『銀河漂流バイファム』より、ククト軍機動兵器「ウグ」を田仲正樹が徹底工作!【サンライズ・メカニック列伝】
2023.04.18サンライズ・メカニック列伝 第51回 ARV-A ウグ【BANDAI SPIRITS 1/144】 月刊ホビージャパン2023年5月号(3月25日発売)
ARV-A ウグ(『銀河漂流バイファム』より)
サンライズ作品に登場する数多のメカを模型作例で再現し、改めてその魅力を探る連載企画「サンライズ・メカニック列伝」。今回は「1/144銀河漂流バイファムセット1」としてキットが好評再販中の、ククト軍機動兵器「ウグ」の作例をお届けしよう!
ククト軍がクレアド星に全面攻撃を仕掛けた際に、主力兵器としたのがウグである。宇宙空間と地上の両方で運用され、地上用機は着脱式の翼を使って大気圏内の滑空が可能。5機種以上の派系型も確認されている。物語序盤では圧倒的な物量と回避パターンの解析によって主人公メカ・バイファムを含む地球軍機を次々と撃破し、当時の視聴者に少なからぬ衝撃を与えた強敵である。
作例は田仲正樹が私物を3セット投入して製作。各パーツの形状を可能な限り活かしながら、胴体の大型化と脚部の幅詰めによって全身のバランスを変更。さらに関節機構を刷新し電飾も施した、徹底工作作例として完成させている。
製作途中状態
▲キットはフォルムのまとまりがよく、ストレート組みでも充分満足できるが、劇中の作画や設定画と見比べると脚部の横幅が広く、胴体が小さく感じられる。作例は脚部を細く、胴体を大きくしてフォルムを劇中のものに寄せ、劇中で印象的な銃を構えるポーズやセンサーの発光を再現できるようにしたもの。加えて、田仲氏が言うところの「得体の知れない雰囲気」を出すべくディテールも調整。一見しただけでは大きな改造はしていないようにも見えるが、実際は翼を除くすべてのパーツに細かく手が入っている
頭部
▲形状自体はほぼキットのまま。成型の都合で甘くなっているモールドは各種スジ彫りツールや目立てヤスリで彫り直し、市販のレンズ状パーツとGSIクレオス「VANCE ACCESSORIES」シリーズのLEDでサーモセンサーを電飾した。スイッチと電池は胴体に内蔵させている。カメラアイのゴーグルは適当なブリスターパックをヒートプレス加工したものに置き換えクリアー化したが、「想像以上に面倒なので、塗装で再現した方が良いです」とのこと
胴体
▲胸部は左右に3mm、前後に4mmそれぞれ延長して大型化。肩関節は30MMアルトのものを移植してボールジョイント化し、銃を構えやすくした。腹部と腰部もプラ板で大型化。股関節はHGギラ・ズールのものに交換して可動範囲を拡大させた
背部ユニット
▲電池交換とLEDの点灯・消灯の際に手軽に取り外せるように、ネオジム磁石による脱着式とした。上部インテークと翼の差し込み口の内部はプラ材でそれらしくデコレート。下部バーニアはHGグフ・カスタムのランドセル内部を移植して可動化した
脚部
▲太モモ外装は形状を設定画に近づけるためにフチを薄く加工。立ちポーズを取らせた際にヒザの隙間から関節の蛇腹が見えなくなるようにアレンジしている。スネは内側の部品を2セット分使い、前後左右に2mmずつ幅を詰め小型化したのち、前面にエポパテを盛りつけて曲面を強調。足首関節は前後左右上下に3mm弱ずつ、つま先とかかとは左右に3mmずつ幅詰め。ヒザ関節は左右に2mm幅増ししたHGガンキャノン(No.190)のものを移植、足首関節にも同キットのものを移植してボールジョイント化。可動範囲が拡大し、保持力と接地性も向上している
腕部
▲肩装甲内にHGギラ・ズールの肩ブロックを内蔵させ、可動範囲を拡大。上腕は接着面で1.5mm幅を詰め、ヒジには専用銃を構えるための可動範囲から逆算して、HGティエレンの肩関節とHGペイルライダーのヒジ関節を移植した。右手首関節はボールジョイント化し、拳は市販の丸指ハンドとHGガンプラのジオン系機体のものをそれぞれ加工。左手のツメは開・閉の2種を用意し、フォアグリップを握らせる際に融通が利くよう、ネオジム磁石で接続。設定にはない左前腕のダクト状ディテールはやや主張が強いが、両方とも消すのは惜しいので後ろ側は活かしている
武器
▲専用ビームガンはグリップをHGギラ・ズールのビーム・マシンガンのものに、後部のパイプをスプリングにそれぞれ交換してシャープ化。銃口には市販の極小ノズルを接着した。キットの銃身は設定画と形状が少々異なるが、「設定の形に直していると、手作業では必ず歪んでしまう」とのことで、最終的には若干の延長にとどめている
■このコードネームに決めたのは誰なのかしら
ロボットアニメで最初に出てくる敵メカといえば、だいたいは人々の前に突然現れて大暴れし、従来の武器ではまったく歯が立たずにどうしようもなくなったところで、急遽出撃した高性能の主役メカによって撃退されるものですが、『バイファム』では違います。大軍でクレアド星に押し寄せたウグは、主役メカのラウンドバーニアン(RV)・バイファムと、作品後半の主役みたいな名前のネオファムを素早い動きで次々に撃破してしまうのです。どんな姿の異星人が乗っているのかはこの時点ではまったくわからず、ネオファムを撃墜した後にセンサーを赤く光らせたりするのも不気味でインパクトがありました。「そうだよな、戦争がそんなに都合よくいくわけがない」「もう少ししたらロディたちもRVに乗るんだろうけど、果たしてこんな強い奴らを相手に戦えるのか?」…当時の私はそう考え、「すごくよいものを見せてもらっているなあ」と感じたものです。
離陸する旅客機を見るとつい走ってしまうサンライズメカファンのみなさんは、再販された1/144キットをすでに製作されていると思います。うまくまとまったフォルムでストレート組みでも満足はできますが、本放送で序盤の展開に衝撃を受けた世代には「脚の横幅がなあ…。1話で着地するシーンの細さがいいんだよ」「つねに銃を両手で構えているのがウグなんだ、ヒジはもっと曲がらないと…」と思う人も多いはず。作例は胴体を大型化し、スネと足首を小型化してフォルムを変更。また、銃の両手持ちができるように肩関節を引き出し式ボールジョイントに換装。右ヒジは大きく曲げられ、かつ高い保持力があることを前提に流用パーツを選定しました。「ヒジ関節は円筒形がいいなあ」という場合は月刊ホビージャパン1984年3月号に掲載のストリームベース・川口克己名人による1/100作例のように、キットのヒジ周辺を大きく切り欠き、曲げた状態で固定するとよいでしょう。銃の前半部は設定画と形が若干異なりますが、あのゆるいテーパーの付いた銃身を手作業で歪みなく作るのは人類には無理なので(私は3つ作って全部歪みました)、気にしないほうがいいでしょう。胴体内の空間が広く、電池ボックスやスイッチを収納させやすいので、代わりにセンサーの発光に挑戦したほうが楽しいと思います。
■ギブルの色に塗っても良いですね
バンダイ刊「MJマテリアル2 ROUND VERNIAN VIFAM スーパー・メカニック・ガイド」とキットの組立説明書を参考に塗装。劇中では真っ黒い影がしっかりと描きこまれていたのが印象的だったので、明度を低めに調色。さらに当時のブラウン管TVの画面を思い出し、色相を微妙に緑に振って彩度も低めにしています。
本体=クールホワイト+タン+ブラウンにキアライエロー、オレンジ、ハーマンレッド、純色バイオレット、インディブルーを各少量
カメラアイの外枠=クールホワイト+本体色
関節、拳等=自作の青紫系グレー
専用銃は自作の赤系グレー。サーモセンサーはクリアーレッド。カメラカバーはクリアーブルー+クリアーレッド。他のARVの色にしたり、準備稿を参考に本体を青や紫で塗装して、デュラッヘが配備される以前の指揮官機として仕上げたりするのも面白そうですね。
次回は厚い装甲を装備したあいつの作例が登場します。
BANDAI SPIRITS 1/144スケール プラスチックキット
ARV-A アストロゲーターラウンドバーニアン ウグ
製作・文/田仲正樹
ⓒサンライズ
田仲正樹(タナカマサキ)
一応、月刊ホビージャパンガンダム班に所属しているはずのモデラー。「宇宙船」誌の映像倶楽部にも所属している。