小森陽一が語る 今も昔も変わらないガレージキットの世界とは?
2022.04.21 コモリプロジェクトHP
Youichi Komori Official Web(y-komori.net)
どれほど時代が進化しようとも、今も昔も変わらないものは多々あります。製法なんかそうですよね、酒造りに醤油造り、梅干しや饅頭など昔ながらのやり方でしっかりと店の味を守っています。身近なところではお袋の味なんかもそうかもしれません。世の中に美味いものは多々あれど、お袋の味はひとつだけ。永久不変、千古不易、未来永劫というわけです。
さて、ガレージキットはどうでしょう。造形に関してはデジタルの波が押し寄せており、いくつもの技術革新が生まれています。粘土をこねて造るのが当たり前だったものが、今やパソコンの中で造形され出力されます。いやはや、とんでもない時代が到来したものです。しかし、です。ガレージキットメーカーの仕事となるとこれがそうはいきません。今でも旧態依然のままなのです。
ガレージキットとはその名の通り、倉庫で生まれた造形物です。世の中にないもの、自分の欲しいものを己の意のままに作ってしまえ! という意識からスタートしました。それを見た人が「お、いいね。僕にもひとつ頂戴よ」なんて感じで薄く広がっていきました。元々が個人の趣味で出発しているわけですし大量生産品でもありませんから、工場もなければ従業員もいない。つまりはインストのデザインから箱選び、クッションに梱包にメールのやり取りまですべて自分でこなさなければなりません。完璧なる家内制手工業です。当然のこと、プロジェクトメンバーと一緒に僕も率先してこなしています。以前、キットが到着したとの連絡をメールで受けた際、「宛名の字が汚いのが難点」と書かれたことがありました。「お弟子さんかどなたかが書かれたのだと思いますが」という注釈付き。いえいえ、これ、僕の字です。宛名もサインも全部自分で書いてますから。世間様には一応「先生」なんて言われてます。ふんぞり返ってなんにもしていないと思われているのかもしれませんが――してます。一生懸命に。
とまぁ、これが今も昔も変わらないガレキ屋さんの実態なのです。多少の失敗はどうか優しく見守ってくださいね(苦笑)。
文/小森陽一
構成・制作・写真/土井眞一
©円谷プロ
小森陽一(コモリヨウイチ)
●1967年生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、東映に入社。その後、コラムや小説、漫画原作や映画の原作脚本を手がける。大阪芸術大学映像学科客員教授。『海猿』『トッキュー!!』『S-最後の警官-』『BORDER66』『ジャイガンティス』など著作多数。