“スペース・コロニーの暮らし”とは?『機動戦士ガンダム』宇宙世紀0079年の世界を中心に「スペース・コロニー」の構造や暮らしを振り返る
2025.06.03未来生活を予測した『ガンダム』の世界 スペース・コロニーの暮らしとは?
より宇宙での暮らしが現実的に考えられるようになってきた。ここでは『機動戦士ガンダム』の宇宙世紀0079年の世界を中心に、シリーズ作品の設定も踏まえて、スペース・コロニーがどのように描かれてきたかを振り返ってみよう。
解説/河合宏之
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■ コロニーの構造
宇宙世紀における宇宙の生活圏、スペース・コロニー。円筒形のシリンダー型で直径6km、全長30~40kmの人工の空間で人々は、コロニー自体が回転することによって生まれる疑似重力を感じながら、地上と同じような生活を送っていた。有害な宇宙線については、シリンダー内の空気とシリンダーの外壁によって、充分遮断することが可能であった。
コロニーの中心ブロックは重さを感じることのない無重力帯で、中央に位置するドッグからエレベーターは3000m余りを降りて、重さを感じることのできる人工の地上に出る。そこには山や森や都市があり、あたかも地球上と同じ景色を作り出していた。
スペース・コロニーの基本形となるシリンダー型スペース・コロニーは、太陽光を取り入れる3枚の大型採光ミラーを持つ「開放型」で、採光部には「河」と呼ばれる橋がかけられている。
コロニー1基は1バンチと呼ばれ、40バンチの単位が集まるとサイドと呼ばれる構成になる。サイドは地球から月と同程度の距離で重力の安定している場所「ラグランジュポイント」付近に、サイド1からサイド7までが建造されている。
サイドという巨大な建築物の建造を行う場合、地球から資材を打ち出していたのでは途方もないコストがかかる。そのため宇宙世紀には、アルミニウムやチタニウム、ガラスの材料となる珪素などを、月やアステロイドベルト群から輸送してきた資源衛星から確保し、コロニー建造の材料としている。これらの資源衛星は、一年戦争ではルナツーやソロモンといった宇宙要塞に転用されている。
■ コロニーのタイプ
解放型/サイド7
一般的な3面ミラーを持つ開放型コロニー。
密室型/グリーン・ノア2
解放型コロニーの「河」を埋めて面積を広めた改造型。工業面積の拡大や人口増加を目的とする。
ハイブリッド型/スウィート・ウォーター
開放型と密閉型を組み合わせた急造型で場所によって重力が異なるなど、バランスが悪い。
■ 各コロニーの詳細
サイド1(ザーン)
人類が最初に開発したスペース・コロニー。1バンチはシャングリラ。一年戦争で大きな被害を受け、宇宙世紀0088年時点では行政サービスが著しく低下。自転速度の遅れや気象コントロールが正しく機能しないものの、住民は空気税などの取り立てに苦しんでいる。また、サイド1付近の隕石群のなかには、機械文明を否定した独自の生活様式を守るコロニー、ムーン・ムーンが存在する。
宇宙世紀0090年代になると、戦争の難民を収容する意味で、密閉型と開放型を組み合わせ急造されたコロニー、スウィート・ウォーターが建造される。だが不安定な環境は住民の不満を生み、新生ネオ・ジオンの受け皿となっている。その一方で地球連邦軍ロンド・ベル部隊の拠点であるロンデニオンも置かれている。
サイド2(ハッテ)
一年戦争序盤で壊滅状態に陥り、グリプス戦役では復興しつつある。もっとも有名なのは8バンチ アイランド・イフィッシュで、ジオン公国軍のブリティッシュ作戦において地球に落とされたコロニーとなった。
サイド3(ムンゾ)
地球から月を隔てた反対側で、地球からはもっとも遠いL2点付近に建造され、1バンチ ズム・シティはジオン公国の本拠地となった。開放型コロニーの河を封じた密閉型コロニーとして、居住施設や工業施設を増加させている。3バンチ マハルは、住民を強制疎開させたうえ、ソーラ・レイに改造された。コア3はジオン発祥の地として、宇宙世紀0088年の第一次ネオ・ジオン戦争における最終決戦の舞台となった。
サイド4(ムーア)→サイド6
一年戦争序盤で壊滅的なダメージを受けたサイド。のちにサイド6へと改められ、宇宙世紀0097年ではヘリウム3備蓄基地が建造されており、Ⅱネオ・ジオングの暴走によって大事故を起こしかける。
サイド5(ルウム)→サイド4(フロンティア)
一年戦争時に「ルウム戦役」の舞台となり、壊滅状態に陥った。数少ない残存コロニーである観光用コロニー、テキサスもすでに放置されている状態にある。その後、コロニー再生計画によってサイド4へ改称し、宇宙世紀0110年代にフロンティア・サイドという4つのコロニー群が建造された。
サイド6(リーア)→サイド5
一年戦争時に中立を宣言し、大規模な戦闘から免れたサイド。宇宙世紀0079年、パルダにホワイトベースが寄港している。大規模な事件としては、地球連邦軍の新型MS、ガンダムNT-1の実験場であったリボーが、同機の破壊のために潜入したジオン特務部隊が起こした「ルビコン作戦」により、死者246名、重軽傷者572名という被害を出した。
サイド7(ノア→グリーン・オアシス)
一年戦争時ではもっとも新しいサイド。宇宙世紀0079年、地球連邦軍の「V作戦」の実験場として使用されていることがジオン公国軍に察知され、歴史上初となるMS戦の舞台となった。戦後は復興され、グリーン・ノア1へと改称される。グリーン・ノア2は密閉型コロニーをふたつつなぎ合わせた形状で、ティターンズの軍事施設、工廠として使用された。のちにコロニー・レーザーへと改修される。
■ コロニーの暮らし
ほぼ自給自足の生活が可能で、気象コントロールで天気や気温の管理も(行政がしっかりとしていれば)計画的に行われており、人類の居住に快適な環境がもたらされている。コロニーの住民にとって、地球は環境の激変や自然災害、害虫の多さで驚きの連続であった。
ドッグ(宇宙港)
コロニーの施設のなかで重要な位置を占めるのが、ドッグ(宇宙港)の存在だ。軍艦だけではなく、一般的な旅客輸送や、さまざまな資材・食料品の輸送など、宇宙生活には宇宙船のドッグは欠かせないものである。コロニーの中央部に位置するため、基本的には無重力。そのため専用のシューズ(マグネットで体を浮かせない)の着用が求められる。またさまざまな作業に用いられる宇宙用作業ポッド/スーツ用の通路が各所に設けられており、ジオン公国軍のサイド7襲来時には、結果的にコロニー内にMSを導入させるルートとなってしまった。
水
水も人が生きるためにかかせない要素だ。また、輸送コストも非常にかかるもの。宇宙ステーションでは尿や湿気なども再生水として使用できるレベルとなっており、宇宙世紀のスペース・コロニーにおいても、高レベルな水再生・循環システムが備えられているだろう。
空気
空気は人間が宇宙で生活を行うために絶対的に必要なもので、水と同様に完全循環するシステムが確立されていると考えられる。『機動戦士ガンダムZZ』では「空気や電気の料金は税金以上に取り立てが厳しい」と言及されており、空気の再生の費用については住民から厳しく徴収されていることがうかがえる。ドッグから都市部までの傾斜地帯に森が多く作られているのも、CO2を吸収する目的であるかもしれない。
工業
さまざまな工業製品はコロニーの経済を支える重要な役割を担う。一年戦争以降は、MS関連の部品の生産も盛んに行われていたのではないか。一般的にはコロニー本体の環境汚染に配慮し、コロニー外周に工業プラントが設けられるが、コロニー自体が工業プラント化されている場所もある。
食糧
ひとつのコロニーには数億人が居住しているといわれるが、そこで重要となってくるのが食糧の問題だ。各コロニーにはそれぞれ農業プラントが建造されており、コロニー住民の食糧生産を行っている。宇宙における食糧生産では、地上より運用コストが莫大となるために、「地産地消」ではないが、なるべく輸送コストのかからない手段を模索する。たとえば農業に用いられる肥料に関しても、物質ではなく、空気と電気だけで生み出せる。
プラズマを肥料代わりにする方法も取られていたはずだ。また、そのコロニー内では自給できない食糧については、コロニー間における食糧の取引もあったと考えるのが自然だ。
農業プラントはコロニーの外側にある、半径100mほどの円筒形のブロックに並んでおり、最適な太陽光の調節が行われ、基本的には水耕栽培が行われていると考えられる。また、農業に限らず、プラントの魚の養殖への転用も考えられる。現在でも海水魚と淡水魚を同じ水で育成できる技術は存在するため、宇宙世紀ではより効率的でバラエティに富んだ養殖が可能となっているだろう。
交通インフラ
コロニー内では敷地面積が限られており、交通インフラではシェアリングサービスが発達。エレカ乗り場や、リニアカー(列車)の乗り場が各所に設けられている。
エレカ
コロニー住民の日々の移動手段として発達しているエレカ。名称どおり、コロニー内の空気汚染を避ける意味で、ほとんどはEVが導入されている。『機動戦士Zガンダム』の世界では、カーシェアリングサービスが一般的となっている様子。エレカの待機所で登録カードを通すだけで利用可能で、カミーユとファが宇宙港へ行くために気軽に乗り込んでいる。
リニアカー
コロニーの外周を走る列車。エレカはコロニー内での運用を考慮して最高速度50km/h以下に制限されており、主に短距離での移動に用いられることに対して、リニアカーは長距離の移動に使用される。外周を移動するため、コロニー内の構造に左右されることなく、長距離を高速で移動できる。行先については音声入力が採用されている。
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