【ゾイドワイルド戦記 外伝】
最終話

2021.12.18

ゾイドワイルド戦記外伝 月刊ホビージャパン2022年1月号(11月25日発売)

【ゾイドワイルド戦記 外伝】最終話

原作:『ゾイドワイルド』シリーズより/企画:タカラトミー/構成:アーミック/執筆:近村英一[エッジワークス]/協力:ホビージャパン

 YouTube のタカラトミーチャンネルにて配信中『ゾイドワイルド戦記』より、アニメに描かれなていない裏側や前日譚をまとめた『ゾイドワイルド戦記外伝』。ゼログライジスとの最終決戦を終え、改めて対面する共和国と帝国。生き残った兵士たちはまだ戦い続けるのか。物語は終幕を迎えることとなる。

最終話

 辺りは時が止まったかのような静けさに包まれていた。
 地面には数えきれないほどのクレーターが浮かび、かろうじて立っている状態であったビルは、今では瓦礫の山と化している。どこを見ても戦闘の激しさを窺わせるその場所の中心で、破壊の根源であるゼログライジスは立ち尽くし沈黙を続けている。

 戦場から遠く離れた空に浮かぶ、共和国軍空中母艦。
「リューク大尉応答せよ。繰り返す、リューク大尉応答せよ。こちら……」
 そこで、クエイド中佐は、リューク、マンジェル両大尉に通信を飛ばし続けていた。

 しかし、耳障りな機械音が流れてくるばかりで、一向に届く気配はない。
「ボルト技術主任、戦場の状況は?」
「ゼログライジスは完全に沈黙しているようだ。生体反応も急激にしぼんでいる。まるで休眠状態にでも入ったようだよ」
 コンソールから目を離しクエイドに目をやると、彼はじっとこちらを見ていた。ボルトはため息をつくと、言葉を続ける。
「何度も言ってるが、あの戦闘によって生み出されたと思われる特殊な力場のせいで、通信系は機能していない。回復の目処も立たない。」
「何か手はないのか?」
 ボルトが苦渋に満ちた表情を浮かべた。
「広範囲に亘る力場にこの母艦を進入させれば、計器類が全て狂わされ捜索どころではなくなる。これの影響を受けないであろう地球外ゾイドであれば、特有の共鳴信号を利用することで通信がとれるはずだが……」
 クエイドの眼光に圧されてつい広げてしまった気休めもここまで…
「我々が保有する地球外ゾイドは、ゼノレックスとレジェンドブルーの2機だけだ」
 そう言ってクエイドはため息をつくと、再びリュークたちに呼びかけはじめた。

 通信が途絶えてから、3時間。
 マンジェルはキャノピーの中から、沈黙するゼログライジスを眺めていた。
「ダメだ、消耗が激しい。自力で立つこともままならない……」
 短距離通信を通してかろうじて聞こえてきたリュークの声に、マンジェルは短く「そうか」と答える。
「こちらは、俺とハンスの機体はなんとか無事だが、ポーラ機は自力で動けそうにもない」
 ブレイズの言葉に、リュークは表情を渋くした。
「マンジェル、お前の機体はどうだ?」
「レジェンドブルーなら、移動に問題はない」
 あの戦いを経て、生き残っているだけでも奇跡と呼べる状況であった。
 自力で動けない機体もあるとはいえ、全員のゾイドが無事というのも出来すぎなくらいである。ただ、難があるとすれば……。
「どちらも自力での帰還は難しいという事か……」

 帝国軍本部──。
「救援部隊の派遣はどうなった?」
「そちらは上層部の承認を待っております」
 部下からの報告にコリンズは深く息を吐きだすと、椅子の背もたれに体を預けた。
「こんな状況になっても、責任の押し付け合いとはな」
 消極的な上層部とのやりとりに、怒りを通り越して冷めていく自分を感じる。
「状況は理解した。我が部隊から独自の救援を送る」
「はっ? ですが、上層部の承認はまだ……」
「状況は一刻を争う。上のままごとに付き合っている余裕はない」
 覚悟を決めた表情でコリンズは言葉を続けた。
「すべての責任は、私がとる」

「どうするんだ、ブレイズ?」
 ハンスの質問にブレイズは思考を巡らせる。
 ポーラの機体は損傷が大きく、2機で引きずるように牽引しては途中で力尽きてしまうだろう。かといって、現状の装備では自分達の機体の背部に積載する事も適わない。
「どうするもこうするもないでしょ。私を置いていけばいいのよ。」
「何を言ってるんだ、ポーラ。せめて、お前だけでも……」
 ハンスの言葉をポーラが途中で止める。
「たった3機しかない地球外ゾイドなのよ? 置いていけるわけがないでしょ」
「だが……」
「何も見捨てろって言ってるわけじゃない。私だって、こんな場所で死にたくないしね。ただ、ふたりで通信が可能な場所まで脱出して、救助を呼んでくれって言ってるのよ」
 確かに、ポーラが言っていることは合理的に思えた、だが……。
「俺たちがいない間に、ゼログライジスが起きたらどうするつもりだ? それに、あいつを助けに、ゼロファントスがやって来るかもしれない」
 ハンスが言った懸念がある限り、ブレイズはポーラを置いていくわけにはいかなかった。
「そんなことが起きたら全員終わりよ。満身創痍の機体でまだ戦えるっていうの?」
「それは……」
 ハンスとブレイズの機体は移動するには問題がなかった。だが、戦闘となれば話は別だ。バーニングライガーのウリである高速機動は機体への負荷が大きい。さらにこれ程のダメージを負っているとなれば、耐え切れず自壊しかねない。
「全員が生き残るには、私が言った方法しかないわ」
「いや、方法なら他にもある」
 割り込む形で通信に入ってきたリュークの言葉にポーラたちは耳を傾ける。
「俺たち全員で力を合わせるんだ。そうすれば、脱出も不可能じゃない」
 あまりに楽観的に聞こえる提案に、虚を突かれたような表情を浮かべたブレイズだがすぐに軍人の顔をその上に張り付けてみせる。
「ゼログライジスが沈黙した以上、条約規定は既に終了している。今の俺たちは敵同士だ」
「帝国軍人らしい、融通の利かない物言いだな」
 苦笑交じりにリュークが返す。
「この状況で敵も味方もないだろう。俺のゼノレックスも動かない、ブルー一機で背負うのは困難だ」
「そちらも自力で帰還するのは難しいという事か」
 ブレイズの言葉にリュークは短く返事をした。
「だから、ブルーがそちらの動けない機体を運び、ゼノレックスはそちらの2機に運んでもらいたい。それならバーターだろう?」
「確かにそれなら通信不能なこの領域からの離脱は可能だろうが…」
「なら、何も悩む必要なんてないだろう。ここから、全員で生きて帰るんだ」
 リュークの言葉がブレイブの奥底に響く。
 今、自分たちが生きているのは奇跡といえた。その奇跡は、ここにいる全員がいたからこそ起こせた奇跡に違いない。ここからつまらない理屈で誰かを失うなどという事があっていいわけがない。
「わかった…全員で生きて帰ろう」


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 決まってからの行動は迅速であった。
 ゼノエボリューションが解かれ元の大きさへと戻ったゼノレックスを、ブレイズ機とハンス機がワイヤーでつなぐ。
 そして、レジェンドブルーはバイタルチャージャーラックにポーラ機を括り付ける。
「すまないな、不格好で」
 ワイヤーを引きながらマンジェルが言うと、ポーラは首を横に振った。
「助けてもらえるだけで、ありがたいわ。特に、あなたに助けてもらうなんてね」
 ポーラの言葉に、手が止まる。
 その一言で、マンジェルは全てを察した。トグル整備長が死んだあの日の戦いの相手は目の前にいるこの女だったのだと。
グルゥゥゥ──!
 ブルーが低い唸りをあげ、マンジェルは顔を伏せる。
「もしかして、私があの時の敵だって知らなかったの……?」
 ブルーがポーラを威嚇するように喉を震わせる。
「待て、ブルー。そいつを襲ったところで何も変わりはしない」
 彼の言葉を無視するように、ブルーはポーラの方へ体を向ける。
 それに対しポーラは、微動だにせず、ただ悲しげな瞳でブルーを見つめる。
「俺達が憎むべきは戦争だ。誰も望んで戦ってなどいない。俺達も彼女達もだ。お前なら、それが理解できるだろう?」
 マンジェルが言葉を重ねブルーは動きを止める。
「許さなくていい、俺も同じだ。だが、今は協力してくれ」
 ブルーは一度だけ小さく呻くと、激しい感情を抑え込んだ。
 マンジェルはそんなブルーの前脚を優しく撫でてから、作業を再開する。
「ありがとう、説得してくれて」
 ポーラが呟くように言うと、マンジェルは手を止めないまま答える。
「あんたのためじゃない」
「わかってるわ……」



 共和国軍空中母艦──
 リュークたちと通信が途絶えて5時間が経過しようとしていた。相変わらず力場に阻まれ、彼らの安否はようとして知れない。せめて通信が通じれば回収部隊を派遣できるのだが。
 クエイドの苛立ちは限界を迎えようとしていた。それはボルトも同じであった。いつまた目覚めるとも知れないゼログライジスから少しでも早く彼らを遠ざけたい。地球外ゾイド同士の邂逅は、何が起きても不思議ではないのだから。
 ゼログライジスの沈黙を確認できている今、協力条項の適用外となり帝国軍に協力を要請することは難しい。だが向こうも同じ状況にあるならあるいは……。
 通信士間の声が船内に響いた。
「緊急入電! 帝国軍からです!」

 どれくらい移動しただろうか。
 時間の感覚すら曖昧な中、横たわるゼノレックスをハンス機と横並びで背負いながら、ブレイズはただ進むことだけを考え続けていた。
「ありがとう。俺が一番のお荷物だというのに、提案を受け入れてくれて」
 ゼノレックスの上に乗っているリュークが疲れた声色で言葉をかけた。
「気にするな。お互い様だ」
 言って、ブレイズは横を歩く青いライガーへと視線を投げた。
 その背に括り付けられたバーニングライガーの上に腰かけているポーラは出発以来、無言を貫いている。ブルーを刺激したくなかったからだ。
「……あんたはいつもそんなに無口なのか?」
「えっ?」
 予想に無かったマンジェルの声に、ポーラは呆けたような顔を浮かべた。
「……さっきは感情的になりすぎた。だから、気にしなくていい」
「私のことを許せないのは当たり前のことよ。もし逆の立場なら、私だって……」
「『もし』は存在しない。起こってしまった事実があるだけだ」
「そうね……」
 ふたりの言葉が途切れる。
 辺りには金属のこすれる不快な音と、風の流れる音だけが響く。砂塵が舞い、視界は足元さえ不確かな程に悪い。その中を進むゾイドの足取りは徐々に鈍くなり、それに乗るライダーの体力もまた限界へと近づいていた。

ヴォ──

 レジェンドブルーの嘶きに、意識を失いかけていたマンジェルが目を覚ます。
「わかっているさ、ブルー。因縁は消えない。だが、彼女たちがいたから今こうして生きているのも確かなんだ……」
 力が抜けたように、レジェンドブルーが地面に膝をつく。
 横を見れば、2機のバーニングライガーも歩みを止めていた。
「俺たちはもっと分かり合えたはずなんだ。そうすれば……戦争なんて……」
 目の前が黒く染まっていく。
 重力から解放されたような浮遊感に包まれ、マンジェルは安堵すら覚えていた。
 ただ、今はゆっくりと休みたい。
 その想いだけが彼の脳を支配し──。

「き……か? こち……チオ少……」
 どこかで聞いたような声に、ブレイズは意識を覚醒させた。
 どうやら、気を失っていたらしい。
「き……ますか? こちら……帝国軍……ツチオ少尉!」
 通信が鳴っていることに気づき、ブレイズは咄嗟にボタンを押した。
「こちら帝国軍所属、ブレイズ・ジュール大尉だ!」
「こちら、ユキヤ・ツチオ少尉です!」
「生きていたのか、ユキヤ……!」
 ユキヤ少尉、かつてゼロファントスのテストパイロットとして送られてきた新人で、ゼノレックス襲撃作戦において乗騎が大破、消息不明となっていた男だ。
「まさか、お前が来てくれるとは……無事だったのか」
「あんな醜態を晒したままでは死に切れません。今、ゼロファントスを解ってやれるのは自分だけですから。おかげで、大尉たちを捜索できて良かった……」
「地球外ゾイド同士の共鳴を使ったレーダーというやつか……」
「座標を特定しました。すぐに迎えに行きます!」
 短いやり取りを終え、通信時は切れた。
「みんな、生きているか?」
 ブレイズの呼びかけに、それぞれが思い思いの言葉を返す。全員無事のようだ。
「とはいえ、俺たちはこのまま帝国軍の捕虜だな……」
 マンジェルが皮肉を込めて言った。
 それでも、ここで死ぬよりはいくらかマシだろうという思いが彼にはあった。
「私たちが上を説得するわ。だから、そんなことはさせない」
「そうか、ありがとう……」
 巻きあがった砂が、風に吹かれてどこか遠くへ飛んでいく。

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「どうやら、杞憂だったようだな」
 ハンスがつぶやく。薄くなった砂埃の奥から姿を現すゼロファントス。差し込む陽光に照らし出されたその機体には、共和国、帝国の両軍のエンブレムが描かれていた。
「どうして、共和国のエンブレムが……」
 リュークの言葉にユキヤが笑顔で返す。
「条約の追加特例措置が認められたんです。これから到着する救援隊は合同軍によるもので、誰の身柄も拘束されるものではありません」
「そうか……」
 リュークは目を閉じて天を仰いだ。

 視界の回復した空に共和国軍の空中母艦が姿を現す。突き出したポールに両軍の旗がたなびくのが見えた。
「俺たちはもっと、互いのことを信用してもいいのかもな……」
 マンジェルは遠くを見ながら、誰に聞かせるでもなく呟く。
 地図に引かれた線など、両軍が揃うこの場所には存在していなかった。
 ただ空は広がり、大地は遠くまで続くだけなのだから。

END

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© TOMY

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