外伝小説『SYNDUALITY Kaleido』連載スタート! ep.01「ジョンガスメーカー」
2023.08.08SYNDUALITY Kaleido 月刊ホビージャパン2023年9月号(7月25日発売)
『SYNDUALITY Noir』のサイドストーリーが描かれる外伝小説『SYNDUALITY Kaleido』がスタート!
ep.01は本編より少し前の、トキオとジョンガスメーカーを中心にしたストーリー。ジョンガスメーカーの整備を行うカナタが見つめるトキオの背中。そしてトキオもまたそんなカナタを見守っていた。
読めばアニメ本編がもっと楽しめる一編!
STAFF
ストーリー/波多野 大
MODELS
ジョンガスメーカー製作/田中康貴
チェイサー製作/六笠勝弘
CHARACTER
DRIFTER
トキオ
MAGUS
ムートン
ep.01「ジョンガスメーカー」
――二二四一年。
強毒性の雨が、ひび割れ朽ちたハイウェイを叩きつけている。
無数の水たまりと、崩落箇所を滝のように流れる雨水は、どんよりとした雲とは対象的に真っ青だ。
ガシュ、ガシュ! ガシュ、ガシュ!
老朽化したコンクリートを踏みしめ、雨水を弾き飛ばしながら、ずんぐりとしたシルエットで二足歩行する金属の塊が姿を現した。
雨の色に負けじと毒々しいパッキリとした紫と緑の配色だ。
金属の塊は、人でいう所の右腕に装着した銃剣を振りかざし、オレンジ色の巨大な結晶を斬りつけた。
「おーい、ムートン。どうだ、純度は」
「坊っちゃん、お目が高い。このAO結晶ならば、かなりの金額で買い手がつくでしょうな」
彼らは、ドリフターと呼ばれる者たちだ。
暮らしのすべてを支えるエネルギー源、オレンジ色の結晶体【AO結晶】の採取を行い、売却益で生計を立てる。
「しかしよ、せっかくの上玉だってのに、ちびちび削るしかねえってのは、ちょっと食いたりねえよなあ。ま、贅沢は言えねえか。持てるだけ持って帰るぞ。今日は宴会だぜ、エドジョーのいつもの席、頼むわ」
「かしこまりました、坊っちゃん」
それから、彼らは何度か銃剣によってAO結晶を採取し、ハイウェイの向こうへと消えていった。
人が雨を避けるようになって、すでに百五十年近くが経過した。
その間に人類は多くを失い、まもなく新たな道具を得た。
ひとつは人類の隣人【メイガス】。
人類双対思考型AI搭載ヒューマノイド。
そしてもうひとつが、かの金属の塊。
クレイドルコフィン。
正式名称、汎天候巡行二脚。
一般にコフィンとも呼ばれるそれは、過酷な環境で生きざるを得なくなった人類が得た道具である。
▽ ▽ ▽
夕暮れを迎えたロックタウンで、ひときわ騒がしい店があった。
BARエドジョー。
「結晶拾い」帰りのドリフターたちが稼ぎを手に集い、店内は立ち飲み客も含めてパンパン。
危険な仕事をくぐり抜けアドレナリン全開にみなぎらせたドリフターたちの乱痴気騒ぎは店の風物詩だ。
最奥にある、VIPの3文字が自己主張強めに標示されたテーブルが今日の騒ぎの中心である。
空になったビンやボトル。
食べ散らかしたツマミがいろいろ。
無造作に散らかったテーブルの周囲には、酔いつぶれたドリフターたちが死屍累々と言わんばかりに転がっている。
「けっ、情けねえなあ」
薄茶色の髪をオールバックに固めたトキオは、どっかりとソファに腰掛けてジョッキをゆうゆう傾ける。
「坊っちゃん」
パリっとしたスーツを着こなし、紳士か執事を思わせる初老風のメイガスであるムートンが言った。
「ん?」
「ひとつ、残念なお知らせです。たった今、会計を済ませようとしたのですが残高が不足しており支払いできません」
「ちと調子に乗っちまったか」
トキオは、卓上の端から端に隙間なく並べられた色とりどりの立派なボトルを見て笑う。
「じゃ、ツケってことにしといてくれ」
「と、店のオーナーにも掛け合ったのですが、すでにツケの上限を迎えていることから断られました」
「まいったな。ま、でもこういう時、儲け話は向こうから勝手にやってくるんだわ」
ビビビ、とトキオが持つ情報端末に反応があった。
着信画面にはテオと表示されている。
「テオ、良いニュースだろうな?」
「もちろん。かなり質が良さそうなAO波をキャッチした」
「エンダーズは?」
「今は居ない。が、群れてくるのは時間の問題だろうね」
「サンキュー」
トキオは終話と共に情報端末をポケットに突っ込んだ。
「ほうらな」
「立て続けにツキがありますな、坊っちゃん」
ジョッキに残った酒を一気に飲み干して、トキオは立ち上がる。
「さて、酔い醒ましにカナタのケツでもたたきに行くか」
▽ ▽ ▽
トキオは自前のガレージのシャッターを開いた。
すると、すぐに弟分のカナタと目が合った。
カナタは、トキオの愛機【ジョンガスメーカー】を今まさに整備している最中であった。
「カナタ~、悪い。ジョンガスメーカー、すぐに出すぞ」
「うわっ、酒くさ!」
「大して飲んでねえよ、なあムートン」
「答えなくていいよムートン、どうせまたエドジョーの棚を片っ端から空けていく勝負でもしてたんでしょ?」
「さすがはカナタ様。坊っちゃんのことをよく知ってらっしゃる」
「カナタ、今の段階で何%くらい?」
「あのねえトキオさん、ほんの数時間前に帰ってきて俺に色々整備の注文つけておいて、いつの間にか飲みに行ったと思ったら今度はすぐに出撃なんて身勝手にも程がありますよ!」
「なんだよカナタ、おかたい女房みたいなこと言うんじゃねぇって。お前の腕なんだから、もう出撃くらいは出来るんだろ?」
「も、もちろんですよ!」
「ならオッケー」
「あ、でも、こないだ提案した新しい――むぐっ」
カナタはなにかを言おうとしたが、トキオの人差し指が彼の唇に当てられて遮られた。
「与えられた状況でなんとかするのがドリフターってもんだ」
ニヤっとトキオが笑う。
「シャワー浴びてくっから」
そう言って、トキオはガレージを出ていった。
カナタは兄貴分の身勝手な行動に少し辟易する。
「まったく……しょうがないなあ、あの人は」
だがトキオの背を見送るカナタは笑っている。
傍若無人でぶっきらぼうだが、コフィンに乗ればとにかく強い。
誰もが尻込みしそうな難所にも単独で挑み、破格で売れるAO結晶を持ち帰ってしまうのがトキオなのだ。
まさに孤高のドリフター。
今はまだ整備担当に甘んじるカナタ少年の目には、トキオの背中は憧れそのものでもある。
「こう言ってはなんですが、カナタ様」
ムートンがカナタに声をかける。
「うん? なに?」
「坊っちゃんは、カナタ様の整備に全幅の信頼を寄せています。坊っちゃんがこれほどの稼ぎをあげられるのは、カナタ様の整備の賜ですよ」
「ありがとう、ムートン。そうは言っても、あの人の操縦技術はすごいんだ。毎日傷だらけのコフィンを見てる俺にはわかる。コフィンの損耗具合でどんな戦いをしてるかだって、手に取るようにわかるんだから」
「それもまた素晴らしい才能です。おふたりのコンビならば、私も安心して見ていられるというものです」
「……」
「これは失礼しました。カナタ様はドリフターになることを望んでいるのでしたね」
「いつかきっと、ね。ま、とにかく今はトキオさんの期待に応えなくちゃ……今は」
「カナタ様、私に出来ることはありますか?」
「じゃあ、レッグパーツのチェックをお願い。俺は電装系と左腕の連携の確認するから」
ムートンは静かに佇むジョンガスメーカーの左腕を見る。
ほろ布が被せられたまま大きく膨らんだ左腕のシルエットは、ムートンがこれまで見たものとは大きく異なっている。
「おや。この左腕は……」
「トキオさんに頼まれてたヤツ。まだ試作段階だけどね」
カナタの顔は、得意満面であった。
ブロロロロ……と、クレイドルコフィンを運搬するキャリアが悪路をものともせず走る。
天気は快晴。「結晶拾い」にはうってつけである。
「ようし、俺たちが一番乗りか?」
突然の雨にも対応できるよう朽ちた廃奥の中にキャリアを停車させたトキオは、荷台を展開させる。
すると、遠くから銃声が聴こえた。
「チッ、足の速いヤツがいるじゃねえか。アヴァンチュールか?」
「ええ、坊っちゃん。そのようです」
アヴァンチュールは、ロックタウンを拠点とし、十名ほどのドリフターが集う集団である。その筆頭のマイケルは、トキオをライバル視しており、なにかにつけて張り合う間柄だった。
「あいつらに持ってかれる前にひと仕事しようぜ」
ジョンガスメーカーのコックピットに素早く身を潜り込ませたトキオは、機体を統合管理するOSを手際よく立ち上げる。
「いけるか、ムートン」
「どうぞ」
「っしゃあ!」
トキオが勢いよくフットペダルを踏み込むと、ジョンガスメーカーの脚部バイポットが折り畳まれ高速機動用の三連ローラーが大地を噛む。
ギュイイイイ……と車輪が高速回転を始めると、連動して膝部が沈み込みショック吸収体勢をとる。
「出んぜ!」
檄を受けたジョンガスメーカーは弾けるように加速。
右に左にと旋回しながら銃声の方角に突き進んでいった。
▽ ▽ ▽
山間部と山間部の間に位置する谷間には、巨大なAO結晶がそびえていた。すでに二機のクレイドルコフィンが参集している。
どちらもアヴァンチュールに属する機体である。
「この狩り場は我々アヴァンチュールが支配したァ!」
叫ぶマイケルは、愛機であるマイケル専用リアリドの右肩部火炎放射器【AOフローワー】で四足獣型エンダーズ・チェイサーたちの群れを焼き尽くしていく。
「一匹残らず駆逐してやるッ!」
「あ、ちょっと! マイケル! ザコ相手にもったいないわよ!」
「馬鹿野郎、エリー! どんな相手にも全力で立ち向かうのがドリフターだ!」
「ほんと、金持ちってそういうところが面倒なのよね。節約って言葉を知らないんだから」
「さすがはマイケル様、小物のエンダーズにも遠慮が無い」
マイケルのメイガスであるボブが付け加える。
「ボブ、褒めるな。照れるだろ」
「それ本気で言ってる?」
「なにか言ったか? エリー」
「いーえ、なんにも! ちゃんと稼げれば文句ない」
ピンク色のツインテールを揺らすエリーは、アヴァンチュールの中堅ドリフターだ。戦闘経験はそれなりにあるが、前線に立つというよりも支援を担う立場が多い。
直情型のマイケルとペアで出撃することが多く、言うなれば戦闘になると暴走気味のマイケルをフォローする役割である。
「エリー、仕方ないのよ。マイケル、昼間の稼ぎでトキオに勝っちゃったから、一番楽しい時なんじゃない、今が」
エリーのメイガスであるアンジェが、ぼそっとエリーに囁いた。
「子どもじゃあるまいし」
「そらそらそらァ! これこそ王者の戦いだ! あ?」
ビービー! とけたたましいアラートが鳴る。
新手のエンダーズの接近警報である。
「どこから!?」
「上から! 1、2、3……。ゲイザーが5体! 落下予測出すよ」
アンジェがすぐに戦況分析し、エンダーズ・ゲイザー種の落着地点割り出した。その情報は、エリーのバイザーを通して地上に投影され可視化される。
エリーたちは、落着地点のど真ん中に居た。
「うっそでしょ!? アンジェ、加速!」
「やってる!」
エリー専用リアリドが急加速すると共に、左腕のライフルが火を噴いた。高速で接近するゲイザーを少しでも遅らせようというアンジェの判断だった。
ギリギリのところでゲイザーの奇襲を躱したエリーは、一瞬ほっと胸を撫で下ろす。
そこにマイケルのリアリドが駆け寄った。
「エリー!」
「マイケル、これちょっとヤバイかも。どんどん集まってきてる」
エンダーズは、AO結晶に集まる習性をもっている。
その真の理由は定かではないが、AO結晶が持つエネルギーをエンダーズたちも欲しているというのが大方の見方である。
そして、純度が高いAO結晶であればあるほど、比例して集まるエンダーズも強力になるのだ。
マイケルはニヤリと笑う。
「これだけ集まるということは、相当なものだぞあのAO結晶。必ずアヴァンチュールの実績にする」
「私だってそのつもりだってば。ねえ、マイケル。ゲイザーはうろちょろ飛ぶから私のマシンガンじゃ分が悪いの。こっちで引き付けるから、さっきのお願い」
「OK、燃やしてやる!」
「いくよ!」
合図に合わせてエリーのリアリドが敵陣真っ只中を突っ切る。
ゲイザーはエリーに狙いを定めた。
ここまでは目論見通りだ。
蛇行を繰り返しながらゲイザーを誘導したエリーは、あえて谷間の袋小路へと進む。
無論、ゲイザーの行動範囲を狭め、一網打尽にする為だ。
「マイケル!」
「よし、ファイアー!」
マイケルが勢いよくトリガーを引く。
ブスン……!
「ファ、ファイアー!?」
ブスン……!
「マイケル様、燃料切れです」
「なにー!? しまった」
「バカマイケル! バカ!」
「致し方ないではないか! 昼間の出撃からそんなに時間は経っていないんだぞ、整備もそこそこだったんだ!」
「だったらなおさら慎重に行動しなさいよ!」
「エリー、文句言う前に敵! エンダーズ!」
「文句言ってんのはアンタでしょうがー!」
吐き捨てたエリーは目の前の危機に目を向ける。
バイザーには攻撃反応を示す赤い文字が激しく明滅している。
袋小路に追い詰めたつもりが追い詰められる格好となったエリーに対し、一斉にゲイザーたちが狙いを定めたのだ。
5体のゲイザーがエリーを囲うようににじり寄る。
逃げ場を失った小動物を狙い空を旋回する鷹のごとく、余裕すら感じられる動きだった。
そして、1体のゲイザーが空気を切り裂いて突進する。
それを皮切りに、5体すべてがエリーに突っ込む。
5つの風切り音は雄叫びのようだ。
もはや逃げ場は無い。
「回避、間に合わない! こらえて!」
アンジェの悔しそうな声が響く。
カッッ!!!!
激しい光が一体のゲイザーから放出された。
ドッ! ガカカカカカ!!!!
と、一瞬遅れて重低音が響いた。
「えっ?」
ぎゅっと目をつぶっていたエリーが目を開くと、ゲイザーたちが急散開し、迎撃体勢に移行している様子が見て取れた。
「しかも1体減ってる。なんで、さっきゲイザーは私を狙って……」
しかし、それはエリーの勘違いだった。
ゲイザーは自ら光を発したのではなく、爆散したのだ。
正確な射撃でコアを射抜かれて。
「はいはい、どいたどいた!」
無線を通じて、エリーの耳に声が届いた。
「その声……」
エリーが見上げると、谷底にいるエリーたちを見下ろすように立つジョンガスメーカーが目に映った。
「トキオ!?」
ブオッ! と、ジョンガスメーカーの頬の部分にセットされたドーピングリールが火を噴く。
「飛びますぞ、坊っちゃん。舌を噛まぬようにご注意を」
一気にスラスターが噴射されると、ジョンガスメーカーが宙を舞い、重力に引っ張られて谷底へと急速落下していく。
「ひょおおおおお!」
内臓をぐりっと持ち上げられたようなGを感じながらも落下を楽しむトキオは、ドーピングリールによって機体を制御し、着地際にゲイザーをもう1体、右腕ベヨネットライフル備え付けの銃剣で切り裂いてみせた。
「はい、もう一丁あがり」
そこからは、トキオとムートンの独擅場であった。
返す刀でもう1体のゲイザーを薙ぎ払う。
背後に回ろうとする別のゲイザーの行動を予測したムートンは、コフィンを高速反転させ、
「今です」
バン!
計算され尽くした弾道をなぞるように銃弾が飛び、弾道に向かって引き寄せられるかのように動いたゲイザーはコアを一撃で射抜かれた。
バキ! カララララ……。
コアを失った4体のゲイザーは即座に動かぬモノとなり、霧散した。
「ラスト!」
攻め手を失った最後のゲイザーがトキオに突っ込む。
「芸がねえぞ、芸が」
ギュっとフットペダルを踏み込む。
ヌァァァンとエンジンが甲高いうなり声を上げるが、その動力はまだ脚部ローラーには伝えられていない。
ゲイザーをギリギリまで引き寄せたトキオは、激突寸前で操縦桿のトリガーを引いた。
ドーピングリールとスラスターが同時噴射し、ギュリィッッ! と、コフィンが高速でその場を半回転。
突き出された銃剣が半月状の孤を描く。
ゲイザーは、すれ違いざま真っ二つに寸断された。
分断されたゲイザーだったものは慣性に逆らえず岸壁に激突。
ビクンと一度跳ねたあと、音を立てながら霧散していった。
「ジャスト、1分でございます。坊っちゃん」
「っしゃあ! てっぺん取ったり!」
まさに一瞬の出来事であった。
マイケルもエリーも、呼吸すら忘れ見ているだけだった。
マイケルはハっとして。
「ちくしょう! 持っていかれた!」
マイケルはバンバンとコックピットの内壁を叩く。
「よお。マイケル。こいつから採取してもいいぜ」
トキオはジョンガスメーカーを巨大なAO結晶に横付けし、わざとらしくコフィンの肘を結晶に乗せて言った。
「俺のお古で良かったらな」
「誰がお前のお古で満足するかァ!」
「えー? そこ意地張るとこ?」
順番なんか関係ないと言いたいエリーだったが、マイケルにとっては重要な事らしい。
マイケルが帰還を決めたので、エリーはぶつぶつ言いながらもそれに従ってロックタウンへと帰っていった。
「さて」
ぐるん、とジョンガスメーカーが左腕を揺らした。
トキオの意図を汲み取ったムートンがなめらかに補足する。
「左腕スパイクパイルバンカー。炸薬の威力によって高速で打ち出される杭によって対象を貫く武器だそうです。ただ、用途はそれだけではなく、AO結晶を砕くにも持って来いとのこと。結晶の掘削量に課題があったジョンガスメーカーに対し、カナタ様がご提案され今日、試作が完了したそうですよ」
「試してみっか」
ジョンガスメーカーの右掌底をAO結晶の肌に接触させたトキオは、緊張の面持ちでトリガーに指を掛けた。
「新武器ってのはいつだってロマンだよな」
グン、と一気にトリガーを引く。
刹那、炸薬が閃光となる。
運動エネルギーをそのまま受け取って射出された杭がAO結晶に衝突すると、その反動で総重量数トンのジョンガスメーカーがわずかに浮き上がり、十メートル以上も吹き飛んだ。
「ごああああ!?」
コックピットへの衝撃も尋常ではなく、トキオはコックピット内壁にしたたか頭を打ち付ける。
「いって……。あいつやりすぎだろ!」
「バイタル正常、頭部の内出血もなし。良かったですね、内壁にクッションを敷いていてくれたようで」
「カナタの野郎……帰ったら説教だ」
トキオは目をチカチカさせながら恨み節をつぶやく。
「いえ。坊っちゃん、褒めて差し上げるべきかもしれませんよ」
パイルバンカーによってAO結晶は根本からぽっきりと折れていた。その破片……というよりも、巨石とも言うべき結晶体は、持ち帰れば途方もない値段がつけられることだろう。
少なくとも、ロックタウンの記録更新は間違いない。
トキオの脳裏に、ほくほく顔のカナタが浮かぶ。
「へっ。調子に乗らせてたまっかよ」
その表情は、優しい兄を思わせる温かなものだった。
▽ ▽ ▽
「ねえ、トキオ。アヴァンチュール入んなよ。てか入ってよ」
「やーだね」
この日のBARエドジョーもまた、賑わっていた。
トキオの貸し切りと聞いて、ロックタウン中から人が集まってきていたから店内はもうしっちゃかめっちゃかである。
トキオはその雰囲気が楽しくて、外から眺めるように酒を飲んでいた。
隣でいちごジュースを飲むエリーは、トキオに救われた礼も兼ねて、アヴァンチュールに勧誘に訪れたのだった。
「だいたいマイケルが認めねえだろ」
「マイケル以外はみんな納得するから平気」
「なんだそりゃ」
「じゃあ、たまにヘルプでもいいからさ」
「やんねーよ。ひとりでいる方が楽だからさ」
「ひとり? カナタがいるじゃない。面倒みてるんでしょ?」
「あいつは……」
カナタの顔を思い浮かべた。
そこに、もうひとつ、別の顔が浮かぶ。
カナタに似た、まっすぐな瞳の持ち主の顔。
「あいつは……勝手にひっついてくるだけだ」
「つめたっ! あんた冷たっ! カナタだってさあ、一生懸命トキオの役に立とうってがんばってるじゃない!」
「カナタのことになるといきなりマジじゃねえか」
「や、ちがっ……そういうわけじゃ……ないこともないわけだけど、違うの! あーもう! 知らない!」
「なんだあいつひとりで怒って、ひとりでどっか行って……」
トキオはふと、目を細めた。
「ひとりで怒って、ひとりでどっか行って……」
トキオは「あー!」と叫ぶと胸をかきむしり、残った酒を一気にあおった。
「坊っちゃん」
「あんだよ、ムートン。お代わりでも持ってきてくれたのか?」
「ええ、どうぞ」
トキオは受け取った酒をぐいっと一気に飲み干した。
「メイガスは不器用なもので、忘れるということができません。しかし人はそうではない。器用に、忘れていくものです」
「なーにが言いてえ?」
「忘れられないというのは、いささか苦しいものですな」
ムートンが何を話しているのか、トキオには痛いほどわかった。
それは、トキオがこの街に来る前の話だ。
「もう忘れたよ」
「坊っちゃん。カナタ様はついて来てくれたのです。なら、なんとかするのがスジですものね」
「うるせえ、ジジイ」
トキオがガレージのシャッターを開くと、ツナギ姿でオイルまみれのカナタがいた。
顔はススで汚れているが、目だけはキラキラさせている。
「使ったんですよね? ね? どうでした? 俺のスパイクパイルバンカー! 役に立ちました!?」
トキオはコツンとカナタの後頭部をこづく。
「いてっ。なんですかぁ?」
「死ぬかと思ったっつーの! 半分にしとけ、炸薬」
「えぇぇ!? 爆発のエネルギーをそのまま攻撃に転化するのがロマンなんじゃないですか! 半分にしたら興ざめですよ!」
「俺を殺してーのか!?」
「……むぅ。なら機体にフィードバックされる衝撃を軽減する為の仕組みが必要なのかもな。あるいは同時にスラスターを噴射してショックを減衰。いやそれじゃあ威力も落ちちゃうし――」
ブツブツブツブツと高速でつぶやくカナタに呆れ顔のトキオは、ぐいっとその肩に腕を回した。
「あー鬱陶しい。飯だ、行くぞ」
「え、でも、まだ左腕に追加予定のパーツのクリアランス調整が」
「いーから! 行くぞ。今日は俺のおごり」
「ぐえぇえ、いてて。トキオさん待って、せめて着替えさせて」
パタパタと走って着替え、戻ってくるカナタを見てトキオはなぜか安堵を覚えた。
「いいか、カナタ。今日は俺がドリフターの流儀っつーもんを徹底的に教えてやるよ」
この約1年後、トキオとカナタが肩を並べて戦うことになるとは、まだ誰も、想像すらしていなかった。
次回はノワールのエピソードを掲載!
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