HOME記事スケールモデル【書籍発売記念連載】アメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説!「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」【第1回】

【書籍発売記念連載】アメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説!「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」【第1回】

2025.12.02

現代アメリカ海兵隊の戦い方

地対艦ミサイル搭載の無人車両NMESIS(ネメシス)とは

 ホビージャパンの書籍「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」発売を記念し、著者の田村尚也氏が大変革の進むアメリカ海兵隊の新たな部隊「海兵沿岸連隊(MLR)」の注目装備を解説していく。第1回は、地対艦ミサイル搭載の無人車両「NMESIS(ネメシス)」だ。

文/田村尚也
写真/U.S.Marines/DVIDS(https://www.dvidshub.net/)
写真解説/ホビージャパン編集部
イラスト/しづみつるぎ


海兵隊の大変革

Balikatan 25: Marines deploy NMESIS to Basco

 近年の世界的な安全保障環境の変化の中、アメリカ海兵隊は、戦車部隊を全廃し、砲兵部隊(通常の火砲を装備)を削減。その一方でロケット砲兵部隊や無人機部隊を増強し、さらに歩兵部隊に加えて対艦ミサイル部隊や防空部隊、兵站部隊などを擁する海兵沿岸連隊(Marine Littoral Regiment、略してMLR)を新編。遠征前方基地作戦(Expeditionary Advanced Based Operations、略してEABO)と呼ばれる新しいドクトリンを採用するなど、大規模な変革を進めている。
 このシリーズ記事では、その新編部隊である海兵沿岸連隊(MLR)のおもな装備を見ていこう。第1回はNMESIS(ネメシス)だ。


NMESISの概要

RD 25 | 12th and 3rd MLR Marines Execute Notional NMESIS Fire Missions
▲ランチャーを上げた状態のNMESIS。グレーに塗装されたNSMのコンテナには迷彩カバーがかけられている

 NMESISとはNavy Marine Expeditionary Ship Interdiction System(海軍・海兵隊遠征艦船阻止システム)の略で、対艦ミサイルの発射機を中核とするシステムの名前だ。
 その発射機は、4輪駆動の多用途車両である統合軽戦術車両(Joint Light Tactical Vehicle、略してJLTV)を無人化して、2連装のミサイル発射機を搭載したもの。JLTVは、日本でも比較的知られているハンヴィー(HMMWV)の後継の野戦車として開発が始められた車両で、アメリカ陸軍でも広く配備されている。路外走行能力も高く、多くの装甲戦闘車両よりも軽量小型で、中型輸送機のC-130などによる空輸も可能だ。

KAMANDAG 9: 3d LCT , 3d LLB, 3d LAAB conduct beach rehearsals with NMESIS and MADIS
▲2025年5月、フィリピンの海岸で第3海兵沿海連隊が演習「KAMANDAG 9」に備えNMESISを用いてリハーサルしている様子
KAMANDAG 9: 3d LCT , 3d LLB, 3d LAAB conduct beach rehearsals with NMESIS and MADIS
▲ベース車両となったJLTVは車高調整機能を持つサスペンションシステムを備えており、必要に応じて車高を変えることができる。写真は車高を上げた状態
12th and 3d LCT Marines Execute Reloading Drills with the NMESIS
▲2025年9月、沖縄のキャンプ・ハンセンにて、第12海兵沿岸連隊のNMESISにフォークリフトでNSMを再装填する様子。車高は下げた状態となっている
60th APS assists New Equipment Training Team
▲2023年9月、カリフォルニア州トラヴィス空軍基地で、NMESISを有線のテザー操作モード(tethered operating mode)でC-17輸送機に搭載している様子
60th APS assists New Equipment Training Team
▲無人車両として開発されたNMESISは、輸送機や舟艇などへの積みおろしといった繊細な操作は有線で行うが、ワイヤレスの遠隔操作も可能とされている
地対艦ミサイル搭載の無人車両NMESIS(ネメシス)とは8
▲2024年11月、ハワイ海兵隊基地でのC-130輸送機への搭載作業にて、第3海兵沿海連隊の兵士がテザー操作モードの際に用いるコントローラを手に、輸送機搭乗員にNMESISの操作について説明している

 この車両から発射されるのは、ノルウェーのコングスベルグ(NFT)社が開発し、アメリカのレイセオン社でライセンス生産されているNSM(Naval Strike Missileの略。海軍打撃ミサイルの意)だ。
 NSMの飛翔体は、レーダー反射断面積が小さくてステルス性が高く、重量に対してエンジンの推力が大きくて高い機動性を持ち、海面すれすれの低高度を音速に近い速度で飛行し、急機動で敵のレーダーや防空システムを回避することが可能、とされている。
 誘導方式は、慣性航法システム(INS)、GPS、地形照合(TERCOM)を組み合わせたもので、目標に命中する直前の終末誘導は赤外線画像誘導(IIRH)による。敵の電波妨害やデコイ(オトリ)の放出などにも強い。射程距離は、公式には100海里(約185km)以上、とされている。
 このNSMは、アメリカ海軍に艦艇搭載の対艦ミサイルとして採用されているほか、アメリカの同盟国の海軍でも採用が広がりつつある(ポーランド軍は陸上発射用として採用)。

2nd Bn., 11th Marines becomes first Marine unit to fire NMESIS missiles
▲2023年6月、カリフォルニア州のポイント・マグー海軍航空基地の射場にて、第11海兵連隊がNMESISからNSMの射撃を実施する様子
NMESIS Aerial Operations on MCBH
▲NMESISに搭載する予備のNSMをC-130で空輸するため、MTVR(7トントラック)からクレーンで台車に載せかえている様子

MLRとNMESIS中隊の編制

RD25 | 3rd Marine Division Marines Participate in a NMESIS and HIMARS PME

 冒頭で述べた新編の海兵沿岸連隊(MLR)は、大隊規模の沿岸戦闘チーム、沿岸対空大隊、戦闘兵站大隊を基幹としており、連隊の直轄部隊として長距離無人水上艇中隊や通信中隊なども所属している。この中の沿岸戦闘チームは、本部中隊以下、歩兵中隊3個、対艦ミサイル(NMESIS)中隊1個を基幹としている。つまり、このMLRは、対艦攻撃能力を備えた地上部隊なのだ。
 そしてNMESIS中隊は、NMESIS小隊2個を基幹としており、各NMESIS小隊はNMESIS分隊(セクション)3個を基幹としている。各NMESIS分隊は、無人の発射機3両、有人のリーダー(先導)車1両、指揮統制システム搭載車1両、計5両で構成されている。したがってNMESIS中隊全体では、発射機は合計18両となる。各発射機には2連装のミサイル発射機が搭載されているので、1個中隊で最大36発の対艦ミサイルを一度に発射できるわけだ。

地対艦ミサイル搭載の無人車両NMESIS(ネメシス)とは12
▲海兵沿岸連隊の編制(「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」より)
RD25 | 12th and 3rd MLR Marines Rehearse Notional NMESIS Fire Missions
RD25 | JASDF C-130H Transports NMESIS to Okinawa

▲2025年9月、日米共同による実動訓練「レゾリュート・ドラゴン25」では、NMESISを装備する部隊としては第12海兵沿海連隊(沖縄)および第3海兵沿海連隊(ハワイ)が参加。航空自衛隊のC-130HやC-2などに搭載し、石垣島に展開する訓練も実施されている

RD 25 | 12th and 3rd MLR Marines Execute Notional NMESIS Fire Missions
RD 25 | 12th and 3rd MLR Marines Execute Notional NMESIS Fire Missions

▲「レゾリュート・ドラゴン25」にて、MTVRに牽引されて機動するNMESIS。NMESISは遠隔操作による走行も可能だが、状況に応じて牽引される場合もあるようだ

3rd LCT Conducts Beach Operations with a U.S. Army MSV(L)
▲2025年9月、ハワイ海兵隊基地にてアメリカ陸軍第7輸送旅団のMSV(L)から降ろされる、第3海兵沿岸連隊のNMESIS

アメリカ海兵隊の新しい戦い方とは

イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編表紙

 アメリカ海兵隊が、このNMESIS中隊が所属するMLRなどを活用して、どのように戦おうと考えているのかについては、「イラストでまなぶ!用兵思想入門」シリーズ最新刊となる「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」を参照していただきたい。
 本書では現代のアメリカ海兵隊が大変革を進める理由やその用兵思想を、イラストを交えつつ解説している。
 日本の安全保障とも密接に関わっているアメリカ海兵隊が、抑止力としていかに機能し、有事にはどのように戦うのか。ご興味をお持ちになった方に、ぜひご一読いただけたら幸いである。

イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル01
イラストでまなぶ!用兵思想入門-現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル02
イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル03
イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編サンプル10

イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編

●発行元/ホビージャパン●2200円、発売中

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田村尚也(たむら なおや)

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