【後編】「ガンダムとホビージャパンの45年」BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン 安永亮彦×月刊ホビージャパン編集長 木村学。来年のガンプラ45周年に向けた思いを語る
2024.10.27対談企画 BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン 安永亮彦× 月刊ホビージャパン編集長 木村 学 ガンダムとホビージャパンの45年 月刊ホビージャパン2024年11月号(9月25日発売)
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン 安永亮彦×月刊ホビージャパン編集長 木村学
ガンダムとホビージャパンの45年
2024年は、ガンダム45周年であり、ホビージャパン55周年というふたつのアニバーサリーが重なった。そこで今回は、ガンプラ関連を統括するBANDAI SPIRITS ホビーディビジョンの安永亮彦氏を迎え、月刊ホビージャパン編集長の木村学との対談が実現。これまでのホビーディビジョンとホビージャパンのつながり、近年のガンプラにおけるトピックスの振り返り、そして来年のガンプラ45周年に向けた思いを語ってもらった。
聞き手/石井誠
安永亮彦(ヤスナガアキヒコ)
BANDAI SPIRITS ホビーディビジョン ゼネラルマネージャー。プラモデル開発全体を統括し、各アイテムラインナップやスケジュールなどを管理している。
木村 学(キムラマナブ)
ホビージャパン編集部編集長。月刊ホビージャパンや編集部全体を統括する傍ら、HJメカニクスやガールズプラモスタイルなどの単行本企画・編集も手がける。
新規ユーザー層の増加が話題となった『機動戦士ガンダム 水星の魔女』
――それでは、話題を近年のガンプラ絡みのトピックスへ移らせていただければと思います。2022年から2023年にかけては、『機動戦士ガンダム 水星の魔女』のヒットでガンプラ界隈も盛り上がった印象がありますが、その動向に関してはどんな感想を持たれていますか?
安永 『水星の魔女』はやはり新規のユーザー、特に10代後半から20代のユーザーが入ってきたという印象があります。ユーザー層の広がりというところでは、作品の力が大きかったなと感じますね。
――『水星の魔女』のキットはかなり組み立てやすい印象だったのですが、それはやはり新しく入ってくるユーザーを見越したものだったのでしょうか?
安永 そうですね。元々、『水星の魔女』ではティーン層のファンを獲得したいという思いがバンダイナムコフィルムワークスさん側にもあったので、そこに足並みを揃えるべく、ガンブラ自体もなるべく価格を抑えて、でも組みやすさと仕上がりのクオリティはいいものにしたいと。特にHG ガンダムエアリアルに関しては相当無茶をした仕様にはなっています。その結果、おかげさまで非常に高評価を受けた商品にはなりました。
――機体のシェルユニットの発光表現など、個人で再現するには難しいところにインモールド成型を取り入れたのも特徴でしたね。
安永 インモールド成型は以前からあった技術だったのですが、しばらく商品に使っていなかったんです。『水星の魔女』のモビルスーツのデザインを見た際に、クリアー部分の内部に発光するラインが見えるという表現がされていたので、ここはインモールド成型が合うだろうということで、あのタイミングでの復活となりました。本当はもうちょっとあとに復活させる予定でインモールド成型の新たな見せ方の研究と開発を進めていたのですが、急遽エアリアルでもやろうということになり、投入を決めた経緯があります。
――そうした特殊技術に加えて、組み立てやすさの面では、エントリーグレードで採用された関節構造の簡略化なども取り入れられていますね。
安永 あの構造は、元々HGAC リーオーの構造をヒントにしたもので、量産機だからたくさん買って、たくさん組んでもらうために、組み立てストレスを軽減できるプラモデルの構造を考えたことから始まっているんです。それがユーザーから高い評価を得まして、それを基にエントリーグレードにも取り入れ、そしてその技術をフィードバックしつつ、これまでのHGで培ってきた技術も合わせることで、今までのオンタイム時に出すHGの構造とは違ったものにすることができました。エアリアルのデザイン自体も今までのガンダムの人型のバランスとはちょっと違うので、それを再現するのにもこの関節構造の技術が生きたように思います。
――木村さんは模型誌側からの視点で『水星の魔女』という作品はどんな特色がありましたか?
木村 安永さんが仰る通り、新規ユーザーが入って広がりを見せた一方で、従来のガンプラユーザーもこぞってキットを購入したことが『水星の魔女』のヒットの要因だと思っています。誌面でも人気があり、いわゆる従来の40〜50代のロイヤルユーザーもこぞって『水星の魔女』のキットを購入し、楽しんでいました。アニメ本編が面白かったというのもありますが、プラモデルがよくできていたことが、年齢層が高いユーザーにもすごく刺さったんですよね。もうひとつは、「PROLOGUE」の存在が大きいですね。作品の発表当初は、「女の子が主人公の学園もののガンダム」と聞いて、従来のガンダムファンはかなり不安視していたのは間違いなかったと思います。そのタイミングで「PROLOGUE」のハードな映像を観せられて、心配していたガンダムファンは衝撃を受けたんですよね。「これは、俺たちが観てもいいガンダムだ」って思った方がたくさんいらした。それがきっかけになって、従来のファンも「エアリアルを買ってみよう」となったんだと思いますし、実際に手にして、その出来の良さに驚いたという読者の声もたくさん聞こえてきました。
安永 僕らも本編のメカに関する打ち合わせに出させてもらって、コンテやカットを見ながら今までと違うモビルスーツの演出の仕方を感じていたので、キットに対しても今までとは違った感じを出したいと思いながら商品開発をしていた覚えはあります。
木村 新規層という部分でいうと、当誌も電子版の雑誌サブスクである「dマガジン」で読むことができるのですが、そこでは圧倒的に『水星の魔女』の表紙だと読まれる回数が多い。普段ホビージャパンをよく読むコアターゲットの枠の外側にいる人たちが新たに『水星の魔女』きっかけで読んでくれて。その結果、「ホビージャパン」の認知度アップにはかなりつながったと思っています。
安永 それから、我々の『水星の魔女』への取り組みでは、Figure-rise Standardとしてキャラクターのプラモデルをオンタイムで展開したことも大きな影響があったことですね。これも新たなユーザー獲得につながったかなと思いました。
木村 濃いガンプラファンは、流行り始めていたガールズプラモデルに対して斜めに見ている傾向がありましたからね。それが『水星の魔女』からは大きく変化したのは確かだと思います。
安永 いわゆる「美少女プラモデル」の認知が進むなかで、劇中のキャラクターであるスレッタをプラモデルとしてリリースすることで、このジャンルもしっかりユーザーが付いてくれることを確認することができました。その結果、最近だと『機動戦士ガンダムZZ』からプルツーをFigure-rise Standardで出せるような流れにもなりましたから。
木村 それ以外だと『水星の魔女』では女性ファンも増えて、ガンプラを作る女性ユーザーも増えた感じはありますね。それも「キットの組み立てがしやすい」というところでハードルが下がったということもあるので、いろんな方面から見て『水星の魔女』のガンプラへの貢献度はかなり高いと思います。
『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』から見えた「SEED世代」ファンの顕在化
――2024年には『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が公開されました。
安永 『SEED FREEDOM』の商品開発は本編の制作と同時進行でやっていたので作品の内容は知っていましたが、試写会で実際に映像を観たときに「間違いなく当たる」と思いました。当初はズゴックの商品化の予定はなかったのですが、試写会の帰りの新幹線の中でズゴックの商品化を決めたくらいですからね。HG デストロイガンダムも『SEED FREEDOM』のコンテを見て「他のアイテムを外してもいいから、デストロイガンダムをねじ込め」という指示を出したのを覚えています。それくらい、僕自身も期待していましたし、実際に予想を超える大ヒットを記録しましたね。
木村 編集部でもストーリーの概要は試写会の前に伺っていたのですが、それだけの情報でも「これはいける」と思いました。もうひとつは、ホビージャパンは模型誌ということで『ガンダムSEED』にものすごく恩恵を受けているんです。『ガンダムSEED』があったから新しいガンダムファンが現れた結果、部数が大幅に増え新規読者もたくさん獲得できました。その頃の読者はまだ残っているのですが、離れていたファンも戻ってくると予想していました。だから、プラモデルも確実に売れるだろうと思っていましたし、安永さんと同じく、試写を観た段階でこれはいけると感じました。
安永 試写を観て、予想が確信に変わった感じですよね。
木村 変わりましたね。ライジングフリーダムガンダムも当初は噛ませ犬的な機体だと思っていたのですが、劇中の活躍を見るとすごくかっこいい。
安永 あと、何よりズゴックの演出の仕方がすごかった。最初は「マイティーストライクフリーダムガンダムが出るための盾役だ」と聞いていたのですが、全然違っていて。試写を観て、ズゴックとキャバリアーはラインナップに入れることを決めました。
――反響も大きかったですね。
安永 最初はズゴック自体に対する反応は古くからのファンが中心だったと思ったのですが、今となっては世代を問わずズゴックで盛り上がっている。アスランが乗っていて、さらにインフィニットジャスティスガンダム弐式が入っているというびっくり枠だったから、そういう部分も広い世代にも受け入れられていて。ホビーディビジョンの公式Xでの反応も、5月の静岡ホビーショーでのズゴックの商品化発表がインプレッションで最高記録を更新して、先日の受注開始の案内がさらにその記録を塗り替えるという感じで反響がすごいです。つまりは、いろんなユーザーが反応してくれているということなんだと思います。
――明らかに新しい層が『SEED FREEDOM』を面白いと感じたということですね。
安永 今回、それこそギャンシュトロームやゲルググメナースも含めて劇中で活躍する機体を商品化させていただいたのですが、俗にいう「SEED世代」と呼ばれる今の30代くらいの人たちにとって、『ガンダムSEED』という作品は、まさに原点であり、彼らにとってのファーストガンダム的なモビルスーツなんだと思います。
木村 そうなんですよね。その点からいえば、『SEED FREEDOM』で反応したのは、我々がメインにしているボリュームゾーンよりも若干若く感じますね。それこそ、ここ半年でもっとも売れたのは『SEED FREEDOM』特集号でした。やはり、20年の重みは大きいです。20年ガンプラをやっている人は濃いですし、作品に対しての愛も深いなと感じますね。
――そういう意味では、『SEED FREEDOM』商品のターゲット層も、30代くらいを意識されていたんですか?
安永 そうですね。完全な新規層でなく、当時10代だった「SEED世代」が30代になっている。彼らも当時HGを買っていたとして、映画化のタイミングに合わせて20年ぶりにガンプラを組む方もいるだろうと。そういう方々に納得してもらえるような形で、今回の『SEED FREEDOM』のガンプラを企画していますし、『水星の魔女』とはターゲットを少しずらして考えていました。商品開発も今まさに30代になる、『SEED』を観てガンダムを好きになった者が担当しています。だからものすごい熱量がこもった商品仕様になりましたね。そこも20年経ったからこそという部分ではあります。
ガンダム45周年アイテムへの思いとガンプラ45周年への道のり
――そして、8月にはガンダム45周年記念アイテムとして、RG RX-78-2ガンダム Ver.2.0が発売されました。
安永 僕はRGのシリーズが立ち上がった頃からずっと見てきているのですが、14年前に出た最初のRG RX-78-2 ガンダムも当時のホビー事業部の金型技術や成型技術などのすべてをひとつのアイテムに落とし込んだらどんなものができるのかというところから生まれたアイテムなんです。だから、14年経って再び見直してみても、最初のRG ガンダムはすごくいい商品ですが、今の目で見ると気になる箇所もある。そこに安永の個人的な思いとして、ガンプラ40周年でリリースしたPG UNLEASHED RX-78-2 ガンダムの見せ方を、今度は小さくしてRGにフィードバックしていくということを実現できたと思っていて。スケールサイズが大きくてそこにすごい技術や表現を入れるのは比較的実現しやすいのですが、それをダウンサイジングさせるというのがプラモデル開発の妙であり、腕の見せ所でもある。PGでやっていたことをさらにブラッシュアップして、1/144スケールサイズに落とし込んだ感じは、見ていても、組んでみても、密度感を含めての遊び心地、動かし心地が見事に昇華できたキットだと個人的には思っています。
木村 今回のRG ガンダムVer.2.0は、昨今のBANDAI SPIRITSさんのいわゆる最新のガンプラの方向性を向いたアイテムになっていますね。おそらく、今のBANDAI SPIRITSさんは、突き詰めればどこまででもできると思うのですが、大事にしているのは、誰にでも組める組み心地だと思うんです。最初のRG ガンダムもすごいのですが、やはり組みづらさみたいなところがあったと思うんです。今回はそこをすべて解消している。「Fine Build」というワードを使用されていますが、今のベクトルは組み心地やストレスのない組みやすさ、そして組んだあとにどう楽しむかというのをすごく考えていらっしゃる。そういう意味では、凝ったものが手に入るけれども、組む時のストレスを解消してあげたいというのをすごく感じたRGでしたね。
――10月にはベストメカコレクション 1/144 RX-78-2ガンダム(REVIVAL Ver.)が発売されますね。
安永 どちらかというと、こちらこそガンプラ45周年のイメージが強いのですが、45周年を目前にしながら未だに現役でリピート再販がかかっている当時の300円のガンダムは、我々のガンプラの起点となっているもので、それを今の目線から見た時にどうなるかというアイテムですね。これの面白いところは、原体験世代ではない比較的若い世代の子からリバイバル商品のアイデア提案があったことで、「当時のあのデザインのガンプラがいい」と。これまでRX-78-2 ガンダムのガンプラは数多くホビーディビジョンで作ってきましたが、やっぱり何かしら年代ごとに特徴的な解釈が入って立体物になっている。当時そのままのものを作り直すという発想がおじさん世代にはなかった。逆に若い世代からそれを45周年だからこそやるべきだという話が出たので、なるほどなと思い、実現した経緯があります。言われて気付く当時のガンダムの造形のよさ。これが最初にあったから今があるんだ、というのを改めて考えさせられる。内部的にもちょっと面白いなという考えがありましたね。
木村 僕たち世代はいわゆるノスタルジックな気分で、「ガンプラはこんなに進化したんだな」と改めて感じさせてもらえる商品ですよね。我々模型誌としては、このアイテムを使ってどうやって読者に模型の遊び方を伝えられるか?そこで頭を捻って考えています。どうやればこのアイテムを魅力的に見せられ「作ってみようぜ」と思わせられるのか難しいところです。ノスタルジックだけでは終わらせたくないとは思っています。
――今年はその他に、新作映像としてはNetflixで配信される『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』が控えていて、ガンプラも発売予定になっています。
安永 やはりCGアニメということで、モビルスーツのデザインが非常に細かく設定されているというところが、これまでのガンダム作品とはちょっと違う要素かなと思っていまして。これまでCGでモビルスーツを見せた作品に『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』などもありましたが、実写的な見せ方をしているので表現が大きく違っている。そこに対してどう模型的なアプローチをしていくかというところが肝になっているかと思うんです。いわゆるスケールモデル的な部分にも
チャレンジするような商品展開にもなりそうです。
木村 『復讐のレクイエム』は編集部的にはものすごく期待しています。現在、発表されているPVを見る限り、モビルスーツの演出がとても重厚でかっこいい。ここは、やっぱり僕たちおじさんのガンダムファンにはたまらないところですね。これをガンプラにどう落とし込んでいくのか? 当然ながらまだキットは手にしていないのでわからないですが、楽しみなところではあります。
――では、そろそろまとめに入らせていただければと。来年のガンプラ45周年とそれ以降に向けて、ホビーディビジョン、ホビージャパンの双方で力を入れていかなければならないところだと思います。来年に向けての展望などを教えてください。
安永 HG サイコ・ガンダムMk-Ⅱの発売で、『機動戦士Zガンダム』の主要なモビルスーツはほぼ商品化できた状態です。今後の展開に関してはまだ言えないところが多いのですが、できれば『機動戦士ガンダムZZ』のアイテムもやっていきたいところではあります。また、『機動武闘伝Gガンダム』の30周年を皮切りに、1年ごとに『新機動戦記ガンダムW』、『機動新世紀ガンダムX』と30周年が続いていくので、そこについてもしっかり各作品に向き合いながら商品化を検討しているところです。
木村 月刊ホビージャパンは、ガンプラ45周年に向けてもっとガンプラをプッシュしていく年になるとは思っています。そのなかで、BANDAI SPIRITSさんが仰る通り、いろんな層にアプローチできるガンプラを出してほしいなと思っているんです。おじさん向けだけではなく、新規ファンも取り込めるようなガンプラをバランスよくリリースしていただけると助かるなと。来年には静岡の新工場も完成すると思いますので、その時には既存のガンプラの再生産もさらにしていただけるとありがたいですね。まだまだガンプラは入手しづらい状況にあって、なかなか手に入らないアイテムを使った作例で特集を組むのも難しい時代になっていますので。とはいえ、ガンプラは絶版になっているわけではないので、特集によっては、いろんな既存のキットを使った作例もやっていきたいと思っています。
――やはり、ガンプラ45周年を象徴するフラッグシップ的なアイテムも出るのでしょうか?
安永 今後発表されますが、もちろん用意しています。また、大阪万博のガンダムパビリオンもありますので、そうした部分を含めて、期待していただければと。
――では最後に、木村さんからひと言お願いします。
木村 ガンプラが誕生してからこれまで、ホビージャパンは全力でガンプラを応援してきました。後半に入ったガンダム45周年、そして来年のガンプラ45周年も読者の皆さんと一緒にいろんな面白いことができればと思っております。そこにはぜひBANDAI SPIRITSさんのお力添えもいただければと思いますし、一緒にガンプラを盛り上げたいなと思っております。引き続きよろしくお願いいたします。
安永 こちらこそ、ぜひよろしくお願いいたします。
(2024年8月、オンラインインタビューにて収録)
▼ 対談記事前編はこちら
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