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キング伊福部まつり/伊福部昭総進撃 富山省吾(映画プロデューサー)・大河原孝夫(映画監督)・岩瀬政雄(音楽プロデューサー) 特別対談【前編】

2025.05.21

今や『ゴジラ』の音楽で、その名を知らぬ人はいない作曲家・伊福部昭。2024年には生誕110年を迎え、キングレコードでは昨年から今年にかけて「キング伊福部まつり」と銘打って様々な企画を展開中。そして、その集大成として、来る5月26日(月)には「伊福部昭総進撃 ~キング伊福部まつりの夕べ」と題したコンサートが大々的に開催される。ゴジラファンにとっても記念すべき一夜になることは間違いないだろう。

今回、コンサートの開催を記念して、元東宝の富山省吾(映画プロデューサー)、大河原孝夫(映画監督)、岩瀬政雄(音楽プロデューサー)と平成ゴジラシリーズを手掛けた3名のレジェンドが集結。故川北紘一(特撮監督)がプロデュースした「ゴジラヘッド」でも知られる「ホテルグレイスリー新宿」を取材場所に、平成ゴジラシリーズでの伊福部昭の起用から実際の仕事ぶりまで、当時者でしか知り得ない様々なエピソードを披露してもらった。

●取材・構成/トヨタトモヒサ


●三度の依頼で伊福部昭が快諾した『ゴジラvsキングギドラ』

――1991年公開の『ゴジラvsキングギドラ』では、伊福部先生が13年ぶりに映画音楽を担当し、大きな話題を集めました。まずは富山さん、岩瀬さんに、起用に至る当時の状況をうかがえればと思います。

岩瀬 まず、前作『ゴジラvsビオランテ』の音楽には、すぎやまこういちさんを起用しました。それは監督の大森一樹さんも含めて、若造が作る新しいゴジラ映画だったから、自分たちの色を出したかったからなんです。

富山 当時の田中友幸プロデューサーが『ゴジラ (’84)』で、9年ぶりに復活させて、続く『vsビオランテ』は、ストーリー募集を筆頭に全てを新しくして、ゴジラをシリーズ化していきたいとの強い思いで企画した作品でした。そんな中、すぎやまこういちさんもまた作品のフレッシュさを担ってくださった方で、当時はファミコンの『ドラゴンクエスト』で有名な“時の人”だったわけですよね。もちろん、話題性だけでなく、音楽自体、とても素晴らしくて、「スーパーX2のテーマ」の立ち上がりは、今聴き返してみても実にカッコイイ。あの辺りのノリに関しては何も言うことがありません。

――一方で、すぎやまさんが新しく書き下ろすと共に、伊福部先生の音楽も選曲で使われていました。

岩瀬 これは僕も関わったのですが、『vsビオランテ』の2年前にキングレコードさんで「OSTINATO」というCDを作っていて、そこから選曲しました。「OSTINATO」は、伊福部先生の立ち合いのもと、東宝特撮映画の音楽をスタジオで再録音したアルバムで、主要なテーマは全て押さえてあったし、映画の場合、ライブ音源だと使い難いけど、これは割合デッドな音響だったから、問題なく使えたわけです。まぁ、在りもの音源ということだけど、それでも、周囲の話を聞くと印象に残るのは、圧倒的に伊福部先生の音楽だと。

富山 精神科学開発センターで、子どもたちが一斉にゴジラの絵を掲げる場面がありましたよね。あそこで「ゴジラのテーマ」が流れるじゃないですか。あの感覚ですよ。やっぱりゴジラには伊福部先生の音楽が必要だと再認識させられました。もちろん、すぎやまさんの音楽は、作品にはマッチしていたけど、今後シリーズとして定着させるためにも、次回作の『ゴジラvsキングギドラ』では、生みの親のひとりとして是非入っていただきたいと。伊福部先生の起用については、田中プロデューサーももちろん大賛成でした。

岩瀬 それで、先生にご登場願おうか、ということになり、富山さんと二人で尾山台にあったお宅にうかがったんですけど、実は最初は2回断られているんですよ。

富山 ただ、そこに関しては岩瀬さんが、これまでのお仕事を通じて先生との間で信頼関係を築かれていたので、最終的には必ず引き受けてくださると信じていました。

岩瀬 3回目にようやく「三請不止」と「三顧の礼」のたとえを挙げられて、お引き受けいただくことになりました。

富山 僕らのバックには田中友幸が控えていた、というのも大きかったでしょうね。

岩瀬 そう。実際、「他ならぬ友幸さんの頼みですからねぇ」ということも仰っていました。

富山 僕はもう岩瀬さんの後にくっ付いていくだけ(笑)。これが普通の映画だったら、様々な交渉事をやらなくちゃいけないですけど、先生からの信頼厚い岩瀬さんにお任せで、僕自身は尾山台に足を運んだ日々は、懐かしくも楽しい思い出として記憶に残っています。

――大河原監督は『vsキングギドラ』と同年、ご自身の脚本によるデビュー作『超少女REIKO』を撮られていたかと思いますが、『ゴジラ (’84)』では助監督を務め、『VSビオランテ』、『VSキングギドラ』とシリーズが続いていた当時の雰囲気はどのように感じられていましたか?

大河原 大森さんとは、『「さよなら」の女たち』に助監督として就いていたし、当時は所内で業務試写があって、そこで『vsビオランテ』や『vsキングギドラ』を拝見して、「(特撮監督の)川北紘一さんといいコンビで作っているなぁ」と感心していました。次回作の『ゴジラvsモスラ』については、制作宣伝の部屋に「極彩色の大決戦」なんてキャッチコピーの書かれたポスターが貼られていて、その時点では、当然、大森&川北コンビでいくものだと思っていたんですけど、一方で、商業的にはもう一押し、みたいな話も聞いていて、そんな矢先に富山さんからご連絡いただいたと記憶しております。

富山 ここにも田中友幸の壮大な企みがあったんですよ。田中プロデューサーは城戸賞の審査員を務めていて、大河原さんは身分を隠して『超少女REIKO』の脚本を応募したのですが、それに目を付けた田中プロデューサーが、自分のところの助監督だと知り、「素晴らしい脚本だから必ず映画化する」と。その言葉どおり受賞から4年後に映画化を実現させます。それが『vsキングギドラ』と同年の1991年です。一方、大森監督は当時、かなりの売れっ子で、ちょうど太秦からも声がかかっていたんですよね。

――東映のコメディテイストのやくざ映画『継承盃』ですね。

富山 ええ。大森さんは、『vsキングギドラ』まで、5本続けて東宝で撮っていただいていて、ご自身も「どんな好きな撮影所でも段々飽きてくる」と(笑)。それに関西出身の映画人として、太秦への憧れもあったでしょうね。それで、大森さんには脚本を書いていただき、監督が大河原さんとなるわけです。これには城戸賞からの流れがあるわけで、将棋で言えば、まさに「上手く駒が回った」ということですよ。

――しかも大河原さんは東宝生え抜きの監督ですよね。

富山 そういう意味でも、大森さんから「バトンをお返ししますよ」というお言葉をいただきました。僕は、黒澤明監督の『影武者』で制作宣伝を担当していたのですが、当時、演出補佐(※クレジットは監督部チーフ)をされていたのが、黒澤監督の盟友でもある、『ゴジラ』の本多猪四郎さん。その本多監督のもとで演出部として一緒にやっていたのが大河原さんだったんです。つまり、円谷英二時代の特殊技術課の流れを汲む川北さんがいて、ここで大河原さんが参入することで、撮影所で作るゴジラ映画本来の形になったわけです。

――『vsモスラ』は、音楽的なウエイトも大きい作品ですが、大河原監督は伊福部先生との初めての仕事はいかがでしたか?

大河原 普通はシナリオを受け取ったら「より良くなれば」と推敲から入るんですけど、それはいったん置いておいて、『vsモスラ』では、まず何から始めたかといえば選曲なんです。やっぱり「モスラの歌」は外せないですよね。これは古関裕而さんの曲ですが、最初に「伊福部先生に了解を得て欲しい」と岩瀬さんにお願いしました。

岩瀬 伊福部先生には「『モスラの歌』はマストです」とお伝えしまして、実際に編曲してくださった「モスラの歌」は、ご自分の色も付け加えた本当に素晴らしいものでした。原曲とは異なり、白玉ばかりの実に荘厳な雰囲気が感じられる編曲になっていて、コスモスの二人(※今村恵子と大沢さやか)も先生のアレンジにあわせて上手く歌ってくれました。

大河原 それから、1曲だけではもったいないので、これも岩瀬さんに頼んでCDを何枚か郵送してもらい、「マハラ・モスラ」と「聖なる泉」も使うことにしました。

岩瀬 この2曲は先生のオリジナルです。「聖なる泉」は、東芝EMIからシングルCDも発売されたんですけど、そのレコーディングの際には、伊福部先生自ら、コスモスの二人に指導をされていました。

大河原 映画で歌を歌う場合は、事前にプレスコが必要になり、この時はコスモスの振り付けもありましたし、とにかく曲を決めないことには仕事がはじまらなかったと(笑)。

富山 そういう意味では、『vsモスラ』は他のゴジラ映画とは違っていて、”モスラ映画”なんですよね。

――そういった音楽が絡む場面の撮影はいかがでしたか?

大河原  いや、振り付けも含めて、撮影自体は特に苦労した記憶はないですね。これは編集の話ですが、国会議事堂でモスラの成虫が孵化する場面は、コスモスが「聖なる泉」を歌っているんですけど、編集の米田美保さんが「コスモスとオーバーラップさせたい」と提案してきて、それで合わせたのが印象に残っています。また、その前のモスラの幼虫が繭を作るシーンでは、女声合唱の「聖なる泉」を使っていて、それも含めて上手く行ったと思っています。

▲ 伊福部昭 ©岡本央

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