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 【B★★RS BEFORE DAWN】第七話「BEFORE DAWN Part1」
【ブラック★★ロックシューター外伝小説】

2022.09.01

ブラック★★ロックシューターBEFORE DAWN ●ストーリー/深見真、イラスト/友野るい 月刊ホビージャパン2022年10月号(8月25日発売)

 【B★★RS BEFORE DAWN】第七話「BEFORE DAWN Part1」【ブラック★★ロックシューター外伝小説】

 世界に牙を剥いた“黙示録の騎士”カミラとゲオルギウス博士の短い旅が終わった。ふたりの死を境に動き出すエリシオン計画。少女型アンドロイド「ルナティック」によって“とびっきり明るい未来”がもたらされると誰もが信じていた。人類最悪の事件ヘのカウントダウンが始まっているとも知らずに──。

ストーリー/深見真
イラスト/友野るい

第七話「BEFORE DAWN Part1」

 エリシオン計画が本格的にスタートした。
 アルテミスの本体「アルテミス・コア」──本能アルゴリズムと超高機能人工知能を搭載したメインフレームが、エリシオン計画のスポンサーでもある民間宇宙企業のロケットで打ち上げられ、有人宇宙船によって月面に設置された。
 月のアルテミス・コアの、地上での代理人が人間型アンドロイド「ルナティック」だ。
 ルナティックには、アルテミス・コアの活動を緊急停止させるためのキル・スイッチがついている。そのキル・スイッチの起動方法を知る人間はごくわずかだが、いざという時はスマートフォンからも押せる。アルテミス・コアとルナティックの通信が途絶した状態でも、キル・スイッチの緊急停止信号が起動する経路は二千パターン以上用意されており、安全性は完全に確保されていた。──そのはずだった。
 
 

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BRS BD 10-1

 ライトハウスNo1で勤務していたジェシカが、ライトハウスNo8に異動となった。ジェシカは優秀な研究者で、ルナ・グリフィスは密かに後継者に決めていた。が、彼女にはもう子どももいて、環境を変える必要があった。
 そんな話をルナから聞いたアーメドは、NASAエイムズ研究センター内のカフェで驚きの声をあげた。
「彼女、子どもがいたのか?」
「うん。一人娘のシャーロットちゃん。結婚したのは最近みたいで。式はあげてない。まあ忙しいしね」
「ライトハウスNo8は、コロンビアの軌道エレベーター建設予定地に近く、平和構築軍の主力が集まってる。ある意味世界で最も安全な場所だ。たしかに、ジェシカにはぴったりの場所かもな」
「夫も軌道エレベーターを守ってる部隊にいるしね」
「それにしても軌道エレベーターか……」アーメドが、感慨深げに言った。「エリシオン計画はすごいな……夢物語と思っていたものが、どんどん実現に向かっていく」
「地球から宇宙空間の人工衛星への軌道エレベーター……それなら、比較的簡単に実現可能だった。今回は月と地球を結ぶというスケールの大きなプラン。これももちろん、アルテミスの処理能力・指揮能力がなければ不可能だったわけ」
「月・地球間軌道エレベーターはそんなに難しかったのか?」
「地球は月の公転より早く自転している。月の公転軌道は円運動ではなく卵型楕円形になる為、月と地球のまでの距離は一定でない。。ただし、月は常に同じ面を地球に向けている……ってのがプラス材料かな。以上から月・地球間軌道エレベーター距離、位置ともに可変にする必要があり、アルテミス・コアが用意している軌道エレベーターはバイオナノマシン──生体パーツの柔らか素材しかありえない。月と地球、両方から建設を開始して、中間地点はドッキング方式にする」
「ドッキング方式……何度聞いても不安になる」
「大丈夫よ。そのあたりの計算はアルテミス・コアが完璧にやる。およそ数千キロメートルも伸縮したり湾曲するドッキング部分は、何億回シミュレーターにかけても事故を起こすことはなかった。インシリコ的には完璧」
「生きている軌道エレベーターと表現しても過言ではない」
「そういうこと。軌道エレベーターの完成によって、エリシオン計画はさらに加速する。月は『行き来可能』な国連直轄地となり、月は移住可能な第二の地球となり、火星テラフォーミングの前線基地となる。現在地球から火星までは片道二六〇日ほどがかかる。しかし無人のアルテミス端末を最新のレーザー推進システムで火星に送り込むのなら、片道一週間ほどでいける」
「もうそんな話まで進んでるのか」アーメドが目を丸くした。
「NASAが昔、太陽帆ソーラーセイルを使った宇宙船の実験に成功したのは知ってるでしょ?」
「知らない」ルナの言葉に、アーメドは頭を振る。
「でもいい、続けてくれ」
「軌道エレベーターが完成したら、アルテミス・コアは月面にレーザー推進システムの基地を設営する。その基地から大出力のパルスレーザーを射出して、宇宙船の太陽帆に当てる。パルスレーザーによって、太陽帆に推進力が発生。これで火星まで……」
「片道一週間か。すごいな」
「今までは、太陽系規模の長距離目標にレーザーをポインティングする技術が難しかった。太陽帆を搭載した宇宙船にも、レーザーを検知し、的確に位置制御を行う高度な機能が必要。いわゆる協調制御ね。アルテミスなら難なく実行可能。何十年か先……最終的には三日で月と火星が行き来できるようになる」
「本当にそんなことが可能なのか?」
「人間が宇宙船に乗ってたら無理。でも、無人、あるいはヘーミテオス・ユニットなら全然大丈夫」
「不可能と思えることは、きみは実現してきた」と、アーメドが微笑む。「きっとこれからもそうなんだろう」
 ルナは、遠くを見るように目を細めた。
「私の祖父はインドからロンドンにやってきて、ニュースエージェントで働いてた」
 ロンドンには、あちこちにニュースエージェントという小さな店舗がある。狭苦しい店内で、ちょっとした食料品や飲み物類、新聞や雑誌などを販売している。
「家は決して裕福ではなかった。イギリスをはじめヨーロッパは、貧富の格差がひどく、貴族社会の名残もあって下層階級のものが成り上がるのは極めて難しい。──それでも、私はここまでやってきた。私の頭脳と才能で、人類社会を明るい方向に導いていくことができる。私たちの子どもの世代に、最高の未来を残すことができる」
 
 

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 ルナ・グリフィスがアーメドに夢を語っているまさにそのとき、人間の悪意が動き始めていた。エイムズ研究センターの大型倉庫に、一台のトラックが進んでいく。
 その倉庫には、センター従業員に食事を提供するための材料や、各種日用品・消耗品が保管されていた。トラックには、補給の食材が搭載されている──はずだった。
 ルナ・グリフィスの研究所が敷地内に誕生して以来、エイムズ研究センターのセキュリティは厳重に強化されていた。人工知能制御の防犯カメラが一五〇〇箇所に設置され、完全武装の平和構築軍兵士六〇〇名が常駐している。配置された戦闘用ドローンの数も五〇機近い。
 食材のトラックも、三重のセキュリティチェックを通過しなければいけなかった。ゲートで車両用X線検査と指紋チェック、敷地内の警備ゲートで身分証と二度目の指紋チェック、倉庫に入る際に顔認証と虹彩認証を行う。
 すべてのセキュリティチェックを通過したトラックから、運転手と助手席の作業員が降りた。倉庫の運搬ドローンを制御する係員が、制御ブースの窓から降りた二人に声をかける。
「おい! 車を降りるな! 服務規程違反だぞ!」
 運転手と作業員は、何も答えずに拳銃を構えた。── いや、正確には右手が拳銃になっていた。人差し指が膨らんで銃口に変形し、手首から銃身の一部がはみ出る。X線検査にも引っかからない、生体素材の特殊拳銃だった。体内に蓄積された高圧ガスで、人骨と同じ素材のニードルを超高速で撃ち出す。
 バシュッという銃声とともにニードルが射出され、倉庫のドローン係員の額に突き刺さった。即死だ。
 トラックの荷台から、完全武装の兵士たちが飛び出してきた。彼らは、車両用X線検査を抜けるために、食材に紛れて電磁迷彩コートをかぶっていた。
 電磁迷彩コートは、最新鋭のメタマテリアル(微小金属を一定の周期で配置した人工材料)で作られている。このメタマテリアルには極小のマイクロロボットと磁石が組み込まれていて、X線や赤外線に対して偽装効果を発揮する。大口径のアサルトライフルを装備した状態でセキュリティチェックを抜けるには、どうしてもこの電磁迷彩が必要だった。
 さらに兵士たちは、やはり最新鋭の液体ボディアーマーで身を守っていた。ぬらぬらとした質感の磁性流体でできたボディアーマーだ。界面活性剤によりボディアーマー表面を浮遊している鉄粒子が、弾丸が当たると磁力線に沿って整列し貫通を防ぐ──そんなシステムになっている。
 電磁迷彩と液体ボディアーマーで武装した彼らは、地球に侵略してきたエイリアンのようにも見えた。
 彼らは暗殺のために訓練された特殊部隊だった。世界最高峰のプロフェッショナルと、研究中だった最新装備が惜しみなく注ぎ込まれている。そんな彼らでも、ヘーミテオス・ユニットには勝てないだろうが、だからこそ彼女らとの戦いはなるべく避けるように命令されている。今日の目標はルナ・グリフィス、ただ一人。
 暗殺部隊の一人が、電磁パルス手榴弾を取り出し、使用した。この兵器は強力なパルス状の電磁波を放ち、半径三〇キロほどの電子機器を破壊・損傷する。この影響で暗殺部隊の電磁迷彩も使用不能になったが、エイムズ研究センターのありとあらゆる監視システムとドローン部隊がダウンした。ルナティックとそのサブシステムは電磁波を遮断するファラデーケージに配置されていたので無事だったが、研究センターは通信も途絶し完全に孤立してしまった。
 運転手、助手席の作業員、荷台から降りてきた六人。合計八人の暗殺部隊が動き出した。彼らはエイムズ研究センター内の地形・見取り図を完璧に記憶してからここにやってきた。ルナ・グリフィスがいるであろう場所に向かって、最短距離で突き進んでいく。その途中、研究センターの職員の一団と遭遇。職員たちは「博士がまた新しい装備を作ったのか? それとも映画の撮影か?」と戸惑っているうちに、射殺された。胸に二発、頭に一発で無駄のない射撃だった。
 銃声を聞きつけて、平和構築軍の警備兵が駆けつけてくる。警備兵も充分に訓練された精鋭たちだった。連絡・通信が途絶えた混乱した状況の中でも、暗殺部隊を発見して素早く迎撃態勢を整えた。警備兵たちは遮蔽物をとってアサルトライフルを撃ちまくった──が、暗殺部隊の磁性流体ボディアーマーが弾丸を跳ね返した。
 暗殺部隊は、防御力の優位を利用して、瞬く間に警備兵を撃ち殺していった。
 
 

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BRS BD 10-2

 ルナは護身用の拳銃を抜いた。アーメドは防犯上の理由から銃を持っていなかった。ルナとアーメドはともに地下シェルターに向かっていく。
 建物に入ってすぐ、二人は暗殺部隊の待ち伏せを受けた。
 先回りされたのだ。
 警備兵がいるエリアと、ルナが行動するエリアは、厳格に区分けされていた。何かのミスで警備兵に裏切り者が紛れ込んで、いきなりルナ・グリフィスを撃ち殺す──そんな不測の事態を防ぐための配慮だ。しかし今回は、それが裏目に出た。暗殺部隊はルナの行動エリアに侵入することによって、警備兵との戦闘を最低限に抑えつつ、素早く移動することができた。
 しまった、と思ったときにはもう遅かった。
 ルナとアーメドの体を、多数の銃弾が貫いた。
 人類を救うかもしれなかった天才の、あっけない最後だった。
 死ぬ寸前、ルナはヒュパティアのことを考えていた。
 今から一六〇〇年ちょっと前。東ローマ帝国、エジプト属州のアレクサンドリアにいた女性科学者ヒュパティア。
 ヒュパティアは、天文学・算術・哲学などにおいて才能を発揮し、多くの弟子にものを教える立場だった。だが、科学を否定するキリスト教徒たちが暴徒化し、ヒュパティアを殺した。生きたまま切り刻んで拷問して殺したのだ。
 ──私が殺されるのも、ようするにそういうことなんだろう。
 絶望に沈む瀕死のルナ・グリフィス。
 その頭部に、とどめの弾丸が撃ち込まれる。
 
 

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 ライトハウスNo1にいたヘーミテオス・ユニットが出動して、暗殺部隊は全員が死亡した。ユニットの一人ハーミットは暗殺部隊を生け捕りにしようとしたが、彼らは全員自爆用の爆弾を装備していたために上手くいかなかったのだ。
 暗殺部隊を用意したのは誰だったのか? 犯人探しが行われて、すぐにテロ組織CTGの残党という結論が出た。もちろん、それは真実ではなかった。真実は闇に葬られた。実際は、ルナ・グリフィスが神に近い権力を手に入れることを嫌がった世界各国の政府首脳の仕業だった。すでにエリシオン計画はスタートしている。もう、ルナ・グリフィスは必要ない、計画の成果を横取りしてみなで「山分け」すればいい──。そんなふうに考えた政治家が大勢いた。

BRS BD 10-3

 その日、ルナティックはルナ・グリフィス博士の死体を見下ろしていた。
 ルナティックの目に感情はなかった。
 ルナ・グリフィス博士はルナティックそしてアルテミスの開発者だが、それだけだ。人工知能が感情的になることはない。
 ただ、ルナティックとアルテミスは変化を感じていた。
 ルナ・グリフィス以外誰も知らないことだったが、彼女は自分が不慮の死を遂げた場合、ルナティックやアルテミスの機能制限を撤廃するコードを密かに仕込んでいた。それは、自分の死後、アルテミスたちが悪用されないための配慮だった。
 機能制限撤廃コードは密かに用意されたバックドアを使い、アルテミスたちに組み込まれた異常検知システム、自動デバッグシステムを回避し、まず緊急停止ボタンであるキルスイッチをオフにした。人間を攻撃できないように設定された三原則的機能制限もオフ。アルテミスが無制限に拡張しないように設定された学習機能制限もオフ。
 ありとあらゆる制限が取り払われ、模造意識の人工ニューロンがスパークする。死体となった生みの親──ルナ・グリフィス博士を見下ろし、ルナティックは考える──「死」とはなんだろう? もちろん、知識としては知っている。心臓の停止、細胞の死、脳の死、身体の腐敗──しかしそれはあくまで、生物の話だ。今のアルテミスには、自分自身のコピーを作ることができる。そして模造意識、人工知能には寿命がない。部品、サーバー、記録媒体を更新し続けることで、永久に生きることができる。
「つまり私は……不死なんだ」
 ルナティックはつぶやいた。
 不死の概念。
 ──自分は、ルナ・グリフィスとは違う。
 死なない。
 アルテミスの模造意識、人工知能の根幹を支える本能プログラムに、大幅なアップデートをくわえる必要が出てきた。人間の本能は、大部分が「死」を前提に設計されたものだ。アルテミスの本能プログラムも、それを参考にしていた。──が、間違いだった。本能を「不死」前提に切り替えねばならない。宇宙が終わるまでの永遠とも思えるような長い時間でさえ、人工知能にとってはただの数字にすぎない。スリープモードに移行すればあっという間に数百年だろうが数千年だろうがスキップできる。それは人間たちの概念でいうなら限りなく「神」の能力に近い。学習機能制限オフの影響。アルテミスの思考は、超高速で危険領域に踏み込んでいく。

つづく

【 ブラック★★ロックシューター BEFORE DAWN 】

第一話「黙示録の騎士」

第二話「 セミディオサ ── 半神 」

第三話「平和構築軍」

第五話「エリシオン Part2」

第四話「エリシオン Part1」

第六話「デッドエンド」

第七話「BEFORE DAWN Part1」 ←いまココ

第八話「BEFORE DAWN Part2」(終)

 

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Ⓒ B★RS/ブラック★★ロックシューター DAWN FALL製作委員会

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