HOME記事キャラクターモデル『機神幻想ルーンマスカー』誕生秘話!【第3回】 造形師 “谷 明” と開発陣に聞く「ARTPLA スレイプニール」開発の裏側

『機神幻想ルーンマスカー』誕生秘話!【第3回】 造形師 “谷 明” と開発陣に聞く「ARTPLA スレイプニール」開発の裏側

2023.11.26

監修:出渕裕&原型製作:谷明による、究極の出渕メカの立体物となる、ARTPLAスレイプニールの開発の裏側に迫る!

 海洋堂が贈るインジェクションキットブランド「ARTPLA」からリリースされる、「機神幻想ルーンマスカー 機械神 スレイプニール」の発売を記念した短期連載企画。第3回では、発売が迫ったARTPLA スレイプニール製品そのものにスポットを当てて、こだわり抜いたクオリティの詳細について、原型製作を担当した造形師の谷 明と開発陣によるコメントを交えてお届けしていこう。

塗装されたスレイプニールの画像

 ARTPLAスレイプニールを企画・発売するにあたり、デザインを担当した出渕裕が、造形を完全監修することが決まった。そして、現段階で「究極の出渕メカの立体造型物」を世に送り出すにあたっては、作品への理解度が高く、そして確かな腕を持つ原型師に造形を依頼する必要があった。
 その結果、ARTPLAスレイプニールの原型製作を担当することになったのは、海洋堂におけるメカ造形の第一人者である谷 明。実物の戦車を実物のイメージを重視しながらミニチュアとしての存在感を持たせる精緻な作り込みと、ロボットなどの架空のメカが持つ独自の三次元曲面的が作り出すフォルムの表現力を合わせ持ち、これまでも多くの名作を生み出してきた。
 谷は、幼少期からアニメ作品などを通して出渕裕のデザインに触れ、その後『聖戦士ダンバイン』をベースにした連載企画『オーラファンタズム』や『機甲界ガリアン』のOVA「鉄の紋章」などにもリアルタイムに体感した経験を持っており、出渕デザインの存在感や魅力をしっかりと理解している造形師であり、今回の原型製作にはうってつけの人物だ。
 原型製作にあたって、まず谷がデザイン画をもとにデジタルモデリングにて初期原型を製作。それをデジタル出力し、立体物を前に出渕と打ち会わせをすることで、細部形状やディテールを詰めている。その出渕とのコミュニケーションについて、谷は次のように語っている。
「製作に関しては、出渕先生と打ち合わせでお話をさせていただいて、デザインがどのように考えられてこの形になり、この位置にこのパーツがある意味などを聞いて理解を深めてから作業をさせてもらいました。その結果、モデリングにも説得力を持たせることができ、表面的ではなないところにデザインが内包している意図を練り込むことで、自然と方向性や形が嵌まっていったので気持ち良かったです」

 出渕との打ち合わせを経て、造形の修正に取りかかった谷が注視したのは、完成時のイメージにも影響するスレイプニールのフォルムだ。馬の下半身に人間の上半身が乗っているケンタウロスとは違う、機械神の名前の通り機械のような鎧をまとった「神」に近いようなイメージを表現するために、全体のフォルムの解釈にも深くこだわったという。
「スレイプニールは半人半馬ですが、いわゆるギリシャ神話に登場するようなタイプとは違う、“馬頭”があるのが特徴です。馬としての要素を濃く持ちつつ、人のようなバランスも併せ持つ。その表現が意外と難しかったです。馬体もサラブレットのような優美な体躯なのか、軍馬的ながっしりとしたタイプなのか悩んだんですが、監修の際のお話から軍馬に近いタイプだとわかったのでそのように表現しました。有機的な体型に関しては、最近ではまり見ないデザインですが、その姿は力強くて美しく、とても楽しく作ることができました」

素組みのスレイプニールの左前からの画像
▲ 上半身、下半身とも、一見すると美しさを感じるが、よく見ると強靱な筋肉を持つような力強いラインが外装の内側に存在するようなスタイリングになっているのがわかる

 そうした有機的な要素だけが、スレイプニールの特徴ではない。一方で各部には機械的な要素もデザインには織り込まれており、機械的な部分と有機的な部分の融合をどのように立体として見せていくかというのも原型師の腕にかかっている。
「スレイプニールは機械的でもあり、有機生命的でもあるという、出渕デザインらしい特徴的な個性を持っているので、絵にない部分を補って埋めていくために世界観を逸脱しないように心がけました。参考にしたのは、出渕デザインの中でも鉄巨神やオーラバトラー、あとは『超電子バイオマン』や『仮面ライダー THE FIRST』ですね。昔から目にしていたイメージだったので、感覚的な部分で想像しながら作業をしています」

スレイプニールのバストと腹部のアップ画像
▲ 有機的な要素の代表とも言える、マスク状の頭部や腹部などには生物感や出渕裕らしいディテール感覚が織り込まれているのがわかる。そして、折り重なるパーツの下のディテールにも注目だ

 そして、立体物としての表現をより豊かに見せるために必要なのが、造形としての“演出”だ。ARTPLAスレイプニールは、関節が可動するモデルではなく、組み上がった姿をそのまま楽しむ固定モデルとして製作がされている。固定モデルは、身体各部の微妙な動きを含めたポージングが、そのまま製品の完成イメージとなる。その見栄えをキャラクター性を含めて演出するのも原型師のセンスと腕の見せ所となる。
「今回はデジタルモデリングで製作しているのですが、スレイプニールの特徴である鬣(たてがみ)は、デジタルモデリングの恩恵を最大限に生かして、ギリシャ彫刻のような写実的な毛の表現をしています。女性のフィギュアなどでも髪の流れはポーズとは別にキャラクターの内面的な感情や動きを表現する重要なファクターとなっています。メカは顔の表情が出せない分、こういった毛などの装飾や指の動かし方でキャラクターを引き立たせることができると考えていますので、スレイプニールの場合は、静的であっても鬣を大きくなびかせることで荒々しさをも併せ持つ躍動感を内包できたかと思っています。
 尻尾の動きは当初はもう少しおとなしめだったんですが、出渕先生から「もっと軽く、動きのある感じを出して欲しい」とお聞きしたので、そのイメージを取り入れて表現しました。結果として、優美さも表せたのではないかと思います。
 ポーズは、コミックスの最初の見せ場になるジパートがイグラッドに攻め込んで来た際に、そこに立ちはだかったスレイプニールの印象的な登場シーンからです。僕は静的な中にも“動”を感じるポーズが好きなんです」

スレイプニールの頭部と尻尾のアップ画像
▲ 鬣や尻尾の動きがキャラクター性を演出。組み立てた際には、こうした細部にも注目してほしい
素組みのスレイプニールの全体画像
▲ “立ちはだかる”という言葉に相応しい、静の中に秘めたる動的な雰囲気を感じる絶妙なポージングとなっている

 こうした経過を経て完成した原型をもとに、金型製作に入り、インジェクションキット化が進められていった。開発陣を悩ませたのは、谷が手掛けた原型の良さをそのままに、インジェクション成形するためにどのような金型設計を行うかということだった。その結果、一部には大胆なパーツ分割を行う“モナカ構造”を取り入れた。海洋堂のARTPLA開発担当の塩入翼は、その判断について次のように語っている。
「谷明の真骨頂である繊細なメカ表現とそれを覆う曲面、これを限られた金型面数でどうやって構築するかはとても悩みました。そして、結果としては胴体部分は“モナカ構造”にしています。胴体の段差などのディテール部分で分割線を目立たなくすうるようなパーツの割り方や、細かいパーツでバラバラになりすぎないよう金型から抜ける角度を試行錯誤していく中で、結論として谷が造形した曲面を綺麗に表現することができるのは、モナカ構造であることがわかったという形です。
 今回は、大胆なパーツと谷造形の真骨頂である繊細なパーツが混在しているので、キットを組み立てる際には、レジンガレージキットとプラモの良いとこ取りをした緩急のついた組み立て工程が楽しんでもらえると思います」

スレイプニールのランナーの画像
▲ 本体部分は曲面の美しさを優先した結果、大きなパーツを左右から組み上げる“モナカ構造”を採用。この大胆なパーツ分割は、プラモを組む楽しさを味合わせてくれる

 インジェクションキットを世に送り出すにあたって、もうひとつ重要な要素となるのが成型色だ。ARTPLAスレイプニールは、海洋堂を代表する造形師であり、フィニッシャーとしても高い評価を受けているBOMEが塗装見本を製作している。そして、成型色もBOMEによる塗装見本に近い色味となっているが、そこに至るまでも試行錯誤があったという。
「商品のリリース案内時には、原型の立体出力品にBOMEが塗装を施したものをお見せしました。この色味は、まさに“神々しい”という言葉がピッタリな色合いです。最終的にはこの色味を成型色に採用したわけですが、その前には青寄りのグレー、紫寄りのグレー、ギラギラのシルバーなど、何種類ものカラーサンプルを作って調整しました。最初のテストショットの段階では、青だったんですが、狙った色では無かったので変更しています。
 最終的には、BOMEの塗装作例の色合いである、少しパール粒子が入ったグレーを採用しました。光の当たり方や影の入り方で、谷の造形の面が映えるようになっていてとてもいい仕上がりになったと思います。組み立て終わったら、机の上に置いて、立体物としての迫力を感じて欲しいですね。成形色のまま組み立てて置くだけでオーメントになるようなプラモになっています」

複数のカラーチップがならべられた画像
▲ 成形色決定のために作られたカラーチップ。この中から、組み上げるだけでイメージに近いものになるよう検討が重ねられた
塗装されたレイプニールとランナーの画像

 こうして、デザインと監修を行った出渕、原型を担当した谷、そして海洋堂の開発部が一丸となることで、ARTPLAのフラグシップともなるキットとしてスレイプニールは完成。思わず見とれてしまうような美しい曲面で構成された体躯と存在感は、出渕デザインの造型物の中で、現時点での最高峰と言える仕上がりとなっているだろう。
 4月の発売には、ぜひその手に取っていただき、『機神幻想ルーンマスカー』の世界の雰囲気をぜひ立体として味わってみてほしい。

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Ⓒ出渕裕/徳間書店

TEXT/構成:石井 誠

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