キットレビュー:アメリカ海軍 大型巡洋艦CB-1 アラスカ【岩重多四郎】
2021.09.24日独艦の幻影に翻弄されたスーパークルーザー
ドイツの「シャルンホルスト」級や日本の超甲型巡洋艦(超甲巡)に触発されたアメリカ海軍の「アラスカ」級大型巡洋艦は、排水量、備砲ともに従来の重巡洋艦の枠組みを大きく超えた“スーパークルーザー”として期待され、1944年に「アラスカ」と「グアム」の2隻が竣工、太平洋戦争末期の沖縄戦などにも参加している。巡洋戦艦に匹敵する大型艦ながら時代に取り残された非運の艦を、トランペッターが1/700スケールで初インジェクションキット化。米艦らしからぬヨーロピアン・テイストあふれるデザインを組み立てやすいキットで作り上げよう。
■不要なる再来
排水量1万トンの船体に28cm砲を搭載したドイツ装甲艦「ドイッチュラント」級は、軍縮明け後の巡洋艦の発達を占ううえでも見過ごせない存在だった。再軍備宣言後のドイツがその発達型として「シャルンホルスト」級を完成させ、日本も同種艦を作るものと予見したアメリカは、先手を打って6隻を建造することにした。新設の大型巡洋艦に類別された「アラスカ」級の排水量2万7000トン、速力33ノット、30cm主砲9門は、独艦の公表値に対しそれぞれ1000トン、2ノット、砲口径2cmを上積みしただけで、米海軍が推していた大遠距離射撃に期待して防御は軽めにとどめ、巡洋艦の船体形状と空母の機関部で所定の速力を得るなど、彼らにしては珍しく質素倹約を表に出した設計となっていた。
しかし、日本が実際に計画していた「超甲巡」は放棄され、「シャルンホルスト」級も行動を封じられたことで存在価値を大きく減じ、3隻が起工中止。「アラスカ」「グアム」は1944年に竣工したものの、対空火力が排水量半分の「ボルティモア」級重巡と大差ない点から艦隊随伴戦力としても非効率とされ、3年もたたない1947年には退役、建造中止の「ハワイ」ともども1960年頃解体されてしまった。コンセプトとしては初期の巡洋戦艦の再来に近いものだが、結果論からすればまったく無駄な投資に終わり、大艦巨砲主義の枠組みだけの船は生き残れないという厳しい現実が突き付けられた。
■キットについて
トランペッターの1/700新作。それほどメジャーな船ではないが、「シャルンホルスト」級とほとんど同寸で存在感は充分。下部船体はなく水線模型限定。主要な構造物はスライド金型でまとめて造形されており、トラペ=箱組みの難物という先入観はまったく過去のものとなった。離型剤に対する不安の声はまだ聞かれるようなので、念のため洗濯桶を出しておくといい。
■製作
まず船体のゆがみは極力矯正しておくこと。作例では船体の内側に大量の接着剤を塗りつけて部品を柔らかくしてからねじ曲げるという荒業を使っている。
舷側のモールドを再構築しており、大方は個人の好みの問題だが、右舷中部から艦尾にかけての送油管は追加するほうがいいだろう。
組み立てに大きな難点はなく、誤接着を防ぐ嵌合部の工夫もされており、取り立てて順番に注意すべきところもない。ブルワークの厚みにややばらつきがあり、エッジ出しと合わせて調節しておきたい。
錨鎖は金属チェーンで上級者にとってはうれしい仕様だが、専用エッチングパーツセットを出していないので、クレーンアームなど10点ばかりの同梱部品以外は他から工面することになる。作例では20mm機銃をフライホーク製と交換。こちらもシールドを足す必要があるが、多少面倒でも一体成型より見映えはよくなると判断した。エッチングパーツで適合するシールドを探してみるのもいいのでは。1セットが32門なので「アラスカ」級には2門不足するのが難点。
搭載機はカーチスSCが付属。竣工直後はOS2Uで実戦参加前に交換している。キットにはフロートをのせる台座がないため適宜調達すること。
迷彩塗装はメジャー32/1Dという本来駆逐艦向けのデザイン。比較的シンプルだが、不安なら大戦末期のメジャー22に変更すればいい。これといった艤装変更はない。
トランペッター 1/700スケール プラスチックキット
アメリカ海軍 大型巡洋艦 CB-1 アラスカ
製作・文/岩重多四郎
アメリカ海軍 大型巡洋艦 CB-1 アラスカ
●発売元/トランペッター、販売元/インターアライド●5280円、発売中●1/700、約35.2cm●プラキット
岩重多四郎(イワシゲタシロウ)
第二次大戦までの艦船を軍民・国籍問わず幅広く扱う。最近よくぎっくり腰をやらかす。