【宮葉勝行氏×穴井健太郎氏】『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』&スーパー戦隊シリーズ歴代音楽の舞台裏を語る!
2025.10.19宇宙船vol.190(10月1日発売)
『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』&スーパー戦隊シリーズ歴代音楽の舞台裏
スーパー戦隊シリーズ50周年作としても話題の『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』。その50年の歴史の中には、数多くの音楽もまた忘れられないものがある。そこで今回、戦隊に携わって30数年を数える選曲家の宮葉勝行、『騎士竜戦隊リュウソウジャー』から音楽プロデュースを手掛ける穴井健太郎(日本コロムビア)の両名の取材をセッティング。『ゴジュウジャー』を中心に、それぞれの立場から歴代の戦隊音楽の魅力と、音楽制作の裏側について語っていただきました。
撮影◎沼田学 取材・構成◎トヨタトモヒサ
大事なのは音楽メニュー
―スーパー戦隊シリーズの音楽制作は、どのように行われるものなのでしょうか?
宮葉 まずは番組企画があり、東映と日本コロムビアさんで主題歌や劇伴の作家さんを決めるところからスタートします。
穴井 その時々のプロデューサーや監督が、どういうイメージをお持ちなのかを踏まえて、こちらからアーティストや作家さんを提案する感じですね。『機界戦隊ゼンカイジャー』では、白倉伸一郎プロデューサーと打ち合わせをして、渡辺宙明先生にBGMをお願いしたのも強く印象に残っています(※大石憲一郎と共同)。
宮葉 選曲は「曲を選ぶ」と書くので、単にできた曲を選ぶ作業だと思われがちですが、実はその前のメニュー表の作成が一番大事な作業になります。毎年の作家さんにどんな劇伴を作ってもらうか考えるのは、楽しくもあり、難しくもありますね。また、作品毎の傾向があるので、設定や最初の数話分の台本を読みつつ、必要になりそうな曲をメニューに落とし込んで行きます。
穴井 『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の沢田完先生は宮葉さんのメニューを絶賛していました。カテゴリーがあり、同じモチーフの指定やテンポ感、編成などの指定、さらに仮の曲名まで付いていて、これが実にわかりやすいと。僕もアニメの仕事で音楽メニューに触れますが、ここまで緻密に書いてあることはありません。
―今の音楽メニューのフォーマットは、いつ頃できあがったのでしょうか?
宮葉 1995年の『超力戦隊オーレンジャー』からですね。それまではカテゴリーは特に考えず、必要になりそうな音楽をバーッと書いていたんですけど、『オーレンジャー』は、国際空軍(UAOH)に属するスーパー戦隊で、UAOHのテーマをどうするか考えた際に浮かんだのが『帰ってきたウルトラマン』で(笑)。『帰マン』は、ウルトラマンのテーマとMATのテーマの2本立てで、それぞれのアレンジがあり、これがヒントになりました。
穴井 ちなみに最初に担当された作品は?
宮葉 1991年の『鳥人戦隊ジェットマン』です。ただ、最初の録音は師匠が音楽メニューを書いていて、僕は追加録音からです。振り返ると、『恐竜戦隊ジュウレンジャー』や『五星戦隊ダイレンジャー』の頃は、プロデューサーが思い描く壮大なスケールを、それが実現するかもわからず、そのままメニューに反映させていました。作家さんもそれを受けて目いっぱい力を入れて書かれるわけですが、いざ、選曲する段になると、書いた曲と映像が乖離してしまうことがあって。その後の『オーレンジャー』辺りからは、「多分こうなるだろう」と想像しつつ、作家さんが書きやすいカロリーでお願いするようになりました。
―壮大過ぎてもダメなわけですね。時代を経て、大きく変わったところもあるかと思いますが、いかがでしょうか?
宮葉 今はデジタル時代で後処理で対応できる部分もありますが、当時は録音に立ち会い、そこでイメージから外れていても一年間使い続けなくちゃいけないので、ものすごい緊張がありました。その反面、当時は指揮者とオーケストラで録音していたので、その場で楽器編成を薄くしてもらったり、テンポを変えることができました。
穴井 現在は時間を区切り、ストリングスやブラス、ホルンや木管、リズム隊など、パート毎に録音するスタイルが主流です。
―リズム隊は一時期は打ち込みでしたが、現在は生を中心に戻していて、臨場感やグルーヴ感が大きく伝わりますね。
穴井 今は機材も発達して打ち込みでも成立するんですけど、僕は大学時代にバンドをやっていたし、やっぱり人が叩いている感じが好きなんです。特に打楽器の魅力に気づかせてくれたのが『魔進戦隊キラメイジャー』の松本淳一さんです。この時は、松本さんが「できるだけ生で打楽器を録りたい」と希望されていて、ギロやヴィブラスラップなど山のようなクラシックパーカッションを持ち込んでレコーディングを行いました。実際に鳴らしてみると楽器の種類や音色で、曲に合う、合わないもあるし、「こういう演奏の仕方があるんだ」といった驚き、さらにティンパ二の奥深さなど、とても貴重な経験になりました。
▲ 上記は『ナンバーワン戦隊ゴジュウジャー』の第1回録音の音楽メニューの抜粋。メニューは約70曲がA~Kの11のカテゴリーに分けられ、その内訳は「主題歌アレンジ(M1~M5)、「吠のテーマ」(M6~M11)、「ナンバーワン戦隊のテーマ」(M11~M15)、「テガソード」(M16A-E~M19)、「その他ヒーロー側音楽」(M20~22)、「ノーワンのテーマ」(M23~M28)、「怪人のテーマ」(M29~M32b)、「サスペンス」(M33~38)、「アクション」(M39~46)、「心情•その他」(M47~60)、「ブリッジ•ショック」(M61~70)となる。テレビではこれに1~5曲の追加戦士用の第1.5回録音、約30曲の第2回録音が加わる。