アニメ『SYNDUALITY Noir』監督・山本裕介スペシャルインタビュー
2023.08.07『SYNDUALITY Noir』監督 山本裕介インタビュー 月刊ホビージャパン2023年9月号(7月25日発売)
SPECIAL INTERVIEW
『SYNDUALITY Noir』監督
山本裕介氏
インタビュー
メイガスとともにクレイドルコフィンに乗り、ネストの運営に必要なエネルギー資源・AO結晶を採掘する冒険者たち=ドリフターの姿を生き生きと描く『SYNDUALITY Noir』。いよいよ放送が始まった本作で監督を担うのは、『アクエリオンEVOL』や『ナイツ&マジック』など数多くの作品を手掛けてきたベテラン・山本裕介氏だ。ここでは山本監督にインタビューを行い、『SYNDUALITY Noir』の制作過程や見どころについてお話を伺った。
山本裕介(やまもと・ゆうすけ)
1966年10月24日生まれ、島根県出身。制作進行としてサンライズに入社後、リードプロジェクトを経て、現在はフリー。主な監督作に『ケロロ軍曹』『アクエリオンEVOL』『ヤマノススメ』『ナイツ&マジック』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など。
取材・構成:太田祥暉(TARKUS)
――山本監督が『SYNDUALITY Noir』に参加されたのはいつ頃だったのでしょうか。
今から4年近く前だったと思います。ゲームが先行している企画だったので、その時点ですでにコフィンやメイガスといったキーワード、「新月の涙」や人々が地下で暮らしているという設定などといった土台が決まっていました。なので、まずはその設定に則りながらそれをどうアニメの世界観に落とし込んでいくか? を考えるところからのスタートでした。
――世界観を作っていくにあたり、アニメ側からゲーム側に提案した要素はありましたか?
ゲームのほうでまだ固まっていない部分も多かったので、細かい部分で結構提案させていただいたと思います。例えば、サポートメカである「キャリア」の存在とか、コフィンのVRコックピット表現やブルーシストの「青い雨」が降る情景の処理などはアニメ側から提案したものです。キーワードとして存在する「青い雨」ですが、文字通りに雨を青く描いてしまうと絵の具が降っているような印象になってしまうんです。なので、そこはあくまでレトリック的な表現だと解釈させてもらいました。
世界観といえば、最初に設定を聞いてお手本にしようと思ったのが『戦闘メカ ザブングル』だったんですよ。ロックマンたちが乗りこむウォーカーマシンがあって、ブルーストーンを掘りに行く。しかもドームシティも出てきて……と言った点などが本作と共通していたので。カナタ達のジョブである「ドリフター」というのは「ロックマン」と「ブレーカー」を合わせたようなイメージ。コフィンのアクションも一部『ザブングル』を例に出してスタッフにイメージを伝えたりしましたね。
――コフィンデザインを担当された形部一平さんも、『ザブングル』のウォーカーマシンを参考にされたと仰っていました。
形部さんと直接『ザブングル』の話をした記憶はないのですが、通じ合っていたんですね(笑)。ただ『ザブングル』と同じ荒野ばかりのビジュアルでは色合いに乏しいので、『SYNDUALITY Noir』はもっと色彩感を豊かにしようと考えました。近未来的なSF作品だと、ともすれば『ブレードランナー』みたいなダークな世界が連想されがちですが、本作は逆にカラフルな未来都市にしようと。薄汚れたコンクリートとアスファルトの街ではなく、プラスチックで作られたような清潔な街が大自然の中に点在していて、そこをハイウェイが繋いでいる未来世界。閉塞感を感じさせない、外に飛び出したくなるような世界を作ろうと思っていました。
――確かに、世界の崩壊を経験しているという設定でありながら全体に明るいムードが漂っているのが本作の特徴だと感じました。
「とにかく明るい作風にしよう」というのが最初にプロデューサーの松田(宙)さんから打ち出された方針だったんです。本作は人々が半地下から新天地に乗り出していく再生のお話なので、これから冒険に飛び出すぞというアクティブさを前面に押し出しています。なので登場するキャラクターたちもみんな前向きで、たとえ悪役であっても基本的にカラッとした人たちなんですよね。
――ストーリー原案の鴨志田一さんとシリーズ構成のあおしまたかしさんは、どのような経緯でオファーされたのでしょうか?
鴨志田さんは僕が参加する以前から松田プロデューサーがお声掛けしていたんです。あおしまさんは僕が監督を担当した『推しが武道館いってくれたら死ぬ』に各話脚本として参加してくださった縁があったので、現場サイドからお願いしました。鴨志田さんからすごい剛速球が投げられてくるので(笑)、それを現場が受け止めてあおしまさんが投げ返す…というキャッチボールのような形でどんどんストーリーが膨らんでいきました。鴨志田さんには原案だけでなく、脚本も何本か書いていただきましたし、毎話本読みにも立ち会ってもらいましたので、非常にハイレベルで濃密なお話作りができたと思います。
――本作の主人公、カナタとノワールのキャラクターについてお教えください。
カナタはへっぽこで、ノワールはポンコツ……あまりいいイメージのない言葉ですけど、そんなふたりがトライ・アンド・エラーを繰り返しながら成長していく姿が本作の見どころだと思います。「ボーイ・ミーツ・ガールの物語」でもあるけれど恋人同士とはちょっと違った「相棒の成長物語」を描くことが目標です。『SYNDUALITY Noir』は「ロボットもの」というよりは「ロボットが出てくる冒険もの」であって、あくまでもキャラクターがメインの物語と捉えてキャラ同士の掛け合いやその関係性を重視しています。コフィンも物語において重要なパートナーではあるけれど、主役ではない。だけどコフィンの描写だって全く手は抜いてませんよ。
――キャラクターのビジュアルはどのように決められていったのでしょうか?
まず鴨志田さんのストーリー原案をもとに僕が外見的な特徴やバックボーンなどのメモを作り、それをキャラクター原案のnecoさんに渡して全体のビジュアルや色合い、服装などをデザインしていただいています。ダニエルやマムやボブのような渋めのキャラはキャラクターデザインの桂憲一郎さんに肉付けしてもらった部分も大きいですね。
ノワールの特徴とも言えるだぼだぼのジャケットを着崩したスタイルはnecoさんのアイデアで、「この子はジャケットがちゃんと着れないんです」と説明をいただいた時にはなるほど! と思いました。そこで当初はお話になかったノワールが上手く服を着られないという描写も追加しました。デザインそれ自体も可愛いですし、着ようとしてもなぜか上着がずり下がるというコミカルなシーンも印象的になったと思います。
――「メイガス」はほぼ人間に近いヒューマノイドですが、人間とメイガスで描写を分けている部分はございますか?
メイガスだからこう描こうみたいなことはあまり意識せず、ひときわユニークな個性を持った「人」として演出するようにしています。とは言っても人間なのかメイガスなのかは明確にしたいので、喉元にある逆三角形の共通意匠(ナブラ)は、なるべくフレーム内に入れ込むようにしています。基本的には人間の良き隣人というポジションですが、今後はノワールとは何者なのかという謎はもちろんのこと、メイガスそのものに関して、もっと深いテーマにも踏み込んでいきます。鴨志田さんとあおしまさんを始めとするライター陣のおかげで、想像以上に奥行きのある物語になっていますので、ご期待ください。
――本作のロボット「クレイドルコフィン」の描写についてお聞きできればと思います。コフィンの描写として意識されたことは?
まずはコフィンというメカをビビッドに描写すること。マシンの外観や動かし方でトキオを代表とするドリフターという人種がどんな連中なのかを視覚的に伝えたかったんです。それと、コフィンは作中の世界の「子供の憧れ」になり得るようなメカにしたかったので、キャリアとセットで、フォーミュラカーやラリーマシンのようなイメージも持つロボットにしたいと思いました。さっき話した「色彩感あふれる世界」の重要な要素の一つでもあります。
――山本監督はこれまでもいくつかのロボットアニメに携わってきましたが、本作ならではの特徴を挙げるとしたらどのような点がございますでしょうか?
コフィンが主人公達の身近な存在であること。例えば以前自分が監督した『アクエリオンEVOL』だと、格納庫にアクエリオンが立っているビジュアルは一切描いてないんですよ。人型でいるのは戦っている時だけで、格納されているのはベクターマシンに分かれた状態ですから。『SYNDUALITY Noir』はロボットが日常的な景色の中に佇んでいる世界にしたかったんです。なので、コフィンのすぐ側でキャラクターが芝居する場面は意図的に増やしています。ドラマチックな場面にもなるべくコフィンが居合わせるようにする。制作は大変になってしまうんですけどね(笑)。
――戦闘シーンで気を付けられたことは?
アクションはスピード感を重視しています。それと操っているドリフターのパーソナリティがコフィンのアクションにも表れるように演出しています。ドリフターの技量が高ければ高いほど、地団駄を踏んだり、蹴りを入れてみたりとコフィンの動きがより人間的になっていくんです。カナタの機体は一番真面目な動き方をしますし、エリー機であれば内股で、ちょっと女の子っぽく見えるとか(笑)、そういった描きわけにも『ザブングル』の影響はありますね。
――すでに放送・配信された第1話にて、山本監督はコンテを担当されています。コンテを書かれる上で特に力を入れられたことは何ですか?
オリジナルアニメの第1話ですから、とにかく冒頭で物語世界を感じてもらえるようにすることです。雨を極端に嫌がる人々がいて、そうじゃない人=メイガスもいる。現れた怪物には二人乗りのロボットで立ち向かって、逃げるときにはキャリアを使う。必ずしも敵を殲滅することが目的ではなく逃げれば勝ち。そして辿り着いたネストとはどんな街で‥‥‥と、情報の整理を心がけてコンテを書きました。第1話は内容がてんこもりで尺が足りず、できるだけ無駄を削ぎ落としたんですが、それでもオープニングとエンディング、どちらもカットになってしまいました(笑)。
――キャストの演技はいかがでしょうか?
カナタ役の大塚(剛央)さんをはじめとしたキャスト陣には、とにかく毎回元気に演じてほしいと伝えていました。ただノワールは例外で、古賀(葵)さんには常に感情を抑えて淡々と芝居するようにお願いしました。しかもノワールに関する情報は一切教えないでね(笑)。台本に書いてあること以上は分からないから、まさにノワールと同じ「私は誰ですか?」という状態ですね。しかも、ノワールは息芝居やリアクションも極力入れないと決めたので、古賀さんは台本にある少ないセリフだけでノワールを演じなければならないんです。そんな厳しい条件の中ですが、見事に期待に応えてくれていると思いますよ。
――これから注目していただきたいポイントは?
とにかくノワールが可愛いです(笑)。そしてコフィンがカッコいいです! というのは強調しておきつつ、3話からは黒仮面の謎も加わってきますね。彼は何者なのか、どういった目的で動いているのか? それと、これからもさまざまな個性的なネストが登場しますので、物語の舞台にも注目していただければと思います。カナタたちとともに『SYNDUALITY Noir』の世界の冒険を楽しんでもらえれば嬉しいですね。
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