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20周年復活上映『ラーゼフォン 多元変奏曲』アフターレポート

2023.05.09

 去る4月15日、ドリパスの特別企画として秋葉原UDXシアターにて『ラーゼフォン 多元変奏曲(以下、『多元変奏曲』)』の復活上映が行われた。『多元変奏曲』は2001年1月から2002年9月にかけて放送されたTVアニメ『ラーゼフォン』の劇場版であり、2023年で公開20周年を迎えている。
 本編の上映後、TVアニメの監督に続いて『多元変奏曲』の総監督を務めた出渕裕氏、MCのロボ石丸氏、復活上映の企画に携わった武智則之氏(クーベルチュール)が登壇した。ここでは1時間にわたる濃密なトークの様子をお届けしていこう。


ロボ石丸 『ラーゼフォン』を作ったいきさつは?
出渕裕(以下、出渕) 元サンライズの南雅彦さんが独立し「ボンズ」を設立して間もないころ、自社オリジナル作品を作るという構想がありました。彼とはもともとサンライズ作品で関りがありましたが、基本的に飲み仲間でした。飲みの場でアドバイスをしていたら、「1回やってみますか?」という話になり、笑ってチャンスをくれたんです。

ロボ石丸 始動まで特に印象に残っていることは?
出渕 TVアニメの放送スタートは2002年1月21日。9.11事件(アメリカ同時多発テロ)の少しあとでした。テロ当時、もう制作に入っていたのでTOKYO JUPITERの交戦シーンに既視感を覚えました。その結果、ビルに戦闘機が激突するシーンは一部演出を変更しています。同時期に某作品の主人公がテロリストで内心「大丈夫か?」と思っていましたね。

ロボ石丸 「ラーゼフォン」や「ゼフォン」という言葉はどこから生まれたのでしょうか?
出渕 富野由悠季さんの『ブレンパワード』がきっかけです。永野護さんも参加されると聞き、自分も登場するロボットのラフを描いていました。。準備期間中はメカに架空の名前をつけることが間々あるのですが、頭に羽がついたメカを「ゼフォン」、敵を「ドーレム」と呼んでいましたね。ゼフォンというネーミングを富野さんが大変気に入ってくださったのを覚えています。
 最終的に永野さんがロボットも含めてデザインをすべて担当することになり、その際にメカデザインはすべて引き上げさせてもらいました。富野さんはゼフォンの商標を調べたらしく、でももう登録されていたんです。それからボンズでの新企画の前に再度南さんに調べてもらったところ、なんと富野さんが「モビルゼフォン」と登録していたんです(笑)。 別の言葉と組み合わせれば「ゼフォン」は使えますからね。それでこちらは、神を表す「ラー」と組み合わせて「ラーゼフォン」に。

ロボ石丸 (笑)。
出渕 話は変わりますが、『ラーゼフォン』は富野さんが第1話~第26話の監督を務めた『勇者ライディーン』をオマージュしています。『ライディーン』には、主人公ひびき洸とプリンス・シャーキンの兄、明日香麗はレムリア(ひびき玲子)の姉という本編では陽の目を見なかった設定があります。特に麗とレムリアの“姉が年下”(妹の息子と同い年)という設定や時間のズレの上での恋愛、状況は『ラーゼフォン』で描きたかったいくつかの要素です。『勇者ライディーン』のLDボックスが発売された際は、このことを対談という形で富野さんに直接うかがっています。

ロボ石丸 『多元変奏曲』は劇場版の初監督作品ということですが。
出渕 そのころは40代でしたね。劇場版のデビューとしては遅めですが、あの時期で良かったです。監督の京田君は南さんの推薦です。今回のイベントもオファーをしたのですが、仕事で出演できず。当時はスタジオを統括するサポートとして京田君と増井さんに入ってもらいましたが、監督は初めてだったので、彼らがいなかったら大変なことになってましたね(笑)。

ロボ石丸 当初から伏線を考えていましたか?
出渕 いろいろ詰め込み過ぎましたが、TVシリーズのエピローグとなるラストシーンは最初から決めてました。

ロボ石丸 特に気を遣ったキャラは?
出渕 (エルンスト・フォン・)バーベムおじいちゃんや3人のチルドレンの話(第15楽章「子供たちの夜 – Child Hood’s End -」)ですね。磯光雄君がシナリオ、絵コンテ、演出を担当しています。ちなみに彼はこの頃から『電脳コイル』の草案を持ち歩いてました。第15楽章で最初に上げてきたプロットはたしか「沈没した潜水艦に閉じ込められて…」というような案で、連続性のある作品ですから今後の展開的にも変わってきてしまい、困るわけです(笑)。そこからバーベム財団で3人が育てられている過去の、ある意味独立した話になりました。あの回は菅野宏紀君が作画監督なのに、なぜか彼以外の作画修正が菅野君の修正の上に乗っていて、もう大変でした(苦笑)。執事もキャラクターデザイン担当の山田章博さんにこちらはOKを出したはずなのに、なぜかデザインが変えられていたりして。でも独特の雰囲気を持つ読切話としては成立させられたんで印象には残りますよね。
 あとは第19楽章「ブルーフレンド- Ticket to Nowhere -」ですね。アフレコ後の打ち上げで神名綾人役の下野紘君にシナリオを読ませたら号泣してました。ドーレムとリンクした朝比奈浩子が死んでしまう回ですね。この回は京田君にも見せたところ、あとで彼から「どうしてもこの回がやりたいんです」という直訴があって。ローテーション的には京田君じゃないんだけど、制作に話して演出はできないけどコンテだけならという感じで。脚本は自分の師匠の髙山文彦さんが素晴らしい脚本を上げてくれて。ただ、浩子の独白だけ僕が追加しています。ちょっと前に上映された髙山さんの『WXⅢ』演出を見て触発されたのか。京田君のコンテには浩子と綾人が質屋に行ったあと、道路を挟んで向かい合わせで立っているシーンがあったのですが、担当演出に「意味不明」と取られてしまい却下になってしまいました。言葉ではなくレイアウトや演出といった、映像がもつ強みでスタッフや観客の無意識下に訴えたかったのですが…。ここでは京田君が作った夢世界と現実のバランスを両立させたかったですね。

ロボ石丸 『多元変奏曲』のラストについては?
出渕 京田君がA案とB案のふたつを考えていて、どちらにしようかずっと悩んでいました。ラストは、「こっちで!」僕が選びました。そういう監督が悩んで決められないとこを決めてあげるのが総監督の仕事でもあります。僕は『多元変奏曲』だとアバン部分のシナリオを担当しているのですが、それ以外は方向性が違っていたら「こっち」という係に徹していました。
 当時、京田君が劇場版でヒイヒイ言っている頃、僕はゲームの『ラーゼフォン 蒼穹幻想曲』の制作でヒイヒイ言ってました。すべてのアフレコに立ち会ったし、シナリオも書き直してたりしてたんです。シナリオはスポーツバッグに入れていたのですが、2000年代初頭はまだまだアナログが主流でとにかく分厚い紙の束を持ち歩いていました。紙って重いんですよ。でも収録が進むたびにシナリオを処分していたので、終盤になるほどバッグが軽くなっていきましたね。僕自身はゲームをプレイしていないのですが、ファンのみなさんに好評だったようでなによりです。

▲ロボ石丸氏(左)と出渕裕氏(右)。出渕氏が掲げているのは公開当時発売された『ラーゼフォン 多元変奏曲』のパンフレット

 トークの締め括りにはジャンケンイベントが開催され、勝ち残ったファンに出渕氏直筆のサインが贈られた。出渕氏いわく「映像で違う決着をつけたい」とされる『ラーゼフォン』。プラモデル「MODEROID ラーゼフォン」の発売も控えており、20年の時を経てなお、今後の展開から目が離せない作品となっている。
 また、武智氏によると5月、6月には『ラーゼフォン』と直接的なつながりは不明だが、新たなイベントを開催予定とのこと。こちらの続報もぜひチェックしてほしい。

© 2003 BONES・出渕裕 / Rahxephon project

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