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【第7回】『マルゾン 転生したらまるでゾンビを知らない世界でした』作・歌田年【異世界ゾンビバトル】

2025.10.06

マルゾン 転生したらまるでゾンビを知らない世界でした

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第20章 食品

 翌夕、商工省の吉田部長から存対メンバーの手元に一斉メールが届いた。
 それを受け、鈴木に呼ばれておれは社長室に向かった。


「たまには酒でも飲むか? いいスカッチがあるんだ」


 と言って、鈴木がガラス戸棚を開けてボトルとショットグラスを取って来た。
 黒いラベルに白い字で〝PORT CHARLOTTE〟と書かれていた。もちろん鏡文字だ。


「お高いんでしょ?」

「新車が買えるくらいだ」

「うへえ。でもおれ、あまり強くはないよ」


 鈴木が二つのグラスになみなみと注いだ。


「まあ飲め」


 おれは渋々受け取って、舐めるように飲んだ。


「うっ」


 鈴木は笑って一口含んでから、旨そうにゆっくり飲み下した。




「さて」


 と、鈴木がグラス片手に、タブレットに表示された吉田部長のメールを読み上げた。
 それによると、保社省と商工省合同の人海戦術で、飲食店・食料品店のあらゆる食肉製品を検査したが、異常ダピオンが検出された物は一つも無かったという。
 検査をした商品のリストが添付されていた。品目は千種類以上に達していた。
 ということは、一般販売されていない〝テスト商品〟の可能性が俄然高くなってきた。
 そのリストも添付されていた。テスト販売された新商品の中で、動物の肉か動物性タンパク質を含有する物の一覧だ。こちらはまだ検査に取り掛かったばかりだという。


「そっちはこれで見ろ」


 と、鈴木がプリントアウトをさらに左右反転させた物をくれた。ありがたい。


「品目の上に付いている○×って何なんだろう」


 と、おれは鈴木に訊いた。


「ああ。全国展開した物と、しなかった物にそれぞれ印を付けているんだ。前者が〇、後者が×だ」

「なるほど」


  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ ミニミートオムレツ
  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ ビーフコロッケ
  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ 鶏ボール
  × ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ 香草ハンバーグ
  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ ミニミニトンカツ
  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ 旨辛カラアゲ
  ○ ジツレイフーズ お弁当ヘルパーシリーズ 焼肉チーズグリル
  × マグシー ポテトチップス BLT味
  ○ マグシー ポテトチップス ビーフストロガノフ味
  × マグシー ポテトチップス 鳥皮味
  × マグシー ポテトチップス 豚足味
  × 飯島製パン ランチサンドパック 牛タン
  × 飯島製パン ランチサンドパック 上ミノ(タレ)
  × 飯島製パン ランチサンドパック 上ミノ(塩)
  × 飯島製パン ランチサンドパック ホルモン
  ○ 飯島製パン ランチサンドパック カルビ
  × 飯島製パン ランチサンドパック ハラミ
  ………………


 以下、ズラズラと二千品目ほどが並んでいた。いずれも聞いたことがあるような無いようなメーカー名ばかりだった。
 そして品名を見るだけで、全国展開した物とそうでない物の差はなんとなくわかるのだった。
 つまり、狙い過ぎた、、、、、物は広く売れないということだ。


「〝ポテトチップス豚足味〟や〝ランチサンドパック ホルモン〟とか、さもありなんと思うね。なんとなく生臭そうだ。もちろん火は通っているだろうけど」


 と、おれは言った。


「ああ、そうだな」


 鈴木はタブレットを操作しながら興味無さそうに答えた。そうか、彼はベジタリアンだったっけ。


「静岡、いや静城に限定されるということであれば、×印の付いた商品を調べればいいんじゃないか?」

「ああ。お前に言われなくても優先的に検査しているらしい」

「だろうね」


 おれはアメリカ、いやアメリゴ人風に肩を竦めた。また少し酒を舐める。


「ただしボツになった商品だから、サンプル入手には手こずっているらしい」

「おや? これは……」


 おれはある品目を見て胸騒ぎを覚えた。

  ○ ジナイダ ソイメイト・ブレックファースト(コンビーフ)
  ○ ジナイダ ソイメイト・ランチ(ビーフハンバーグ)
  ○ ジナイダ ソイメイト・ディナー(サーロインステーキ)


「どうした」


 鈴木がおれの顔色の変化に気付いた。


「いや……その、見覚えのある商品があった」

「どれだ? 食ったのか」

「ああ、食べてしまったよ……〝ソイメイト〟というやつだ」


 こっちの世界に来た初日、コンビニで買って食べたのを覚えている。


「なんだそれか。すっかり定着しているポピュラーな商品だ。どこの店にも置いている」

「おれは心配になってきたよ」


 不安を紛らわそうと、酒を呷った。


「ビクつくな。そもそも○印になっているだろうが。静城限定じゃない。あっちの世界でソイジョイというのがあったよな。あれと同じような商品だ。ソイ、つまり大豆粉を主原料にしているんだ、心配するな。ダイエットにもいいらしいぞ」

「そうなのか……名前からするとソイジョイとカロリーメイトが合体したようなものかな」


 言ってから、どちらもこっちの世界には無いだろうと思った。


「僕は一度も食ったことはない。イケルるのか?」

「味はまあまあだった。甘くないところが新しいと思ったよ」

「そうか。あの手の携帯食糧はたいてい甘い味付けだからな」

「ハンバーグとかステーキの味だ。この味付けのために肉を使っているということかな」

「だったら肉といったって大した量ではないだろう。心配するな」


 鈴木は残りの酒を飲み干し、また新たに注いだ。


「そうかい。ところでこの〈ジナイダ〉というのはどういう会社なんだい?」

「元々菓子類を作っている会社のようだが、甘い物には興味が無いからよく知らん。しかし数年前から続くダイエットブームで菓子が売れなくなったとかで、売り上げがガタ落ちになったらしい。そこでこのダイエット商品というわけなんだろう」

「……なるほどね。こっちもダイエットは美徳なのかい?」

「ああ。健康的で長生きできる身体というのはここでも良しとされている。ただし痩せ過ぎはダメらしい。まあそれも健康的ではないから当然と言えば当然だな」

「昔のスーパーモデルみたいなのはダメということかな……」

「そういうことだ」


 そこでおれは切り出した。


「ところで、ずっと引っかかっていることがある」

「なんだ」

「この世界は──おれの知っている世界とは顔の美醜が逆転しているんじゃないか?」


 鈴木はニヤリと笑い、酒を呷った。


「……気付いたか」

「そりゃあ気付くさ。ゴリラ面のおれがやたらモテるから、変だと思っていたんだ」

「実は僕もMMKだ」

「なんだそれ、DAIGOか」

「MMKを知らないのか。あっちの世界の旧海軍の隠語で、〝もてて・もてて・こまる〟の略だ」

「旧海軍だって? そんな古い言葉は知らないよ。しかし、スーさんもなのか……」

「驚いたか。こんな僕でも、というよりこんなだからこそモテる。──醜い、というか個性的な顔が好まれるのさ。逆に、定規で測ったような整い過ぎた顔はウケない。それも誰もがフィクションに興味が無いお陰だ。『これが定番の美男・美女ですよ』というものが無いんだ」


 フィクションを楽しむ文化が無いということは、そういうことなのか。


「するとここには美容整形は無いのかい」


 と、おれは訊いてみた。


「いや、それはちゃんとある。もっとも、ここでは崩す方の整形が多い。昔、あっちの世界では宍戸錠が男前過ぎて個性が無いというので頬に詰め物をしていたな。まさにあんな感じだ」

「なるほどなあ……」


 おれは改めて感じ入った。


「とはいえ、あちらの世界でも整形のやり過ぎでモンスターみたいになったのが結構いただろ。ああいうのはウソ臭くてこちらでもNGだ。僕たちのような天然が一番なんだ」

「その点においては天国なんだけど……」

「だろ。ブサイクに乾杯!」


 鈴木がグラスをおれのそれにぶつけて来た。カチンと派手に鳴る。


「僕は自分のことは棚に上げて、元々けっこう面食いだ。だから秘書は好みのタイプの女を雇ってる。彼女は自分がブスだと思っているから、とても有難がってくれる」

「それにテストチームの二人も……」


 おれは猿座と坊丸の整った容姿を思い浮かべた。


「そうだ、おれの趣味だ。逆に、対外的な受付嬢は一般ウケする〝個性派〟を揃えたんだ」

「そうらしいね」


 鈴木が話しながらタブレットを操作している。女の画像でも探しているのか。


「おっ」

「なんだい?」 


 鈴木がタブレットの画面を読み上げる。


「『株式会社ジナイダは、東京府代々幡区に本社を置く菓子メーカーである。一九四九年(昭和二十四年)にニコライ・フェリクソヴィッチ・リーが創業した。創業以来、世界各地にグループを展開しており、特に創業者の出身地であるウラジューゴにおいては積極的な投資を行っている。社名は、『ルーシのラスプーチンを暗殺したフェリックス・ユスポフの母親のジナイダ・ユスポワに由来する』だとさ。〝ルーシ〟というのはロシアのことだ」


『ソイメイト』とウラジューゴが繋がった。


「ジナイダはウラジューゴ系の会社だったのか……。なあ、〈ソイメイト〉の検査結果を訊いてもらえないかい? まだなら優先的に検査するように進言してくれないか」


 おれは震え上がって懇願した。


「どうもその方がよさそうだな」


 と、鈴木も思案顔で言う。


「ありがとう」


 おれは心底から礼を言った。


「というか、これは商機だからな」


 そう言って鈴木はまたニヤリと笑い、グラスの酒を喉の奥に放り込んだ。

マルゾン7-挿絵2

つづく

この物語はフィクションであり、実在する人物・団体等とは一切関係がありません。


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