『コードギアス 新潔のアルマリア』特別エピソード『黒の閃光』(後編) 更新!『コードギアス 奪還のロゼ』へと続く物語を小説でお届け
2024.09.06『コードギアス 奪還のロゼ』へと続く物語
映画『コードギアス 復活のルルーシュ』と『奪還のロゼ』をつなぐ『コードギアス』の新たなるストーリー「新潔のアルマリア」の後編。キルギスの首都ビシュケクで起こった騒乱の発端となった武器商人マウリツィオ・イシャー。彼を謎の黒いナイトメアフレーム、ピュアエレメンツGと黒の騎士団のゼロが追う。ゼロが用意した機体はあのランスロット・アルビオンに酷似していた……。
STAFF
シナリオ 長月文弥
キャラクターデザイン 岩村あおい(サンライズ作画塾)
ナイトメアフレームデザイン アストレイズ
特別エピソード|『黒の閃光』後編
光和4年。
“奇蹟の明日”以降、国家間による大きな争いは無くなったといえるだろう。奇しくも悪逆皇帝ルルーシュが討たれたことによって、人々は争いではなく、話し合いというテーブルにつくことを望み、平和な日々を歩んでいた。
しかし――。
平和へと生まれ変わった世界といえど、争いが根絶されたわけではない。争いがなければ生きていけない者、争いによって富を得たい者、そもそも争いを望む者。人が生きる以上、人によって社会が形成される以上、争いが完全に無くなることはない。
先日、キルギスの首都ビシュケクで起こった騒乱もそのひとつだった。大統領の発表した政策に不満を抱いた国民によって抗議集会が開かれたが、この集会を鎮圧しようとした政府軍とデモ隊が衝突。ナイトメアフレームを持ち出す戦闘へと発展したのだ。この事態に黒の騎士団の航空幕僚長であるジノ・ヴァインベルグと彼の率いるグリーンフォースが出動し、収束を図ったが、謎の黒いナイトメアフレーム、ピュアエレメンツGの介入を受けてしまう。
「ホント、あの黒いナイトメアの目的はなんなんだろうね」
ビシュケクの中心を離れ、マナス国際空港へトレーラーを走らせるサトリが、非難混じりの言葉を漏らす。
「戦闘に介入して、あっという間に戦場を荒らして去っていく。まるで漫画のヒーローだな」
「漫画って……。ナイトメアには実際に人が乗ってて、命に関わることなのに……」
「そうだな。サトリのその感覚は正常だよ。だけど、あいつの行動を見ているとなぁ」
「またハクバの勘ってやつ?」
「まあ、本当のところは本人に確かめないとわからん。そのためにも早くとっ捕まえたいところだが……」
「それなら大丈夫だよ。あの人が来てくれるんでしょ?」
「ああ。本物の英雄のお出ましだ」
ハクバの言葉を聞いて、向かう先の空港の滑走路に目をやるサトリ。そこにアスカ級浮遊航空艦ノウトリがすでに停泊しているのが見えた。
キルギスの首都ビシュケクから西へ300kmほどにあるサマルカンド。その町外れの廃屋に、ハクバたちが行方を追う黒いナイトメアフレーム、ピュアエレメンツGが駐機している。コックピットは開いていない。だが、その前には廃屋に似つかわしくないドレス姿の女性がタブレットを眺めている。彼女の名はレディ・レディ。当然、本名ではない。いくつかある通称のひとつだが、今の彼女はそう名乗っている。
「あなたが介入したビシュケクでの戦闘、無事に収束したって」
傍から見るとレディ・レディの独り言のように見えるが、長い髪の奥の耳にはインカムがかかっている。ピュアエレメンツGのパイロットと会話しているらしい。
「死傷者はゼロだって。やったじゃない。えっ? 嫌味なんかじゃないわ。本心よ、本心」
まるで友人と電話で会話するように話すレディ・レディは、タブレットに開いた新しいデータをピュアエレメンツGのコックピットに送る。
「それよりも、キルギスの政府側、デモ隊側両方にナイトメアを売っていた奴の情報を手に入れたわ。マウリツィオ・イシャー。有名な武器商人よ」
レディ・レディのタブレットには、超望遠で撮影されたマウリツィオの写真が表示されている。
「はいはい。そう言うと思って、ちゃんと居場所も調べておいたわよ。ただ……」
今度はタブレットに、長く深い渓谷に囲まれた自然の要害が映し出されている。
「いくらあなたでも一筋縄ではいきそうにない場所に引き籠っているみたい」
「お久しぶりです、ゼロ」
空港に到着したハクバとサトリが通されたのは、浮遊航空艦ノウトリのブリッジ。そこで待っていたのは、黒の騎士団のCEOである仮面の男ゼロ。言わずもがな世界を悪逆皇帝ルルーシュの手から救った英雄だ。
「今回も頼む、エージェント新月。ジノから概要は聞いている。例の機体の居場所がわかったとか」
「正確には、奴さんが現れそうな場所がわかった、ということなんですけどね」
「それが、マウリツィオ・イシャーの潜伏先ということか」
「ええ。先のビシュケクでの騒乱で使用されたナイトメアですが、デモ隊、政府軍ともにマウリツィオからの提供を受けたものというのが、ヴァインベルグ空将たちの調べでわかりました」
「その情報をピュアエレメンツGも手に入れていると?」
「はい。奴さん、やけに“耳が良い”んです。相当な腕の情報屋がついているか、そうでないとすると本物のバケモノなんでしょうね」
「バケモノか。言い得て妙だな。神出鬼没な上に、圧倒的な戦闘力で戦場を支配する」
「まるで、かつて戦術で戦略をひっくり返した枢木スザクのようですよ」
「あっ! もしかして当たりじゃない?」
話を黙って聞いていたサトリが急に大きな声を上げる。
「なんだよ、急に大きな声を出して。当たりって、奴さんのパイロットが枢木スザクじゃないかってコト?」
「そうそう! 枢木スザクが実は生きていて、あのピュアエレメンツGに乗ってるんじゃあ……」
「……」
興奮した様子のサトリとは正反対にゼロは静かに黙ったまま。
「何を都市伝説みたいなことを言い出すんだ、お前は」
と、言いつつ、サトリの額に軽く手刀を当てるハクバ。
「痛。なんで? 当たりだと思ったのにぃ」
額をさすりながら、サトリが不満げな声を漏らす。
「バカ。いくらゼロでも相手が枢木スザクじゃあ分が悪いだろう。って、すみません。とんだ失礼なことを……」
「ふふっ、気にしないでくれ。しかし、もしそうであるならカレンに復帰してもらう必要が出てくるな」
「ははっ、そんなの冗談にもなりませんよ。そうならないためにも、奴さんは俺たちでとっ捕まえましょう」
そう言いつつ、ハクバは手に持ったタブレットを操作し、ブリッジのモニターに資料を映し出す。
「マウリツィオが根城にしているのは、この渓谷の奥にある自然の要塞。要塞周辺の強力な防空網を避けるために、この渓谷を抜ける必要があります。普通のナイトメアでは困難なミッションだと思うのですが……」
「そうだろうと思ってね。普通ではないナイトメアを用意してきた」
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