HOME記事スケールモデル戦車設計の方向性を決定づけた「T-34/76」とはどんな戦車?【いまさら聞けないすごいヤツ】

戦車設計の方向性を決定づけた「T-34/76」とはどんな戦車?【いまさら聞けないすごいヤツ】

2023.06.16

ソビエト T-34/76戦車●宮永忠将、大森記詩 月刊ホビージャパン2023年7月号(5月25日発売)

戦車設計の方向性を決定づけた「T-34/76」とはどんな戦車?【いまさら聞けないすごいヤツ】

 ソビエト 
 T-34/76戦車 

イラスト/大森記詩

 「名前は知ってるけどどんなものなんだろう?」「今さら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
 今回は、第二次世界大戦のソビエト軍を代表し、戦車の歴史を塗り替えた傑作「T-34 中戦車」です。見た目はなんだか地味なのですが、この戦車があったからこそ、ソビエト軍はドイツの快進撃を跳ね返し、見事勝利するのです。この記事を読むと、「地味でなんかカッコ悪くないですか?」なんて思っていた人ほど、本車両がカッコよく見えてくることでしょう。今回は数多くあるバリエーションの中から初期のT-34/76の1941年型や1943年型など、タミヤのプラモにもなっているタイプを中心にご紹介します。他のバリエーションも今後の記事でご紹介するのでお楽しみに~。


T-34/76 1941年型

全長/6.75m
車体長/5.92m
全幅/3.00m
全高/2.60m
重量/30.9t
速度/55km/h(整地)、30km/h(不整地)

行動距離/350km(整地)
主砲/41.5口径 76.2mm F-34(主砲弾:100発)
副武装/7.62mm DT機関銃×2
装甲/16~70mm
乗員/4名


T-34/76 戦車イラスト横
▲T-34/76 1941年型。砲塔などにはスローガンが描かれることもあり、模型では水転写式デカールで表現されます
T-34/76 戦車イラスト前
T-34/76 戦車イラスト後

戦車設計の方向性を決定づけた傑作戦車 T-34/76

解説/宮永忠将

T-34/76 戦車1943年型イラスト
▲こちらは1941年型に、戦訓による改修を施した1943年型。ドイツ軍とソビエト軍が激突した、人類史上最大の戦車戦「クルスクの戦い」で大活躍したのがこの車両。またソビエト軍は「タンクデサント」と言って、戦車に多数の歩兵を乗せて一気に戦場に運び、突撃する戦法を取りました。模型で表現するととっても迫力があってかっこいいので、ぜひチャレンジしてください

 無敵ドイツ軍を食い止めた新兵器 

 格好良い兵器は強いものと相場は決まっている。この場合、強さが先か、格好良さが先かっていう話にもなるけれど、格好良さは兵器の強さの十分条件であるとは言えそうだ。
 そんな視点で見ると、ソ連のT-34中戦車はなかなか評価が難しい。予備知識がない人には、なんだか地味で「格好良くはない戦車」という感想を抱かれがちなのだ。では実際のT-34とはどんな戦車だったのか。
 第二次世界大戦勃発時のドイツ軍は、軍事大国ポーランドとフランスを短期間で敗北に追い込んだが、勝利の秘訣は電撃戦という戦い方にあった。それまで一兵器に過ぎなかった戦車を中核戦力とするこの新しい軍事思想と作戦構想に、他国は手も足も出なかったのだ。
 だが絶頂を極めたドイツ軍が満を持してソ連に侵攻した1941年6月22日から、状況が大きく変わる。参謀本部の巨大な地図上では、ドイツ軍は順調に進撃している。ところが最前線からは「強力な敵戦車」に足止めされ、被害が続出との報告が相次いでいる。電撃戦の立役者、ドイツ戦車部隊が苦戦を強いられるソ連の新型戦車、それがT-34/76なのであった。

 人間工学に基づかない最強戦車 

 T-34の強さを解析してみよう。名前にも使われている76mm戦車砲は当時のどのドイツ戦車よりも強力であった。装甲の厚さもドイツ主力のⅢ号戦車が車体正面で30mmなのに対して47mmもあり、しかも60度の傾斜装甲なので実質2倍の防御力がある。幅広の履帯とクリスティー式サスペンションの組み合わせは、一雨降れば軟弱な泥濘地となるロシアの戦場で身動き取れなくなるドイツ戦車を尻目に、無類の機動力を生み出した。このT-34中戦車にドイツ戦車部隊は大苦戦を強いられたのだ。
 ただし、これを手放しにソ連戦車設計の勝利と褒めるのは早計だ。傾斜装甲は被弾には強いけど、車内容積が減って狭くなる。抜群の機動力を生むディーゼルエンジンは、馬鹿でかいのが欠点で、これも車内容積を圧迫する。さらに、ロシア人は砲火力に信仰心を抱いているので、戦車砲は絶対に妥協できない。そしてソ連は人間工学やデザイン性なんてものを考慮しないから、車内は窮屈で危険だった。いわばT-34の高性能は乗員の居住性を無視した犠牲の上に成り立っていたのだ。
 だからメカとして見たらT-34は欠陥だらけとなってしまう。T-34が格好良くないという意見は、この欠点に注目したものかもしれない。だけどドイツ軍はT-34の登場にショックを受け、パンターのような新型戦車にはT-34の影響がはっきりと刻まれた。伝統的なドイツ戦車のデザインもすっかり廃れてしまう。つまりT-34が具体化した戦車設計の方向はまったく正しいものであり、あとはこれをいかに洗練、強化しつつ、居住性を良くするかというステージが始まったのだ。それまで各国の「お国柄」が出ていた戦車のデザインも、T-34の登場以降は似通ったものとなり、やがて主力戦車(MBT)につながっていく。
 T-34は戦車設計の方向性を決定づけた、史上屈指の名戦車なのである。


文字

1975年生まれの超傑作プラモ
「タミヤ 1/35 ソビエト T34/76戦車 1943年型」

 1975年と、ほぼ半世紀愛されているスーパー戦車模型。T-34のシンプルさを、まさにそのまま味わえるようなとても組みやすい構成で、2時間もあれば戦車の形になってしまいます。各部のディテールも充分カッコいいので、T-34を作るならまずはこのキットをオススメします。

T-34/76 戦車1943年型タミヤ 説明書
▲説明書の解説がとても面白いです。T-34戦車がいかに戦車の歴史を変えたのか。本誌の記事とプラモの説明書を読めば、さらにT-34がカッコよく見えてきます
T-34/76 戦車1943年型タミヤ ランナー
▲細かなパーツは一切なし! 勝つ戦車はプラモになってもシンプル。複雑な組み立ても一切ないのです
T-34/76 戦車1943年型タミヤ 履帯
▲履帯は、ベルトタイプ。普通のプラ用接着剤や瞬間接着剤では接着できないタイプでして、「焼き止め」という方法で履帯の端と端を接着するのですが、タミヤの「瞬間接着剤・プライマーセット(PP・PE・POM・EVA)」(770円)を使用すると接着可能です
T-34/76 戦車1943年型タミヤ フィギュア
▲フィギュアの造形も素晴らしく、腰の捻りが効いたポーズがいい感じです
T-34/76 戦車1943年型タミヤ 木
▲ソビエト戦車といえば「木」。不整地で大活躍します。硬い戦車に、植物のディテールが入って、戦車模型のアクセントになります
T-34/76 戦車1943年型タミヤ パッケージ

1/35 ソビエト T34/76戦車 1943年型

●発売元/タミヤ●2420円、発売中●1/35、約19.4cm●プラキット

この記事が気に入ったらシェアしてください!

オススメの書籍

月刊ホビージャパン2023年7月号

ご購入はこちら

T-34-76戦車写真集

ご購入はこちら

T-34-85戦車写真集

ご購入はこちら
PAGE TOP
メニュー