ガンプラ45周年の進化を開発担当者に直撃インタビュー!「HG GQuuuuuuX」の気になるポイントからガンプラの技術の変化やさらなる挑戦について聞いてみた!
2025.06.04HG『Gundam GQuuuuuuX』シリーズ開発担当者に聞く新たなガンプラシリーズに込められたガンプラ45周年の進化●石井誠 月刊ホビージャパン2025年7月号(5月23日発売)
──今回のモビルスーツの形状や構造は、これまでの箱型とは違っています。設計についても、これまでのパターンとは違っているのでしょうか?
栗原 先ほども言いましたが、ここもまずは今までのセオリーを捨てようと思ったところです。そして、そこを今回のガンプラのコンセプトにしたいと思いました。作品自体もこれまでとは大きく雰囲気が異なるので、ガンプラでも作品の世界観に没入できるように、今までのセオリーを壊していこうと。そういう考えを踏まえてこのような構造にしたいと考えていました。関節なども、肩の接続に独特な構造を取り入れることで今までのガンプラとは組み味も変わっているのではないかと思います。
──ガンプラの組み立てに慣れていればいるほど「いつもだったらこういう関節構造になっているはず」という部分が違っていて、新鮮な気持ちで組めました。
栗原 組み立てながら「これはどこを組んでいるんだろう?」というのは、皆さんが感じるところだと思います。それは赤いガンダムでもそうですし、軍警ザクも胴体や脚の部分はいつもと違う感じの組み方だったのではないかと思います。デザインが今までの方向性とは違うので、これまでのガンプラの構造やセオリーを全部取っ払って、開発する側もフレキシブルにパーツ構成を考え、設計していく感じですね。
──箱型ではなく、セミモノコック構造をガンプラ的に表現する難しさというのはあったのでしょうか?
栗原 結構ありましたね。イラストやアニメの映像として成立しても、ガンプラという「モノ」として落とし込んだ場合に成立しない部分もあります。そこは後から「ここはこういう切り欠きを入れました」や「こういう接続の構造にします」ということを山下さんや鶴巻監督に説明するフェーズがありました。
──18mの機械として存在するのであれば、強度さえあれば細い部材でも接続できますが、プラモデルだと強度的にそれを表現できないところはありますよね。
栗原 不自然に見えないレベルでプロポーションをちょっとマッシブにするようなことをしていますね。あとは、太モモや脚部などの構造が複雑で「これは本当に再現できるのかな?」と思いましたが、結果実現できたので、僕らとしても「こんなことができるんだ」というのが実際に進めてみてわかったところですね。
──部位の接続部の細さや本体から浮いたような装甲が強度を保ちつつしっかりと再現されていますね。
栗原 開発側からは「ここは太くしなければダメだよね」という提案をしても、設計側は「ここはこだわりたいところだから、強度ギリギリまで削る」といったやり取りは反対のパターンも含めてかなりありました。普段の商品開発でもそうしたやり取りはしていますが、今回は通常よりもやり取りが多い印象ですね。
──各部の構造は本当に複雑ですよね。
栗原 スネの部分に斜めにタンクがあって、外部の装甲もフレーム状になっていますし、足首が大きなスラスターになっているのも特殊で、今までのガンプラとは表現の方向がまったく違いますね。
──セミモノコック構造として、外装がフレームの役目を果たしていることが見てわかるデザインになっている特徴が脚部に集まっていますね。
栗原 そこはお客さんもロマンを感じるところだと思いましたし、設定でも構造も含めて「こう動く」というのが考証されてデザインされているのが見て取れたので、ガンプラでも可能な限り再現したいなと思った部分です。今までのガンプラだと、フレームに外装を被せていくイメージでしたが、設定から「今回はそうではない」という意図が読み取れたので、そこから逃げたくないという思いでやっています。
──これまで、モビルスーツの関節は油圧シリンダーによって駆動するようなイメージだったのが、GQuuuuuuXでは関節の構造もシンプルで現実世界で開発されているロボットのようなモーター駆動によって動いているようなことが想像できますね。
栗原 僕らがやる気になったポイントというのは、デザインから読み取ることができる点が多く、いろいろなインスピレーションが貰えたところにあります。検証するなかで「このデザイン、すごくいい」とわかったので、そこから「絶対にデザインイメージ通りに再現したい」という熱意に変わったところがあるかもしれません。
──セオリー外しということで、いろいろと手間がかかっているかと思いますが、開発期間に関しても普段と比べて時間をかけているのでしょうか?
栗原 長かったですね。1年は設計に使っていたと思います。発売の1年前に設計がスタートしていて、それ以前に設定画などを見て、各部の表現を考える企画開発をしていたことを考えると、トータルで1年半くらいはやっているんじゃないかと。
──通常のガンプラだと開発期間は9ヵ月くらいというのをよく聞きますが、それと比べると長いですね。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』の公開前からすでに取りかかっていたわけですね。
栗原 そうなりますね。特に主人公搭乗機は毎回開発期間が長くなりますので。例えば『SEED FREEDOM』であれば、「SEEDアクションシステム」という機構を取り入れる最初のアイテムとなるライジングフリーダムガンダムを作るとなれば、そこには結構時間をかけています。ただ、今回のGQuuuuuuXに関しては、コンセプトが「常識をぶっ壊す」なので、本当に常識をぶっ壊したものをちゃんと開発しなければ、設計に渡すことができない。いろいろと検証を重ねてから設計に渡すので、主人公搭乗機は往々にして開発期間が長くなりますね。
──そのなかでも手こずったアイテムではあると。
栗原 そうですね。このシリーズに関しては本当に想像がつかなくて、手探り状態から始めたので。
──デザイン的に腕や脚も左右で同じ形状ではないので、いわゆる「倍打ち」のランナーもない。パーツ数は確実に多いはずなのに、ランナーの数も抑えられていることもあって、密度がすごいですね。
栗原 今回はランナー数が7枚なんですが、よくパーツが収まったなとは思っています。左右非対称なので倍打ちはなしで、7枚中5枚はスライド金型を使っていますし、3方向からスライドしているものもあって、コストの面から見てもかなり豪華な仕様ではありますね。当初はもっとパーツを割っていたのですが、組みづらいところもあったのでスライド金型を駆使してユーザーライクにしました。主人公搭乗機ということで、ふんだんにスライド金型も使おうという感じですね。
──なかでも頭部はパーツ数が多いですね。
栗原 10パーツ以上というRG並の分割で、さらにそれが2個付いていますからね。ここも攻めたところで、上から怒られないように気を付けつつ「パーツを細かく割っちゃえ」と。この細かさは顔だからこそやる必要があったんです。組み始めるのも顔からなので、組み上げるのにちょっと苦労するかもしれませんが、最初に組み上がった時の達成感はあったほうがいいと思っていたので。だから、顔や胸周りに関しては、組み上げるなかでの達成感のバランスを考えて、細かく作り込んであります。
──組み間違いをしないようなセーフティー的な設計もいつも以上に細かく行われていたように感じましたが、そこも意識されましたか?
栗原 最近のキットは全体的にセーフティーに関して気を使っているのですが、今回はより組み間違いがないように意識しています。テストショットをもとに「ここは間違えそう」というところは、金型を改修して切り欠きを入れたりもしました。それこそセオリーを外しているので、「どこを組んでいるのかわからない」ということになったり、組み方の予想がしづらい設計でもあるので、そのあたりはいつも以上に慎重な設計にしていますね。
──キットとしては、可動範囲が広くポージングをさせやすいのも特徴ですね。
栗原 可動域が広いデザインではあるのですが、作ってみたら結果的によく動くものになっていました。股関節の多重構造はガンプラ的解釈というか、設計としてのこだわりを入れさせてもらった部分です。ストレスなくかっこいいポーズが決まるので、今後の開発にいろいろと活かせそうです。また、デザイン的に肩や腰を保護するアーマーがなく、干渉する部分が少なくてよりポージングの幅が広がっているので、開発側でもいろいろ試すことができたというのもあります。鶴巻監督も山下さんもモノに理解がある方たちだったので、「こう表現してもいいですか?」と提案して許可をもらうかたちで進めました。おふたりとも、そもそもガンプラになるとは思っていなかったということなので、「よくぞここまで」というテンションで喜んでいただけたのはよかったです。設計がいいものづくりをしてくれたからこそのやり取りができたかなと思いますね。
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