【コモリプロジェクト】 神宮司大佐とポインター
2021.09.21キャラクターの名前
きちんと数えたことはないが、熱心なファン曰く、僕の作品に登場するキャラクターは千に手の届く勢いなのだそうだ。二〇二一年九月に刊行される小説を調べてみたら軽く五十人を超えている。このところ物語の展開同様、いや、時にはそれ以上に名前に頭を悩ますようになったのは、数によるところも大きい。
名は体を表すという言葉通り、キャラクターにとって名前は重要である。たとえばシャア・アズナブルがジョシュ・モルゲンシュテルンだったらニヒルな先駆者として人気を博しただろうか。次元大介が田中一郎太だったら射撃の腕はどうだったのか。ダース・ベイダーがパチャラパチョーンだったら「シュコーシュコー」という呼吸音にまで痺れただろうか。鶏が先か卵が先か、存在と名前は互いに強く結びつき、高め合っていく。だからまったく手を抜けない。
これまでに使った名前は友達、知り合い、有名人から土地や食べ物まで多種多様だ。対象が具体的であればあるほどキャラとは結び付けやすい。「今度私の名前も使ってください」なんて可愛い女子から言われたりもするが、そこは要注意。作者の予想出来ないところでキャラが罪を犯したり、死んでしまったりすることがある。相手の気を惹きたいからと安易に頷いたりしたら、後々口を聞いてもらえなくなったりする。
「S-最後の警官-」という作品はウルトラシリーズへのオマージュが濃い。主人公はウルトラホーク1号から。警察官になる前のボクサー時代、リングネームはミクラスだ。ライバルでSATに所属する射撃の名手は。ちなみに警備犬の名はポインターで、二人の前に立ち塞がる絶対的な敵役は正木圭吾という。ウルトラファンならすぐにピンとくるだろう。次はどんな名前を付けて読者に楽しんでもらおうか、時には物語そっちのけで夢中になった。
実はこの原稿を書く上で必死に思い出そうとしている名前がある。「海底軍艦」の神宮司八郎大佐の名を冠したキャラクターがどこかにいる筈なのだが……。う~ん、分からない。それくらい名前の海に溺れている今日この頃である。
文/小森陽一 構成・製作・写真/土井眞一
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小森陽一(コモリヨウイチ)
●1967年生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、東映に入社。その後、コラムや小説、漫画原作や映画の原作脚本を手がける。大阪芸術大学映像学科客員教授。『海猿』『トッキュー!!』『S-最後の警官-』『BORDER66』『ジャイガンティス』など著作多数。