航空自衛隊のパイロット育成に欠かせない練習機「T- 6 テキサン」の歴史とは?【いまさら聞けないすごいヤツ】
2025.07.17いまさら聞けないすごいヤツ!!
ノースアメリカン
T-6 テキサン
イラスト/大森記詩
「名前は知ってるけどどんなものなんだろう?」「今さら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今回からは、航空自衛隊をフィーチャーしていきます。その第1回目は、パイロット育成においては欠かせない練習機の傑作である「T-6テキサン」の物語をお届けしましょう。
T-6 テキサン
全幅/12.80m
全長/8.84m
全備重量/2340Kg
エンジン/P&W R-1340-49
馬力/600 馬力
最高速度/338km/h
航続距離/1012km
航空自衛隊第2操縦学校第2分校所属機
T-6 テキサン
解説/宮永忠将
航空自衛隊第14飛行教育団所属機
世界大戦に乗ってベストセラーに
世界の多くの軍隊においてT-6テキサンといえば、レシプロ練習機の代名詞のような存在だ。その歴史は1930年代にノースアメリカン社が開発した練習機に遡る。NA-16と名付けられたこの機体は、固定主脚で主翼も羽布張りというレトロ設計ながら、低翼単葉のタンデム復座機という当時なりの先進性を先取りしていたのが評価された。その後、これに目を付けたアメリカ陸軍の要望を受けて開発された新型機がAT-6高等練習機に進化する。これは主脚が引込式になったのに加えて兵装も可能な、ちょっと豪華な機体であったところ、直後に始まった第二次世界大戦で、パイロット育成需要が激増して一躍ベストセラーとなった。この時、テキサス州ダラスにAT-6の巨大な生産工場が建設されたことから、テキサス人を意味する「テキサン」のニックネームが付けられている。
世界大戦が終わると、稼働状態にあるテキサンの多くは新型エンジンに換装して基本性能を向上させながら、標準練習機として使われた。ジェット時代を迎えつつある中で、高等練習機としては役割を終えたテキサン。しかし世界各国に売りに出されると、各地の紛争では武器を搭載して、攻撃機として運用されるケースも多かった。練習機だけで使うのはもったいないというわけだ。
戦後はスクリーンも主戦場に
戦後、テキサンの波は日本にもやってきた。1955年、発足したばかりの航空自衛隊では最大180機、また海上自衛隊にも約50機のテキサンが導入されたのだ。そんなテキサンの自衛隊での役割は中間練習機。まず初等練習機で操縦の基本を覚えたパイロット候補生が、ジェット機の操縦桿を握る前に前の練習に使う機体という位置づけだ。
ただ、作戦機を含めて航空自衛隊の機体の多くがジェット対応で前輪式になっているなかで、T-6テキサンだけが後輪式というのは効率が悪く、訓練コース全体のバランスを崩しかねないと判断されて、T-1ジェット練習機と交替となった。空自での練習機としての実績は10年程度で。海上自衛隊でもほぼ同時期にKM-2練習機と交替となっている。
しかし、ここからがT-6テキサンの腕の見せ所であった。クセのない第二次大戦直前の低翼単葉機というスタイルが、戦争映画のレプリカ機需要にはまったのだ。なにせ色を塗り替えるだけでもちょっとした作戦機に見えてしまうし、コクピットまわりを改造する予算があれば、戦闘機にも化けてしまう。とりわけ敗戦国となった日本やドイツの機体はほとんど残っていないので、代役としてテキサンが大活躍したのだ。なにせ1万5000機も作られたのに、作戦機ではないから損耗も少ないので、持て余したアメリカはじめ各国の軍が格安で放出していた。だから入手も容易でパイロットも多かった。
そんなテキサンは、現在でもファンが多くて、稼働機もまだかなり残っている。世界大戦の記憶を残す一種のクラシックカーのような存在で、各地のエアショーの常連であるばかりか、テキサンのみエントリー可能なエアレースが開催されたりしている。まだまだ空を駆けるテキサンの姿が眺められそうだ。
テキサン・ゼロ
さまざまな戦争映画で第二次世界大戦機を演じたテキサンだけど、オススメの一本が『ファイナル・カウントダウン』だ。空母ニミッツが謎の自然現象で真珠湾攻撃直前のハワイ沖にタイムスリップという内容で、なんとF-14トムキャットと零戦の戦いが……。この零戦がテキサン改造機なのだけど、CGを使わない空戦撮影技術の到達点といえる抜群のカメラワークと、突如現れたジェット戦闘機に果敢に挑むテキサン・ゼロの勇姿をぜひご覧いただきたい。ちなみにこのトムキャットは海賊旗のエンブレムで有名なVF-84 ジョリー・ロジャース所属機なのだけど、史実ではジョリーの原隊となるVF-17と零戦は、ソロモン諸島上空で激突している。

箱を開けた瞬間から作りたくなる
シンプルキット
童友社(パーツはホビーボス製)のテキサンは、パーツ数がとても少なく、しかも成型色もオレンジ。箱を開けた瞬間から「ノンストレスで作れそうだぞ」と思わせてくれます。一体成型の胴体や主翼は本キットの見所ともいえます。ぜひゲットして、テキサンのかっこよさを体感してほしいです。
1/72 航空自衛隊 T-6G テキサン
●発売元/童友社●2200円、発売中●1/72、約12cm●プラキット
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