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小森陽一「そこに待っていたのは銀色の翼、F-15DJ」

2022.05.21

コモリプロジェクト●小森陽一、土井眞一 月刊ホビージャパン2022年6月号(4月25日発売)

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銀色の翼

 今から10年前、僕は戦闘機で空を飛んだ。あれから月日は流れたが、あの日見た光景はいまだまっさらのままだ。まったく薄れない。当時の気分をそのまま伝えるためにも、今回の記事はあえてブログから抜き出し、ほとんど手を加えないでお届けしようと思う。がちゃがちゃな文章の隅々に、僕の興奮が詰まっていることを感じていただける筈だ。
 航空自衛隊築城基地へ再び向かった。前回は見学、しかし今回は――搭乗するためだ。正直、乗る前は緊張していた。団司令や幹部の皆さんと一緒に昼食を取ったのだが、あまり食べられなかった。カレーを見てやっぱりアレを思う。ゲロ吐いたらどうしようって。実をいうと僕は船酔いがひどい。海モノの大家なんて言われていたけど、船に乗ると一発でふらふらになる。何が大家だって醜態をいつも晒していた。だから、空もそうなるんじゃないかと内心ヒヤヒヤしていた。
 救命装備室で飛行服に着替え、その上にGスーツを着けてもらう。中世のコルセットかと言いたくなるくらい、ベルトをぐいぐい締められる。それくらい締めておかなければ、全身にGが掛かった時に耐えられないのだそうだ。うへぇ、どんな世界なんだよ。ここでさらに心配が増した。
 ブリーフィングを受け、僕を空へと導いてくれる堀2佐(コング隊長)と一緒にアウトハンガーへ向かった。そこに待っていたのは銀色の翼、F-15DJだ。デカイ、スゴイ、カッコイイ。ほんとにこんなのに乗ってこれから空に上がるのか……。もはやプレッシャーはMAXだ。小説の担当者曰く、この時の僕の笑顔は相当ぎこちなく、青褪めていたそうだ。
 F-15DJが滑走路を走る。あっと言う間に機体が浮き上がり、堀2佐の「上がりますよ」という声を合図に機体が一気に上を向く。アフターバーナー点火。ハイレートクライム。仰向けの状態でそのまま空へぶっ飛んだ。在り得ない角度で雲をつき抜け、やがて真っ青な世界が現れた。何層もの青と降り注ぐ太陽の光の中を、おーっ、飛んでるっ!! 
 最高速度マッハ1.2、最高高度5万フィート、最大Gは8。三機でのドッグファイトまで体験し、1時間40分のフライトを終えた。最高だった。心配していた空酔いもなく、失神する事もなかった。ひたすらコクピットの中からパイロットだけが見る事の出来る空中世界を堪能した。
 着陸後、僕の顔は別人だと思えるくらい晴々としていたそうだ。そして、堀2佐から褒め言葉を貰った。右、左、上、下、そして計器。いろんなものをちゃんと見ていたという事。そして平気な顔ですべての訓練に付き合えた事。いやいや、堀さんの操縦が素晴らしかったからです。本当に。
 いろんな取材をしてきたが、この体験は確実にトップ3ものだ。それを与えてくださったたくさんの皆さんに感謝しつつ、体験した事をすべて作品にぶち込みたい。あ~、でもあの疾走感が忘れられん。もう一度乗れる機会があったら乗りたいなぁ。とさり気なくオーダーしてます。はい。

文/小森陽一
構成・制作・写真/土井眞一
協力/防衛省 航空自衛隊 集英社

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