「井上泰幸とセカイ展」とヘドラの造形-特殊美術という仕事について-【コモリプロジェクト】
2025.08.28ヘドラ
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『特殊美術という仕事』
~井上泰幸展に寄せて~
皆さん、いかがお過ごしでしょうか。それにしても暑い日が続いています。もはや日本の夏を表す言葉は「暑し」から「熱し」に変わるのではないでしょうか。「熱し」という言葉には「苦しい」という意味がありますからね。ほんとに体調管理には気を配りましょう。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は昨今の地球環境を顧みてこう述べました。「気候の崩壊が起きている」と。それを端的に地球沸騰化と呼び表しました。
時を遡って1970年代、日本は公害問題に喘いでいました。子供の頃にある海や川の記憶は、透明でも青色でもありません。濁っていて、油が光っており、泡が浮いて、とにかく酷い匂いでした。道路もゴミだらけ、空だって排気ガスとスモッグで霞んでいます。
そんななか、一体の怪獣がゆらりとスクリーンに現れます。全身にヘドロを纏い、亜硫酸のガスを噴射しながら空を飛び、工場の煙突から吐き出される煤煙を吸って身体を変化させる。ヘドラはこれまでの怪獣とは一線を画した存在であり、怖ろしく、不気味で、かつ、とても怒っているように見えました。地球を汚し続ける人類に対し、鉄槌を喰らわすために地球が遣わした使者のような気もしました。
そんなヘドラのデザインを手掛けたのが東宝の美術監督だった井上泰幸氏です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、井上氏は『ゴジラ』を始め、特撮映画の黄金期をほとんどすべてといってもいいくらい網羅されています。『ゴジラ』では勝鬨橋の展開図を、『空の大怪獣ラドン』では福岡市街のセットを、『海底軍艦』ではムウ帝国のセットデザインを、『ウルトラQ』ではゴメスとリトラのデザインを。前号で特集した『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦! 南海の大怪獣』も井上さんの手によるものです。助手時代から監督になられて引退されるまで、携わられた作品群を眺めていると、つくづく僕は井上さんで育ったのだなぁと思います。それほどまでに圧巻です。
さて、話を造形物のほうに戻します。今回のヘドラ(成長期)、原型を作ったのはレジンシェフとうけけ団の杉田知宏氏です。パーツ数は99、芯に一枚一枚ヒダを貼り付けていくことで全体像が浮かび上がる仕組みになっています。これがもう大変で、組み立ては難解なパズルのようでした。作るだけでもこれだけ頭を悩ませました。造形するには想像を絶する作業の連続だったと思います。杉田氏はこれまでに水中期、上陸期、飛行機期といくつものヘドラを作られています。そこにはとてつもないエネルギーを感じます。 これは僕の勝手な想像ですが、杉田さんは井上氏の生み出したヘドラをとてもリスペクトされていると思います。造形からじわじわとその想いが伝わってくるようでした。
8月31日(日)の
全国自主怪獣映画選手権
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小森陽一(コモリヨウイチ)
●1967年生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業後、東映に入社。その後、コラムや小説、漫画原作や映画の原作脚本を手がける。大阪芸術大学映像学科客員教授。『海猿』『トッキュー!!』『S-最後の警官-』『BORDER66』『ジャイガンティス』『ツイン・アース』など著作多数。