND×BANDAI SPIRITSのタッグでついに配信がスタートした映像最新作『境界戦機 極鋼ノ装鬼』。本編と連動して公式外伝『境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES』が「月刊ホビージャパン」本誌にて展開中だ。
 南海に浮かぶ孤島を舞台とした本編に対して、本作はそこにリンクしたストーリーがいくつかの視点で描かれる。篠塚智子氏が手掛けるシナリオに本編スタッフが参加することで描かれる新たな物語。ビャクチEXとともに地中海戦線に参加している三澤ジンは、そこで彼の今後の人生を大きく変えることになる出会いを果たす。

STAFF

 企画
SUNRISE BEYOND
 シナリオ
篠塚智子
 キャラクターデザイン
大貫健一
 メカニックデザイン
海老川兼武
 協力
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン
ホビージャパン

境界戦機 極鋼ノ装鬼

公式サイト https://www.kyoukai-senki.net/kyokko-no-souki
公式 Twitter @kyoukai_senki

BANDAI SPIRITS 「境界戦機」プラモデル公式サイト https://bandai-hobby.net/site/kyoukai-senki/


第4話「地中海戦線」

 依頼元は小さな町のレジスタンスだった。
 山間部にある中心地から輸送車を乗り継いでその地に辿り着いた三澤は、潮風と共に漂う鉄と弾薬の生温い匂いに目を細めた。通りのあちこちにゴミ山のように瓦礫が積もっており、小さな病院に人々が列を成していた。
 レジスタンスの拠点がある港町に着くなり、リーダーである中年男性のヨハン・グリフォスは食事を勧めてきた。丁度昼食の時間だという。


「先月は毎週のように襲撃があって、俺達のアジトも破壊された。悪いが今は仮設のテントとビルで過ごしてもらう」


 飲食店は駅前に面したこの大通りにしかないんだ、と続けながら、ヨハンはくちゃくちゃ安酒と焦げたサーモンソテーを噛み締めた。


「北米軍はここを地中海の拠点にしようとしているのか」

「あいつらの考えてることはわかんねぇな。ろくでもない連中だ。どんどんタチが悪くなってきてる」

「奇襲か」

「それだけじゃない。奪略に虐殺……」


 ヨハンは苦し気に笑い、三澤は思わず顔を歪めた。


「俺達みたいな小さな町は、自分達で身を守るしかない。お前を巻き込んで悪いが…頼りにしてるぜ三澤ジン」


 三澤は頷き、レストランの軒先を見遣った。貧しそうな身なりの子供が、店のゴミ箱を漁っているのが見えた。
 元々ここは地中海に面し、温暖な気候と伝統織物で知られる港町だった。資源豊かな場所ではないものの、深い入り江を玄関口になだらかな傾斜のある町並みが広がり、奥には他国を隔てるような山脈が聳えている。確かに北米軍が駐屯地として目をつけても不思議でない立地だった。
 レジスタンスは埠頭の傍にあった工場地帯を更地にして拠点にしていた。宿泊所の隣には戦闘車両や武器を保管した巨大な武器庫があり、仮設状態のテントには三澤と共にやって来たビャクチEXが設置されていた。


「それが例の新型AMAIMですね」

「ああ。君達がパイロットか」


 三澤がビャクチの点検をしていると、早速数人の若者が話しかけてきた。
 レジスタンスに他にも新人パイロットがいるらしいことを、三澤は事前にシャーリーから聞いていた。
 年の頃はベンヤミンの少し上といったところか。日に焼けた健康的な若者に手を差し出されて挨拶を交わす三澤だが、彼らから予想外の言葉を聞かされることになった。


「来てくれたのはありがたいですけど、戦闘は俺達に任せてほしいんです。この町に新型AMAIMがあるってことが北米軍にバレたら、かえって標的にされるかもしれないんで」

「最悪、ユーラシア軍や他の連中に狙われる可能性も出てくるしな」


 と、隣の青年も頷いて同調する。


「いやしかし……対AMAIM部隊を率いてほしいと頼んできたのはヨハンだぞ」


 面食らいながら三澤は抵抗した。レジスタンスは自分の経験値を買ったのではなかったか。


「まぁ……それはそうだけど、リーダーはどうせ後ろにいるしな」

「実際、町を守るのは俺達だ」


 若者達は、言い捨てるようにして踵を返した。
 三澤が唖然と見送っていると、珍しくモンドが話しかけてきた。


「先が思いやられるな」

「ああ。どうやら一筋縄ではいかないようだ……」



 それから他の隊員と話したり街を歩いたりするうちに、三澤はレジスタンスが一枚岩でないこと、町の人々と彼らとの間にも微妙な温度差があることがわかってきた。
 そもそも地中海中東連合の統治下にあった頃から彼らは圧政に苦しめられていた。労働力が搾取されインフラ整備の行き届かない状態で、町も人間も疲弊。連合の中心人物や多少なりとも資産のあった人々はとうに街を出ているようだった。残されたヨハンはじめ、軍人崩れの連中が自警団として盾になろうとしているのだが、お世辞にも体制作りが上手くいっているとは思えなかった。


「要するに素人集団なわけだ」

「辛辣な……。戦闘不足でストレスが溜まっているのか」

「いえ。私はただ懸念しているのです。この町と、あなたの行く末を」


 モンドはベンヤミンが育てたAIの中でも最も寡黙で穏やかな性格だった。その割に戦闘になると攻撃の手を緩めない、ストイックな傾向があり三澤と気が合った。



 モンドの懸念は当たった。一ヶ月程が経ち襲来の気配がないと察すると、組織は急速に緩み、些細なことで言い争うようになっていった。ヨハンは今のうちに入り江の一部を埋め立てて防衛のための足場にしようと主張するが、地元の漁師達が反発。若い隊員達はその資金をアジトの改修に当てるべきだと言い張った。
 内部統制が取れない皺寄せは三澤にも波及し、雇われパイロットの立場はますます弱くなった。最初こそ物珍しがっていた住民達もやけに余所余所しい。若いパイロット達が、三澤の伺い知れぬところでデマを吹聴している節もあった。
 やることのない三澤は、海岸沿いをトレーニングし、日が暮れるとビャクチのあるテントで過ごすのが日課になっていた。


「その様子じゃ、まるで番犬ね」


 モンドを通じ、予備パーツの相談を工場と交わしていた三澤はルビーに笑われた。


「それにしたって暇すぎる」

「話し相手でも見つかるといいのにね。ベンヤミンみたいな」

「あいつはどうしてる?」


 ベンヤミンは今ではすっかりAMAIM開発にのめり込み、ビャクチの後継機に対応すべく搭載AIの改良に励んでいるらしかった。 
 シャーリーとフィリッポの痴話喧嘩の顛末を聞いて通信を終えた三澤が、テントの隅の寝袋に横たわりやがて目を閉じた頃……テントの入り口付近から物音が聞こえてきた。
 最初は隊員の誰かかと思ったが、どうも気配が危なっかしい。そぞろ歩きの音がパーツ棚に向かったのを察知して三澤は口を開いた。


「誰だ」


 気配はすぐさま逃げ出すように動きだしたが、地面のコード類に足を取られて転んだ。
 三澤が入り口を塞ぐように立ち照明を点けると、そこに居たのはまだ小さな男児だった。


「なんだ……。迷子か?」


 虚を突かれた形で三澤が立ち尽くしていると、子供は口を真一文字にしたまま三澤の腰元に抱きついてきた。
 どう接すればいいのか戸惑いながら子供の頭に手を置いた次の瞬間、子供が三澤の護身用の銃を奪って外に駆け出した。


「待て!」


 逃げ足の速い子供になんとか追いついた三澤は、逃げようとする体を抱きかかえて上に持ち上げた。
 ジタバタもがく子供の肘が三澤の顔にぶつかり、三澤は思わずその場に蹲った。


「こいつ……!」


 流石に苛ついた三澤は子供の足首を掴んで引き倒した。脱いだ靴を投げつけて抵抗を示す子供から銃を取り上げようと三澤が覆い被さると、背後から「やめなさい!」という鋭い声が投げかけられた。
 ツカツカとヒールを履いて駆けつけたその女を見て、三澤は子供を抑えつける手を解いて、両手を軽く挙げた。やって来た女は、おそらく子供の母親だろう。
 彼女は蹲っていた子供の肩を掴んでしゃんと立たせると、思い切りその頬を打った。
 途端に子供は火が付いたように泣き出した。


「銃は返すから。私に免じて許してやって」


 呆気にとられる三澤に銃を返すと、女は子供を引きずるようにして去っていった。
 白いワンピースが溶けるように肌に張り付いた彼女は、月光に浮かぶ幻影のように消えていった。



 二度目に会った時、彼女は別人のように生き生きと、路地に建つ教会と思しき建物の外壁を塗っていた。


「なによ。誰にこの場所を聞いたの?」

「ヨハンに……。レジスタンスのリーダーに聞いて来た」


 三澤が、子供の靴を返しながらそう伝えると、灰色のツナギを着た彼女──ノアは苦々しく笑った。


「ったく。あの人はなんでもペラペラと……」

「ここは教会か?」

「元々はそう。今でも週に一度、日曜の朝だけは礼拝をやっているけどね。普段は子供達の家よ」

「子供達の……?」


 ボロボロのドアを開け、ノアが中に呼びかけると、昨日の子供が飛び出してきた。


「ほら、言うことあるでしょ」

「その……昨日はごめんなさい」


 促されて渋々と頭を下げる子供の後ろから、待ち受けてきたように次々と子供が駆け出てくる。
 ぎゅうぎゅうと十人近くが狭い路上に出てきたので、三澤はぽかんと口を開けて感心した。


「大家族なんだな……」


 三澤のつぶやきを聞いた途端、ノアは爆笑しだした。


「あなたって変な人! 何て名前なの?」


 そうしてノアは孤児院の中に三澤を招き入れた。



 ノアは元々アメリカからやって来た実業家の娘だったが、この地で地元民と結婚して、病院を経営していた。しかし数年前の襲撃によって未亡人となり、以来、所謂戦争孤児となった子供達の居場所作りに奔走していたのだ。


「ただ孤児院で保護すればいいってわけじゃない。暖かい部屋の中が好きな子もいればストリートが好きな子もいるし。彼らそれぞれが選択することが大切なの。昨日の子、ルイは孤児院にいるけど、前はずっとストリートで盗みを繰り返してた。きっと急に環境が変わったストレスで暴走しちゃったのね……」


 淡々とノアは話した。とりわけここ数年は路上で暮らし、食料や廃材やらを盗んで生活の糧にしようとする子供達が増えたという。


「北米軍の襲撃のせいか」

「彼らは私達に強力なバックがないことをいいことに、人道法も倫理観も無視する。でも、それらを止められない私達の責任でもあるわ。子供達の孤独は」


 ふっと寂しそうに俯いたノアを見て、三澤は思わず尋ねた。


「何か俺に出来ることはないか」


 そうして三澤はノアが中心となって活動している孤児院の改修工事や、路上生活者への物資の配布、夜間の見回りなど、地元住民達と行動を共にすることが多くなっていた。
 住民の多くは、ノアのような戦争未亡人だったり遺児だったりと、暴力で踏み躙られた経験を持つ者が殆どで──それ故、三澤が前線の傭兵且つAMAIMのパイロットだと知ると戸惑ったり、露骨に敬遠するような表情を浮かべた。しかし、ノアはそのたびに間に入り、彼のような部外者にこそ開いていくべきだと説得した。


「このままでは町からどんどん人がいなくなって、私達は孤立してしまう。それこそ敵の思うつぼだわ。戦士なら戦いの終わらせ方もわかるはず。そう信じて、今は協力者を頼りましょう」


 ノアには不思議な求心力があった。家族を失った人々を中心に三澤への偏見は弱まってゆき、三澤もまた、さびれた港町に残る人々の体温を近しく感じるようになっていった。



 その頃、工場のベンヤミンは記憶領域の拡張にいち早く成功したメェをベースとして、あらゆるパターンの戦闘シチュエーションを試していた。


「もう! ベンヤミンの相棒はいい加減くたびれちゃった! さっさとアタシを戦場で活躍させてよね!」


 後継機ともなれば様々な経験値のパイロットが乗ることになる。当の開発者だが操縦者として未熟なベンヤミンは格好のトレーニング相手になるはずだったが、口達者になったメェにけちょんけちょんに言われてしまう。


「焦らなくてもそのうち三澤のところに合流させるって。頼むからキンキン叫ばないでよ!」


 そう口を尖らせるベンヤミンに、腕時計のミャアが喋りかける。


「ところがそのモンドが静かなんだ。元々連絡はよこさない質だけど、戦闘の只中になったら流石に何かしらの予感を感じるはずだ……」

「ミャアってば! まーた仙人みたいなこと言っちゃって!」


 実際、ここ最近のミャアはAMAIMに搭載されるのを忌避するようになってしまっていた。自律思考型が開花するのは奇跡だが、ひとたび意志を持てばこういうケース──つまり、『AMAIMに乗らないという意思を示す』ことが有り得るのだと思い知って、シャーリーはじめ工場スタッフ一同は天を仰いだものだ。


「三澤達の無事はルビーが確認済み! 単に待機中なんだろ」


 ベンヤミンはミャアにピシャリと言った。彼としてはミャアが自我を発揮することに何の違和感もなかったし、三澤とモンドが元気であれば、地中海の治安がどうであろうがどうでもよかった。
 ビャクチEXはおそらく北米軍を蹴散らし、三澤とモンドは連帯を深めて帰って来るはずだ。その時、自分がまた彼らのためにどういう提案が出来るか、三澤と共闘出来るか、そのことのみを気にかけていた。


「さぁミャア、次の戦闘パターンを考えてくれ」

「了解。そしたらメェ、もう一度水平移動からのドローン射撃をやろう」

「だからそれもう飽きたってば!」



 ノアの協力を得て三澤は小さな港町に順応してゆき、次第にレジスタンス内部でも、三澤に対する余所余所しい態度が軟化していった。
 ヨハンが三澤に若手の教育を依頼したことも影響した。パイロットも隊員達も、戦いがなく緩みきっていたため、三澤の本格的なトレーニングはいい刺激になったのだ。


「それにしてもきつすぎる……」

「けどジンはこれを毎日三セットやってるんだろ。有り得ない……」


 湾岸沿いを何往復もし、自重トレーニングをスクワットで締める頃には、多くの人間の一日が終わっている。ぐったりして道端に転がっていると、潮風とは違う、香ばしい匂いが漂ってきた。兵士達が顔を上げると、子供達がガラガラと荷台を押してくるのが見えた。


「ノアだ……!」

「お待たせ。仲良く食べなさい」


 孤児院に関わる人々によって、レジスタンスに食べ物の差し入れが届くようになったのは、三澤から組織の士気が低下していると聞いたノアの発案だった。


「旨いシチューだ。ありがとうノア!」


 小さな港町のこと。気立てがよく、美しく働き者の彼女は元々人気者だった。過去にヨハンと些細なことで喧嘩をしたことをきっかけに基地からは遠ざかっていたが、三澤と行動を共にする内、徐々にではあるが彼らとの関係を修復していったのだ。


「頑固だが悪いやつじゃあない。嫁にしてくれと頼まれたら俺だって考えないでもねえよ?」

「そういうことを言うから嫌がられるんだろ」

「ははは! ちげえねえ。ジン、おまえってやつは見た目とは違って物分りがいいな!」

「どういう意味だ……」

「とにかく俺はよ、この町に暮らす奴らをみんな好きなだけなんだ。ほんとだよ」


 それはよくわかった。ヨハンは何事も粗雑で皆から煙たがられていたが、部下を貶めたり役に立たないからと切ることはなかった。それはここにいる兵士達もそうで、皆不器用で口は悪いが、退屈だからと町を逃げ出すということはなかった。逃げ出せないから、だけではない。どうやらこの町への愛着が強いようだと、三澤はだんだん理解した。それは三澤にとって、これまで感じたことのない奇妙な感情だった。



 北米軍の襲撃を受けたのは、数日後の明け方のことだった。

境界戦機 極鋼ノ装鬼SS 4-1

 彼らは巨大な揚陸艦で埠頭に乗り付け、アジトの破壊を目論んで上陸しようとしてきた。


「撃て撃てー!」


 見張り塔周辺にいた隊員達が中心に狙撃をし、敵陣の乗り入れを阻止しようとしたが、揚陸艦で三機のAMAIM──ブレイディフォックスが立ち上がるのを確認すると、ヨハンはたちまち退くように命じた。


「総員、基地に退避せよ!」

「ダメだ。ここで引いたら──」


 トレーニング中の湾岸沿いから駆けつけた三澤はビャクチEXに乗り、尻込みしている隊員達を守りながらも、敵機に向かってゆく。


「俺達が埠頭で止めよう。そして終わらせる!」


 三澤の激に促されて、パイロット達も二機のAMAIMに乗り込んだ。 北米軍で使用されていたジョーハウンドを回収し、細かい仕様を調整したものだ。


「まずは一機撃破だ。焦らず機体中心を狙え」

「了解。ライフル用意」


 モンドと連携しつつ三澤の内心は落ち着かない。これまでに町をAMAIMが襲ったのは一度きり。しかも一機だったと聞く。年若いパイロット達は懸命にライフルを敵機に向けて発射しているが、本気の構えを見せる北米軍に対しては心許ない。


「よし! 当たった!」

「さっさと出ていけ北米軍!」


 敵機に数発の弾が命中して沸き立つレジスタンスのパイロット達。
 しかしブレイディフォックスが反撃を開始すると防戦一方になり、間合いを詰められると思わず背中を向けて駆け出した。


「馬鹿か! そっちは!」


 三澤が呼びかけるも虚しくジョーハウンドは町中へと逃げた。コンクリートビルに身を隠すように屈んだところを敵機に襲われると、ヨハンら、地上で人々を守ろうと駆け回っている隊員達に混乱が広がった。
 揚陸艦からは戦闘車両が送り込まれ、レジスタンスがすっかり退いた港近辺に敵兵達が降り立った。


「三澤、どうする」

「くっ……」


 攻撃されているジョーハウンドの救出にも行きたいが、基地を野放しにも出来ない……。三澤が決断を躊躇していると、足下で爆発が起こった。


「船か!?」

「いや、これは……──手榴弾!」


 モンドの発言に目を見張ると、小銃を構えた住民達が続々と港に向かっているのがわかった。
 戦闘車両を囲むように包囲し、海上の揚陸艦目がけても発砲がなされている。
 市街地に目をやると、そこでもAMAIMの周囲に小さな爆発が起こっているのが見える。レジスタンス側の戦闘車両に隠れるようなノアの姿を発見した途端、ビャクチEXは駆け出した。
 地面に転がったジョーハウンドを押さえつけ、脇から取り出したナイフでとどめを刺そうとしているブレイディフォックスに追いつくと、ビャクチEXは敵機の背面に深くマチェットを突き立てた。



 数時間後、レジスタンスはなんとか北米軍を撃退した。
 劣勢となったジョーハウンドを救い、ブレイディフォックス一機に壊滅的ダメージを与えた三澤がコクピットを降りると、人々が駆け寄って来た。


「やったなジン! お前のおかげだ」

「見たかあいつらを。青くなって引き上げてったぞ」


 気色ばんだ人々の顔を眺めながら、三澤は低い声で一蹴する。


「隊列がグダグダだ。前線で粘れないと全滅するぞ……」

「相手はAMAIM三機だぞ! 住民を守るようするのが手一杯だった」

「守れてないじゃないか!」


 三澤は悔しそうに怒りを滾らせた。


「事もあろうに市街地へと敵を引っ張った。一般市民を巻き込む行為は言語道断だ!」


 ジョーハウンドのパイロット達は負傷して病院に運ばれていた。他にも、道端では多くの隊員が怪我の手当てを受けていた。


「──けど、私達のおかげで勝てたじゃない」


 怪我人に手当をしていたノアが、三澤に向けてはっきりと声を上げた。


「ゲリラ戦は有効だわ。これからはもっと市民を訓練すべきよ」

「本気か……?」

「勝つにはこれしかない。私達に出来ることはすべてやりたいの」


 ノアの意志は固く、そして、周囲の人々も同意の頷きを示した。そう、彼らにとって街を見捨てることは自分自身を見捨てることと等しかった。


「そこまでしてやると決めるなら、相応の覚悟がいるぞ」


 三澤は、そこにいる人々の顔を厳しく睨みつけた。



 北米軍の基地では、少佐であるグレイディ・エリソンが地中海戦線の状況について報告を受けていた。
 部下によれば新型AMAIMに乗ってレジスタンスに勝利をもたらしたのは、一介の傭兵であるという。


「三澤ジンか。覚えておこう」


 嘆息したエリソンが見上げる先には、夕闇のように光る、彼の専用ブレイディフォックスが待機していた。

境界戦機 極鋼ノ装鬼SS 4-2

(つづく)


【境界戦機 極鋼ノ装鬼 SIDE STORIES】

第1話「天才少年」

第2話「テストパイロット」

第3話「ベンヤミンと三澤」

第4話「地中海戦線」 ←いまココ

第5話「南海の孤島」

第6話「知念とベンヤミン」 (終)


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