ピットロード「日本海軍 駆逐艦 雪風 1945」を作例製作&キットレビュー
2022.04.24太平洋戦争から戦後を生き抜いた幸運艦
アメリカ海軍との艦隊決戦に備え、水雷戦隊の主戦力として整備された陽炎型駆逐艦19隻だったが、太平洋戦争では護衛、輸送、対潜などの任務に忙殺され、ほとんどが真価を発揮せずに戦没。しかし「雪風」のみは、戦艦「大和」の沖縄特攻などの幾多の激戦をくぐりぬけ、戦後も台湾海軍の「丹陽」として1971年まで生き抜いた。2020年に1/700スケールで「陽炎」を完全新金型でリニューアルしたピットロードから、バリエーションとして「雪風」が新たにリリース。「幸運艦」と呼ばれた「雪風」の最終時の姿を、今までよりもハイグレードな仕上がりで製作できる。
日本海軍 駆逐艦 雪風 1945
■甲型の幸運艦が待望のリリース
「雪風 1945」は、先に発売されている「陽炎 就役時」(品番W213)のバリエーションキットとなります。傑作キットといえる「陽炎」と同様の水準での甲型駆逐艦(陽炎型・夕雲型)の最後の生き残り、「幸運艦」と称された「雪風」の、沖縄特攻作戦時のキット化を待ち望んでいられたモデラーの方は多かったのではないのでしょうか。
陽炎 就役時と雪風 1945のキットを比較すると、日本海軍の戦略構想の中で魚雷発射のためのプラットホームとして整備されてきた駆逐艦が、計画当初には想定されていなかった苛烈な対空戦闘・対潜戦闘に対応するため変貌していった姿を感じることができます。
■船体
テストショットのためか、船体は一部舷側部分のモールドがつぶれている部分がありましたが、瞬間接着剤を利用して復元しました。バスタブ式の船体で舷外電路、舷側のモールド、閉鎖された舷窓の表現など申し分ありません。
今回は洋上モデルとして製作したため使用しませんでしたが、フルハルモデル用の艦底の表現はディテールがすばらしく、ため息が出ました。甲板部分は共用部品のため船尾部分を切断し、1945年時の部品P24を継ぎ足す形となっていますが、リノリウム押さえの表現をつぶしてしまわないよう注意深く処理することが必要です。開口表現の舷窓はピンバイスでさらい、錨はファインモールドのナノ・ドレッドのものに変えています。
■艦橋、煙突、上部構造物など
艦橋は大戦末期に駆逐艦「磯風」の写真で確認されている装甲板の表示もあり、よい雰囲気です。艦橋の窓部分はエッチングの窓枠に置き換えています。艦橋に装備されていた逆探はナノ・ドレッドのものを正面、左右に配置しています。マストはキットのもので充分細かく仕上げられており申し分ありませんが、さらなる細密化を図るためマストの上部分は0.3mmおよび0.2mmの真鍮線で作り変え、一三号電探もナノ・ドレッドのものに置き換えています。
ところで本キットのパーツは非常に繊細にモールドされているため、破損、紛失などには充分な注意が必要です。私の場合、不注意から何点か部品を紛失し、手元にストックしていた「陽炎」就役時が部品提供艦になってしまいました。また各部品の取り付けがタイトな部分は、穴をピンバイスで広げてから調整して処理しています。
煙突は頂部の開口、エッチングパーツの使用なども考えたのですが、キットの美しいラインを崩しかねないので断念。探照灯はナノ・ドレッドのクリアーパーツに置き換え、方位測定儀、空中線網などもエッチングに置き換えます。
後部マストも前部マストと同様に真鍮線で作り変え、エッチングの船尾信号灯を付加。ボートダビットなどはキットのパーツを使用しますが、7mカッターはナノ・ドレッドに、キットの内火艇はボートダビットに対し少し窮屈な感じだったのでピットロードの装備品セットから調達。また極細のマスキングテープを白色で塗装し、グランプバンドとしています。
■武装について
主砲、魚雷発射管はモールドなどの表現も素晴らしく、キットのままとしています。機銃類もキットのもので充分だと思いますが、好みでナノ・ドレッドのものに置き換え。爆雷装填台もエッチングパーツとしています。
■塗装
船体などは、Mr.カラーC601呉海軍工廠標準色、艦底部はC29艦底色、甲板のリノリウム部分はC606リノリウム色としています。沖縄特攻作戦での「雪風」は第2水雷戦隊2番隊3番艦と判断しているので、後部煙突に白線2本とし、前部煙突に付属のデカールにて三角形の記号表示を表現しています。
ピットロード 1/700スケール プラスチックキット
日本海軍 駆逐艦 雪風 1945
製作・文/田中伸治
日本海軍 駆逐艦 雪風 1945
●発売元/ピットロード●3190円、発売中●1/700、約17.0cm●プラキット
田中伸治(タナカシンジ)
暖かくなり塗装作業に適した季節に。寒い間は小型艦中心でしたが、大型艦に着手しようと思っています。