陸上自衛隊の戦車「90式」とは?陰に隠れがちだが世界に並んだ第3世代MBTを解説!!【いまさら聞けないすごいヤツ】
2025.05.17いまさら聞けないすごいヤツ!!
陸上自衛隊 90式戦車
イラスト/大森記詩
「名前は知ってるけどどんなものなんだろう?」「今さら聞くのもはずかしいなぁ……」なんて思ってしまう有名な飛行機や戦車、車などのモチーフをサクッと読める解説とイラスト、オススメのプラモとともにご紹介する本連載。
今回は、陸上自衛隊の戦車「90式」をピックアップ! 10式や16式の登場で少々影が薄くなりがちな90式戦車ですが、この戦車こそ豊かな時代を象徴するようなリッチな作りの戦車! その物語を見ていきましょう。
90式戦車
全長/9.80m
全幅/3.40m
全高/2.30m
重量/50.2t
速度/70km/h
行動距離/350km
主砲/44口径120mm滑腔砲Rh120
装甲/複合装甲
乗員/3名
北海道 第7師団 第71戦車連隊 第1中隊
陸上自衛隊 90式戦車
解説/宮永忠将
世界に並んだ第3世代MBT
陸上自衛隊にて61式戦車の退役に伴う後継車両として開発されたのが、1990年に制式化された90式戦車。これは74式に続く戦後3番目の国産戦車でもある。2024年に全車が退役した74式戦車は、いわゆる戦後第2世代MBT(主力戦車)としてはトップクラスの性能を誇っていた。しかし装甲技術は他国の第2世代同様、古い思想に基づいていて、完成当時に猛威を振るっていた対戦車誘導ミサイルや、戦車砲弾の進化には立ち遅れていた。
それを変えたのが複合装甲(コンポジット・アーマー)の発明だ。これは鋼鉄製ケースの中に別素材の装甲材質を詰め込み、鋼鉄だけでは対応できないさまざまな弾薬に対応可能としたもの。1960年代末にソ連が実用化したが、戦車用装甲材として完成させたのはイギリスで、「チョバム・アーマー」の名でチャレンジャー1主力戦車に採用されると、各国でも複合装甲の研究が進んだ。ちなみに「ガンダムNT-1 アレックス」の重装甲バージョンでも、仕様は違うけど、チョバム・アーマーの名前が使われていた。
日本も1970年代から複合装甲の研究を開始し、90式戦車に採用された。複合装甲は具だくさんのサンドイッチみたいなものなので、曲面で仕上げるのは難しい。だから見なし装甲厚を得るために曲面を多用した74式戦車とは違って、90式戦車は平面でスッパリ切り落とした、レオパルト2やM1A2エイブラムス等に似たスパルタンな外見になっている。このような複合装甲を採用した戦車は、第3世代MBTとして区別される。複合装甲の中身や材質は軍事機密なので、ハニカム構造のセラミックやチタンを複雑にはめ込んだものと想像するしかないが、90式戦車の複合装甲部位は世界最高レベルの防護性能と評価されている。
「ものづくり大国」時代の栄光
90式戦車は攻撃力も一流だ。採用している戦車砲はドイツ、ラインメタル社製の44口径120mm滑腔砲で、これは西側第3世代MBTの実質的な標準武装だ。ただし輸入ではなく、日本製鋼所でのライセンス生産品である。実は日本製鋼所は同口径の戦車用滑腔砲の開発に成功し、比較試験でもラインメタル製より高性能を叩き出していた。しかし陸自としては実績と安定性を重視したかったのか、採用は見送られてしまったのである(最新の10式戦車では10式戦車砲として国産砲が採用された)。
また外見では分からないが、砲塔後部には同じく日本製鋼所製の自動装填装置が据えられている。砲塔内の砲手/車長は、弾薬選択スイッチを入れるだけで、砲塔後部の弾庫から目当ての砲弾が自動選択され、数秒で装填を終えてしまうという優れモノ。おかげで装填手が不要となり、90式戦車は車長、砲手、操縦手の3名で運用できるようになった。もっとも戦車兵は戦車に乗る以外にも、自動化できない多くの車外業務がある。したがってひとりあたりの作業分担が増えてしまうブラックな仕様ともいえる。
90式戦車は昭和末期に「ものづくり大国」として世界に君臨した日本の工業力の象徴でもある。北海道に集中配備されているので目にする機会は少ないが、そんな日本の栄光の歴史をまとった戦車として見てほしい。
ダイキン工業株式会社
家庭用および業務用エアコン事業でトップを走るこの会社は、実は戦車砲を含む砲弾製造メーカーとしての顔も持つ。90式戦車用の砲弾は、ラインメタル製砲弾を同社がライセンス権を得て生産しているが、これとは別に開発された00式演習弾は、2000年に制式化されたダイキン工業製の純国産の演習弾である。戦車砲の威力がありすぎる90式戦車は、長らく射撃訓練場が制限されていた。そこで想定交戦距離の2kmを超えると運動エネルギーを急激に喪失するよう設計された特殊な演習用砲弾が開発されたのだ。日本の事情に配慮した兵器開発技術を持つメーカーによって、国産兵器の技術は支えられているのである。

もっとも組みやすいといえる戦後戦車模型
大迫力のシルエットを迅速に味わえるタミヤの「陸上自衛隊 90式戦車」。細かなパーツ分割をすることなく、大きめのパーツに精密なディテールを彫刻することで最小限のパーツ分割に抑えています。そのため完成後におよそ30cmにもなる戦車模型が、3時間もあれば組み上がってしまうのです。複雑化を極めていく第二次世界大戦後の戦車模型の中でももっとも組みやすいと太鼓判を押せるプラモデルなのです。
タミヤ 1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.208 陸上自衛隊 90式戦車
●発売元/タミヤ●4290円、発売中●1/35、約27.8cm●プラキット
\この記事が気に入った方はこちらもチェック!!/
本の主力戦車「10式」

陸上自衛隊 10式戦車 イラスト/大森記詩 撮影/三環しおん 戦車、飛行機、船、車、バイク、城などなど、世の中のさまざまなモチーフがプラモになっています。その中に、「名前は[…]
戦車のリアルな汚れ

ガンプラ汚しの前に戦車のリアルな汚れを観察!『陸上自衛隊広報センター りっくんランド』取材レポート【ウェザリング特集】
ガンプラ汚す前に、マジの汚れを見に行こう!! 実際の汚れを見る! それだけでウェザリング塗装に対するイメージが豊かになります。ここでは陸の王者と言える戦車を見ながら、どんな風に[…]
HJ Web「公式LINE」と「公式X」も稼働中!
「公式LINE」では話題のトピックや人気記事情報の配信。そして、「公式X」では最新記事の更新をお知らせしています! ぜひ友達登録&フォローしてくださいね!
公式X/@Hobby_JAPAN_Web