HOME記事フィギュアMAGI ARTS社長であり原型師も務める阿純氏に特別取材! メーカーの立ち上げや今後についてなどを聞いた!

MAGI ARTS社長であり原型師も務める阿純氏に特別取材! メーカーの立ち上げや今後についてなどを聞いた!

2024.10.26

フィギュアJAPANマニアックス外伝 月刊ホビージャパン2024年12月号(10月25日発売)

フィギュアJAPANマニアックス 原型師列伝 外伝

EXTRA 
中国の新進気鋭若手原型師&MAGI ARTS社長
阿純(MAGI ARTS)

 前回で最終回を迎えた、美少女フィギュアについて原型師という切り口でまとめてきた連載「原型師列伝」。連載終了直後だが、フィギュアメーカー・MAGI ARTSを立ち上げた阿純氏に取材する機会が持てたので、番外編としてお届け!
 中国で原型師をやること、メーカーを立ち上げることに加え、中国のフィギュア市場、ファンやメーカー全体の現状と今後についてなど、いろいろお話を伺ってみた。

取材・文/島谷光弘(ホビーマニアックス)
協力/首藤一真

阿純

1999年、中国湖南省生まれ。大学卒業後の2022年、重慶でフィギュアメーカー・MAGI ARTSを立ち上げる。代表取締役社長兼原型師。


フィギュア事始め

日本のアニメの影響

 今回主役として登場する阿純氏はまだ25歳。これまで本連載で登場してきた原型師の中でも極めつけに若い。00年代に中国で子供時代を過ごしたわけだが、その頃中国のテレビでは日本のアニメや特撮などが頻繁に放送されていた。

阿純:小学生の時は日本のアニメと特撮を観ていました。『ドラゴンボール』『仮面ライダー』『ウルトラマン』『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』。こういうものが好きだなぁというのが心の中に芽生えていたんです。

 さらに深くそういう作品にはまり込んだのは、当時好きだった女の子の影響だったとか。その女の子は日本のアニメが大好きだったので、仲良くなるためにそういったジャンルを深掘りするようになったのだ。

最初に買ったフィギュア

 阿純氏が最初に買ったフィギュアは「聖闘士聖衣神話EX」のジェミニサガ。そして初めて購入した美少女フィギュアはアルターの「式波・アスカ・ラングレー ジャージVer.」。この「アスカ」は10年前、2014年に発売されたアイテム。ごく最近のフィギュアと思えるのだが、阿純氏にとっては中学の頃の話となる。
 その後もフィギュアやガンプラを買っていったのだが、それらを改造して自分の好みに仕上げるように
なり、そこからフィギュア原型を手掛けるようになる。

原型製作

 最初、原型はエポパテやファンドで作っていたが、高校生の頃にZbrushなどデジタル造形を始める。これは本連載第1回でお馴染みの原型師・グリズリーパンダ氏の影響が大きかったという。

阿純:僕はグリパンさんの大ファンで、彼女のフィギュアを見て3Dで原型を作ることができるんだと思うようになったんです。

 そのまま大学時代には、中国のフィギュアメーカーの商業原型を手掛けるようにもなっていた。


MAGI ARTS設立

重慶のフィギュアメーカー

 大学卒業後、フィギュア業界に進むことを考えるが、そこには大きな障害があった。阿純氏は大学時代を過ごした重慶を離れたくなかったのだが、中国のフィギュアメーカーはその多くが広東省と上海市にあり、重慶にはフィギュアメーカーがない。ならばと、フィギュアメーカーを重慶に設立することにしたのだ。それは2022年のことだった。

阿純:フィギュアの仕事をしたいとは思ってたんですが、メーカーに行くには遠いところまで行かなきゃいけないから地元で作ったんです。自分の町に残りたかったんです。自分の町にその仕事がないのなら、自分でフィギュアメーカーを作ってしまおうと。

 そうして設立されたのがMAGI ARTSであり、阿純氏は社長であり原型師でもあるのだ。なお、重慶から広東省は1000km以上離れていて、移動には10時間以上かかることもある。中国という国土の広さゆえの判断なのだ。

▲まだ真新しいMAGIARTSオフィスの様子。新進気鋭のメーカーらし い雰囲気が窺える

会社組織

 もちろん、MAGI ARTS設立にあたっては単にその場の思いつきではなく、デジタル造形など技術面の裏打ち、工場とのコネクションのための人脈作りなどを10代の頃から行ってきたという。そして人材も着実に確保している。

阿純:原型師は社内に自分を入れて4人。もちろん外注に出すことになります。フィニッシャーは6人いますが、自分も彩色しています。彩色は社内だけで行っていますね。現在社員は15人程度です。

 フィギュア工場関係に顔も広いが、さらに資本関係のある工場も。その工場は大多数のフィギュア工場と同じく、広東省東莞市に所在している。

デジタル造形

 現在フィギュアメーカーを運営するなら、デジタル造形という技術は欠かせないものになっている。阿純氏がデジタル造形を覚えたのは2022年頃。主な使用ソフトはZbrushで、解説本を読んだり他の原型師に相談したりしつつ、基本的には独学で習得している。前述のように、氏は日本の原型師グリズリーパンダ氏のファンでもあり大きな影響を受けたという。
 ただ、阿純氏は現在の中国の一般的なフィギュア原型のクオリティには不満点もあるとのこと。

阿純:業界を開創してリードしてきた日本と比べて、中国の原型はまだまだいろいろな面で足りないところが多々あります。ですが、日本よりも中国の原型師は手が速いのも確かですね〜。


フィギュア市場への取り組み

製作ペース

 2022年に創業してまだ3年弱だが、開発ペースはかなり速い。現状すべてスケールフィギュアで、この1年で16体発表している。創設以来だと37体。さらに別に手掛けているブランドも含めると100体を超えるという。
 価格的には2万円台で日本のものとそれほど変わりなく、むしろ中国の平均的な給与から考えると日本での感覚以上にかなりの高額商品ということになるのだが、なぜこのようなペースで出していって成り立つのだろうか?
 これは1体あたりの販売個数が少なくても成り立つような計算を立てているからだという。中国の工場で生産して日本で販売する場合にかかる輸送費などのコストが、中国にあるメーカーの場合は抑えられるため、そのぶんMAGI ARTSでは1体あたり必要な販売個数をかなり低く抑えて見積もっているのだ。だからこそ、数多くのフィギュアを出していくことで総額としての売上を成り立たせている。ただ、それにしてもこのペースでアイテムを発表できるというのは驚異的な話である。

扱う作品

 MAGI ARTSが最初に手掛け発表したのは『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の「ブラック・マジシャン・ガール クリボー」。これは中国限定での版権を取得しており、日本では未発売。他にも『東方Project 』アイテムも出している。アニメやゲームといった版権アイテム以上に多いのが、イラストレーターのオリジナルフィギュア。このあたりの傾向は、最近の日本のフィギュア市場と同様。
 もともと、日本に入ってきていた中国のフィギュアメーカーの出すアニメやゲームキャラは、最近のものを除くと、90年代作品が多いという傾向があった。これは、中国のフィギュアメーカーで企画の中心になっている世代が子供の頃にテレビで見ていたのが、日本のアニメばかりだったことに由来する。子供の頃に好きだったキャラクターをフィギュアにしたいという発想からラインナップを選んでいたのだ。
 阿純氏の場合もそれは同じ。子供の頃に見て影響を受けたキャラクターをフィギュア化したいという思いがあるのだ。ただ、阿純氏は1999年生まれなので、00年代に子供時代を過ごしたことになり、多少作品的にはずれるが。
 なお、現在中国では基本的に地上波では日本アニメは放送されていない。日本アニメは主にネット配信での視聴となる。しかし、フィギュアとしての人気ということになると、相変わらず中国アニメではなく日本のアニメの人気が高いようだ。ただし、ソーシャルゲームなどでは中国タイトルも非常に強いものになっている。
 そういった状況下で、MAGI ARTSが日本進出したのにはある意図があったのだ。

日本進出

 日本に進出を考えたのは、中国では得られないIPを手掛けるため。

阿純:私がやりたいと思ったIPは基本日本のIPなので、それを作るためにはどうすればいいかとなったときに、日本に出たほうがいいなとなったんです。

 アニメやゲームからのフィギュア化には当然版権元の許諾が必要になるが、作品によってはその許諾の範囲が日本だけ、中国だけ、全世界など異なる場合がある。どこの国で許諾を受けたかによってそれが変わるのだ。中国で許諾を受けたが日本では販売できない、もしくはその逆もあるし、それ以前に日本でなければ許諾が下りないものもある。それに監修のやり方も異なるため、版権としては許諾可能であってもデザインによっては許可が下りないことも。
 MAGI ARTSのフィギュアでも、現時点で『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』は中国のみでの販売で、『東方Project 』は日本と中国の両方で販売されている。
 阿純氏は自分が好きな作品の版権を取りやすくする意図もあって、日本進出を決めたということだ。

▲MAGI ARTSが第1作目として発表したのが『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ』の「ブラック・マジシャン・ガール クリボー」。これは阿純氏が少年の頃から大好きな作品の大好きなキャラクターだったため、手掛ける最初のフィギュアとして選んだという。発表・発売時に中国ではもちろんのこと、日本でも話題になった。なお、これは中国で版権取得したもので、現時点で日本では販売されていない。フィギュアのポーズはかなりダイナミックで、阿純氏に持っていただいている箱も大きめ

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